誰もが忘れているだろうが、彼らは中学生であり、今は夏休みである。










三段論法











 全国大会が終わって少し。2学期が始まるまであとちょっと。
 結果はどうあれとりあえず肩の荷が下りたので、跡部と手塚は会う事になった。





 ―――そして当然のように夏休みの宿題をまるでやっていなかったリョーマの面倒を見るハメになった。





 「・・・・・・なんでそーなる?」
 「仕方なかろう? 出来ない部員の面倒見は部長としての仕事だ」
 「そーか・・・?」
 「お前だって宍戸を拾い上げただろう?」
 「すげー宍戸に失礼な比較だったな・・・。アイツは確かに1度負けたがそれでも這い上がってきただろ?」
 「なら越前もだ」
 「・・・・・・。
  それは俺に対する嫌味、と」
 「いや冗談だ。そもそも越前は負けていないだろう?」
 「いつだったかそう言うてめぇが負かしてなかったか?」
 「・・・・・・」
 「・・・・・・」
 「むう」
 「ほら」
 「―――だから、
  アンタたち何そんなぐでぐでに話続けてるワケ? 全国終わってどこまで気ぃ抜けたの?」
 「そこら辺までだな」
 「うわすっげームカつく返事だし」
 「お前よりは気を入れているぞ越前。だからこそ俺の残りの宿題は日記のみだ」
 「中3にもなって今だに日記やってんのか青学・・・?」
 「絵をつけなくて良くなったのが進歩の証だ」
 「それ退化だろ」
 「だからあ!! ぐでぐでしてないでちゃんとしっかり俺の面倒見てよ2人とも!!」
 「てめぇが1番ぐでぐでしてんだろーが何ホザいてやがる越前!!」





 指差すリョーマに跡部が突きつけ返してテイク2。
 今度は真面目に進んでいった。基本は理論整然とした手塚が教え(英語以外)、リョーマが止まったり飽きたりしたところでそういったヤツの対処に慣れた跡部が口を挟む。なにせ宍戸と向日の馬鹿馬鹿コンビはもちろん、あの眠り魔ジローの面倒すら見ているのだ。持ち前の洞察力を存分に活かした人別勉強指導術で、跡部の右に出る者はベテラン教師ですらそうはいない。





 「次は数学だ。どれ―――
  証明問題か」
 「俺結構好きなんだよなコレ。推理して答えを導き出せ、っての」
 「推理だと? どこがだ? わかる事を並べて行けば、自ずと答えに達するだけだろう?」
 「・・・それを『推理』と言わずに何を言うんだ?」
 「む?
  とりあえずわからない事でも並べてみて無理矢理こじつけるものを『推理』というのではないのか? でないと探偵でなくとも推理など誰にでも出来てしまうだろう?」
 「佐伯以外に素でそういう考え持ってるヤツ初めて遭遇したぜ」
 「ていうか佐伯さんも素だったんだ。てっきり他の人みたいに狙って言ってんだと思ってた」
 「世の中怖ええのはクセ者より天然だ、って事を証明した良い例だな」
 「いいんだ。まあ俺もいいけど。どーでも」





