今 瞳を閉じて 心のまま 僕は君を・・・
ボロボロのラケットを使い、それでも常人より遥かに優れた技能にて荒井を軽く蹴散らすリョーマを見ながら、
不二はくすりと笑った。
「どったの? 不二」
「いや。別に」
唯一それに気付き尋ねてくる英二に軽く答え、「さあ、こんなもんで準備体操は終わり」と首を回すリョーマに近寄っていく。
「最後までやってもらいますよ、先輩!」
そんな生意気な台詞を言う彼の横に立ち、不二はぽんと肩に手を置いた。
「―――ねえ」
「ん?」
見上げてくるリョーマに微笑み、自分を指差す。
「次、僕と試合しない?」
『はあ!?』
不二の提案に、2・3年を中心としたおおむね全員が素っ頓狂な声をあげた。レギュラーが、それもあのNo.2の不二周助が。まだたかだか仮入部の1年に勝負を申し込む。しかも非公式。見つかれば罰を食らうのを覚悟で。
それを全てわかっていながら、不二の笑みは全く崩れなかった。
(けど、まあ所詮『罰』なんてたかだかグラウンド何十周かだしね)
そんな事より、今は目の前のこの少年のほうが気になる。手塚のことだ。どうせ今もこの様子を見て、もうすぐ行われる4月期校内ランキング戦に彼のことを加えるつもりであろうが、
(そんなの待てないよ・・・・・・)
見てわかった。先ほどのボールコントロール。そしてこの試合。間違いなく、あの時より確実に上達している。さて、どこまで上がったか。自分より下か、それとも上か。
浮かび上がろうとする獰猛な笑みを、いつもの柔和な笑みの裏に隠し微笑む不二。だが、
「やだ」
不二に気付かないらしいリョーマは、あっさりとそう返してきた。
荒井の方を指差し、
「俺まだ荒井先輩と試合してますんで」
「・・・って、オイオイ越前・・・・・・」
情けない愛想笑いを浮かべ、何とか終わらせようとする荒井と、断固として続けようという陰険なリョーマを交互に見やり、
「けど、こんなラケットで試合してもつまらないでしょ?」
「あ・・・・・・」
不二はリョーマの手からラケットを取ると、グリップを2・3回くるりと回し、
ジャージのポケットに入れていたボールを取り出し、一呼吸も置かずそれで打った。
変なインパクト音とともに放たれたそれは、音とは裏腹に普通のラケットとさして変わらないスピードを出し―――そして隣のコートにあったカゴに入った。
『な・・・・・・!?』
驚きの声をあげる一同。さすがにリョーマも目を見開いて不二を見上げる。確かにボールにピンポイントでぶつけたリョーマのスーパープレイに比べれば、カゴという大きいものに入れるだけだった不二の技はそこまで目立つものではない。だが、不二は一切試し打ちをしていない。しかもカゴがあるのは隣のコート。通常そんな変則的な打ち方はまずしない。
その中で、
「お〜。さっすが不二。相っ変わらず嫌味なくらい完璧なラケットコントロールで」
「越前があれだけデモンストレーションをしてくれたからな。不二ならあれを見てラケットの特性を完全につかむのはたやすいだろう。あとはグリップの感触を確かめるだけだ」
さほど感心もせず言葉を送る英二と乾。この程度で感心していてはここの部活ではやっていられない。
本人にとってもさして大した事ではないのか、不二が軽く肩を竦めた。
「ね?」
それに・・・・・・リョーマもまた肩を竦め、言った。
「さっきの取り消し。いいっスよ、試合」
にやりと―――こちらは一切隠すこともなく獰猛な笑みを浮かべる。今や彼の関心は嫌がらせをする小物などにではなく、この目の前の『先輩』に向いていた。
その強く輝く瞳を見て、
不二はそこから視線を逸らした。
持っていたラケットを掲げ、コートの向こうにいた『彼』に声をかける。
「ねえ荒井、もし彼のテニスラケットを持っているなら返してくれないかなあ? こんなラケットで試合されると僕への侮辱に繋がるんだけど」
「うっわ〜。これまた相変わらずの毒舌っぷり」
「これでもし荒井が断ったり渋ったりなどした場合、荒井が明日以降部活に来る可能性は完全0%だな」
「ってゆーか素直に『呪殺決定』って言えばいーじゃん」
にっこりと綺麗に微笑む不二に、これまた英二と乾が素直な感想を交わす。
「は、は、はいいいい!!!!!!」
がちがちうるさい歯でそれでも健気に頷く荒井。どたばたと部室裏へ走っていく彼を見やり、
「思うんだけどさ、これで新入生ってウチの部活に対してめちゃめちゃ悪印象持ったんじゃにゃい?」
「まず間違いなくな。荒井を2年の恥とすると不二は3年の恥か・・・・・・」
「俺はそんなつもりで言ったんじゃありません!!!」
その場を去ろうとしていた海堂が、乾の言葉を必死になって否定する。ンなもん不二にまで思われた日には確実に自分が次の『犠牲者』になる!!
