10月4日。この日は跡部の誕生日である。





104の日


佐伯     不二     手塚     リョーマ     千石



 
 

Act1.佐伯の解釈


 「・・・・・・で?」
 「は?」
 「何が一体どうすりゃこういう展開になるんだ?」
 「? 何言ってんだお前?」
 「だから!! 何なんだこれは!? って訊いてんだよ!!!」
 「見てわかるだろ?
  ―――いわしオンパレードだ」
 と、爽やかな顔で佐伯が指し示すのはテーブルの上。お祝い用にと所狭しと並べられていたのは・・・・・・
 いわしの丸焼き、いわしのつみれ汁、いわしご飯、いわし寿司、いわしの酢絞め、いわしのしょう油煮、いわしのサラダ、いわしのナルム、いわしの白和え、いわしの漬物、いわしの天ぷら、いわしのフライ、いわしの蒸し焼き、いわしのムニエル・・・・・・とひたすらいわし尽くめ。どの位のいわしっぷりかというと、さらにいわしを粉砕して入れたいわしクッキーにいわしケーキ(生地とクリーム両方にいわし配合)、挙句飲み物はかのいわし水だったりする辺り徹底的だ。
 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・で?」
 
30秒ほどじっくり悩みこんでから―――結局わからず跡部は問い返した。なぜいわし? コイツは自分の誕生日を祝いたいから招いたのだろう? 現にケーキの上にこれまたいわし配合のチョコプレートで <景吾 誕生日おめでとう!> としっかり書いてある。
 (可愛いじゃねえの)
 いやそこはいいとして。
 さていわし。自分といわしの間にどういう関係があるのだろう。好物だと言った覚えはない。別に嫌いなワケでもないが。
 悩む跡部に―――
 佐伯は言った。
 「だって
10月4日っていったら、
  ―――
いわしの日だろ?」
 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ああ?」
 今度の沈黙は1分ほどになったか。
 心の底からコイツの考えがわからない。首を傾げる。
 「だから―――
  
104っていうのを『いわし』って読んでいわしの日。はい、景吾おめでとう」
 「そりゃ・・・・・・
  俺といわし、どっち祝ってんだ?」
 訊いてから、悟ってしまった。この質問は禁句[タブー]だった事を。
 真剣にう〜んと悩み込む佐伯。
 にこっと笑い指を立て、
 「もちろん―――」
 「わかった。もういい。何も言うな」
 「え? そうなのか?」
 「ああ。
  ・・・・・・・・・・・・もういい」
 がっくり項垂れ、席につく。どうやら、今年もまたまともに祝われそこなったようだ。
 (来年こそはぜってーまともに祝わせる!! 覚悟しろよ佐伯!!)
 心の中で中指を立てる跡部。
 どうやら彼らは来年までまた安泰のようだ。



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 ―――なんでサエって食べ物が絡むと白いんだろう? というか何で私はこれを『白』と言い切れるんだろう・・・?
 それはともかく、ありがとうお父さんと最初に(?)言わせていただきます。今回のネタ提供者は父だったり。しかもこの話全て。いや〜。いいネタほんっとありがとうvvって感じですね。
 では次に跡部を祝うのは誰でしょう? というかまともに跡部は祝われる日が来るのでしょうか?

2004.10.5










 

