同じドアの前で
AnotherStory 〜ヴェールの向こうで〜



―――その後の出来事―――
S&A ver


 「・・・・・・・・・・・・で」
 目の前では、周が口を引き攣らせ笑みを浮かべている。怒っている。相当怒っている。
 「どうしてくれるのかなあ君ら」
 一文字一文字強調された。とっても怒っている証拠だ。
 座ったままそれを見上げ、跡部と佐伯は揃って冷や汗を流した。
 何も考えずやってしまったが、自分たちは冥界と現世まとめて世界全体で大騒動を巻き起こしたらしい。第一級の罪人とされ、相当頑張らないと生まれ変わりは無理らしい。
 それはそれで目出度い事なのだが、問題は目の前で怒る彼だ。そんな大罪人を出した責任者として、現世の管理者―――跡部はこの時点で初めて知ったが国光という彼―――に散々怒られたらしい。現在それの八つ当たり・・・・・・訂正。正当なお叱りを受けている最中である。
 今まではただ『冥界の管理者』程度に軽く接していたが、問題が解決してみれば彼は幼馴染の不二周助とそっくり。2人の中で、これまた死んでも直らない兄馬鹿根性がピピッと反応したとしても納得のいく事だろう。
 可愛い弟が怒っている。その理由は、(本人にとっては)理不尽にも他人に怒られたから。
 「悪かったな周」
 「ごめんね周ちゃん俺たちのせいで」
 「本当だよ。どうしてくれるのさ」
 ―――ここで一歩も引かないのが、弟が弟であり周が周である所以である。
 立ち上がった2人は、周を優しく抱き寄せぽんぽんと頭を撫で、
 「大丈夫だ。お前のせいじゃねえって事は俺たちがよ〜〜〜くわかってる」
 「そうそう。なのに周ちゃんに怒るなんて手塚―――じゃなかった国光も酷いよなあ」
 「そうだよねえ!」
 「だよなー! 周のどこに落ち度があったってんだ!!」
 「周ちゃんはこんなに可愛くって仕事だってちゃんとやってるんだぞ!! それを怒るなんてあんまりじゃないか周ちゃんに非はないんだぞ!!」
 「そーだそーだ!!」
 「よっし今から直談判行くぞ!! 周の無実を証明してやる!!」
 『オー!!!』







・     ・     ・     ・     ・








 「―――という事で! 僕は悪くないと思うんだけど!?」
 本当に直談判に来た3人。どばんと机を叩いて説得(否脅迫)する周の前で、
 国光というなるほど手塚そっくりの現世の管理者は、手塚そっくりな感じで眉間に皺を寄せた。こちらも怒っているらしい。不二と違ってあまり怒っている姿を見た事がないため(むしろそんな姿に興味はないため)はっきりとは言い切れないが。
 と―――
 手塚が立ち上がった。こちらもどばんと机を叩き。
 「馬鹿モン!! 死者に説得されるな!! だからお前は管理が出来ていないと言っているんだ!!」
 「あー! 酷ーい!! 今君僕の事すっごい馬鹿にしたね!?
  管理者なら管理してる相手の言う事聞くのは当然でしょ!? お堅いワンマン社長になりたくないんだけど!?」
 「建設的な意見を聞け!! なぜあっさり流されこんなところへまで連れてきている!? 部員のサボりを認めるダメ部長かお前は!?」
 「だって勝手に死んだのも逃げたのもこの2人の責任だもの!! 僕のせいじゃないよねえ景・サエ!?」
 「ああ」
 「だな」
 「下の責任は上の責任だ!! 管理するなら同等の責任を負わないでどうする!? お前こそ自分のやりたい事だけやるワンマン社長だろう周!!」
 「あ゙あ゙!? てめぇ周に何文句つけてやがる!!」
 「しっかもさっきっから聞いてれば馬鹿モンとか自動車の教習所じゃないんだぞ!? そんな風に怒鳴りつけられて周ちゃん傷ついたらどーすんだよ!?」
 「部外者は黙っていろ!! というか死者なんだからこちらに来るな!!」
 「来るに決まってんだろーが周が苛められてるとなりゃ!!」
 「苛めてなどいない!!」
 「はあ!? どこがだよ!? 今のはしっかりビデオに収めたぞ!! これ見たら百人中百人、お前が周ちゃん苛めてるって言うぞ!!」
 「どこで手に入れたそんなもの!!
  大体! こうして周が怒られる原因を作ったのはお前達だろう!?」
 「ふっ。語るに落ちたな手塚改め国光!! つまり悪りいのは俺たち!! 周にはなんの落ち度もねえっつー事だ!!」
 「自慢して言うな!!」
 「さって問題は無事解決した、っと。んじゃ帰ろっか」
 「そうだね」
 「だな。これ以上無駄な事に時間費やしても仕方ねえし」
 「待たんかお前達!! 今ので何が解決した!?」
 「気分の問題?」
 「うん。すっきりしたよ。ありがとう国光」
 「てめぇを言い負かすのは楽しかったぜ国光。じゃあな」
 来た時とは裏腹に、爽やかな笑顔で3人はあははうふふと去っていった。
 暫くぶるぶる震え。





