「おいおい、そんなに騒ぐなって。そっちが約束したんだろ?
  そいつらを全員倒したら・・・
  ――――――あんたがデートしてくれるって」
 「へええええええ。
  デート、ねえ・・・・・・」
 「――――――っっっ!!??」





都大会前 ストテニ場にて







 ひったくりを追った桃と自転車泥棒を追った神尾。つまるところ競争していた2人は、ストテニ場にて捕らえられた杏と捕らえていた某人(ら)―――同じジャージ姿のエラそうなのと大きいの―――に遭遇した。
 事情・・・ストテニを馬鹿にされたくだりを聞き、2人で同じ気持ちになったところで。
 「―――へ〜。面白そうな事してんじゃん。俺も1枚噛ませてよ」
 横手から、そんな声をかけられた。
 見やる。オレンジ色の頭で白い制服を着た少年。見覚えなく首を傾げる神尾に対し、桃は、
 「あ、アンタは―――!!」
 声を上げかけるが、それよりこっちの方が早かった。
 「てめぇ千石、何やってんだンなトコで」
 「おおっとその台詞はむしろ君に送りたいなあ跡部くん。俺は青学偵察の帰りなんだけどね、そういう君はお供の樺地くんまで連れてわざわざ何やっちゃってるワケ?
  ―――ああ、別に答えなくていいよ。話は大体わかったから」
 のんびり近付く少年―――千石。近付き、杏をじっと見つめた。
 「な、何よ・・・?」
 「君かわいいね〜vv 激俺の好みvv」
 「え・・・?」
 こんな風に正面きって言われたのは初めてらしい。仄かに頬を染める杏から視線を上げ、千石は跡部に向き直った。
 「俺も入れてよ跡部くん。俺もこの子とデートしたいな〜vv」
 「ざけてろ」
 冷たくあしらわれる。それでもめげない―――どころかますます楽しそうな表情を浮かべ、
 「入れてくんないんだ〜。まあ別にいいけど〜・・・





  ――――――チクるよ?」





 「ぐ・・・」
 「うわ〜びっくり〜☆ 跡部くんが女の子ナンパしてる〜!
  知ったら怒るだろーねえそりゃもーかなり激しく。とても口には言えないくらいの制裁が待ってるだろーねえ。血の雨は最低限覚悟しとくべきじゃない?」
 「わかった。入れりゃいーんだろ入れりゃ。
  ・・・・・・そもそも俺だって別にやりたくてやってるワケでもねーし」
 「さっすが跡部くん太っ腹〜♪」
 ぼそりと意味不明な台詞を吐きため息をつく跡部。小声で洩らされたため、それが聞こえたのは話し相手たる千石だけだった。







@     @     @     @     @

 






 さて一方放っておかれた桃と神尾。彼らはその間一体何をやっていたのかというと、
 「あ・・・・・・」
 同じく上がってきた知り合いの相手をしていた。





Case1.不二の場合


Case2.リョーマの場合


















































 