とりあえず裏(?)でそんなやり取りが行われているのを知ってか知らずか、
「じゃあ勝負はセルフジャッジによる1セットマッチでいいかな?」
「いいっスよ」
ラケットを脇に置くリョーマ。自分のラケットを取ってきた不二。準備は万全だ。
これで荒井がリョーマのラケットを持ってくれば、すぐにでも始められる。
ネットの両側で、特に何かを話したりするわけでもなくただじっと待ち続ける2人に、自然と周りの緊張感も上がってくる。
が―――
「こらー! 何してるんだ!!」
そこに入ってきたのは荒井ではなかった。
手塚とともに竜崎の元にいた副部長の大石が、フェンスを開けるなり怒鳴り込んできた。
「2年3年! メニューはフリー練習試合だったが1年と試合をしろとは書いてなかったぞ! それに1年! まだ仮入部のお前たちはランニングと素振りのはずだ! 試合の出場も観戦も許可はしていない!!
特にレギュラー! お前たちが煽ってどうする!!」
「俺たち・・・って、煽ったの不二だけじゃん・・・・・・」
「英二! 言い応えするな!! 全員グラウンド20周!!」
『うげ・・・・・・』
「文句は言うな! さっさと走れ!!」
珍しく(失礼)威勢良く言う大石に従い、コートから外へ出て行く部員たち。
なんとなく1歩遅れたレギュラーとリョーマ。コートにて今だ佇んでいるリョーマに、不二がもう1度軽く肩を竦めた。
「―――だって。勝負はまた今度ね」
「ちえっ」
口を尖らせ、こんなときだけ子どもっぽく拗ねつつも面白そうに笑みを浮かべるリョーマ。コートから出ようとする彼の腕を、不二が軽く引いた。
僅かに体勢を崩したリョーマの耳元に、囁く。
「残念。また試合流れちゃったね」
「え・・・?」
不二の思わせぶりな台詞に、さすがにリョーマが振り向いて疑問の声を上げた。
「どゆ事? 不二」
「越前と、試合の経験があるのか?」
黄金ペアもまた、尋ねる。が、それに対して不二は微笑むだけで。
リョーマが不二の顔をじっと見、そして―――
「ああーーー!!!」
ようやく思い出したらしく、彼にしては珍しい(であろう)大声を出して不二を指差した。
「あのときのヘンな人!!!」
「ようやく思い出して―――」
『ヘンな人ぉぉぉ!!!???』
リョーマの言葉に、不二を遮り黄金ペアが息もぴったりハモる。
「不二ーーー!!! お前『ヘンな人』とか言われてんぞ!? コイツに何やった!? 誘拐か!? 暴行か!? 拉致か!? 監禁か!? 盗撮か!? 盗聴か!?」
「ま・・・まさか強姦・・・・・・!!?」
不二の着ていたジャージの襟をつかんでがくがく振り回す英二。真っ青な顔で呻き、途端に胃を押さえてしゃがみ込む大石。
振り回されながらもなぜか笑顔で、不二が指を立てた。
「やだなあ。そんなんじゃないよ。
―――まあ強いて言えば1番近いのは『盗撮』かなあ?」
「ほらやっぱやったんじゃねーか!!!」
「なんていう事だ・・・!! まさか俺たちの中から犯罪者が出るなんて・・・・・・!!!」
ますます激しく振り回す英二。頭を抱えて左右に首を振る大石。
2人を見やり・・・・・・リョーマは、『知り合い』の不二に半眼で尋ねた。
「ねえ、この人たち大丈夫?」
「まあ・・・彼らにとってはこれはいつものことだから」
耳元で喚く英二からかばうように両手で耳を押さえた不二が、その状態でどうやってリョーマの声だけを聞き分けたのか、やはり笑ってさらりと答えた。
さてこんな2人にいったい何があったのか・・・・・・。
б б б б б
話は今より2年前に遡る。
青学に入学したばかりで、まだ真新しいラケット1本を肩に掛け、今もここにいるレギュラーら『友人』の英二・乾・河村・大石と共に帰っている不二の目に、交差点の反対側にいたリョーマが映った。
リョーマはこの時既に母親の仕事の都合でアメリカに行っており、その日はたまたま帰国していたのだが、せっかく日本に帰ってきたということで、カルピンを連れて散歩していたのだ。
すれ違う2人。リョーマはこちらにまったく注意を払っていなかった。周りの友人らも同じく。だが・・・・・・
(・・・・・・・・・・・・)
カルピンを抱くリョーマに、目を奪われた。風と踊る髪の下で、本当に嬉しそうに微笑む彼。周りにまで溢れるその暖かい雰囲気を、ぜひフレームに収めたい。
テニスと同時に写真も始めた不二は、常にいい被写体がないかと探していた。その目から見て―――リョーマは魅力的な被写体だった。
「―――あ、ちょっとごめん。用事思い出しちゃった」
決めたなら即行動。不二は片手を上げて4人に挨拶をすると、リョーマの後をついていった。
が・・・・・・
(さて、どうしようかな・・・・・・)
素直に話し掛け、「写真を撮らせて欲しい」と言うのが1番早いだろう。だが、あくまで不二が撮りたいのは彼の『自然な姿』だ。かしこまった状態での写真などいらない。
(けどねえ・・・・・・)