Act2.不二の解釈


 「景! 誕生日おめでとう! はい、プレゼント」
 「ああ。ありがとな」
 と礼を言い、差し出されるプレゼントを受け取ろうとして―――
 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 跡部はあえて無言のまま、不二に半眼を向けた。差し出されプレゼント。そう。不二は今だにプレゼントを出し続けていた。
 「なあ不二・・・」
 「ん? 何?」
 「てめぇのそのバッグは・・・・・・
  ――――――四次元ポケットか?」
 そんな台詞を思わず跡部に呟かせるほど、バッグからいくつもいくつもいくつもいくつもいくつもいくつも以下略出てくる『プレゼント』。丁度リングケース程度の立方体の山にげんなりする跡部とは裏腹に、
 「あはは。やだなあ景ってば。何言ってるのさ中学生にもなって。そんなワケないじゃないか」
 「うあマジで今お前の事殺したくなってきた・・・・・・」
 笑顔でパタパタ手を振る不二。さもどころか明らかにバカにしている様にブルブルと拳を震わせつつ、それでもかろうじて抑える跡部。ちなみに同じ事をやったのが佐伯ならばそんな台詞もなく即座に殴られていただろう。兄馬鹿な自分がちょっぴり恨めしい。
 我慢していると、不二の動作が止まった。どうやらようやっと全て出し終わったらしい。
 「でね景、この中に僕からの誕生日プレゼントが入ってるんだ」
 「そりゃそうだろうなあ・・・・・・。
  ―――全部開けて何もなかったらさすがに本気で切れるぜ?」
 「(あっさりスルー)でもね、僕からのプレゼントはこの中に1つしかないんだ」
 「つまり、他はダミーだ、と?」
 「ダミー・・・っていうとちょっと違うんだよね。
  他は―――姉さんからのプレゼントなんだ」
 「・・・・・・あん?」
 「姉さんもぜひとも景の誕生日を祝いたいみたいでね、君にこれから会いにいくって言ったら『じゃあこれも渡しておいて』って」
 「・・・・・・・・・・・・」
 眉を顰める。それだけ聞けばごく普通にああ知り合いとして祝いたいんだなと思うだろう。相手が不二由美子でなければ。
 (由美子からのプレゼントだと・・・? しかもこの数って何なんだよ・・・・・・?
  何にしても―――
  ――――――ぜってーロクなモンじゃねえな)
 これが跡部の中の―――というか彼ら幼馴染みの中での由美子に対する共通認識である。あの由美子が何かやってきた時には要警戒。まず裏があると思って間違いない。笑顔で差し出したお菓子にナチュラルに毒を仕込み、解毒剤と交換に働かせるなどといった事が日常茶飯事の彼女の事だ。注意してしすぎる事はない。
 それを不二もまた察したらしい。
 「確かに由美子姉さんも『開ける時は気をつけてね』って言ってたけど―――」
 「ちょっと待て!! 開けんのだけで注意がいるプレゼントって何なんだよ!?」
 聞くだけで爆弾のような気がしてたまらない。思わず近くの1個を手に取り、耳に当ててみたり。
 ―――残念ながらというか何というか、時計の音はしなかったが。
 さらに不二が続けた。
 「あ、でも景なら大丈夫だよ。だって今日は景の日じゃない」
 「そりゃ・・・、俺の誕生日だけどな・・・・・・」
 誕生日にこんなメに遭わされるのならいっそ誕生日などなくていい・・・・・・。
 「じゃなくて。
  ホラ、今日は透視の日だよ? 景なら視てぱぱぱっと当てちゃうよ」
 「『透視の日』? ンな日あんのか?」
 というかその記念日、一体何をやらせるために出来たのだろう・・・・・・?
 謎な世の中に首を傾げる跡部。一方もちろん答えを知っている不二は普通の様子で。
 「だから―――
  
104っていうのを『とうし』って読んで透視の日。はい、景おめでとう」
 「念のため誤解は解いておくが・・・・・・
  ――――――俺は透視は出来ねえぞ?」
 「出来るじゃない。眼力」
 「ありゃあくまで洞察力の応用だ。相手の様子を観察して弱点を当てるだけだ」
 「え・・・? 手塚の腕当てたのだって皮膚を通して筋肉とか骨とか見てたからじゃないの!?」
 「俺の目はレントゲンか・・・?」
 「で・・・でもまあ大丈夫だよ! そう! 洞察力! それがあればきっとこの箱からも本物が選べるハズ!!」
 「そこで思いっきり動揺するお前を見て『ああお前は本物だな』とか思っちまう俺自身どうかと思うぜ・・・。
  ちなみに聞くが―――
  ―――お前は本物がどれかわかってんのか?」
 「さあ張りきって行ってみよー!!」
 「・・・・・・・・・・・・ああ本気でお前本物の不二周助だな」