 ぐでぐでに続く。





 「―――で、ここで三段論法を使う」
 「サンダーロンポー?」
 「何か中華料理くせえ名前になってきたな」
 「どこが?」
 「語呂が回鍋肉[ホイコーロー]に似ているとか、小籠飽[ショウロンポー]の異種親戚だとか言うつもりか?」
 「何だやっぱてめぇも思ったのか手塚」
 「俺はお前が思っただろう事を言ったに過ぎないのだがな」
 「やっぱ俺らの間にゃシンパシーってモンがあんだな」
 「聞け跡部・・・!!」
 「俺だってアンタとシンパシーあるっスよ!?」
 「ほお? どの辺りがだ?」
 「っ・・・!!
  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・その辺りが」
 「お? 確かにあったな」
 「嫌味?」
 「素だろう。跡部だからな」
 「本気で怖いね天然って」
 「んで、本題に戻るがよく言うだろ? A=B、B=CならばA=Cってな」
 「馬鹿じゃんアンタ? AとBとCなんて違うに決まってるでしょ?」
 「そうか? 同じアルファベット、って意味じゃ間違っちゃいねえと思うんだがな」
 「・・・よく今のを普通に流せたな跡部」
 「何か間違ってたか?」
 「・・・・・・」
 「部長。なんで俺がされてる時は平然と答えんのに自分だと詰まるんスか?」
 「俺は負けん・・・!!」
 「もーいいっスよ・・・」
 「いろんなヤツ教えてりゃいろんな質問が出てくる。この程度は序の口だ」
 「何かすっげー俺までバカにされた?」
 「ああ」
 「アンタ本気でムカつく・・・!!」
 「まあ落ち着け越前。次行くぞ。
  さらにA<B、B<CならA<Cだ」
 「だから―――」
 「待てよ手塚。
  多分越前は、なまじアルファベットに慣れ親しみすぎてるからわかりにくいんだろ。俺らだって突発的に『あがい、いがうならあがう』なんて言われりゃ意味不明だ」
 「・・・・・・は?」
 「ただでさえわかりにくいものをあえてなぜアクセントを変える? ちなみに文章のみでわかりにくい者は、忍足が話す大阪弁における『メガネ』と同じ言い方だと考えてみると良いだろう」
 「つー事で問題解決だ」
 「した?」
 「したと言えばした、していないと言えばしていないな」
 「俺はしたっつったからした。以上。
  他のモンで置き換えようぜ?」
 「む・・・。そうか。
  ならば越前、『2は1より大きく、3は2よりも大きい。よって3は1より大きい』」
 「・・・そりゃそーでしょーね」
 「む・・・?
  なぜだか余計に理解されなかったぞ?」
 「俺も越前に一票だ。
  身近なものシリーズで行こうぜ。そうすりゃ比較しやすい。
  おい越前、
  『オレンジはいちごより大きくスイカはオレンジより大きい。だからスイカはいちごより大きい』
  ―――これならわかんだろ」
 「当たり前でしょ? バカじゃんアンタ」
 「よしよしわかったか。次行くぞ」
 「・・・今お前の事を心の底から尊敬したぞ」
 「そーかい、ありがとよ。
  面倒見は1に忍耐2に忍耐、3・4も忍耐5に忍耐だ。佐伯の相手でもう慣れた」
 「・・・・・・。一番面倒見てないし見る必要ない人じゃん」
 「もう少し他に何か必要とされないのか・・・?」
 「されねえ」
 「例えば言う事をきかすテクニックとかアメとムチの使い分け方とか・・・」
 「馬鹿な事をやっても受け入れる忍耐と辛抱強く常識を教え込む忍耐、それにキレても殺さねえやっぱり忍耐だな」
 「・・・・・・・・・・・・」
 「けど果物だったら見たらわかるでしょ。そういうんじゃなかったら?」
 「後は理論力と慣れだな。
  んじゃ1つ例題だ。
  『俺は手塚に勝った。お前は俺に勝った。んじゃお前は手塚に―――』」
 「勝つ!」
 「よしよし。わかってんじゃねえか」
 「おい・・・・・・」
 「何だよ怒ってんのか? ンなのただの例題じゃねえか。
  ああそれとも、
  ――――――かつての最強が今じゃ最弱扱いされてムカつくってか?」





 床にだらしなく座りクツクツ笑う跡部を、手塚はじっと見やり・・・





 「逆だ。確かにかつては負けたが、今ならば俺が勝つ」
 「ほお・・・?」





 跡部の顔つきが剣呑になった。
 そりゃあ確かに以前手塚に勝った時手塚は万全ではなかったし、今回も激闘の末リョーマに負けた。が、





 「気に食わねえなあその言い振りは。てめぇは俺をンなに格下に見なしてた、ってか? ああ?」





 口元だけに造られた笑みを浮かべ、静かに問う跡部。どんなに見た目上平静を装おうと、鈍く光るその目を見れば、他者の気持ちには鈍感だと自認する手塚であっても彼が今怒り狂っているのはわかったであろう。
 しかしながら・・・
 対する手塚も口元に笑みを形作っていた。こちらは自然と浮かんだものだ。手塚は決して表情を造りはしない。
 跡部とは違う類の剣呑な笑み。湛え、
 言った。

