 
Case1.不二の場合

 「やあ」
 「不二先輩!」
 「お久しぶりっス不二さん」
 「久しぶりだね神尾君。珍しいね君ら2人なんて」
 手を挙げ挨拶してきた不二に挨拶を返し、
 桃が首を傾げた。
 「先輩こそ珍しいっスねストテニ場なんて。どうしたんスか?」
 「ああ、僕らはちょっと打ち合いでもしようかと思って、ここなら丁度いい相手がいるかなって事で来たんだけど」
 「僕『ら』?」
 ますます首を傾げたが、不二の質問返しの方が早かった。
 「それで君らはどうしたの?」
 「それが〜・・・・・・」
 困ったようにそちらを差す。にこにこ笑っていた不二も、笑いながらそちらを見た。もちろんいるのは杏+3人。
 「また何か・・・・・・変わったメンバーが集まったね」
 一瞬だけ笑みの種類が変わった。苦笑へと。
 元の笑みに戻し、尋ねる。
 「で、何やってるの彼ら?」
 「それが〜・・・・・・」
 再び困り声。一通り説明を聞き・・・・・・
 不二の顔から血の気が引いた。かろうじて笑みは保ったものの、見る者が見れば、現在彼が怯えている―――あの不二周助が取り乱すほどに怯えているとわかっただろう。
 そして・・・・・・
 「・・・・・・へええええええ」
 不二の後ろから、低い声が広がった。それほど大きな声でもないのに、それは不思議とストテニ場全体に響き渡った。
 ―――もちろん向こうの彼らにも。
 びびくうっ!!!
 後ろから現れたのは、
 ・・・・・・まあごく普通の少年だった。淡い色の髪で、やはりテニスバッグを肩から下げている。
 「佐伯・・・・・・。
  ―――なんでてめぇンなトコいやがる・・・?」
 「ああ・・・。間に合わなかった・・・・・・」
 呻く跡部項垂れる千石。彼佐伯はそんな彼らをとてもよく据わった目で見つめていた。
 綺麗に微笑む。
 「裕太君たちのいるルドルフと今度練習試合する事になってさあ、それで話し合いに行った帰りなんだけど。
  せっかくなんだしたまにはみんなに顔見せでもしよっかな〜とか思ったんだけどな。
  ――――――な〜にやってんだお前」
 「こ、これは・・・!!」
 問い掛けられ、跡部がこちらはあからさまに動揺する。それにも寛大に微笑み、
 「わざわざストテニでナンパ? デート賭けて勝負までしてる?
  あ〜今日来てホントよかったよ〜。
  丁度いいからさあ、俺も一口乗らせてよ
 「・・・・・・あん?」
 いきなり意図を謀りかねる申し出。
 眉を顰める跡部を無視し、佐伯はそちらへとのんびり近付いていった。
 先に杏に接触する。
 毎度恒例爽やか好青年の笑みで、
 「初めまして。さっそく質問なんだけど、
  君こういう自意識過剰な俺様馬鹿とデートしたいって思う?」
 「いーえ全然」
 「そっか。じゃあ、
  ―――俺が破棄させても構わないよな?」
 「出来るんですか?」
 「させるさ」
 確信に満ち溢れたやたらな強さ。気迫に押され、杏が2歩3歩下がる。
 佐伯はそこから動かず、再び据わった目で跡部を見やった。
 「で、勝負はダブルスで1ポイントマッチだっけ? 先に言っておくけど―――
  ――――――手加減しないんでよろしく」
 「じゃあ跡部くん。俺用思い出したからばっはは〜い♪」
 「おいちょっと待て千石!!」
 食わせ者千石。自らの危機を察知し、早々離脱していった。
 「ちっ・・・!」
 跡部の視線が動く。樺地へと。
 「大切な後輩使うのか? それならそれで構わないけど―――
  ―――腕1本位は折らせる覚悟で戦地へ送れよ?」
 「てめぇ・・・!!」
 「言っただろ? 『手加減しないんでよろしく』って」
 笑みを消し、佐伯が左手を上げた。
 手の平を上にし、くいと指を曲げる。






