ねえ、君は僕のこと好き・・・・・・・・・・・・?






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 その日も、リョーマは1人、部屋でため息をついていた。
 「はあ・・・・・・。今日もダメだった・・・・・・」
 「―――何が?」
 「だから、今日こそ不二先輩に声かけようって思ってて・・・。口実なんていくらでもあるんだよな。『練習付き合って下さい』でも、『この間の試合の続きやりません?』でも、『今日帰りなんか食べて帰ろうよ』でも何でもさ・・・。
  あーもー!! 何でそれだけのことが出来ないんだよ!!」
 「なるほどねえ・・・・・・」
 「もーわかったんならどっかいって――――――――――――って」
 そこで、ようやく枕から顔を上げる。自分は誰と話しているんだろう
 視線を上に上げていく。最初に見えたのは自分も持っているズボン。そこから伸びる長い脚を見上げていけばこれまた自分も持っているYシャツ。しかしさらにその上にある爽やかかつ穏やかでついでに怪しい笑顔は自分の持つものではなくて。
 「やあ」
 「ふ、不二先輩!?」
 そこにいた存在に、リョーマが思い切りベッドから跳ね上がった。部活終了後、普通に挨拶して別れた先輩。間違っても家に呼んでなどいない筈だ。というかそれが(いやそこまでロコツなものではないが)出来ないから悩んでいたのだというのに。
 (ってちょっと待てよ・・・・・・)
 微妙に正気に返る。つまり今自分が話していた相手はその不二本人という事になるわけで・・・・・・。
 脳みそが沸騰しそうなほどに顔が熱い。
 (俺、先輩相手に何言った・・・・・・?)
 具体的には何も言っていない。だがこの聡そうな先輩ならばあの話だけで全て察しただろう。
 わなわなと目を見開き真っ赤になるリョーマを見、『不二』はくすりと笑った。
 「惜しい。僕は君の言うところの『不二先輩』じゃないんだよ」
 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」
 「ん〜。なんて言うかな・・・。
  僕は彼―――『不二』と契約した・・・いわゆる悪魔、かな? 君たちの世界での呼ばれ方は」
 「え、っと・・・・・・・・・・・・」
 「契約したっていっても厳密にはまだでさ、僕は彼に呼び出された―――呼び出されかけたところだったんだけど・・・・・・」
 「それが・・・・・・なんで俺のトコ来てしかも先輩の格好?」
 悪魔と契約云々については無視する。あの先輩なら何をやっていたとしても不思議ではなさそうだ。・・・・・・いやムエタイに目覚めたとか言われたらさすがに不思議がるが。
 「それが・・・・・・ここから先は僕の予想なんだけど、でもって多分今の君の台詞聞いてると正解っぽいけど・・・。
  呼び出してる間に彼―――って言うとやっぱわかりにくいな―――不二と君の意識が一部共鳴・・・というか同調したんじゃないかな? それで意識が繋がっちゃって、だから僕は不二のところに行き損ねた。
  ―――ああ、この姿については、僕はこの世界では固定した姿を持っていないから、相手―――つまり君が思う通りの姿になるんだよ。今考えてたでしょ?」
 「? ・・・・・・はあ」
 3割程度しか分からなかったが、とりあえずリョーマは頷いた。聞き返すとさらにわからない説明が来そうだ。
 「で、これからアンタどうすんのさ」