・・・・・・のだが、本人に無断で写真を撮ったならば肖像権の侵害だ。
(ストーカー扱いされるのはイヤだし・・・・・・)
と、
不二が後をつけていたなどもちろんこの時点で知らなかったリョーマは、道の先にある建物を見て、ふと立ち止まった。記憶の片隅に残る僅かな面影からすると、確かここの施設はテニスコートがあったはずだ。それもかなり安値で貸し出してくれる。
「カルピン、ちょっと寄り道するよ」
「ほぁら」
この頃、リョーマも不二同様、諸事情でバスケを止め本格的にテニスを始めたばかりだった。だが基礎なら元父親の教え子で現在プロとして活躍する徳川に既に教わっていた。
ぜひ試してみたい―――何か新しい事を始めた者におおむね共通の思いが、リョーマの頭をよぎる。
その思いに従って、リョーマはカルピンを連れて階段を上がっていった。
それを見送り、
「確かあそこってテニス場じゃ・・・・・・」
首を傾げて呟いて・・・・・・不二はリョーマが肩から下げていたものをよくよく見て、ああ、と頷いた。今までリョーマ(とカルピン)しか見ていなかったため気付かなかった。小柄な本人に比べると、肩から下げたそれが実際以上に大きく見えたのもまた理由かもしれないが。
リョーマが肩から下げていたもの、それはテニスバッグだった。
不二が瞳を薄く開き、笑った。
(いい口実が出来たね・・・・・・)
肩から下げたテニスバッグ―――彼のと比べるとテニスケースと言った方がいいかもしれないが―――を掛け直し、不二もまたゆっくりと階段を上がっていった。
б б б б б
「―――んで、試合したワケ?」
2人の話を聞き、英二が尋ねた。周りでは大石、乾もまた聞いている。ちなみに海堂は先ほど逃げ損ねた(笑)ため現在グラウンドを走っているがそれはいいとして。
「した、といえばしたかな? ただし途中まで」
「そっスね。一応途中まで」
「・・・・・・にゃに? その歯切れの悪い返事」
英二の言葉通り、曖昧に頷く2人に聞き手3人が眉を潜めた。内1名はさらにノートに走らせたシャーペンを止めて顔を上げる。
不二とリョーマが一瞬だけ目を見交わし―――
結局今まで通り、話の主導権は不二が握る事となった。
「実は途中で高校生何人かが来て―――」
б б б б б
不二が勝てば写真撮影可、という条件で行なわれた2人の勝負は、かなりハイレベルのものだった。さすがにトリプルカウンターやツイストサーブなどのスーパープレイはまだそれ程なかったが、それでもその試合を見て誰が彼ら2人がテニス歴2ヶ月の初心者[ビギナー]だと信じられるだろうか、それ程の腕だった。
リョーマは前述したとおりだが、不二もまた似たような状況だった。本格的にテニスを始めた時期こそ青学男子テニス部に入ってからだが、それまでも父親に基礎を教わっており、その天才ぶりが遺憾なく発揮された結果、あっさり父親を、また既にスクールに通っていた弟の裕太をも追い抜く程の実力となっていたのだ。
とりあえず、で出てみたテニス大会はほぼ確実に優勝できる力を持つ2人の勝負。ほとんど互角に進んでいくそれに、他のコートで練習していた者たちの視線も自然と彼らに集中していく。
3−3での折り返し、後1ポイントで不二が4ゲーム目を先取するというところで・・・・・・
「―――っ!!」
足元に突如飛び込んできたボールに、不二が急停止した。横をリョーマの放ったボールがすり抜けていく。これでデュ―ス。
テニスコート1つ1つが仕切られてはいない以上、隣―――あるいはそれ以上離れたところ―――からボールが入ってくることはさして珍しくはない。ゲームを取り損ねたのは惜しいが、まだリードされたわけではない。同点[デュース]ならまだこのゲームを取るチャンスは十分ある。
元の人当たりのいい笑みを浮かべ、ボールを拾う不二。きょろきょろと周りを見回す―――までもなく。
「おーおー、悪いねえ、ボール入っちまったぜ」
ずがずがと遠慮なく男がコートに入り込んできた。ガラの悪い態度で、謝っているのかどうかも疑問な言葉を吐き捨て不二の手からボールを奪い取った。
「ちょ・・・ちょっと拓也・・・!!」
「あ〜? なんだよ」
「その子達、試合中だったんだよ・・・? 勝手に入ったら失礼じゃない・・・!!」
「試合〜? どこがだよ。ボ〜っと突っ立ってただけじゃねーか」
「そ、それは私たちのボールが入っちゃったから・・・・・・」
「それにこんな鼻垂れのガキどもがコートで試合なんて笑っちまうぜ。ガキはガキらしく壁でも相手に打ってろよ。それだってまともにゃ取れねえんだろ?」
「そうそう。生意気だっつーの」
あっはっはと笑う男に、近くにいた男が同意する。さらにその辺りに響く笑い。見た目の似た―――つまりはカッコつけてるようで個性の全くない連中。目の前の男も同じ印象しか受けないところからすると、彼らで1つのグループなのだろう。
あからさまなマナー違反だが、周りに止めようと思う人はいないらしい。目を逸らし、ひそひそ小声で話すだけの『大人』達。