 「来いよ跡部。お前の得意なシングルスで徹底的に叩き潰してやるよ。
  お前のした事、死んで反省してもらおうか」







@     @     @     @     @








 仕度をし、コートに立つ2人。佐伯の持つ、いかにもお手製っぽいウッドラケットに周りから失笑が沸き起こったが―――
 「申し込んだ側の礼儀だ。サーブはお前からでいいぜ跡部」
 軽く投げられたボールをトスする跡部。今までずっと樺地にやらせていたおかげで、ここにいるほとんどの者が彼の実力を見るのは初めてだ。
 ラケットが振られ、上に投げ上げられた球が打たれ、
 「絶望への前奏曲を聴きな!!」
 ―――やはりほぼ全員が愕然とした。球筋は、目ですら追えなかった。とんでもないスピードサーブ。樺地と比べてすら、その実力は桁外れに高かった。
 が、
 「遅い」
 パ―――ン!!
 呟き一声で、佐伯はあっさり返してしまった。
 挙句・・・
 「実力落ちたんじゃないか跡部? やっぱ女の子のお尻ばっかり追っかけ回した当然の成果か。
  可哀想に氷帝。こんなヤツが部長な時点で今年はいいトコ都大会止まりだな」
 「うっせー!! 落ちてねえよ!!」
 怒鳴りながら跡部もちゃんと返す。これまた至極あっさり返された。
 こんなところではまずめったに見られないハイレベルな試合。しかしながら、そのレベルの高さでも勝負の行方は全員の目に明らかだった。
 そんな中、違う事が気になった桃は目を見開いて呟いた。
 「え・・・? 氷帝って・・・あの?」
 「何だ桃城。お前何か知ってんのか?」
 「何かも何も・・・」
 「―――氷帝学園って言ったら今年の都大会
No.1シードさ。200人の部員が所属するテニスの名門校。その中でも跡部は部長。実力は手塚と同じ全国区だよ」
 「手塚さんとっスか!?」
 「んじゃその跡部さんに勝ってるあの人って!?」
 「佐伯は千葉の古豪、六角中のレギュラー。こっちも毎年全国大会に出場してる関東の強豪だよ。上に進むんならどっちも確実に立ち塞がるだろうね。
  ただし―――」
 『ただし?』
 問い掛けてくる2人に、不二はやはり苦笑を浮かべた。
 「跡部はともかく佐伯は気まぐれなプレイヤーだからね。普段はここまでの実力は出さない。せいぜい僕と互角程度だね」
 「いやそれでも充分大したプレイヤーでしょ・・・」
 「不二さんと互角・・・?」
 慄く2名に軽く鼻から息を吐き、不二はそもそもの原因となった少女を見やった。退散したと思われていた千石がその隣にいる。彼は彼で気になったのだろう。このレクリエーションの行方を。
 「ねえ橘さん。もしよければ、なんでこうなったのかもう少し詳しく話してもらえないかな?」
 「え・・・?」
 「ストテニを跡部が馬鹿にした辺りはわかるんだけど―――何でそこからデートの話になったの?」
 「だって馬鹿にされてムカついて、『だったらあなたも勝負しなさいよ』って言ったんですよ。そしたら『何でこの俺が』って返されたから、『じゃあ〜』ってデートの約束つけたんですよ。
  そしたらあの人一緒にいる人にばっか任せて自分では全然やらなくって―――!!」
 怒りも露わに説明を続ける杏。乙女がわざわざ自分を賭けてまで勝負に挑ませたのにそれを無にされては怒って当然だろう。佐伯との試合を見て実力がスカではないと悟ったようだが、ならば尚更だ。
 そんな彼女の訴えを遮り、不二が結論付けた。
 「なるほどね。つまり、デートの話を持ちかけたのは跡部じゃない、と」
 「そう、ですけど・・・」
 「ああそれでか」
 不二に引き継ぐ形で千石が頷いた。苦笑いを浮かべ、
 「橘さん、って言ったよね? 悪いんだけど―――
  ―――跡部くん、たとえ勝っても君とデートする気なかったと思うよ? あるいは樺地くんとさせるか。だから一切手は出さなかったんじゃないかな?」
 「うん・・・。君の話だと売り言葉に買い言葉というか、売られたケンカを勝ったというか、その程度じゃないかな・・・?」
 「だから俺にも噛ませてって言ったんだけどね」
 「な、なんで・・・!!」
 「それはまあ・・・」
 「見たまんま、だね」
 コートを指す2人。丁度試合が終わった。







@     @     @     @     @








 散々言葉でプレイで嬲られた末の敗北。プライドを傷つけられ跡部が佐伯を睨み上げた。
 それを見下ろし、
 「何だよその目。俺の方がよっぽどムカつくんだけどさあ。
  お前ってこういうヤツなんだ。誠意0の甲斐性なし。あーあ。心の底からがっかりだなあ。
  やっぱこんなヤツやめれば良かっ―――」
 「違―――!!」
 佐伯の台詞を遮り跡部が叫び――――――それもまた遮られた。
 ネット越しにジャージを片手で捕まれ、引き寄せられ。
 ―――キスされて。
 さすがに誰もが目を丸くした。跡部含めて。
 暫く身動き一つせず、唇だけを味わって、
 佐伯は始まりの唐突さとは打って変わって、名残惜しむように離れていった。
 「何、の・・・つもりだ・・・・・・?」
 口を押さえる事も忘れ問う跡部。いたずらっぽく見上げ、





 「牽制。と、忠告」





 「・・・つまり?」
 跡部は無視し、佐伯は目だけで周りを見回した。ただ見回しただけにも見え、
 ―――周りをギンと睨み付けたようにも見え。
 とりあえず後者と受け取ったらしい杏・桃・神尾がびくりと震え上がった。千石と不二は無難に目を逸らし降参ポーズを取っている。
 1周し、跡部へと戻し。
 「お前に手を出そうとしたヤツは如何なる方法を用いても絶対に潰す」
 「俺の場合は・・・?」
 「お前なら簡単だ」
 薄く笑い、囁く。







