「ほうほう。ふん。
な〜るほど〜! そうすればいいのか!」
その日、読んだ本に、
佐伯はえらく感銘を受けたらしい。
さっそく実行してみる事にした。
恋愛必勝の鉄則
レッスン1―――――彼氏はおくゆかしい彼女に弱い!
レッスン2―――――男はいつでも自分が偉くありたいもの。
レッスン3―――――男はプライドが高いです。
レッスン4―――――男は『母親』の愛情に弱いです。
レッスン5―――――いよいよ彼との初キッスv
レッスン6−1―――ついにSEX本番日!
レッスン6−2―――上手くSEXは行えましたか?
総まとめ―――−――彼と恋人になる鉄則は?
レッスン1.彼氏はおくゆかしい彼女に弱い! 物陰に隠れ、遠くから相手を見守りましょう。
じ〜〜〜〜〜〜
学校へ向かう途中、跡部は視線を感じて振り返った。
尋ねる。周りの視線を一身に集め、全く気にせず自分を見つめる男に。
「・・・・・・何だよ?」
「いや? 特に気にするな」
「気になんだろーよ・・・・・・」
跡部のボヤきに誰もが頷く。そりゃ塀に張り付き電信柱にくっつきかさこそ高速移動しながら対象物を追いかける者など気になってたまらないだろう。決してふざけた様子ではなく、目つきがマジだったりすればなおさら。
出来ればこういうのとは関わりたくないが、自分がその対象物である以上関わりは避けられない。
抱えた頭を振りため息をつき、自分はコイツとは赤の他人だと心の中で言い聞かせ、
「何やってんだ佐伯」
「お前の尾行を」
「やんじゃねえ!!」
叫んだ時点で関係者だとバレた。最初からわかられていたという意見もあるが。
バレたなら仕方がない。つかつかと歩み寄る。
目の前で、佐伯は己の行動原理を懇切丁寧に説明してくれた。
「昨日読んだ本に書いてあったんだ。こう、まずは物陰から相手をじっと見つめおくゆかしさをアピールするといいらしい」
「何十年前の少女漫画だ・・・?
とりあえず、おくゆかしさはアピールした時点で無意味だろーよ」
「ん? おかしいなあ。暫くこうした後『あなたの事をいつも見つめています』と手紙を送ると、こっちを気にしてくれるんじゃないのか?」
「そりゃストーカーとして気にしてんだろ!? つーか気にしたのは相手なのか警察なのか!?」
「そういやその頃にはストーカー規制法なんてなかったっけ」
「わかってんだったら俺に訴えられる前にさっさと止めろ!!」
その後は、佐伯の妨害もなく学校に辿り着いた。暫く授業を受けていると、今度は窓の外から視線を感じた。
がっくり崩れ落ちる。窓の外に木などの遮蔽物はない。敷地の外、ビルなどまでは200m以上の間がある。が、
跡部は窓の外を向き、口の動きだけで言葉を発した。声は出さない。どうせ届かないだろう。
《ライフルのスコープなんぞで見てんじゃねえ!!》
答えは―――
タ―――ン・・・・・・・・・・・・!
音がかろうじて届いた時には、弾はもうのけぞった跡部を掠め教室の床にめりこんでいた。
さすが金持ちばかりの集まるお坊ちゃま学校。みんな誘拐等の危険に遭遇する事は多いらしい。
―――現在自分たちが狙撃の的になっていると即座に理解し、素早く物影に隠れるか窓から狙えない位置に移動した。
唯一窓際の席に座ったままだった跡部。青褪めた顔で穿たれた床を見下ろしていると、携帯が軽やかな―――いや、重厚な音を奏でた。どうもそういう曲が好きらしい。
ぽちりとボタンを押す。通話だった。
『ああ悪い。誤射した』
「せめて安全装置かけて監視しろよな!!??」
電話の向こうで悪びれもなく謝る犯人に、
今度こそ跡部は心置きなく怒鳴りつけた。
―――戻る
レッスン2.男はいつでも自分が偉くありたいもの。日向に立たせ、あなたは彼の陰を歩きましょう!
