Placebo         








δ.良薬口に苦し。ではこんな薬は?



 こうして、1球のみの試合は終わった。どちらが勝者とも言い切れないだろうが、何も今決着をつける必要はない。自分達にはまだまだ時間があるのだから。
 最初とは打って変わった、晴れやかな笑顔で握手を交わし・・・・・・
 「・・・・・・で、手塚よお。
  てめぇ一体ここでどーいう生活送ってんだ?」
 「む・・・?」
 怪訝な顔を浮かべる跡部に、手塚もまた似たような顔―――似たような意味合いを持たせたいであろう表情を浮かべる。
 正確に悟り、跡部は笑いたいような怒りたいような半端な表情で―――
 ―――横を見やった。今は力いっぱい拍手を送るミユキを。
 「彼女が、どうかしたか?」
 「いや〜まあ、てめぇがどういう趣味に走ろうが自由だが?
  ――――――犯罪は止めとけよ? てめぇがとっ捕まったら青学の全国出場も取り消しだろ?」
 「何の話だ!?」
 詰め寄る手塚に、
 今度跡部が浮かべたのは純粋な笑みだった。
 ぽんぽんと肩に手を置き、
 「そーかそーか違うのか。なら別にいいんだがな」
 当たり前だ。
 答えようとした手塚の肩上で、手が止まる。
 綺麗に綺麗に微笑み・・・。





























 「てめぇ九州に浮気旅行に来たとかほざきやがったら、両肩揃って一生使いモンになんなくさせんぞオラァ?」





























 本気だった。極めて跡部は本気だった。ぎりぎりと、万力の如く力で締められる肩は早くも軋み音を上げていた。
 「だ、断じてそのような事はしていない・・・!!」
 両手を上げ否定する手塚。一応納得してもらえたか、にっぱりと笑い跡部が手を放した。
 「そーかそーかならいいんだ。
  んじゃ邪魔したな。帰るわ。それだけ出来りゃもう大丈夫だろ」
 「あ、ああ・・・」
 ワケがわからないままも送り出す。
 実に機嫌が良さそうに鼻歌なんぞ歌いながら去る跡部の背に、手塚は声をかけた。まだコートの中。だがそれでも、もう自分を縛るものはなかった。
 「ありがとうな跡部」
 きょとんと跡部が振り返る。振り返り、
 力強く笑った。
 誰をも魅了する帝王の笑みで、右拳を上げ。
 「全国制覇しろよ!」
 「ああ!」
 拳は合わせない。それでも、あの時掲げられた手の熱さは伝わった。
 ひらっと振られた跡部の手を追い、手塚も開いた手を下ろそうとして・・・・・・







 「そういえば、結局跡部は何を言おうとしていたんだろうな・・・・・・?」










            











 「なあお兄ちゃん・・・。もしかしてあの兄ちゃんらって・・・」
 再び曖昧な笑みを浮かべ首を傾げるミユキに、
 千歳は言った。はっきりと。
 「両想いなんに全く気付いとらんね。どころか自分の気持ちもようわかっとらんばい。
  恋の花は当分開花しそうになかとねえ・・・」
 「いいん・・・? あんまんまで・・・・・・」
 「いいんじゃなか?」
 肩を竦め、
 笑う。







 「よう言うばいね。『恋につける薬はなし』」



―――Fin



















            


 ミユキちゃんの活躍の場を奪ってしまうのは(そして手塚を心の弱っちいヤツにしてしまうのは)忍びなかったですが、ぜひとも跡部にも何かして欲しかったなあ・・・と。まあ樺地を当てる事で、一番超えなければならない『自分自身』という壁を教えてましたが。
 そしてミユキ。最近観月の出てくる『お家騒動!』シリーズを書いているおかげで、思わず『ミヅキ』と打とうとしてしまいますね。失敗失敗☆
 ところですみません『百錬自得の極み』。一見聞くとカッコいいんですが・・・・・・『自得』って、『自分自身で満足し安心する事・得意になってうぬぼれる事』というのも含むのですね。しかも『極め』ちゃってますし。
 となると・・・

 百錬自得の極み・・・口語訳:頑張って練習したのでうぬぼれまくってみました

 ・・・・・・といった事にもなるような〜・・・・・・失礼致しました。
 無言で慎ましやかと見せかけわかりにくく自慢する。その後高笑いで登場した人とは対照的と見せかけやりたい事は同じ。そんな手塚も素敵だと思いますが(爆)。
 さらに裏ネタで、この名称を実は幸村が広めてたら大爆笑だと思うんですけどね。
 なお勝手に出てきたアルファベット
deドライブボレーシリーズ。完結編は『ドライブE』―――ドライブエンドがいいです。Dは相手のトップスピンをスライスで助長する(サエ風)かトップスピンで相殺するか(跡部風)ですが、Eは逆にスライスのトップスピン返し。回転が倍化されているため一見ゆったりした球が降ってきますが、ヘタにラケットを差し出そうものなら強烈なスピンによりガットに穴が開く前に手を負傷、最悪相手のテニス人生そのものを終わらせます。そして真っ直ぐ落ちた球はそこでストップ。なので2重の意味での『エンド』です。
 ・・・もちろん断るまでもなくこんなショットは打てません。ただしサエか白石が使ってくれるといいなあ・・・vv そして元祖ドライブボレーヤー(勝手に命名)として跡部はちゃんと察しラケットから手を放すでしょう。あるいはぴったり
90度横から打ち勢いをなくさせるか。

2006.5.186.1