(元から人に頼るつもりなんてないけどね)
陰湿な嫌がらせなら慣れている。そういう相手に遠慮する筋合いはない。
いつもの生意気な台詞を言うためリョーマが口を開こうとしたところで、
「つまり僕たちがコートで試合をする事に対し貴方方は反対だ、とそう仰りたいのですか?」
落ち着いた声音で不二が男に声をかけた。柔和な笑みを崩さぬままの慇懃―――かつ無礼な態度。
『君たちの説明ヘタすぎるから僕が代わりに説明してあげるよ』という意味を暗にどころか表に出して言う不二。簡潔に言い直すことで如何に男達が無茶を言っているのかよりはっきりと現れる事になったのだが、普通の中学生にはまず備わっていないであろうそのかしこまり振りに、どうやら男達は全くその真意に気付かなかったようだ。
(バカ確定)
怒りを潜めてリョーマがため息をつく。こんなバカ達相手に腹を立てていた自分があほらしくて仕方ない。
だが・・・・・・
「わかりました。では僕達はどきます」
「はあ!?」
なぜかあっさり引き下がる不二に、リョーマは思いっきり裏返った声を上げた。
回りも予想外だったらしい。ざわめいている。―――当り前だが。
そんな中で、唯一何も見えていない軍団。その代表者っぽい感じで(誰を代表にしても変わりはなさそうだが)最初に話し掛けてきていた男が不二の頭を乱暴になでた。
「ものわかりいいじゃねーかガキ。それとも『長いものには巻かれろ』ってか? どっちにしろ長生きするぜ。そういう卑屈なタイプはな」
それにも笑みは崩さず、不二は男の笑い声を背にコートを出て行った。当然のような顔をしてそのコートに入る男。自然と逆側にいたリョーマも他の者たちに追い出される。
「アンタ何やってんだよ!?」
コートを出るなり不二に怒鳴りつけるリョーマ。自分達がどく理由がどこにあった? 不二の態度から、てっきり彼も自分と同様周りに頼らず自力で切り抜けると思っていたのに。
「情けなさすぎ!! 何あんな奴らの言いなりになってんだよ!!」
「まあまあ越前君」
「ンなので落ち着けるか!!!」
乱れた髪を直してから両手を上げてどうどうとなだめようとする不二に、リョーマの怒りがさらに上がっていく。
そんなショートコントのようなやり取りをする2人の進行上に、先ほど男を止めようとした女性が割り込んできた。
「ご・・・ごめんなさい・・・・・・!!」
「? 何がですか?」
「だからアンタはそーやって―――!!」
「あ、あの、せっかくの試合中だったのに・・・!! 私たちのせいで・・・・・・!!」
横でわめいてくるリョーマは無視して、頭を下げる女性に不二が微笑んだ。
「あなたのせいではないでしょう? あなたは彼らを止めようとしてくれました。むしろ僕たちがお礼を言うべきでしょう」
「で、でも―――・・・」
「それに―――」
女性の反論を遮って、台詞を続ける不二。今までの笑みとは違う、面白そうに口の端を吊り上げて。
「僕達は『コート』で『試合』しちゃいけないらしいよ。越前君」
突如矛先を変えられた言葉。それを聞いて―――先刻まで怒りを噴出させていたリョーマも、表情を変えた。
不二と同じく、にやりと笑って。
「ふーん。なるほどね・・・・・・」
б б б б б
「うっわ〜。不二悪どっ!!」
不二の策略がなんなのかはまだわからないが、女性に向けての発言を聞き、英二が思わず呻いた。あの発言、一見女性に気を使っているようだがその実彼女へ向けた凄まじい嫌味である。
大石も同じ意見らしく半眼で不二を見やる。リョーマは自分は関係ないとばかりに首ごと視線を逸らした。
その中で、
「そうかな? この程度じゃ全然足りないって思うけどな。あの人本当に止めるつもりあったのかな? 本気で止めたいなら殴る蹴るなりして止めればよかったのに。それなのにあんなあっさり引いちゃって。半端な態度にしか出られないから男がますます付け上がるんだよ。それとも努力はしたことで自分だけは悪くないって思わせたかったのかな? 虚しい自己満足だね」
「イヤ無理だろそれ・・・・・・」
「出来るなら男もそもそもそんな問題は起こしていないだろうし・・・・・・」
不思議そうに首を傾げる不二に、真っ青な顔で英二と大石が揃って手をぶんぶん振る。何が怖いって、不二がこの台詞を嫌味でも皮肉でもなく本気で言っていることだ。
「で? どうしたんだい?」
それにも動じる事無く乾が聞き返した。
「ああ、それでね―――」
б б б б б
というわけで、コートから追い出された2人は、その脇で打ち合いをすることにした。
コートでは、男たちがヘタクソな『試合』をしている。丁度男は2人のいる側のコートでプレイをしていた。
「あ・・・・・・」
「と・・・・・・」
わざとらしい2人の呟きと共に、リョーマが『打ち損ね』、さらに不二が『取り損ねた』球がそこへ一直線に飛んでいき―――
スパ―――ン!!!