  「即座に殺す」









 もう一度、今度は掠める程度に唇をつけ、
 「じゃあな跡部。今日のは貸しにしといてやるよ。決着つけたかったらせいぜい関東までは上がって来い」
 踵を返し手を振る佐伯。跡部も指の腹で唇を拭い、挑発的に笑ってみせた。
 「そう言って、てめぇが落ちんじゃねーぞ佐伯」
 答えるつもりがあるのか否か、歩きながら佐伯が小さく肩を竦める。
 バッグにラケットを収め、肩に担ぎ。
 「ああそうそう。忠告の方忘れてた。
  ―――他はともかくその子に手を出すのはどうかと思うよ。あの橘の妹さんだ。兄馬鹿お兄ちゃんが折檻に来るぞ」
 「橘・・・って――――――あいつか!?」
 「え・・・? お兄ちゃん知ってるの?」
 「っていうかなんでサエくんがそんな事知ってんの?」
 3者3様の驚き。特に驚くべき要素の見つからなかったその他一同は首を傾げるだけに留めていた。
 全てに律儀に答える。
 「その橘だ。
  知ってるのは去年の
Jr.で会ったからさ。尤も向こうは俺の事なんて憶えてもいないだろうけどな。
  でもって千歳に写真見せてもらったんだ。世の兄は弟妹に対して必ず馬鹿になれるというテーマの時だった。関係ないけど似てない兄妹として一票。間違ってもお前には見せるなという事だった、千石」
 「千歳さんに・・・」
 九州2強の片割れとして、杏もその男の事なら知っていた。
 大体話の大きさを実感してきたところで、
 「もう一度言ってやるよ。
  せいぜい関東までは上がって来い
  前しか見てないと横から足すくわれるぞ。来ないんじゃ俺がつまらない」
 悠然と佐伯が微笑む。
 跡部もまた、帝王然たる鷹揚な態度で笑みを浮かべ、
 「ならここで宣言してやるよ。
  氷帝は今年も都大会
No.1シードで勝ち上がる。でもって関東じゃてめぇにも勝ってやるよ、佐伯」
 「へえ。そりゃ楽しみだ」
 茶化すように、言うだけ言い。
 佐伯は一切振り向かずに階段を下りていった。
 見えなくなるまで見送り、
 「行くぞ樺地」
 「ウス」
 跡部もまた、踵を返し去っていった。







@     @     @     @     @








 当事者らもいなくなり、やや釈然としないものを抱えながらそれでもこの余興を終わりにするしかない一同の中で。
 「いや〜。ほんっと相変わらずらぶらぶだね〜」
 「見てるこっちが熱くなるよ。
TPOわきまえてくれないかなああの2人も」
 手でぱたぱた煽ぐ千石に、皮肉げに笑む不二。佐伯を見送る跡部の、乙女的うるうる熱視線を見てしまえば大体こんな反応しか出来なくなるものだろう。
 「あ、あの〜・・・・・・」
 そういえば一番の当事者であったはずの杏が、気まずげに手を上げる。賭けを考えれば跡部とデートするべきだろうが、その跡部は佐伯に負けた。ただし最初の約束と全然違うもののため別物として扱う事も可。だがその佐伯は言っていた。『お前に手を出そうとしたヤツは如何なる方法を用いても絶対に潰す』と。嫌々デートした上に潰されたのではたまったものではない。
 さて一体自分はどうしたらいいのかと悩む杏に、
 「まあ・・・
  今日の話はなかった事にするのが一番いいんじゃないかな」
 「なにせ跡部くん、サエくんにぞっこんらぶだからね。サエくんもめちゃくちゃヤキモチ焼きだし。
  したければしてもいいだろうけど、
  ――――――最低限死は覚悟して行った方が」
 「・・・行きません絶対」
 「うん。それが正解だと思うよ」