 ちなみに―――
 全部開けた結果、本物はなかった
 「てめぇ俺のことからかいやがったな!!??」
 「酷い酷い酷いーーー!!! 僕がそんな事すると思ってんの!? 景こそ思いっきり見落としたんじゃないの!?」
 「ざけんな!! 1人バリケード作って逃げやがったてめぇと違って俺は死ぬ思いで1個1個開けては出来るだけ遠くにぶん投げてたんだぞ!!?? てめぇが入れ忘れたんじゃねえのか!?」
 「そんな事ないもん!! しっかり確認してからバッグに入れたんだから!!」
 「だったら底に余ってるとかそういうオチじゃねえのか!?」
 「ちゃんと全部確認したよ!!」





 なおもぎゃーぎゃー言い合う2人。それを見守るように、跡部が『死ぬ思いで1個1個開けては出来るだけ遠くにぶん投げた』ものが―――そこに半ば埋もれつつ、ペアリングが仲良く光を放っていた。派手好きに見えてシンプルを好む跡部に合わせるように、一見地味だが細かい銀細工の施された細いリングが。
 普段とことん運のない跡部だが、今回はわりと運がよかったらしい。それともそれこそ『透視』の成果なのか。
 全
58個の箱の内、38個目には正解を引いていた。ただしそれまでの37個によりもたらされた地獄によりすっかり疑い深くなっていた跡部には現れたそれは呪術の道具にしか見えず、遠くから見守っていた目の悪い不二には跡部の放り投げたものが何なのか判別がつくわけはなかった。





 「ああもう金輪際てめぇら姉兄とは絶縁だ!!」
 「いいもん!! もう景なんて知らない!! だいっっっ嫌いだーーーーーー!!!!!!」





 こうして、最悪の誕生日は幕を閉じていった。
 なお後日談として―――





 3日後、自分の誕生日を愛しい者に祝ってもらおうと馳せ参じた手塚は、
 「何・・・!? あの2人が・・・!?」
 上品な屋外喫茶店にていちゃいちゃ戯れる2人を目撃してしまい、その場で卒倒したそうだ。





 何も知らず戯れる2人。各々の手では、一見地味だが細かい銀細工の施された細いリングが光を放っていた。



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 ―――実はこの話で一番好きなのは跡部の「俺の目はレントゲンか・・・?」発言です。いやそれはいいとして。
 
104解釈その2。『透視』とくれば不二姉兄しかいないなあ、と。そしてラストにオチとして入れた手塚の話。彼は一体不二と跡部どっちに祝ってもらいたかったのでしょうねえ?

2004.10.5










 

Act3.手塚の解釈


 
10月4日。今日この日、跡部は手塚とまるで決闘するかの如く対峙していた。
 「跡部、今日はお前の誕生日だと聞く」
 「まあなあ。今日
10月4日っつったら俺様のバースデーだ。去年はデビューアルバム出したり何だりと派手にやったっつーのに今年は完全無言状態。一体どうしちまったんだ俺様? としか言いようがねえなあ。これが人気の落ちだっつーんなら俺は最後まで抗うぜ? 何のためにわざわざJr.選抜なんぞにまで出てやったと思ってんだ? まさかこの俺様が自分から売り込むハメになるたあ思ってもみなかったぜ」
 「・・・・・・・・・・・・イマイチその辺りのお前の言い分はよくわからんが。
  そんなお前をぜひ祝いたいと思ってな。しかしお前の事だ。恐らく祝う者も多いであろう」
 「・・・・・・ああ」
 (珍しく饒舌じゃねーの)
 ちなみにその原因が初っ端っからわからん長文で場内を混乱に陥れた彼自身にあるとはもちろん微塵も思っていない。
 (ま、たまにゃこういうのもいいな)
 こういう時下手に口を挟むとせっかく喋っていた相手が黙り込む恐れがある。跡部は最低限の相槌だけ打って先に促した。
 「俺はこのように気の利かない男だ。恥ずかしながらさらにお前やその周りと比べると金もない。普通に祝ったのではお前を喜ばせる事は到底無理だと感じた」
 「ああ」
 ・・・・・・ちなみにこれはあくまで先を促すための相槌である。決して手塚を鈍感貧乏人のつまらない男だと肯定したわけではない。念のため。
 「・・・・・・」
 数秒ほど沈黙した後、
 手塚は意を取り直し、先へと続けた。
 「なので俺なりの祝い方をしようかと思う。
  ―――ところで跡部、本日といえば
10月4日なのだが」
 「ああ・・・・・・」
 なぜだろう。非情に非常に嫌な予感がする。
 (つーかコレ、さっきまでと同じパターンじゃねえか・・・・・・?)
 跡部は運は悪いが勘はいい。あるいはそれこそ前回参照の『透視』―――というか『未来視』の結果かもしれない。
 というわけで、そんな跡部の予感どおり、
 「なので―――
  