男の頬にクリティカルヒットした。
『な・・・・・・!!?』
いきなりの事態にわけがわからず硬直する周り。
「な・・・なにしやがるてめえ!!!」
頬を押さえ、怒りを露にして、男が2人の方を睨み付けてきた。が、その視線をものともせず、リョーマがずがずがと遠慮なくコートに入り込んでいく。
「ああ、ゴメンゴメン。ボール入っちゃった」
にやりと笑うリョーマに、不二も面白そうに笑って続ける。
「越前君。仮にどんなに腕が悪かろうと見ていて退屈極まりなかろうと一応彼らは『試合中』だったみたいだよ。入ったらマナー違反じゃない?」
「試合中? どこが? ボ〜っと突っ立ってただけじゃん」
「『ボ〜っと』はしてないみたいだけどね。むしろ騒ぎ立てる分それ以下、かな?」
さらりと言い放つ不二。2人の会話に、周りにいた他の客たちが失笑を漏らした。
その様子に、男がさらに顔を真っ赤にして怒鳴る。
「ざけんじゃねえガキどもが!!」
「ふざける? 何をですか?」
「コートで試合すんなっつっただろーが!!! 俺に逆らうんじゃねえ!!」
激昂する男。だがそれを見ても、不二はただ相も変わらずの人当たり満点の笑みを浮かべるだけだった。
「やだなあ。何を言ってるんですか? 逆らってなんていないじゃないですか」
「そーそー。俺たちは『コートの外』で『打ち合い』してただけだし?」
さらにリョーマもにやにや笑いながら乗る。完璧にただの屁理屈だが、決して間違ってはいないそれに・・・・・・
「ンな言い訳が通用すると思ってんのか!!?」
まあ当然のことながら納得できないらしい男が噛み付いてくる。
それを完全に馬鹿にしたように―――いや、完全に馬鹿にして見下ろし、リョーマと不二が同時にわざとらしくため息をついた。
「つまり―――」
「アンタ俺たちにどうして欲しいワケ?」
「この・・・・・・!!!」
男にしてみればこの上なく屈辱的な扱いに、ブチ切れかけたところで、
「―――そこまで言うんだったらテニスで勝負[ケリ]つけようぜ。お前達が勝ったら俺たちはこのコートから出てってやるよ。代わりに俺たちが勝ったらお前らそのツラ二度とここに見せんじゃねーぞ」
男より幾分かマシなレベルで冷静だった逆コートの仲間が、そんな提案をしてきた。
「試合、ね・・・・・・」
「別に俺はいいけど?」
「僕も構いませんよ。
―――ああ、ただし出て行くなら『このコートから』ではなく『この施設から』にしていただけません? 僕たちも邪魔が入らない環境下で『試合』の続きがしたいもので」
「それいいね。てゆーか俺たちが勝ったらアンタたちも二度と来ないでね。そのツラウザい」
「な・・・・・・!!」
遠慮のかけらもなくボロクソに言われる事に、男の仲間全員がキレた。
「あのガキどもぜってー殺す!!!」
「待て! 俺が先だ!!!」
あれこれわいわい騒ぎ立て―――
「おし! じゃあおまえら2人対俺たちだ!! 文句ねーな!!」
先ほどまでシングルスで試合をしていた男2人が名乗り出てきた。それを見て、
不二はくすりと苦笑し、リョーマは鼻で笑った。
「ダブルスですか? さすがにちょっとそれじゃ不利なんじゃないですか? あなたたちが」
「なんだったら1対2のハンデキャップマッチでもいいよ」
「ああ、それとも3ゲームくらい先に加点してやります?」
「あとは利き腕と逆でやるっていうのもいいんじゃん?」
「こ・・・の・・・・・・!!!」
青筋を額中にに立てる男たち―――は無視して、コートに入る2人。
「さっさと始めましょうか。時間のムダですし」
「サービスそっちでいいよ。その位はハンデあげなきゃつまんないでしょ?」
「いい度胸じゃねーか・・・・・・!!!」
「負けて恥かけってんだ・・・・・・!!!」
周りでギャラリーを務める男の仲間らの、怨呼の声[ブーイング]の中・・・
「ああ、そういえば越前君。君ダブルスやった経験は?」
「ないよ。アンタは?」
「僕もほとんどないなあ。前は時々弟とやってたんだけど」
「ダメじゃん」
「ま、何とかなるんじゃないかな?」
しれっとそんな会話をする2人。その言葉に―――男たちが大爆笑した。
「ダブルス経験ゼロぉ!?」
「おいおい!! それであんな大口叩いてたのかよ!?」
「な〜るほどな!! お前らにとっては2対2のほうがハンデキャップマッチ、ってワケか!!」
「ま、せーぜー頑張れよ!!」
2人の発言に余裕を取り戻したか、対戦相手の男たちもまたにやにやと笑って言った。
「なんなら逆に俺らがハンデやろーか?」
「『3ゲーム位先に加点』だっけ?」
「後は『利き腕と逆でやる』んだっけ?」
「やってやろーじゃねーか!」
「何せ俺たちは優しいからなあ!」
あっはっは!! と続く笑い。リョーマがそれに再びイライラし始めたところで、
「ではそれでお願いします」
「だからアンタは―――!!!」
またもあっさり引き下がる不二に、怒鳴りつけようとするリョーマ。不二は彼に近づき、その耳元にささやいた。
「時間短縮」
にっこりと笑う。
「まあ確かにね」
リョーマも怒りを納め、ため息をついてそれに答えた。
б б б б б
「んで? んで? 初のダブルスはどーなったの?」
「まあ勝ちはしたんだろうね。じゃなかったら不二が笑顔でこんな話をするわけがない」
興味津々に訊いてくる英二。ノートにデータを取りながら的確な回答をする乾。