@     @     @     @     @








 ちなみにその関東にて。
 「―――といったワケで」
 「ははははははははははははははははは!!!!!!!! 馬鹿じゃんお前!!
  だからちゃんと警告してやっただろ? 何しっかり油断して足元掬われてんだ?」
 「うっせー!! 仕方ねえだろ橘がどこにいたかなんて知らなかったんだからよお!!
  それに5位決定戦じゃ勝ち残ったぞ!?」
 「そうだねえ。裕太を蹴落として」
 「そうだなあ。せっかく淳に会えると楽しみにしてたのに」
 「てめぇ佐伯!! 俺様よりそっち優先か!?」
 「お前が普通に勝ってりゃ何も言わなかった!!
  それを何だお前『氷帝は今年も都大会
No.1シードで勝ち上がる』とか堂々ぶっこいて繰り上がり!? しかも青学の隣引いた!?
  氷帝が1位青学が2位だったら順調に勝てば準決勝で当たってたんだぞ!? 責任取って青学には負けろよ!?」
 「どーいう責任の取り方だそりゃ!? お前俺と当たれなくていいのかよ!?」
 「周ちゃんとお前だったら周ちゃん取るに決まってんだろ!?」
 「・・・・・・『世の兄は弟妹に対して必ず馬鹿になれる』ってテーマの議論って、やっぱサエくんがきっかけで始まったの?」
 「当たり前だろ? 周ちゃんは可愛い可愛い称え誉めそやしてたら景吾に殴られた。手取り足取り言い争ってたら千歳にそんな話をされてなだめられた」
 「それは・・・『血みどろのケンカの仲裁をしてもらった』って言うんじゃ・・・・・・」
 「ていうか・・・・・・
  ――――――つまり跡部くんもその写真見てたの?」
 「それで全然気付かないって、
  ・・・全然見てなかったの?」
 「うっせー!! いいだろコイツがず〜っと不二の事ばっか口にしやがるんだから!!」
 「・・・・・・・・・・・・。
  女の尻ならぬ男の尻追いかけて負けたんだ氷帝って」
 「すごい・・・部員が可哀想だねホント」
 「ぐ・・・・・・!!」
 「でもまあ、それだけお前が俺の事を想ってくれてるのはわかったよ。ありがとうな景吾」
 「佐伯・・・・・・」
 ぷ〜〜〜〜〜〜〜〜〜
 「にしてもお前あっさり負けんなよ! 散々偉ぶっといてさあ! なんていうか、連続アニメ初っ端1/4辺りで出てくる小ボスっぽいぞお前!! すっごいいい感じで踏み台扱いじゃん!!
  いっや〜!! おかし〜♪ さっすが景吾! 決めるトコじゃ外さないな!!」
 「佐伯の馬鹿野郎〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!!!!」







@     @     @     @     @








 この後、本当に青学に負け関東敗退が決まった氷帝。特例で全国行きが決まるまで、なおも跡部は佐伯に散々にからかわれるハメとなった。
 「いや〜。ほんっと相変わらずらぶらぶだね〜」
 「そーだろ? ホント景吾は可愛いなあうりうりv」
 「見てるこっちが熱くなるよ。
TPOわきまえてくれないかなあ跡部」
 「ンなモンコイツに言ええええええ!!!!!!」





―――戻る

 























































 