104というのを『とうし』と読み、『闘志』という漢字をあてはめてみた」
 「ほお・・・・・・」
 (手塚らしいっちゃあらしいあてはめ振りだな)
 「という経緯により、これは俺が勝手に決めた事だが本日を『闘志の日』としようと思う。そしてそんな日のお前への贈り物というと―――」
 (なるほどなあ。テニスの試合するってか)
 台詞の先読みをし、
 「―――いいぜ」
 跡部はためらうことなくそう答えていた。
 一瞬だけ驚きに目を見開く手塚。肩を抱き、押しやる。
 「だったらさっさと行こうぜ」





 プレゼント代わりにテニスの試合。端から聞くと疑問でたまらないだろう。特に毎年跡部に豪勢な贈り物をし媚びるヤツらからしてみれば。
 だが―――
 (俺にとっての最高の贈り物、か。
  気ぃ利かねえとか言っときながらわかってんじゃねえの、手塚)
 同じ強豪テニス部に属していながら―――いや、だからこそか―――2人が対戦する事は極めて稀だ。部活時間外にというのもあるだろうが、準備していないそんな状態ではお遊び程度のラリーならともかく試合はしたくない。しかし、
 (
15歳最初の記念試合が手塚とか。悪くねえな)
 手塚から何も言ってこないのであれば自分が持ちかけようとしていた。実は事前からそれとなく吹き込んでおいたし、手塚に会う前に体は充分ほぐしておいた。手塚もまた同じだったのだろう。だからこそテニスバッグを肩に下げここに来た彼を見て、予感的中に密かに喜んでいた。
 「―――さて跡部、ついたぞ」
 「ああ――――――あ?」
 手塚の声に現実に戻ってきた跡部は―――
 ―――目の前の光景に、今度は全く違うどこかへと飛びかけた。
 「なんで・・・・・・てめぇん家?」
 かろうじて現世へと繋ぎ止めた唇で問う。手塚の家といえば跡部の家とは違う意味で豪華なたたずまいだ。純和風で庭も広く、何より歴史の重みを感じる。その点豪勢でこ洒落た造りはしているが築まだ
15年の跡部家とは見事に対照的だ。
 そして家は中に住む住人にまで影響を与えるのだろうか。それとも住人によって家は変わるのだろうか。どちらにせよ、外見同様住人においてもまた、跡部家と手塚家は対照的だった。
 「む。来たか」
 「ええ。跡部を連れてまいりました。お祖父様」
 現れた手塚の祖父と手塚の―――こういっては何だがとても祖父と孫とは思えない、しかしながら手塚家らしいといえばこの上なくらしい会話に耳を傾け、跡部は丁寧に頭を下げた。跡部の礼儀は決して教え込まれたものではない。育つ中で自然と身についたものだ。だからこそ見た目の不良ぶり(笑)とは逆に、洗練された動作に付け焼刃的薄っぺらさは全くない。実のところ一見威厳0の跡部家全体がその風潮なのだが、まあそんな事は余談としておくとして。
 「では跡部君と言ったか。本日はよろしく頼むよ。
  本来ならワシが案内をすべきなのだろうが、済まんがワシも準備をしなければならない。国光に案内してもらいなさい」
 「・・・はい」