ミーンミーンミーンジーツクツクツク―――
「暑ちい・・・」
「そうだな」
夏の朝、額を流れる汗を鬱陶しそうに拭いながら、跡部は返事をした相手を見た。いや、わざわざ見るまでもなかった。相手は自分の3歩ほど前を後ろ向きで歩いているのだから。
「・・・・・・今度は何やってんだ?」
「良妻は夫の影を歩くモンなんだろ?」
「良妻? 誰が誰の?」
「俺がお前の」
「・・・・・・・・・・・・//。
そうか・・・」
暑さでダウンしていた頭は、即答返しをされようやくその質問内容のヤバさを伝えてくれた。
暑さだけでなく頬を染め俯き、
「つーかそりゃ『良妻は夫の後ろを歩く』の間違いじゃねえのか?」
「ぷ〜〜〜〜〜〜。
自分が夫だとか言っちゃってるよ。恥ずかしいヤツだなあ」
「てめぇだろーが最初に言い出したのは!!」
「俺は自分が夫だなんて言ってないぞ」
「『良妻』だとかホザいてたじゃねえか!!」
「嫌なのか?」
「〜〜〜〜〜〜〜っ!!!」
実に嫌な会話の流れだった。ノリで「ああ」とか答えていたら即恋人解消となるところだった。
(危ねえ危ねえ)
再び額の汗を拭い取る。先程より粘ついて感じるのは脂汗だからか。
「で、話を戻すが。
―――『夫』隠して前歩いてたら意味なくねえ?」
「けどこうしないとお前を俺の影にする事になるんだぞ? それこそマズいじゃないか」
「・・・・・・・・・・・・。
まあ、確かにそうかもな」
思わず納得。
「だろ?
―――あ〜やっぱ影は涼しいなあ♪」
「前言撤回する・・・・・・!!」
ミーンミーンミーンミーンジーーーーーーツクツクツクツクツクツク――――――
昼になった。太陽は最も高度を上げ、影など真下にしか出来ないほどに・・・・・・
「暑ちい!! ひっつくんじゃねえ!!」
「だって仕方ないだろ!? なんとしても影を!!」
・・・・・・2人はこの30分後、熱中症により救急車で運ばれた。
―――戻る
レッスン3.男はプライドが高いです。彼に可愛がってもらいたいあなたは、ちょっぴりお馬鹿な真似をしてみましょう☆
今日はテストに向け2人で勉強会を開く事になった。国語・英語と順調にこなし、次は数学・・・
「なあ佐伯悪りい。この問題―――」
「え〜俺よくわかんな〜い☆」
ずびしっ!!
「なあ佐伯悪りい。この問題わかるか? 何か引っ掛け問題らしいんだけどよ」
「・・・・・・その前のチョップは何だったんだ?」
「景気付けだ」
「いやいらないだろ勉強には」
「それ以上にいらねーのはその前のてめぇの言動だと思うがな」
「なっ・・・! 俺の自信作なぶりっ子キャラにケチつけやがって・・・!!」
「まあ、突然振られて何のためらいも恥ずかしげもなくやったっつーのは賞賛に値するだろーな。
―――ンな事より」
解決しないそんな愚問より。
跡部は参考書を佐伯の方に向け、問題の問題をシャーペンで指し示した。
「ここの問題だ」
「だから俺は―――」
「わかんねーワケねーだろ? この手の引っ掛け問題は得意だろーが。なんでそれだけ出来て直球問題で外すのかは知んねーが」
「だって直球当ててもつまんないじゃん。難しい問題当てたら誉められるけど、直球だったら当たり前に取られるだけだし」
「何のために勉強やってんだお前?」
「趣味」
「・・・・・・いやまあいいけどな目的は人それぞれで」
さすがにため息が洩れる。
呆れ返ったまま席を立ち―――再び戻って来た。手に菓子と茶の載った盆を持ち。
「ひと段落ついたら休憩にでもするか。
―――ところで佐伯、さっきの問題だけどな」
「おお!! 何でも答えるぞ!!」
そしてテストをやった。
数日後、結果が貼り出された。
《1位 跡部景吾(A組) 498点》
「あん? どっか間違ったか?」
首を傾げる。どんなに考えても、間違えた個所が思いつかない。
と―――
「跡部君、ちょっといいかい?」
「はい、何でしょうか?」