 
Case2.リョーマの場合

 「あ・・・」
 「越前! お前どーしたんだ!?」
 「別に。ただ寄っただけっス」
 「そーかなら丁度良かったぜ!! おい越前!! 俺とダブルス組もうぜ!!」
 「・・・はあ?」
 「キタネーぞ桃城!! 杏ちゃん助けるのは俺だ!!」
 「いーじゃねえかどっちでも!! 助けられりゃよお!!」
 「とかいってお前杏ちゃんにコビ売るつもりじゃねーのか!?」
 「ンな!? なワケねーだろ!?」
 「・・・・・・なんなんスか?」
 話し掛けておいてこちら無視の言い争い。こちらも無視して帰れれば良かったが、残念ながら桃がこちらの腕をぎゅっと掴んでいた。
 ため息をつきリョーマが問い掛ける。台詞と裏腹に『俺は関わりたくない』と暗にも明にも告げてみる、が。
 「聞いてくれよ越前!! 橘妹の大ピンチだ!!」
 ・・・・・・桃はこちらの訴えに全く気付いてはくれなかったらしい。あるいは気付いた上でしっかり気付かない振りをしてくれたか。
 「アイツらが橘妹勝手にナンパしてよお! ダブルスやって負けちまったら1日デートだとよ!!」
 「そんなの勝手にしてれば―――」
 心底つまらない事情に心の底からつまらなさそうな声を上げるリョーマ。一応手で振られたため付き合い程度にそちらをちらりと見、
 『あ・・・・・・』
 2つ―――いや4つの声が被った。1つはリョーマの。先ほどボールをぶつけた人(さすがについ先ほどの事は憶えているらしい)がいたため。2つ目はその相手。やはり先ほどボールをぶつけてくれた相手ことこちらを指で指している。
 そして・・・・・・
 「で・え・と?」
 「ぐ・・・・・・」
 自分が連れてきていた人と、向こうで何だかエラそうな人がそれぞれそんな声を上げた。据わった声と呻き声。
 「ほう
でえと。なるほどでえと
  暫く会わない間にお前も随分いいご身分になったなあ跡部。いやさすがさすが」
 「言っとくがこりゃただの成り行きだからな!!」
 「
成り行きでデート。ただのデート。
  は〜ん。お前にとっては万事その程度か。タラシで女にだらしないって前評判に偽りはなかったようだな」
 「違うっつってんだろ!? こりゃのっぴきならねえ事情でそうなっただけだ!!」
 「跡部くん・・・。そんな微妙に笑い誘うイイワケこいても許してはもらえないと思うなあ・・・・・・」
 「・・・・・・つーか越前。誰だこの、いきなりイっちゃってる人?」
 「アメリカいた時近所だった佐伯さんっス。何かばったり会ったんで、まあテニスでもするかって事で来た・・・んスけど・・・・・・」
 耳打ちに答えるリョーマの語尾がどんどん小さくなっていく。もう目的が果されそうにないのは誰の目にも明らかだった。
 ―――と思ったのだが。
 かのイっちゃってる人―――佐伯は、突如リョーマの方を振り向くと満面の笑みを浮かべてきた。
 「越前、いい事教えてやるよ。
  そこにいるクソえらそうな俺様馬鹿はああ見えて強いらしいぞ。去年お前のいる青学を下した都大会
No.1シード氷帝学園の部長、アホ様と言えば実に有名だ」
 「・・・・・・ねえ、それ本当に有名なの?」
 「ああ有名だ。様々な意味を込めて試合したくないヤツ
No.1として、全国レベルで有名だ」
 「・・・・・・で、そういう人に負けたんスか桃先輩たち」
 「俺はまだ試合してねーよ!!」
 「そしてすっかり忘れてたが本題だ。
  そのアホは東京都内で唯一手塚に並ぶ実力の持ち主だぞ。もちろんテニスのな」
 さらっと言われた一言―――言った本人にしてみればアホ様以下の重要度を誇るそれに、リョーマの目が弓を引き絞るように鋭さを増した。
 「手塚部長に? ホントに?」
 「さあ?」
 「ってアンタはあ!!」
 しれっと言い切られ、引き絞られていた目は一気にばびょんと緩まった。
 8割方閉じられた目で佐伯を見上げるリョーマ。
 「アンタ結局何言いたいワケ?」
 と問う彼に、佐伯は軽く肩を竦めてみせた。