「ああ、乾の言うとおり勝ったよ。けど大変だったなあ。全然息が合わなくって」
「アンタが合わせないからじゃん」
「僕だけのせいかなあ・・・・・・?」
さも当然のように言うリョーマに、不二が首を傾げた。悪かったのはお互いさまだったような・・・・・・。
б б б б б
そして行われたハンデ付きのダブルス。結果は―――まあ大抵誰でもわかるように6−0で不二とリョーマが圧勝した。
「やっぱりダブルスって難しいね」
「アンタが合わせないからじゃん」
「僕だけのせいかなあ・・・・・・?」
さも当然のように言うリョーマに首を傾げる不二。やはりここでもまた2年後と同じような会話をして、2人が男たちに向かい合った。
「ではそういう事で―――」
「って待てよ!!」
「そうだぜ!! 勝負はまだついてねえ!!」
「はっきりついたじゃん」
「これだけハンデつけてやったんだからお前らが勝って当たり前だろ!?」
「ハンデ・・・の問題かなあ?」
「実力の問題じゃない?」
「うるせえ!! てめーらたかだか3ゲームしかとってねえじゃねえか!!」
「その間アンタたちは1ゲームも取れなかったみたいだけどね」
「ぐああああ!!! いいから!! もう1回やんぞ!!」
「今度はハンデなしだ!!!」
盛り上がる男らに、2人で目を交わし―――
「―――まあいいですけど」
б б б б б
「んで、やっぱ次も勝ったの?」
「う〜ん・・・。これ以上言うと彼らがかわいそうな気もするけど・・・・・・」
「いいんじゃないっスか。つっかかってきたあっちが悪いワケだし」
「それもそうだね」
б б б б б
第2戦。今度はハンデ一切なしのダブルス。が・・・・・・
「シ・・・・・・6−0・・・・・・」
「なんだ・・・? あのガキども・・・・・・?」
ダブルスも早2回目となり(笑)、会ったのは今日が初めてだが先ほどまで試合をしていたことが功を奏し、不二とリョーマはお互いの動きに少しずつだが―――とはいっても普通の人よりは遥かに早いが―――合わせられるようになっていっていた。
「じゃあこれでいい?」
「ま、待て・・・!! このままじゃ・・・・・・!!!」
息も絶え絶えに、それでも負けが認められないらしい男に、
「ほら。だから言ったじゃん。ハンデつけようって」
「な、なら・・・・・・そのハンデをぜひ・・・・・・」
最早勝てれば他はどうでもいいらしい。そう懇願する男2人。
「えーっと、じゃあ『3ゲーム位先に加点』だっけ?」
「ああ、あと『利き腕と逆でやる』っていうのもあったよ」
「あとサーブ権でも全部あげる?」
「うん。いいね」
「た・・・助かるぜ・・・・・・」
コロコロ変えられるルール。それを確認して2人がコートに入った。サーブ権を全て相手にあげるのならばトスの必要もない。
「・・・・・・あれ?」
「何?」
「越前君・・・って、利き腕どっち?」
コートにて、不二が尋ねる。変えられたルールによりラケットを左手に持ち替えた不二。だがリョーマは右手に持ったままだった。―――男たちと試合をし始めた時と変わらず。
「左」
即答するリョーマに、男たちの顔色がさらに悪くなる。つまりはずっと利き腕とは逆というハンデをもらっていた、ということか・・・。
「あ、よかった」
そんな中で、不二だけが笑顔で頷いた。不二と試合をしている間、リョーマは左手にラケットを持っていた。もしかしたら自分がハンデをもらっていたのではないだろうか・・・と心配になっていたのだが、どうやら違ったようだ。
―――そんなこんなで行われた第3戦。さらにダブルスに慣れてきた2人が拙いながらもフォーメーションの真似事などもしてみて・・・・・・
「6−3。やっぱ俺たちの勝ち」
実質6−0の試合。しかも時間まで短くなっている。
「ふ、ふざけんじゃねえ!!」
「俺たちがこんな素人ガキどもに負けっぱなしでたまるか!!」
完全に意気消沈した男2人に変わって、今まで観戦しているだけだった他の仲間たちが怒鳴り込んできた。
それを見て―――
「いいよ。じゃあ全員相手してあげるよ」
「ああ、それなら2人対1人のハンデキャップマッチにしません? その方が早めに終わりますし」
「おお!! 何でもいいぜ!!」
「デカい口叩いた事後悔させてやるぜ!!」
と意気込む男たち。どうやら彼らは不二の策略に乗せられたことをまだ気付いていないらしい。
さらに行われる第・・・・・・何戦になるんだか、もうどうでもよさそうな辺り。交互に戦う不二とリョーマは、順調に6−3の山を築き上げていっていった。当然だが最初の2人の発言にあったように、2人とも1人きり[シングルス]のほうが慣れている。むしろ即席の相方は邪魔な存在でしかなかった。その上交互に戦うことで、相手の試合中十分に休む事が出来る。これで男たちに勝てという方が無理だろう。
そして、全員終わり―――
「全員・・・・・・子ども相手に1ポイントも取れなかった・・・・・・?」
「しかも・・・あれだけハンデもらってて・・・・・・?」
勝負が気になったか、とっぷり日が暮れているにもかかわらず試合を見続けていた他の客たちから声が漏れる。肝心の男たちは―――一言も発する余裕はなくなっていた。
「じゃあ、僕たちの勝ち、ということで構いませんね?」
「アンタたち弱すぎ。まだまだだね」