手招きをしてきたのは、数学の教師だった。かなりのベテランで、教え方も丁寧で上手だが退屈ではない。その点、跡部も一目置いている。
「これを、先に君に返しておく」
渡されたのは、銀と黒と赤で彩られた紙―――テストの答案用紙だった。98点。落としたのはこの科目だったらしい。
「君は非常に優れた生徒だ。惜しくも満点は逃がしたとはいえ、この点は学年でも最高点だ」
「・・・ありがとうございます」
心なしか、教師の声が震えているような気がし、跡部は返事を数瞬遅らせた。この教師は成績第一とは考えておらず、たとえ赤点だったとしても怒る事もなく一緒に悩んでくれ、少しでも上がったら誉めてくれる。間違っても、普段満点のヤツが98点に落としたからといって人前で叱り飛ばすような事はしないだろう。だとしたらランクはかなり下げなければ。
不審に思う跡部に、
教師はそれはそれは穏やかに微笑んでくれた。
「ところで跡部君。君は私にケンカを売っているのかね?」
「え・・・?」
「確かに私は数学の教師だ。それを理由にするような愚かな真似はしないが、国語の教師に比べ文才はないことは認めよう。そして、彼ら教師をも上回る頭脳を持つ君に比べれば遥かに。
君からしてみれば、私の文章というのはさぞかし稚拙で劣悪なものに映るかもしれない。
だがね―――
―――それをいちいち突いてくるというのはどういう事かね!!??」
「え・・・・・・?」
曰く『教師をも上回る頭脳を持つ』跡部。しかしながらそんな彼でも、血涙を流し自分に指を突きつけてくるこの教師の言い分はよくわからなかった。
唯一わかったのは、このテストに問題があったという事。
見下ろす。×ではないが△のついた問題。数日前、佐伯に教わったばかりの問題。自分は確かに教わった通りにやった。
教わった通り・・・・・・
『数学で求められるのは論理性だ。まず必要なのは問題をよく読み解く事。完璧に問題に即した意を返してこその、“数学の答え”だ』
見下ろし、考える。この問題は確か、乗り物の速度と距離から時間を求める文章題。こう表すと問題レベルが小学生並だが、作り方によっていくらでも複雑になるのが数学の問題というものだ。
だからこそ、佐伯は上記の前置きをした後こう続けた。
『速度は常に一定なのか。アメリカのハイウェイじゃないんだからまっすぐ何キロも驀進できるはずがない。信号も曲がり角もあるだろうし、そもそも勾配はどうなっているのか。たとえスピードメーターでその速度だろうと、実際に走るスピードが異なるのはよくある事だ。凍った上り坂なんてメーター80キロ出してるのにむしろ逆走してるケースだってあるんだからな。
距離にしても同じく。この距離というのは道の中央で測ったのかそれともどちらか端なのか。直線道路じゃない限りそれにより距離は大幅に変わる。
大体「辿り着いた」というのは乗り物の先端がそこにつく事か最後尾がつく事か運転席がつく事か。そんなことを言い出したらこの乗り物だっておかしい。初速度がそんなに出るなんてエンジンに違法改造したかターボでも搭載してるかさもなければとことん小さいものかだろ? それならぶん投げればスタートダッシュが稼げるからな。重量が重ければ加速はさらに遅くなる』
などなど。
そして、何となく流されるまま自分は彼に言われたとおりの結論を書いていた。
即ち―――
《これだけの条件では答えは出せません》、と・・・・・・。
「楽しいかね君はこのように私をからかって!! 確かに私は常々生徒に『疑問を持て』と教えてはいる!! 詳細を述べなかったのは私のミスかもしれない!!
だがもう少し物事は柔軟に見るべきではないのかね!? 書かれていない条件は考慮しなくていいと考えるべきではないのかね!? 私たちは機械ではないんだよ!? だとしたらその時の風速から摩擦抵抗から全て考慮しなくてはならないだろう!? 与えられた情報の中で自由な発想をする!! これこそが人間というものではないのかね!?