 「ただ直接対決してないから正確な実力差はわからないってだけさ。生憎俺は隣の千葉在住だから東京についてそこまで詳しくはわからない。隠れ実力者もいるかもしれないからな。今のは一般論だ。
  ―――全国レベルで通用する強いヤツを挙げろと言われたら、男子シングルスにおける東京代表は手塚か跡部かのどっちかだろうといったところだ。実際去年は2人揃って
Jr.選抜に選ばれたほどだ。尤も手塚は辞退して代わりに来たのがそこにいる千石だけどな。
  どうだ? アイツと試合してみたくないか?」
 「あのサル山の大将と?」
 跡部を見て、リョーマは首を傾げ考え込んだ。手塚と高架橋下での試合で惨敗したのはついこの間の事。それと互角の実力を持っている(かもしれない)となったら・・・・・・
 悩みはしなかった。挑発的に笑い、
 「いいね。やろうよ」
 「ああ? てめぇが? 俺様と?
  ―――まあいいぜ。来いよ。可愛がってやるよ」
 「アンタが、可愛がられないでね」
 「ハッ! 言ってくれんじゃねえの」
 話がまとまりかける。コートに入るリョーマと跡部。そして、
 「そういえば勝負は
ダブルスだったよなあ」
 再び佐伯が世間話をするようなノリで言った言葉に、2人して固まった。
 跡部は無視し、リョーマを見て。
 「困ったなあ越前。パートナーいるのか?」
 リョーマの視線が泳いだ。既に跡部に(樺地に)やられている一同は合わないよう逸らし、桃と神尾はそれぞれ自分を指しはいはいと挙手をし、
 「佐伯さんお願いします」
 「よしよし。そう来ないとな」
 「てめぇはなんでそういう致命的な決断を下す!?」
 「はあ?」
 「こーなったらこっちも手段は選ばねえ。
  オイ千石!! 樺地と代われ!!」
 「えええええええ!!?? ちょちょちょちょ〜っとタイム!!」
  無理だってマジのサエくん止めんのは!!」
 「ああ!? 俺様の言う事が聞けねえってか!!
  大体最初に1枚噛ませろっつったのはてめぇだろーが!! 拒否権なんてあるワケねーだろ!?」
 「ゔゔっ!? 確かにそーだけど・・・!!
  ・・・・・・サエくん、恨み晴らすんだったら跡部くんの方でよろしくv」
 「心配すんなよ。当たり前の事だろ? それに、
  ―――越前はこれで凄いプレイヤーだからな。甘く見ると後悔するぞ?」
 『は?』
 とっても珍しい佐伯の他人誉め。リョーマは初めて、跡部と千石は対不二兄弟除きこちらも初めてのそれに、3人は揃って間抜けな声を上げた。
 間違いなく気付いているのだろうが、佐伯はリョーマをばっ!と大仰な手振りで指し示し、
 「なんと越前はどんなにボロクソに扱われようが決してめげずにそこから這い上がろうとするガッツがある!!」
 「何の嫌味だ!!」
 「つーか1球勝負で意味ねーよ!!」
 「何て言うか、大体誰が原因だかはよくわかる特技っていうか性質だね・・・・・・」
 「納得してもらったところでさあ行け越前! アホは本気でアホだからお前の反則スレスレ超卑怯な危険球をまともに喰らう事間違いなしだ!」
 「それでどーしろって言うんだよ!?」
 「これは1球勝負だ。即ち1球でノックアウトさせてオッケーという―――」
 「どー解釈したらそういう勝負になる!?」
 「ん? やっぱじわじわいたぶるために6ゲーム1セットマッチにしたい、と?」
 「1球でオッケーです!!」
 「てめぇ千石!! 今間違いなく俺売りやがったな!?」
 「ちなみに越前、お前どの位やりたい? なお判定の参考として、俺が知る限りダブルス3大ベタはお前ら兄弟とアイツだ」
 「1球でいい・・・・・・」
 「以上。民主主義の思想に則り1球勝負で決定。試合中の相手への攻撃は全て可。全滅に追い込んだ方の勝ち。その他詳細ルールは通常のテニスと同様とする。
  じゃあ始めるか」
 『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
 こうして、テニス史上稀にも見ないだろう凶悪な勝負が行われる事となった。







