練習の後に
注)この話の前提として、朋香は視力とともに動体視力もいいです。例えて言うなら赤澤のブレ球を英二先輩は8つ、リョーマは5つ6つ。で、彼女は3つといったところ。ちなみにあのときの会話からすると不二先輩は1つ、桜乃も当然1つでしょう。
竜崎と小坂田にテニスを教えるようになって1ヶ月。今日は(今日も)仕事があるため(本人談)来なかった父・南次郎の代わりに、リョーマは2人と電車で帰路につこうとしていた。と・・・・・・
「あっれ〜? おチビじゃん!」
「本当だ、どうしたの?」
聞き慣れた―――しかしここで聞くのはいささか予想外の声に、リョーマよりも桜乃が先に反応した。
「菊丸先輩、それに不二先輩も」
「どうしたんですか、こんなところで?」
朋香も会話に参加する。もちろん直接の知り合いではないが、リョーマの追っかけをやっている以上――それ以前に青学の生徒としては男子テニス部レギュラーのこの2人を知らないわけはない。
「大した事じゃないんだけどね・・・」
「不二とデートしてたんだにゃ〜」
笑顔で何か言いかけた不二をさえぎって、それ以上の笑顔で英二が不二の腕に手を絡ませた。
「英二、重いって」
それをやはり笑みのまま軽くあしらう不二と、そう言われながらもこれまた笑顔でしがみ続ける英二。はたから見ればただのバカップルにしか見えないそれにどう対応すべきか固まる2人の後ろで、リョーマは静かにため息をついた。
実はこの2人、こんな事をしつつも実際はただの親友である。それについてはレギュラーたちの間では暗黙の了解となっていた。特にその2人それぞれと(本物の)恋人関係にある自分と大石にとっては。
「で? おチビたちは?」
もしかしてそっちもデート? と(知っていながらも)茶化す英二からは視線を外し、リョーマは不二の顔をひたりと見つめた。この人は普段は淡白そうなクセして独占欲が強い。今ここで誤解を招けば後々大変な事になる。自分と―――巻き添えを食らうレギュラーたちは。
「ただ竜崎先生[オバさん]からコーチ頼まれただけっス。正確には俺の親父が、ですけど」
で? 先輩達は? と英二の口調を真似て訊いてみる。『普段は淡白そうなクセして独占欲が強い』は自分も同じ。いくら親友とはいえ、恋人である自分を放って英二とこんなところまで出かけてきた理由は是非知りたい。
「ああ、それはね――」
「わーー! 不二!!」
人差し指を立て面白そうに話す不二の口を慌てて英二が塞いだ。そのいかにも怪しげな仕草にリョーマの目つきが普段以上に悪くなる。
「何やってたんスか、不二先輩?」
口調こそ平坦なものの、リョーマの背後に沸き立つオーラに英二は観念して不二から手を放した。個性豊かな奴らばかりの青学レギュラー、怒り方もまた多種多様だ。リョーマは一度怒るととことんスネる。そりゃもう普段の生意気な彼からは想像もできない位子どもっぽく。思わず鑑賞したりしたくなる程可愛らしく。
―――そしてそれに誘発されて不二が怒り出す。青学裏の最強キャラと名高いあの不二が。例え八つ当たりといえど食らってしまえば1週間は悪夢を見続ける事必至の笑みを浮かべて。
それを解っているのか否か、不機嫌を体全体で表現する(と言っても元々感情を表に表さないため、それが解るのは普段一緒にいるレギュラー+αぐらいなものだが)リョーマに不二はいつも通りの笑みを浮かべた。
「本当にたいしたことじゃないんだ。ただ先月大石が誕生日だったんだけど、お金がなくてプレゼントができなかったから今したい、って英二が僕を誘ったんだよ」
その言葉を証明するかのように、英二は手に下げていたビニール袋を振った。中に入った箱の形からしてプレゼントはシューズといったところか。
「何でそれで不二先輩誘うんスか?」
「英二は大石にシューズあげたいんだって。僕は大石と同じNIKEだから」
「・・・・・・なる程」
確かにそれなら自分を誘う意味はない。FILAが愛用メーカーの自分にはNIKEの事はさっぱりわからない。
「けどだったらこんなに遠くまでくる必要ないでしょ?」
運動部もなかなかに盛んな青学だ。学校のそばにスポーツ用品店は何軒もある。
「だってさ〜、学校のそばだったらもしかしたら万が一誰かに会っちゃうかもしれないじゃん」
それじゃ極秘で買いに来た意味ないっしょ? とチッチッチと指を振って言う英二にリョーマもようやく納得した。
「それじゃま、帰りますか」
自分で言っていて恥ずかしくなったか、かなり強引に話を切り上げさっさと電車に乗り込む英二を見送り、不二はくすりと笑った。
「僕たちも行こうか」
「―――そーっスね」
特に反対する理由もなかったため、リョーマも(機嫌を直して)不二に続いた。その後ろで会話に乗り遅れた女子2人がようやく硬直状態から脱し、慌てて電車に乗り込んだ。
電車の中でも相変わらず男3人のイチャイチャ振りが見れるかと思いつつ・・・・・・
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「あー! リョーマ様! 今見た!? あのチョコ新製品だって!!」
「ああ、『コ●ラのマ●チ』だっけ」
「しかも98円だったにゃ! コンビニより安い!!」
快速が駅を通過する度朋香・リョーマ・英二で繰り広げられる会話。ドア付近に立った3人が何を見ているのかというと―――各駅にあるキオスクだったりする。
動体視力がやたらと良い3人ならではのこの会話。周りから見ればこの上なく意味不明であろう。実際・・・
「―――だってさ。わかった?」
「いえ全然・・・」
蚊帳の外で置いていかれた感のある不二と桜乃をよそに、彼らの会話は駅を通過する度行われたのだった。¥終わってしまえv
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テニプリ小説第2段。でもって書き終わるのは『マル秘罰ゲーム!』よりこっちの方が早かったりして。
実のところこの話で書きたかったのってラスト9行だけだったんですよね。なのに何故か不二リョやら大菊やらあげくに不二最強説やらが出てきて前置き長すぎv
ただ単にこの3人ならこんなことも出来そうだよな〜・・・と思って書いただけです。以上(書き逃げ)。
―――ところでキオスク、コ●ラのマ●チの値段、書いてくれてないじゃん・・・。
2002.6.15