 案内されたのは、道場だった。
 (なんっか、当初のモンと違わねえか?)
 自分たちはテニスをやろうとしていたのではないだろうか?
 「なあ手塚―――」
 動きやすい服になるようにとの指示があったため、ポロシャツにハーフパンツと持っていたテニスウェアに着替え、改めて体をほぐしつつ跡部は隣で同じようにしていた手塚へと尋ねた。
 「む。何だ」
 祖父と面白いように同じ応対をする手塚に少し苦笑してみたり―――するのは質問に答えてもらってからでいいだろう。
 「訊きてえんだが、
  ―――俺らこれから何やんだ?」
 「だから説明したではないか。本日
10月4日は―――」
 「『闘志の日』だろ? そこはもういい。
  んで? 俺はてっきりお前がンな台詞言うからテニスの試合すんのかとばっかり思ってたんだけどな?」
 「確かにそれも考えた。しかし普段からテニス漬けの生活とも言える俺達にとって、テニスは特別なものではないだろう? せっかくの誕生日にいつも通りの事をするのは勿体無い」
 「・・・・・・俺はその『いつも通り』で充分満足なんだけどな」
 「何か言ったか? 跡部」
 「いや何も」
 今度はさすがに呟きに出た。が、即座に誤魔化す。手塚がそこまで考えていてくれたとは・・・・・・。
 (まあ・・・もう何でもいいか)
 そんな風にすら思ってしまうほど、嬉しい。
 顔を僅かに綻ばせる跡部に気付いているのかいないのか。手塚はそれまでどおり淡々とした―――ように聞こえて微妙に上ずった声で続けた。他の者にはわからないだろうが、
 (俺にはバレバレだっての)
 それだけずっと一緒にいるのだから。それだけずっと見てきたのだから。
 微妙に上ずった声で、
 手塚が『闘志の日』の正体を明かした。
 「なので本日はお前の誕生日にちなみ、お前が好き勝手に暴れられる舞台を用意した。心配するな。祖父は警察で柔道を教えるほどの腕前だ。そこらのチンピラなど束でかかって来ようが話にならないほど強い。さらに俺もそのラインまでは到底及ばんがそれ相応の強さだと自負している。
  さあ跡部、好きなだけ暴れろ。そして闘志を燃やせ」
 「・・・・・・・・・・・・」
 跡部の意識が、本日何度目かこの世ではないどこかを彷徨う。平らで、静かな世界。平穏のみの存在する世界。そこは普遍で、何者にも侵す事は出来なくて。
 「そうか。よくわかった」
 触発されるように、跡部は穏やかな笑顔で頷いた。
 「そうか。わかってくれたか」
 「ああ。わかった。よくわかった」
 「では―――」
 「そうだな・・・・・・」
 笑顔のまま、ぎゅっと拳を固める。ウォーミングアップは完璧だ。充分温まった。体も―――心も。
 跡部が動き出す。それは、手塚ですらも対応出来ない速さで。
 固めた拳を突き出しながら、跡部はただ全力で叫び続けた。
 「俺様の誕生日を本気で祝いてんだったら今すぐ俺様の生贄となって沈め手塚あああああああああああああ!!!!!!」





 「む。なるほど跡部君か。国光をああもあっさり下すとは。なかなかいい拳を持っておる。
  ぜひともこれからも家に来てくれんかのう・・・・・・」
 柔道着に着替え遅れて来た祖父・国一は―――
 完全ルール無視で猛攻を見せる跡部と、私刑の被害者となり現在サンドバッグと化している孫をほのぼのと眺めていた・・・。



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 ―――あ、そういえば手塚が『おめでとう』を言っていません。大変だわ。
 なお冒頭跡部のボヤきはただの私の気持ちですので気になさらないで下さい(何をどう?)。そしてさらにどうでもいいですが、この話の手塚の口調、話している事が事だからかやったらフルメタの宗介に似て見えます。