君の事は見込みのある生徒だと思っていたが撤回するよ!! 君は人間味の欠片もない機械人間だ!!」
言い放つだけ言い放ち、教師はずがずがと足音勇ましく去っていった。
独り、取り残され。周りの好奇の目に晒され。
跡部は、ぶるぶる震える体で答案を引き裂いていた。
「さ・え・き・の!! 馬鹿野郎があああああああああああああ!!!!!!!!!!!」
吠える。ただひたすらに。全てを忘れ。
吠え猛るしか、なかった・・・・・・。
―――戻る
レッスン4.男は『母親』の愛情に弱いです。家庭料理などを作り、彼のハートを鷲掴みにしてしまいましょう。
「景吾、今日は俺が料理作るからなv」
「ほお。そりゃ楽しみだな」
テストも終わり、今度は佐伯が跡部を家に招いた。
エプロン姿で自分を指差す佐伯に、跡部が目を細めて笑う。
「よっしじゃあ待ってろよ!!」
「ああ・・・・・・
・・・・・・・・・・・・あ?」
準備オッケーの状態で、
佐伯が向かったのは、なぜか外だった。念のため付け加えるが、決して台所が離れにあったり屋外の竈を利用したりするワケではない。
気になったので、後からつけてみる。外に出た佐伯は、軽快な足取りで海へと向かっていく。
「なるほどな。取れたての海の幸、ってか」
納得し、踵を返した跡部の後ろで。
佐伯ががしがしと砂を掘り始めた。なるほどアサリでも捕って味噌汁か酒蒸しかその他エトセトラ・・・・・・
「よ〜し大分順調に育ってるな。この調子ででっかくなって景吾に食わせるぞ〜♪」
「何年後の話だ!!」
ハマグリ育成計画中だった佐伯を後ろから蹴り倒し、改めて料理スタート。跡部監視の元、屋外バーベキューの準備が出来上がり・・・
「ホラ景吾早く肉焼けよ。ああもう野菜焦げてんじゃん」
「ちょっと待て!! てめぇが作んじゃねーのか!?」
「俺はちゃんと作っただろ!? 材料切って用意した!! 焼くのは各自の自由だ!!」
「ならてめぇも焼けよ!! せっかく丁度焼けたのばっか食いやがって!!」
「ハッ! お前がトロいのが原因だろ!? むしろ焦げないよう食べてやってんだから感謝しろよな!!」
「てめぇの注文に答えてる間に焦げてんだろーがああああ!!!」
―――戻る
レッスン5.いよいよ彼との初キッスv なかなか踏み出せない臆病な彼のために、雰囲気作りをしてあげましょう。
「佐伯・・・・・・」
「景吾・・・・・・」
星空の下、他に誰もいない砂浜で2人は身を寄せ合う・・・・・・などという完璧すぎるシチュエーションが可能なのか。跡部家のプライベートビーチがあれば可能ではあろう。あれば。
どう考えても1年のうち数日程度しか使い道のないそんなものを、堅実主義の跡部一家が持っているはずもない。では佐伯の家の近くか。残念ながらこれも違う。夜は花火をやる若者などでむしろにぎわうのだ。
そう、ここは・・・・・・
「・・・・・・・・・・・・どこなんだココ?」
「さあ?」
「てめぇが連れて来たんだろ!?」
「来てない。俺はボートで沖に出てみないかとしか言ってない。途中で雨に降られたり転覆したりしたのは俺のせいじゃない」
「・・・・・・。ああわかった。明らかに天気予報てめぇしか観てなかったりボロ舟借りてきたり適当に漕ぐとか言っといて妙に決まった方向に進めてたりざーとらしくオール流してたりしてたが責任に関しちゃ追求しねえ。
単純に質問だ。ここは一体どこなんだ?」
「千葉県沖合いの無人島だ。人知れずひっそりしたい時にはぴったりだと、巷で密やかなブームとなっているところだ」
「ちなみに、『巷』っつーのはどこ指してんだ? 六角の他のヤツからもンな話聞いた事ねーぞ?」
「自殺志願者の間でだな。やっぱ邪魔は入って欲しくないし」
「なんでンな情報てめぇが持ってやがる!?」
「これも一重に俺の人柄の成せる賜物だ。以前かなりヤバい麻薬取引現場をたまたま見物―――もとい目撃してな。最近はコンクリ詰めにして東京湾に沈めるのは流行らないらしい。もう少し死体が発見しにくいように、こういう場に連れて行くそうだ。