 「元の契約者―――不二のところに帰る・・・・・・事が出来たらいいんだけどね」
 「出来ないの?」
 「どうも君と仮契約が交わされちゃったみたいでね。仮でも僕は契約者とあんまり離れられないんだ。だから僕が単独で不二に会いに行くっていうのは無理」
 「つまり・・・・・・俺にもついて来いって事?」
 「まあ」
 「じゃあ明日の部活とかで」
 「それはそれでいいけど、みんなの前でじゃ難しいんじゃない? 『不二』が2人いたらさすがにみんな驚くよ」
 「ゔ。それは・・・・・・」
 いやこれまたたとえ2人いたところで「ドッペルゲンガーだ」の一言で片付けられるような気もする(あくまで定番の「双子だ」にならないのは―――それが不二だからだろう)が・・・・・・
 それはそれで面倒だ。なんでその『(仮)ドッペルゲンガー』と自分が一緒にいるのか、絶対みんなに聞かれる。となると今してる話を全員の前でしなければならないわけで。しかしそのきっかけは絶対に言えないし、けど言わなきゃ言わないで間違いなくみんな聞きたがるし・・・・・・。
 「・・・・・・・・・・・・他に方法はないワケ?」
 2人っきりになってという提案は却下。ンなモン出来るならとっくにやってる。
 「う〜ん・・・。後は・・・・・・
  同調した結果こっちに来たんだから、もう一度同調して意識を繋げれば、僕はその中を移動して向こうに渡れるよ」
 「同調・・・・・・、って・・・・・・。
  そもそも俺と不二先輩で何がどう同調したっての?」
 同調―――同じことを考える事(多分)。
 自分と不二との共通点などテニスだけで、他は趣味から知り合いからことごとく違うだろう。が、
 「テニスの事考えてて同調したなんていったら普段から同調しまくりじゃん。しかも誰とでも」
 「う〜ん・・・・・・。なんなんだろうね?」
 (役立たず・・・・・・)
 困った様子0%で首を傾げるその悪魔とやらに毒づく。不二本人には間違っても出来ないことだ。
 「つまり・・・・・・」
 今までのをまとめると―――
 「帰る方法なし?」
 「・・・・・・・・・・・・だめじゃん」
 先に言われ、リョーマはがっくりと項垂れた。
 言った当人は、逆にあっけらかんと開き直って(元々困っているようにも見えなかったが)。
 「そんなワケだから、これからよろしくね、越前」
 綺麗な指を、頬に伸ばしてくる。
 「―――っ!!」
 とっさに、弾こうとして―――
 スカッ・・・・・・・・・・・・
 「え・・・・・・・・・・・・?」
 何にも当たらず、振った手だけがそのまま勢いをなくしベッドへと下りてきた。
 もう一度、今度はゆっくりと腕に触れてみる。触れてみようとして―――やはり何も掴めずすり抜ける。
 悪魔は笑顔のまま。しかしその顔は微かに哀しそうに歪んでいる。
 「言ったでしょう? 僕は君が思う通りの姿になるって。君が『僕』の事を思ってくれなきゃ僕は形付けられないんだよ」
 「俺が、アンタの事を・・・・・・?」
 想えるわけがない。自分が想っているのは不二の事でありこんな悪魔の事ではない。
 「そう・・・・・・」
 俯くリョーマの、今度は頭を撫でてくる。触れない手で、ぎこちなく。
 「そんな顔しないで。僕はこれで大満足だよ。君と一緒にいられるだけで」
 「な―――////!?」
 いきなりそんな事を言ってくる『不二』を、リョーマは再び顔を真っ赤にして見上げた。
 開かれた唇に、感触のないキスをして、
 「これからよろしくね」