 「ただし・・・

  ――――――――――――テニスで・・・とは、言っていないがな」





 「ああ・・・?」

























 跡部の目から怒気が抜ける。
 力も抜けたところで、手塚は左手一本を跡部の肩に置き押した。
 「なあ?」
 抜けきったまま跡部が驚きの声を上げる。まるで猫の鳴き声のようだ。
 手塚も正座から脚を崩し、片手で押さえたまま跡部を見下ろした。
 「ほら、俺が勝つだろう?」
 「んな―――!!」
 納得出来ない事態に、ようやく跡部が怒りを露わにした。
 「ンなモン認めるワケねーだろ!?」
 自由な左腕で反攻しようとして、
 その手もまた封じられた。手塚にではない。彼より小さく、だが大きな力を秘めた手だ。
 「てめ越前・・・!!」
 犯人の目星をつけ睨みつける。生意気な青学ルーキーは、生意気なまま生意気度合
120%に笑い返してきた。
 「俺は、アンタに普通に勝ったからね」
 「だから今回も勝つってか? 俺にも、手塚にも」
 「当然」
 本人もそう言い、跡部も認める通り、押さえ方に関してはリョーマの方が上手だった。
 体格差により体重で押さえ込めないのをわかっているのだろう。立てていた膝を蹴り伸ばされ、低いガラステーブルの下に入れられた上で上に乗られた。引き抜こうにも肩と足を押さえ突っ張るリョーマが邪魔だ。まさか本人も日々文句を垂れている適度な身長差が、こんなところで活用されるとは。
 調子についでに自分に乗る2人を射殺すノリで睨みつけ、
 跡部はふっ・・・と息を吐いた。
 「いっそテーブル粉砕する勢いで跳ね上げていいか?」
 「構わんが、そうすると何事かと心配した母さんが来るだろうな。
  ―――さて、行儀の悪いお前を見てどう思うか」
 「ぐっ・・・!!
  手塚のクセに小癪な真似を・・・!!」
 「小癪者が部員にいるものでな」
 「おい越前、手塚がてめぇにケンカ売りてえそうだぞ?」
 「それなら買うっスよ。
  ・・・ところで何で?」
 「・・・・・・。国語からやり直しじゃねえか」
 「もーいいっスよ勉強は!! これから休憩って事で」
 「全然進んでねーだろ!?」
 「なら科目変更。保健体育」
 「ねーよ夏休みの宿題に保健体育なんぞ!!」
 「んじゃ自由研究」
 「テーマは!?」
 「『氷帝帝王のありのまま』。多分みんなに高値で売れるっス」
 「自由研究だろ売ってどーする!?」
 「どの位売れるかの市場調査が自由研究」
 「・・・・・・お前佐伯に何仕込まれた?」
 「リョーガと一緒に効率のいい金儲け方を」
 「つくづくロクな知り合いに恵まれねえなてめぇも・・・」
 「アンタがその集大成」
 「うっせえ!! てめぇらも含めて恵まれてねえよオラどきやがれ!!」
 「ヤだ」
 「断る」
 「うあ殺してえ・・・」
 「忍耐はどこへ行った?」
 「思うのは自由だ。やるのも自由だ。結果として成功してねえだけだ。
  つーワケで行くぞ」
 「む・・・?」
 「え・・・?」





 わかりにくくきょとんとする2人を乗せたまま、
 跡部が暴れ出した。





 「だったらてめぇら俺様より強ええって事直に証明してみやがれーーーーーー!!!」
 「負けないっスよこの勝負は!!」
 「勝つのは俺たちだ!!」










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 騒乱が収まり・・・
 荒い息のままリョーマが尋ねた。





 「・・・・・・で、結局サンダーロンポーって何だったんスか?」
 『さあ・・・・・・?』



―――さあ! この証明の行方は!?









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 という事で、コミックでも跡部の敗北が明らかになりましたので書いてみました。わかってはいましたが、まあそこはちゃんと判明してから・・・とね。
 しかし
35巻。表紙のサブタイから《さらば氷帝学園》なんていきなり敗北決定な事になったとは・・・。中表紙その他諸々もそうですし。珍しいなあ。一応この手のものは、読んで判明するようにするのがいつものパターンのような・・・。ま、リョーマひいては青学が負けてもどーしよーもないので既に決まりきっていた事といえばそうですし、原作により周知の事実だったからもういいんですかね? それともそれだけ大々的だったのに気絶から先立ち直ったのが跡部でわあびっくり☆ という狙いですかね。だったら上手いなあ・・・・・・。
 そして跡部。何かいろいろ熱いものがこみ上げてきたので超久々に語り隊ででも語ろうか〜とか画策中です。なのでここでは(塚・リョマ)×跡部を。
 この組み合わせは好きです。いつもサエとかサエとかサエとかその他加害者と組み合わせると必然的に突っ込みに回らなければならない哀しき常識人跡部も、手塚と一緒だと安心してボケに回れます。しかし合わせる手塚もさりげにボケしかも天然。最早誰も止め様がなくどこまでもだらだらボケ続けます。さらにはストッパーの筈のリョーマもやっぱりボケですから。ローテンショントークはこの3人ならではだと思います。
 そうそうこの
CP。跡部vsリョーマ戦、最初に跡部がリョーマの父親になりたい旨を言っていましたし、となるとクイーンが手塚で取り合い父子バトルとなるのでしょうが(そしてTCGにある『学園祭の王子様』カードからすると、リョーマがプリンスではあったものの手塚に腕を回した辺り確かに跡部が夫チックでしたが)・・・
 ・・・やっぱりこの組み合わせが好きですvv と告白!! 跡部を巡って2人で静かに火花を散らしているのに、静か過ぎて当の跡部には全く理解されず。挙句に「お前ら2人、好き合ってんだったらはっきり言え!! 俺をダシにすんじゃねえ!!」とか意味不明に怒ってみたり。この瞬間きっと2人の意識がシンクロするでしょう。『うわあ、やっぱこの人天然だ・・・(
Byリョーマ)』と。
 では以上、確かもうちょっと裏っぽくなるはずの話でした。ちなみにいちご・オレンジ・すいかは想像した通りの人を当てはめてください。確かに裕太よりリョーガ、リョーガよりサエが勝つでしょう。不二のりんごにしなかったのは、オレンジと大きさ比較がしにくいのとその面子だとサエ最強説が揺らぐからでしょう。

2006.9.79