2004.10.5










 

Act4.リョーマの解釈


 「跡部さん、今日誕生日なんだって? おめでとうございます」
 「ああ、ありがとよ」
 「ところで跡部さん、今日何月何日か知ってます?」
 「知らねえ」
 即答。この出だしで始まる台詞にロクなものはない。今度は跡部があっさりスルーする。
 さすがにこの反応は予想外だったか、リョーマが目を見開いた。
 「は? アンタ自分の誕生日でしょ? 何で日付がわかんないんだよ」
 「念のため言っとくが、俺は日付のカウントが出来ねえほど馬鹿じゃねえからな。ただ今日は俺の誕生日であってそれで十分だっつーのに何でもかんでも別のモンとくっつけようとする輩が多いからそう答えただけだ」
 「げ・・・」
 「てめぇもそのクチかよ越前・・・・・・」
 「そ、そんな事ないっスよ跡部さん! 俺は一味違います!!」
 「頼むから一味じゃなくて根底から変えてくれ・・・・・・」
 「聞いて下さいお願いします!!」
 がしっ! っとリョーマに腕を掴まれる。見下ろせば言葉同様真剣な眼差しで。
 跡部はぽりぽりと頭を掻いた。
 (ったく俺は何でこういうのに弱ええんだか・・・・・・)
 こういう目を前に、無下にするほど自分は冷酷非情にはなれなくて。
 「――――――わかった。言え」
 ため息混じりの承諾に、それでもリョーマはぱああああっ・・・と華を咲かせて笑った。
 笑って、言う。
 「今日、
10月4日って言ったら『とうしの日』っスよ!?」
 「あ〜なんっか散々聞いた台詞だな」
 「せっかくの記念なので『とうし』しましょう跡部さん!!」
 「あーはいはいわかったわかった。
  んで? どの『とうし』だ? 『透視』か? 『闘志』か? いっそ捻って『唐詩』か?」
 「は?」
 めんどくさげにぱたぱた手を振る跡部に合わせて―――ではないだろうが、今まで輝いていたリョーマの目が一瞬でしぼんだ。
 「何言ってんスか跡部さん。ワケわかんないっスよ」
 「いやどう考えてもてめぇも同類だろうが・・・・・・」
 「そんな生ぬるいモンじゃないっスよ俺の『とうし』は」
 「生ぬるく・・・ない?」
 他に思いつく『とうし』。これ以上にハードなものといったら・・・・・・・・・・・・
 「――――――っ!!??」
 ずざざっ!!
 それに気付き、跡部は思い切り後退した。
 珍しく震える指で指す。
 「て、てめぇまさか―――
  『凍死』しようとか言うんじゃねえだろーな!?」
 「当り前じゃないっスか」
 即答返し。目は完全に本気だ。
 狂気の笑みを浮べるリョーマ。あまつさえ何を捕らえる気か手をにぎにぎさせ、
 「大丈夫っスよ。最近は冷凍技術も進んでますからわざわざ雪山とか行く必要もないですし」
 「それのどこが『大丈夫』なんだ!! ああ!?」
 「いろいろ手は考えたんスけどやっぱ今は液体窒素っスか? 一瞬で何でも凍りますよ」
 「だから凍らせて何やりてえんだよてめぇは!!」
 「なにせおかげでバナナで釘が打てますから」
 「打つんじゃねえぞ!? 間違っても俺で釘は打つなよ!?」
 「もちろんやらないっスよ。跡部さんは綺麗に保管して永遠に俺のコレクションに―――」
 「てめぇは死ぬつもり0か越前んんん!!!」
 「俺が死んだら意味ないじゃないっスか」
 「俺が死んでも明らかに意味ねえよ!!」
 「・・・ワガママだなあ」
 「そりゃてめぇだ!!」
 「もう準備しちゃったんスから。諦めてくださいよ」
 底冷えする言葉と共に、跡部の背中を今までにない寒気が襲う。まるですでに凍死が始まっているかのようだ。
 堪えきれず―――
 だっ―――!!
 「あちょっと跡部さん!!」
 跡部は人生で初めて、相手に背を向け逃げ出した。