∵     ∴     ∵     ∴     ∵











 「ふ、不二先輩!!」
 「ん? 何? 越前君」
 「あ、その・・・あの・・・・・・だから、その・・・・・・」
 「?」
 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・すんません。何でもありません」







 「もー今日もダメだった〜〜〜〜〜〜!!!!!!!」
 「あはは。お疲れ様」
 イスに座りばたばたと脚を振るリョーマを、笑いながら後ろから悪魔が抱き締めた。
 「って何他人事だと思ってんだよ! アンタの事なんだからね、周助!!」
 「う〜ん。そんなに僕のためを思ってくれてるんだね、リョーマ君。嬉しいよvvv」
 「違ああああああう!!!!!!」
 抱かれたまま、リョーマが手までばたばと振り出した。それを前にしてもやはり悪魔は笑うだけで。
 最早日常茶飯事となってしまったこんな行為。慣れというのは恐ろしい。同じ『不二』だと紛らわしいからと名前にした呼称も、最初こそは呼びながらリョーマも恥ずかしがっていたが、今ではすっかり普通に呼ぶようになっていた。どころかそれに合わせ周助もまた名前呼びにしたというのに、それすらもごく普通に受け止められていた。
 「大体なんで不二先輩からは何にも言ってこないんだよ。『悪魔拾わなかった?』くらい訊いてきてくれてもいいじゃん!」
 「無理じゃないかな・・・? 僕がどこにいったかなんてわからないだろうし、まさか知り合いに片っ端っから訊くワケにもいかないし。ねえ?」
 「訊けよもう! 今更変人扱いの1つや2つ平気だろ!?」
 「いや、さすがにそれは・・・・・・」
 「不二先輩のバカああああああ!!!!!!!」
 完全に逆切れしたリョーマが周助へと殴りかかる。それはそれで微笑ましい光景なのだが・・・・・・。
 「リョーマ君危ないよ!?」
 「え・・・? あ・・・うわ!?」
 もちろん周助に拳は当たらない。勉強机に備え付けられた、キャスター付きでくるくる回る一脚のそれ―――つまりは安定の悪いイスの上でそれだけ暴れれば当然倒れるわけで。
 どがしゃん!!
 「・・・・・・・・・・・・っててて」
 「リョーマ君、大丈夫?」
 「大丈夫じゃない。も〜サイアク・・・・・・」
 呻き、起き上がろうとして。
 「・・・。何やってんの? 周助」
 「いや・・・。これでもリョーマ君を助けようとしてたんだけどね・・・・・・」
 リョーマは自分の下に敷かれていた周助を見下ろした。触れられない以上助けるなんて絶対無理で。実際自分の体は周助を通り抜けフローリングの床に見事にぶち当たった。それなのに、わざわざ周助まで倒れて。
 プッ、と噴出す。
 「何かな? リョーマ君。その馬鹿にしたみたいな笑いは」
 「はいはい。アンタのおかげでたすかりましたよ周助。ありがとうございました」
 「全然思ってなくない?」
 「さあね」
 薄く笑い、
 ―――リョーマは起き上がる前にもう一度伏せ、周助の唇に軽く触れた。感触はないはずなのに、なんでか暖かいような気がする。
 「え・・・・・・////?」
 「ま、一応お礼」
 頬を赤く染める周助に、リョーマはぺろりと舌を出し、いつも通りの生意気な笑みを浮かべてみせた。










∵     ∴     ∵     ∴     ∵











 こんな風に、ずっと毎日が続けばいいと思っていたけど。
 でも現実は『ずっと同じ』なんて事はなくて。







 「先輩・・・、その人・・・・・・」
 「ああ。そういえば君は会うの初めてだっけ。僕の彼女」
 「よろしくね、越前君・・・よね?」