―――1週間生き延びて戻ったところとても驚かれた。亡霊が仕返しに来た、とそいつらは警察に自首した」
「そりゃ、これだけ何もねえところに送り込まれてぴんぴんしてりゃ、普通人間だとは思わねえよな」
見渡す。本当に何もないワケではない。一周回ってみたところ、円周1キロ程度の島で砂浜と崖に囲まれ、中心は森と小さな丘になっていた。生活、しようと思ったら出来るのだろう。魚を捕ってもよし。中に入れば果実もあるかもしれない。
(生活・・・しようと思えばな・・・・・・)
森の中は、一寸先も見えないんじゃないかと思えるほどの密林。完全に歴史から取り残された感のあるこの中には、一体何が住み着いているのか全く予想出来ない。
安全が唯一確保出来ているのはこの砂浜だけ。しかしここにいたのでは何も出来はしない。
「でもホラ、2人っきりだぞ」
耳元で囁かれる。
見やれば、佐伯は驚くほど近くにいて。
大きな瞳を潤ませ、佐伯は密やかに微笑んだ。
「だから、今日だけは一緒にいようぜ?」
腕を取られ、躰を摺り寄せられ。
応えるように、跡部も抱き寄せ頬を撫で。
「そうだな。まあ、今日くらいはこんな風にしてみるのもいいかもな」
「そうそう。でもって明日は脱出法考えて」
「・・・・・・あん?」
(今なんか、聞いちゃいけねー事聞いちまったような・・・・・・)
気のせいだろうと思い、もう一度佐伯を見る。佐伯はにぱっと笑い、
「何があるかわからないから、まずは水と食糧の確保だろ? 数日分は押さえたところでイカダ作り。方角は、とりあえず西に向かえば九十九里から茨城までのどこかには辿り着くから。
―――あ、救助待つとかはしない方がいいぞ。日本地図にもこの島書かれてないからな。航路にも入ってないんじゃないか?」
「・・・・・・・・・・・・。ほんっとーに、『人知れずひっそりしたい時にはぴったり』なんだな」
「俺は嘘はつかないぞ」
えっへんと胸を張る佐伯を、跡部は思い切り殴り倒した。
―――2人はというか頑張った跡部は、翌日にはもうイカダを作り元の場所へと帰ってきていた。
―――戻る
レッスン6−1.ついにSEX本番日! ここは手馴れていても初めてのフリをしましょう。彼は可愛らしく震えるあなたにメロメロよv
「いいのか、佐伯・・・・・・」
「ああ・・・。いいよ、景吾・・・・・・」
佐伯の許しを得、跡部は彼を自分のベッドへと優しく横たえた。佐伯の家でも構わないが、やはりこういうのは防音設備のなされた場所でやった方が落ち着く。
閉じ込めた腕の下で、自分を見上げる佐伯にえも言われぬ感動を覚え・・・
「ああそうだ景吾。
――――――はい」
「・・・・・・・・・・・・ああ?」
・・・・・・渡されたそれに、感動は一気に冷めた。渡された―――仮面とロウロクとムチに。
「これ・・・・・・は・・・・・・」
一体何に使うものなのか。この状況で3点セットとして渡されると非常によくわかる。が、
「なあ佐伯、お前こーいうのが好きなのか?」
「好きなのはお前じゃないのか景吾?」
「何でだ!? 中途半端にリアル過ぎるから止めろ!!」
「・・・・・・。そういえばそうだな」
氷帝帝王として君臨する彼。もちろんテニス部のトップなのだが、威張り腐ったその態度はまるで女王様のようだと専らの評判だ。なまじケンカが強いという風評もそれに拍車をかけ、「ぜひとも俺を奴隷にしてください」と言い寄る男らに鉄拳と暴言を浴びせ掛けるのは彼のライフワークとなっているそうだ。やられた人曰く、それがまた快感だそうだこれまた風の噂より。
「でもホラ、男はそうやって完全征服して無力に陥れた相手が、ぶるぶる震える様を見るのが面白い生き物じゃないのか? もちろん俺は実際のところ知らないが」
「そりゃ正真正銘ただの変態だろ!? つーかそれだけ知ってる時点で充分だ!!」
―――戻る