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 ―――わ〜い『凍死』とか出しちゃってるよリョーマ。イっちゃった感じの彼(どちらとは言わず)も面白いなあ・・・。

2004.10.5










 

Act5.千石の解釈


 「跡部く〜ん! はいコレ、プレゼント♪」
 コイツにしてはえらく平凡な言い回しと共に渡されたものもまた平凡であった。
 ―――包み[オプション]としては。
 「何だこりゃ?」
 「見たとおりのリボンと包み紙だけど?」
 「そりゃ今まで見せられた中で一番解り易いモンだけどな。
  ・・・普通ここにゃ『中身』ってモンが付かねーか?」
 跡部が不審げに尋ねる通り、千石の手に握られているのはリボンと紙のみ。肝心の本体が存在しなかった。
 (まあコイツのことだから、本気でコレがプレゼントだとか言われても驚かねえけどな)
 というか、むしろそれがありがたい。はっきり言って今までのヘンなものと比べると、リボンと紙というただそれだけで十二分にオッケーだ。なにせリボンと紙なら無害だ!!
 ―――という跡部の期待は、
 もちろん叶うわけもなく。
 「ところで跡部くん。今日が何の日か知ってる?」
 千石がぴっと指を立て、そんな謎掛けをしてきた。
 「ああ? 今日か? そりゃ俺の誕生日で―――でもっていわしの日だったり透視の日だったり闘志の日だったり凍死の日だったりするのはもう聞き飽きたからな」
 「ああなるほど。サエくん・不二くん・手塚くん・越前くんか」
 「・・・・・・わかんのかよ」
 「けどそれだけじゃないんだよ。今日は投資の日だったりするんだよね」
 「あーそーかそーか。
104っつーのを『とうし』と読むのは同じだが漢字が違うんだな。はい正解、俺様おめでとう」
 「跡部くん・・・。よっぽどヤな事あった? 何か人格壊れてるよ?」
 「ありまくるに決まってんだろ!? てめぇらがそうやってヘンな日命名するごとにロクな目に遭ってねえんだよ!! 今後一切俺の前で『
104』の話はすんじゃねえ!!」
 びしりと指を突きつけそう言い放ち、背を向ける跡部。そのまま歩き出そうとして―――
 ―――ふわりと襲い掛かる紙に阻害された。
 「・・・・・・・・・・・・で?」
 一体どういう早業か、跡部が止まった一瞬で紙に包んだ挙句全身にリボンまで巻きつけた千石が、頬をひくつかせる跡部の前でにぱっと笑った。
 「だから、
  跡部くんの投資をしようと思いますvv」
 「待て。どういう理屈でだ」
 「あのねえ、俺ってばいっつもまず出してるばっかなのよ」
 「元手
100倍以上にしてりゃ十分だろうが。それに普通そういうモンだろ?」
 「でもたまにはまずもらってみたりしたくならない?」
 「ならねえ。そういうのはまず怪しむ」
 「まあそう言わずにv
  なので、今回は俺のために俺に投資しようかと思いますvv 跡部くんありがと〜vvv」
 「だから俺の誕生日ってのはどこ行ったーーーーーーーー!!!???」





 こうして、跡部景吾の
15歳の誕生日は、
 いわしまみれに始まり摩訶不思議ワールドの数々にて死ぬメに遭わされ、そして千石に誘拐され終わりを告げたのだった・・・・・・・・・・・・。



―――戻る






 ―――終わったあああ!! ホントはサエ・不二・千石のみの予定だったのですが、そういえば『とうし』っていろんな漢字あるなあと気付き急遽手塚とリョーマまで増えました。そしてラストはコレか・・・。平凡に終わってよかったなあ・・・・・・・・・・・・。
 そしてラストは
vsリョーマとどっちにしようかと思いましたが結局コレになりました。さって今年もまた? まともに祝われなかった跡部。果たして来年はどうなるんだろう・・・・・・?

2004.10.5