コートに寝転んだりフェンスにもたれてへたり込んだりする男たちに対し、息こそ上がっているものの極めて平然とした様子で言う2人。ようやく負けを認める気になったか、コートから男たちが出て行った。
やっとコートが空いたところで・・・。
「じゃあ越前君。試合の続きやろうか?」
嬉しそうに不二が笑う。写真の件もあるが、それ以上に彼との対戦は面白い。今の男たち相手では感じることのない緊迫感[スリル]。いや、テニスをしていて始めて感じたそれに、早くも不二は虜になっていた。
が・・・・・・
「あ、俺そろそろ時間だ」
「え・・・・・・?」
「もう帰んないと間に合わないや」
「帰るって・・・・・・どこに?」
「アメリカ」
即答するリョーマに、さすがに固まる不二。近場ならばまた会おうね、ということも出来る。それに近場ならば「ちょっと位遅れてもいいじゃない」と残り半分の試合を続けることもできる。彼も多分、その案は受け入れてくれるだろう。面白いと感じていたのは・・・・・・自分だけではないはずだ。
―――のだが、
(アメリカ・・・じゃあ、さすがに無理か・・・・・・)
アメリカとなると、リョーマの言っていた『時間』は恐らく飛行機のフライト時刻だろう。いくらなんでも飛行機はこんな事情では待ってはくれない。
「う〜ん・・・・・・。じゃあしょうがないか・・・・・・」
そう言って、不二が目線を落として苦笑いした。普通の笑顔以外で、今日初めて見せてくれた表情。
カルピンを抱き上げ、暫しその綺麗な顔に見とれるリョーマ。
帽子のつばを下げ、ぼそりと呟いた。
「またやったらいいじゃん。別に俺アメリカに永住するワケじゃないし」
その言葉に、不二が顔を上げる。恥ずかしいのか、つばの下から覗くリョーマの頬は僅かに赤らんでいた。
ふわり、と頬を緩め、微笑む。やはりリョーマは初めて見る不二の『笑顔』。
「そうだね。またやろうね」
「・・・・・・ん」
б б б б б
「―――で、2年経ち、不二はともかく越前はすっかりそれを忘れていた、と」
「ゔ・・・・・・」
乾の結論に、リョーマが呻いた。それを見やり、不二がいつの間に持ってきていたのかタオルを目頭に当てる。
「ひどいなあ越前君ってば。僕は君の名前を聞いただけでもしかしたら、って思ったし、君の姿を見てすぐわかったのに」
「・・・・・・そのわりに朝コイツの名前聞いたことあるか? って訊かれて思いっきり首振ってたじゃん」
「だって人違いだったら嫌でしょ? お互い」
半眼で突っ込む英二に、しれっと答える不二。ちなみに顔から離したタオルは全く濡れていなかった。
「ああ、ちなみに乾はそうやって綺麗にまとめたけど・・・・・・」
乾を見て、くすりと笑う。
「―――キミも、気付いてたんでしょう? 彼の事は」
「うにゃ?」
「それは・・・・・・?」
意味深なその言葉に英二と大石が首を傾げる。その一方で―――
「何だ。わかっていたのか」
「まあね。君があの時みんなと別れて以来ずっと僕の後をつけていた事はとりあえず。あとテニスコートでは隣の公園からカメラ回して撮ってたでしょ? 『盗撮』っていうなら僕よりむしろ乾じゃない?」
「データ分析の基本は私生活の把握からだ。謎に包まれたお前の突然の行為ならば観察しない手はない」
「私生活の前にテニスプレイを把握しなよ」
恐るべしカウンター。かなり痛いところを突かれたか、それっきり乾が黙り込んだ。
が、それで逆に騒ぎ出すものもまたいるわけで。
「え〜〜〜!!? にゃににゃに!? カメラ!? って事はそん時のってまだ残ってんの!? 観たい観たい!!!」
「ま・・・まあ確かに。越前の実力を把握するという意味でも・・・・・・」
目を見開いて乾に迫る英二。大石も消極的ながら野次馬根性を見せた。
「ああ、その時のものなら残ってるけど・・・・・・さすがに今はないね。越前の名前を昨日の内に聞いていたのなら、確認のために持ってきたんだけど」
「うう〜。残念無念また来週〜・・・・・・」
「いや。明日には持って来れるが」
「そーゆーツッコミは入れない!!!」
なんとなく、和気あいあいとした雰囲気で場がまとまりかけた・・・・・・
―――ところで。
「―――不二、菊丸、乾、それに越前。何をやっている? 俺はグラウンド20周を命じさせたはずだが」
「うげ・・・。手塚・・・・・・」
いつの間に現れたのか、フェンスの入り口で仁王立ちをして手塚が無表情で全員を見つめていた。その後ろ、フェンスの外では走り終えよろよろとしている部員たち(海堂除く)がいる。
「ああ、そういえばすっかり忘れてたね」
「そうか。それで他の部員がいなかったのか」
しれっと答える不二と乾に眉間の皺を深くしつつも、それに対して何か言うこともなく、手塚は視線を大石のほうへずらした。
「大石。お前まで何をやっている?」
「あ、そ・・・・・・それは・・・・・・、
―――すまない。つい話し込んだ」
手塚の冷めた目に見つめられ、一瞬混乱する大石。が、すぐに自分のすべきだった事を思い出し、頭を下げて詫びた。人一倍責任感が強く、また誠実な彼そのままの姿に、小さく手塚が頷いた。
頷き―――命じる。
「不二、菊丸、乾、越前、それに大石! お前達はグラウンド30周だ!!」
「うっそ〜!!?」
「菊丸、グラウンド―――」
「行きます!! 今すぐ行きます!!