レッスン6−2.上手くSEXは行えましたか? たとえ好きな人とであろうと、相手があまりにヘタでは気持ち良くなれないもの。最終手段として、テンパる彼に代わりあなたがリードしてあげましょう。
SM3点セットは捨て改めてベッドへ。
躰を硬くする佐伯に、跡部はうっすらと微笑んだ。
「らしくねえな。緊張してんのか?」
「ん・・・。
だって・・・・・・初めてだし・・・・・・」
ぼそりと呟かれる。安心させるよう頭を撫で髪を梳き。
「ま、すぐに俺様の美技に酔わせてやるぜ」
余裕ぶっこいて言ってみたのはいいものの・・・
・・・・・・跡部も実は初めてである。
(えっとこの先は・・・・・・)
今日のために、本やらビデオやら友人の話やらで知識はつけてきた。目が泳がぬよう、躰が震えぬよう、慎重に事を進めていく。なにせ相手は筋肉の動きで動作を先読みする佐伯。彼の手にかかれば、よほど気をつけないと緊張など一瞬でバレる。
「景吾・・・・・・」
「あん?」
「お前も、緊張してんのか?」
「・・・・・・」
あっさりバレた。
「し、してねーよ別に//!」
「でも初めてだろ? お前も」
「なっ―――////!?」
何で知ってるんだと表情で問う。佐伯はくつくつと笑っていた。
引き寄せられ、キスをされ。
「バーカ。何年お前と一緒にいると思ってんだよ。そんな相手がいたら気付かないワケないだろ? な?」
「ま・・・あ、確かになあ・・・・・・」
佐伯のも、一切気付かなかった。引っ越して遠距離になったなど関係ない。少しでも様子が違えば、電話で、メールで、会って。どれででもわかる。わかるくらい、ずっと見てきた。
だから―――
「嬉しいよ。俺の初めてがお前で、お前の初めてが俺って事が」
キスをされたまま、ころりと倒され。
「なあ景吾。お前も嬉しい?」
身を起こした佐伯に、今度は見下ろされ問われ。
「ああ、そうだな。嬉しいな」
微笑む。合わせた額の向こうで、佐伯も本当に嬉しそうに笑っていた。
片手で頭を抱き寄せられ、もう片手で服を脱がされ――――――
「――――――ってこれじゃ俺が抱かれる方じゃねえか!!」
「違ったのか?」
「違げえに決まってんだろ!? 今までの流れ考えりゃ俺がお前を抱くモンだろーが!!」
「はあ? そんなのどっちだっていいだろ? 適当にその時の雰囲気ででさあ。どうせどっちだろうと大した違いはないんだし」
「ンなの大違いに―――!!」
「それとも何か? お前は俺を、女の子の代わりとか思ってるんじゃあ・・・・・・
・・・・・・ないよなあもちろん?」
「ったりめーだろ!!」
「じゃあどっちでもいいんだな。ハイ問題解決。さって進めようか」
「どこがどう解決―――っ!!」
こうして、初SEXで跡部は目出度く女の役回りを全うした。
―――戻る
「なあ佐伯」
「ん?」
「こないだから疑問だったんだが、
――――――お前なんか指南書[バイブル]にしてんのか?」
行動自体は非常に異常だが、その奥に隠された(なぜか隠されるハメになった)目的を追っていけば、佐伯の行動は珍しく一般の恋愛法則に則している。悪く言えば―――
―――佐伯が考えたにしてはありきたりすぎる。
首を傾げる跡部に、
「ああ」
佐伯はにっこり笑って『それ』を見せた。何冊も積み重なったそれは・・・
「ほんっとーに、数十年前の少女漫画なんだな」
「あ、一応最近のも含まれるぞ」
「だよな。いくら何でもSEXまで含まれんのは最近のだろ」
頷き、
再び首を傾げる。
「なんでンなモン参考にしたんだ?」
ついに人として真っ当な道を歩もうと努力を始めたのだろうか。喜びを胸に抱く跡部に、
佐伯は再び笑った。
「お前と恋人になろうかと」
「既に恋人じゃなかったんじゃねーのか!?」
対佐伯用恋愛必勝の鉄則――――――正しい知識と認識を植え付けましょう。
―――Fin
―――なお、参考にした本に具体的なものはありません当たり前の話。しかしサエ・・・。バイブルがあってなお外すのか・・・・・・。
2005.9.18〜22