@     @     @     @     @








 「なー桃城、越前達大丈夫なのか?」
 「さあ・・・・・・」
 神尾のボヤきに、桃はただ首を傾げるしかなかった。
 「氷帝学園の跡部さんって言ったら、去年ウチの部長倒した人だぜ? しかも千石さんだって
Jr.選ばれたとなりゃ相当の実力アリだ。
  越前はまあ〜・・・強ええと思うけどよ・・・・・・」
 「一緒にいるアイツ―――佐伯、だっけ?―――は?」
 「さ〜なあ。なんっか聞いた事ある名前みてーな気はすんだが・・・・・・そこまで珍しい名前でもねえし、実力なんてわかんねえ―――」
 「―――という事で、俺たちの勝ちな」
 「くっそ・・・!!」
 『へ・・・・・・?』







@     @     @     @     @








 始まった試合は、大体全員の思惑通りの流れとなった。パートナー無視で突っ走るリョーマと跡部。フォローに回ろうとする佐伯を千石が逆マーク。ダブルスでありながら、勝負は2組で完全に分かれた。
 千石と佐伯はかさこそ動くだけなので放っておくとして。
 「オラ最初の威勢はどうした越前!」
 「くっ・・・!!」
 跡部対リョーマのラリー。力強い―――だけではなく抉るような球にリョーマが押される。しかもそれだけではない。そんな球を打ちながら、さらに跡部のコントロールは完璧だった。
 右へ左へ、コートの端より外から端より外まで走らされ、片足スプリットステップでもまともな体勢で打ち返せるタイミングではない。よろけがさらにスタートを遅らせ、
 「これで終わりだぜ!!」
 ―――ついに決定打が放たれた。
 球に向かいダイブ。だがそれでも足りなかった。
 跡部の放った球は、リョーマが掲げたラケット僅かに外側を抜け・・・
 「甘いよ跡部!」
 「何・・・!?」
 その後ろに走り込んでいた佐伯の一撃が、驚く跡部の脇をすり抜け後ろへと飛んでいった。
 「千石!!」
 「はいよっ! ・・・って、
  ―――どぉうわっ!!」
 どごっ!!
 痛そうな音を立て、顔面にラケットをぶつけられた千石はそのまま没していった。
 「てめぇ越前、なんで・・・・・・」
 ラケットを吹っ飛ばして千石を亡き者にした張本人は、呆然とする跡部から首ごと目を逸らし平然と言ってのけた。
 「攻撃全部ありでしょ?」
 「・・・・・・」
 跡部がちょっと挫けた。
 さらに佐伯が追い討ちをかける。
 「勝負は俺たちの勝ちだな」
 「な・・・!?
  ちょっと待て! どういう事だ!! 俺はまだやられてねえぞ!?」
 何か怒鳴っている跡部を他所にぽりぽり頭を掻いて、佐伯はコートの隅を指差した。
 「入ったぞ」
 「・・・・・・ああ?」
 思い出そうと頑張る。そういえば、千石が打とうとした球は一体どこへと行ったのだろう?
 振り向く。答えはそこにあった。なぜラケットを投げたのがリョーマなのか。
 ―――佐伯は千石が最期の力を振り絞り返した球を、何の盛り上がりも身もフタもなく打ち返す役割があったからだった。
 「その他詳細ルールは通常と同じ。
  ・・・確か球がコートの中に入った場合ポイントが加算されるというルールもあったな。でもってこれは1ポイントマッチだ」
 「・・・・・・・・・・・・」
 「という事で、俺たちの勝ちな」
 「くっそ・・・!!」
 「だから言ったじゃん。越前は凄いから甘く見ると後悔する、って」
 「そーいう『凄さ』はテニスプレイヤーとしてあんまいんねーんじゃ・・・・・・」
 「勝てば何でも良しだ。
  なー越前」
 話題を振られリョーマが顔の向きを戻した。にこにこ笑う佐伯。何かを訴える眼差しの跡部。
 両方見て、
 リョーマはあっさり跡部を捨てた。
 「意外と弱いねアンタたち」
 「だろ?
  ほらやっぱアホだって」
 「〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!」
 恥辱のダブルパンチ。リョーマの『凄さ』の真骨頂を存分に実体験するハメとなった跡部は、千石もさらにデートももちろん放ってふらふらとコートを出て行った。
 その背中に投げかけられる。もの凄く気の毒そうな労わる声が。
 「まあ・・・・・・。
  ―――無理だろうけどせめて関東くらいまでは来いよ? とりあえず油断は厳禁だぞ? 越前[こういうヤツ]が東京にいるからな」
 「・・・・・・アンタに言われたくないんだけど」
 「ああ・・・・・・。忠告ありがとよ・・・・・・・・・・・・」







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 去っていく彼ら―――その後リョーマと佐伯もこちらを見向きもせず行ってしまった―――を見送り、
 「思い出したわ佐伯さん」
 「へ・・・?」
 「去年の新人戦で、不二先輩相手に互角の勝負してた人だ」
 「そりゃすげえ実力―――!!」
 「いやそーじゃなくって」
 盛り上がる神尾を制し、
 桃はげんなりとした表情で呟いた。頬に冷や汗などを流しつつ。
 「結果はボロ負けだったのに誰がどー見ても何でか佐伯さんの方が勝ってるように見えたんだ」
 「・・・・・・・・・・・・」
 「不二先輩が『負ける』のは初めて見たな。試合じゃなくって勝負で」
 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」







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 それがショックとなったのかそれとも学習能力がないのか、結局跡部率いる氷帝学園は都大会5位という成績に終わった。
 関東で手塚と当たるまで、結局リョーマは跡部を『サル山の大将』あるいは『アホ様』としか認識しなくなった。
 そして・・・





 (良かったぜ・・・。越前とじゃなかった・・・・・・)
 氷帝対青学戦。オーダーを見ての跡部の第一感想(もちろん心の中で)はこれに尽きたという・・・・・・。





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 原作を読み返してみて、そういえば跡部ってば登場いきなりナンパなんてやってたな〜と思い返してみました。サエがいたらさぞかし怒り狂ってくれたでしょうに。

2005.6.2325