 「あ・・・・・・、
  ――――――――――――うす」







 ベッドに伏せるリョーマ。触れない手で髪を撫で続ける周助。
 「周助・・・・・・」
 「うん・・・」
 「不二先輩、彼女いたんだって・・・・・・」
 「うん・・・・・・」
 「考えてみりゃ、そりゃそうだよね。あの人モテるし・・・・・・」
 「うん・・・・・・・・・・・・」
 それきり、また黙り込んで。
 「・・・・・・・・・・・・で、これから君はどうするの?」
 初めて会った時、自分がしたのと同じ質問。
 逆にされて、リョーマはごろりと半回転した。
 周助を見上げ、頬に両手を伸ばす。挟めてもいないのに、引っ張ると周助は素直に顔を近づけてきた。
 暫し形だけのキスをして、
 「俺は周助がいるからいいよ」
 「リョーマ、君・・・・・・?」
 「だから・・・・・・
  ――――――――――――だから、ずっとここにいて」
 生まれて初めてする告白。相手は自分が想っていた人ではなく、ただ偶然一緒になった悪魔。
 それなのに、今ではもう離れられない存在。きっと今離れてしまったら、呆然とするどころではなくなる。
 じっと見上げるリョーマ。その頬を撫で、周助がもう一度確認する。
 「本当に、僕でいいの? 『不二先輩』じゃないんだよ?」
 「『周助』で、いい。『周助』が、いい・・・・・・」
 「ホントに・・・・・・?」
 「ん・・・・・・・・・・・・」
 頷くリョーマをこちらもじっと見下ろして、
 がばっ!!
 「嬉しいよリョーマ君!!!」
 「うわっ!!??」
 周助が、リョーマの体を抱き起こした。そう―――抱き起こした。今まで触れることすら出来なかったのに。
 「しゅ、周助・・・? なん、で・・・・・・?」
 腕の中で目を見開くリョーマ。その耳に、以前聞いたのと極めてよく似た台詞が飛び込んできた。
 「惜しい。僕は君の言うところの『周助』じゃないんだよ」
 「え・・・・・・?」
 (じゃあ・・・・・・・・・・・・)
 不二の格好をした悪魔ではない存在。となると残るはひとつしかない。
 「不二先輩ぃ!?」
 「やあ。越前」
 「な・・・、な・・・、な・・・、な・・・、な・・・?」
 何で? どうして先輩が? っていうかじゃああの『周助』って? 先輩が周助で周助が先輩でだから―――ってもうわかんないし!!
 ―――と言いたいのを最初一文字で詰まらせる。とりあえず言いたい事は通じたらしい。
 「最初に謝っておくよ。君が『周助』の出現以来、ずっと話し掛けようとしていた『不二先輩』が『周助』だったんだ。で、その間ずっと君といた『周助』が僕、本物の不二周助」
 「え・・・? じゃあ・・・・・・」
 少しずつ、頭の中で整理されていく。されていって・・・・・・無性に怒りが湧いてくる。
 (じゃあ俺って、ただの馬鹿じゃん・・・・・・)
 ニセモノを振り向かせようと必死になって、それが出来ずに本物に怒鳴りちらして。
 「――――――!!!」
 食いしばった歯の隙間から声にならない息を洩らす。拳を振り上げ―――
 「アンタ最低!!」
 振り下ろした拳が、
 ―――またも当たらなかった。今度はその前に抱き締められて。
 「ごめんね、越前。からかうとか、そういうつもりじゃなかったんだ。ただ君の気持ちが知りたかった」
 「何・・・、今更イイワケ―――」
 「許してとは言わない。でも、イイワケじゃなくてこれだけは言わせて。
  ――――――ありがとう。僕と契約してくれて」
 「え・・・・・・?」
 なぜか言われる、謎のお礼。
 (契約・・・・・・、って・・・・・・)
 確かあの悪魔『周助』―――それとも『不二先輩』か―――が言っていたか。