 「貴様らは2度と受け付けんからな跡部! 佐伯!!」







・     ・     ・     ・     ・








 「え〜っと」
 「という事で」
 「俺たちは、輪廻転生の輪に永遠に組み込まれなくなってしまいました」
 3人がかりで事態の説明をし、
 揃って首を傾げる。
 「どうしよっか?」
 「さあなあ」
 「今までこういう事態は?」
 「ないよ? 僕以外」
 「・・・・・・てめぇもそうなのか?」
 しれっと答える周に、跡部がうろんな目を向けた。
 「うん。『同じようなヤツが2人はいらん』とか言われて、輪乱して無理やり戻ったらつまみ出されて挙句に『2度と戻ってくるな!!』だって」
 「『同じようなヤツが2人』、ねえ・・・・・・」
 佐伯が苦笑する。多分アレがコレなのだろう。
 「じゃあ、いろいろやっちゃったお詫びとして君の仕事手伝うよ」
 「・・・・・・・・・・・・え〜」
 「・・・。わーってるよ。給料は取んねえから」
 「え〜」
 「・・・・・・。なんでてめぇが嫌がる佐伯。いーじゃねえかこれでずっと一緒にいられるんだしよ」
 「うわクッサ!!」
 「おい!!」
 「ひゅーひゅー熱いねお二人さん!! もー好きなだけやっててよ!!」
 「・・・・・・・・・・・・。
  あーもうこーなったらとことんやってやるよ(泣)!!」















・     ・     ・     ・     ・








 青い空にはぷっかり雲が浮かび、足元には色とりどりの花咲き乱れる小さな丘。下には葉の覆い茂る森が広がり、遠くを見やれば同色の山が。
 それらに隠れるようにところどころ集落があり、さらに埋もれるように自分たちの家がある。
 これが、今の自分たちの世界。自分たちが住む世界。
 仰向けに寝転び、腕を枕にうとうとしていた佐伯。今日の仕事は跡部だけで十分だという。大人数でぞろぞろ行っても相手が萎縮するだけだ。
 「春の日差しでぬくぬくと〜・・・。は〜幸せだね〜・・・・・・vv」
 別に今は春ではないのだが。イメージとして一応春っぽくなっている。丁度昼寝には最適なくらい。ちなみに太陽の周期も
24時間になった。
 遺してきた人の事を考えれば、あまり『幸せ』とは言えないのかもしれない。だが、それらを捨ててでも跡部といたかった。そしてそれが叶った。喜ばなければ、それこそ失礼というものだろう。
 ―――などと相当に自分勝手な事を津々浦々と考えていると、眠りはあっという間に訪れた。
 身を任せるまでもなく飲み込まれ、くかー・・・と眠り込む。
 (ま、景吾が来たら起こしてくれるしな)
 眠るまでそんな勝手な事を考えて。










 「おい・・・佐伯・・・・・・。
  おい佐伯」
 「む・・・・・・、ふはあ〜・・・」
 肩を揺さぶられ、佐伯はひとつ大あくびをした。
 起こした主―――もちろん跡部は、憮然とした表情で身を起こした。
 「ったく人がせっせと働いてるっつーのに寝こけやがって」
 「ん〜・・・。だってヒマだったから〜・・・・・・」
 「ヒマだったからじゃねえよ!! だったら仕事替われよな!! 俺にばっか押し付けやがって!!」
 「お前が毎回毎回飽きずにじゃんけんで負けるからだろ?」
 「てめぇぜってー後出ししてんだろ!?」
 「してないしてない。今回は普通に勝負してる」
 「今回は!? いつもは違うってのか!?」
 「まあまあ。過去は水に流せよ。な?」
 「つまり俺相手でばっかズルしてた、ってか・・・・・・!?」
 こしこし目を擦る。話す間にどうにか目は覚めてきた。
 溜まっていた涙を拭うと、やっぱりそこには怒る跡部がいた。涙も、フードも、何も越さずに見る。
 「・・・・・・・・・・・・何だよ?」
 ふっと笑った佐伯に、跡部が怪訝な顔を見せる。
 気にせず、頭の下から取り出した手で頬を引き寄せ―――
 ―――キスをするのかと構えた跡部に舌を出し、額を触れさせ合う。
 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・何だよ?」
 台詞は先程と同じ。口調が強いのはキス出来ずに怒ったからか。
 そんな跡部を、さらに超至近距離で見つめ、





 「やっぱ、ちゃんと見れるっていいな」





 「何だそりゃ?」
 「いーや別に? こっちの話」
 ぱっと手を放す。と―――
 「ちゃんとも何も、俺なんぞ全然見えてもいなかったんだぜ?」
 言葉と共に、今度こそキスをされた。決して目を閉じずにそれを受ける。跡部も同じだ。
 何にも隔たれない触れ合い。ずっと出来なかったそれを、今ようやくやっている。
 跡部が、そのまま跨ってきた。
 「何?」
 「丁度いい。このままヤろうぜ」
 「はあ?」
 「いいじゃねえか。ずっと外でヤってたんだしよ」
 「あのなあ・・・」
 一応ため息をつき、
 佐伯もまた、跡部を受け入れたのだった。

















・     ・     ・     ・     ・








 そして5日後、周がキレる。
 「あのバカップルどもがああああああああああ!!!!!!!!!」





―――Happy Happy End v

















 何を間違えたんだろう自分・・・。気持ちが先走りすぎて、『景吾』を『軽度』と打ってしまった・・・・・・。よりによって、跡部が『死んだ』場面で・・・・・・。
 せっかくの感動ポイントを一瞬でギャグにしつつこんにちは。跡虎【同じドアの前で】の
AnotherStory略してアレとソレ訳して跡部と佐伯。ネタバレになるため本編で書けなかった、佐伯視点&佐伯だとわかっていた上での跡部の心情です。本編後書きでちろっと洩らしたとおり、フードつけたまま一線超えてみましたv いろいろ悩んでたみたいですなお互い。

2005.4.169.8