―――行くぞ! 大石!!」
英二の掛け声に、大石、乾、さらにリョーマが続こうとし・・・・・・。
「―――あれ? アンタは?」
「僕? 僕はラケット置いてから行くよ。先行ってて」
「ふーん」
軽く頷き、リョーマもまたグラウンドへ向かった。不二はその姿を見送り、置いておいたバッグの元へと歩いていった。
バッグのファスナーを開き、中にラケットを収め―――
軽く微笑んで、ついていた小さなポケットに手を入れる。
取り出したものは、1枚の写真だった。
б б б б б
テニスコートを出て行こうとするリョーマ。自分の元から離れていくその後姿が惜しくて・・・・・・
「越前君!!」
「え・・・?」
不二の不意の呼びかけに、リョーマがくるりと振り向いた。
ぱしゃ―――!
「ナイス・ショット」
「―――って何勝手に撮ってんだよ!!」
フラッシュの光に焼かれ、ちかちかする目で―――それでも不二を捕らえて怒鳴るリョーマ。
焦点は合っていないのにしっかりこっちを向くリョーマに不二がくすりと笑った。見えないだろうが、右手に持っていたカメラを軽く振り、
「僕が勝ったら撮っていいんでしょ?」
「勝ってないだろ!?」
「けど僕は勝ったよ。相手が君じゃなかっただけで」
「屁理屈だろ!?」
「うん。屁理屈だね。けどだから間違ってはいない。君が条件を明確にしなかっただけで」
「アンタサイアク!!」
б б б б б
半分だけ振り向いたリョーマの写真。人間が最も素にあるであろう瞬間の激写[ショット]。
(やっと会えたね・・・・・・)
写真の中の、2年前のあの日、『またやろうね』と約束を交わした少年に向けて呟き、不二は写真を顔に寄せた。
「これからよろしくね、越前君」
振り向く、僅かに開いたその唇に軽くキスをする。いつか、本物の彼に同じ事が出来るよう祈りを込めて。
「面白くなりそうだね、これから」
軽く吹く風が、あたかも2年前のリョーマのように不二の髪をもまた撫でていく。風と踊る髪の下で、グラウンドを走る『今』の少年を見る不二。その顔には、誰も見た事のない―――いや、リョーマだけが1度見た事のある笑顔が浮かんでいた。
―――Fin
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うむ。そんなわけで不二先輩キャラソン『瞳を閉じて 心のまま 僕は君を想う』を想定して作った・・・・・・らしい話です。どの辺りがそうなのか。まあそんな後ろ向きな質問は置いておいて、菊不二初めて物語に続いて今度は不二リョ初めて物語でした。あ、ちなみにパラレル及び通常の一部除く(主に)不二リョ話はこんな感じの事が下地になっています。出会い云々、というより2年前から2人とも本格的にテニスを始めた辺りが。ついでにバスケしてて徳川と知り合い(?)で、というのは単行本5巻にも収録されていた読みきり編より。それを参考にすると本気でリョーマのテニス歴は2年(強)らしい。恐るべしリョーマ・・・・・・。
ところでこの歌。いろいろ曰くがあるように聴こえるのですが・・・・・・とりあえず今回関係あるものとして、リョーマの髪。ギリギリで揺れる長さかなあ、と。そして『瞳を閉じて〜』。FBによると(11巻以降を自力でカウントする根性はさすがになし。ただし予測としてはあった大きなイベントが対ジロー戦のみだったから〔18巻時点にて〕むしろ下がるかなあ・・・)不二様の開眼率は27%。つまりは逆に『瞳を閉じて』いる率73%。・・・・・・想い放題ですな。
ではラストに恒例の。
不二先輩、CDアルバムデビューおめでとうございます!!
2003.4.21〜24