 ―――『僕は彼―――「不二」と契約した・・・いわゆる悪魔、かな?』



 「どういう、事・・・・・・?」
 「最初に説明した事、覚えてる?」
 逆に問われ、リョーマは頷いた。理解は3割程度しか出来ていなかったが。



 ―――『契約したっていっても厳密にはまだでさ、僕は彼に呼び出された―――呼び出されかけたところだったんだけど・・・・・・』
 ―――『呼び出してる間に彼―――って言うとやっぱわかりにくいな―――不二と君の意識が一部共鳴・・・というか同調したんじゃないかな? それで意識が繋がっちゃって、だから僕は不二のところに行き損ねた』
 ―――『どうも君と仮契約が交わされちゃったみたいでね』



 「あの時言ったのは、全くの嘘じゃないよ。僕は悪魔を呼び出した。『不二周助』っていう存在全てを差し出す代わりに―――君と意識を繋いで、仮契約を結んだ。君だけの存在となった」
 「・・・・・・?」
 「つまりね・・・・・・」
 囁く不二の手が頬に触れる。今度は間違いなく。暖かさもちゃんと感じる。
 触れ合いそのものは軽く。それでもそれすらも今までずっと出来なかったキス。
 全てを取り戻すように、永く永く行われ―――
 離れたその唇で、不二が言葉を続けた。
 「愛してるよ、越前。今までも、今も、これからも、ずっと君ただ1人を」
 「・・・・・・・・・・・・」
 閉じていたリョーマの目が、ゆっくりと開かれていく。今まで嘘のようだった毎日の中で、でもこの告白は決して嘘でも幻でもなくって。
 「でも、僕は自信がなかった。君はどうなんだろう? 僕のことをどう思ってるんだろう? 好き? 嫌い? それとも・・・・・・ただの先輩その1?
  怖かった。何より君に何とも思われていないのが。君に何とも思われてなかったなら―――僕の存在そのものを否定されるような気がした。
  だからずっと何も言えなかった。行動を起こせなかった。
  ―――そんな時に、あの悪魔が来たんだ」
 初めて聞く、不二の胸の内。
 目線を落とすリョーマに先を促されたように、不二が言葉を続ける。
 「悪魔が言ったんだ。『ならひとつ賭けをしてみないか?』って。
  悪魔が『不二周助』として他の全てを引き受ける。僕は全てを捨て君だけのものになり、君に否定されたらその時点で消滅する」
 「―――っ!!」
 「ふふ。驚いたかな? でも僕はそれでいいって思った。君に否定されたなら、もう僕は存在する意味を持たなくなるから」
 「でも・・・だからってそんな・・・・・・。
  そんなのしなくったって・・・・・・俺は先輩を・・・・・・」
 「でもこうしなかったら僕はいつまでも動けなかった。君もでしょ?」
 「ゔ・・・・・・」
 「悪魔が本当にくれたのは『きっかけ』だ。だから僕はこの賭けを承諾した。それで、ずっと君を見てた」
 「〜〜〜〜〜〜////」
 ずっと―――突撃アタックそして玉砕して、怒って逆切れして八つ当たりして。
 「だったら・・・・・・さっさと言ってくれればよかったじゃん・・・・・・」
 口を尖らせ呟くリョーマ。悔しそうに上目遣いで睨んでくるのもまた微笑ましい。・・・・・・『周助』として過ごした日々がなければ決してされなかったであろう。
 「そうだね。越前が頑張ってる姿、見てて泣きたくなるくらい嬉しかった。ああ、君も僕の事を想っててくれたんだな、って。
  でも・・・・・・同時に思ったんだ。今名乗り出たら、この生活も終わるんだって」
 「あ・・・・・・」
 不二に言われ、思い出す。ずっと『周助』といた日。遠い遠いところにいる『不二先輩』ではなく、いつも馬鹿なやりとりをしていた『周助』と。
 『不二先輩』には絶対出来ないと思っていたこと。怒って、怒鳴って、殴りつけようとして。『周助』になら普通にやっていた。
 それは、いつしか―――
 ――――――『不二先輩』といるより楽しくなっていた。
 楽しくって、だから・・・・・・・・・・・・
 「・・・・・・越前?」
 ぎゅっと、リョーマもまた不二の体を抱き締める。
 だから・・・・・・・・・・・・こうやって触れ合いたかった。
 肩に顔を埋め、呟く。
 「『リョーマ君』、って呼んでよ。今までみたいに」
 「うん・・・。
  ―――『リョーマ君』」
 「ん・・・・・・『周助』」
 互いに顔を見合わせ、2人で笑う。その顔がまた寄って、触れて・・・・・・。
 「確かに、触れ合えるっていいね・・・・・・」
 「そりゃね・・・。
  ―――ってそういえば、じゃあなんで俺は今まで周助に触れなかったワケ?」
 素朴な疑問。最初から悪魔でなく本人だったとすると、その存在自体は変わっていない筈。ならなぜ今までは触れられず、今は触れられるのだろう?
 「ああ、それは最初に言った通りだよ」
 「最初? えっと・・・・・・、俺が思う通りの姿になる、って辺り?」



 ―――『言ったでしょう? 僕は君が思う通りの姿になるって。君が『僕』の事を思ってくれなきゃ僕は形付けられないんだよ』



 「そう。僕は意識除いて悪魔に全部あげちゃったからね。今僕の体を作り上げているのは君なんだ、リョーマ君」
 「は・・・?」
 「君が僕の事を強く想ってくれるほど、僕の姿ははっきりとする。それこそ君が触れるくらいにね。
  でも今まで君が一番に想っていたのは『不二先輩』であって『悪魔の周助』じゃない。だから今までははっきりしていなかったんだ」
 「それは、まあ・・・・・・」
 頷き、思い出す。そういえば、『周助』に触れるとき、いつもは感触もなくただすり抜けるだけなのに、時々その肌が暖かく感じたりしなかっただろうか。
 多分・・・・・・その頃から、自分の中での想いが少しずつすり替わっていたのだろう。
 「今では、君は僕の事だけを想っててくれるだろ? だから今でははっきりしてる。こんなに触れられるほどね」
 言って、不二が何度も唇を触れ合わせてくる。その度に感じる暖かさと柔らかさ。今度は気のせいとかそんな事では決してない。
 リョーマからも、確認するように何度も何度も触れて。
 「で、これから君はどうするの?」
 再びされる、この質問。
 「最初に言った通り、僕は契約者とはあんまり離れられないんだ。だから僕が単独で『不二先輩』に会いに行くっていうのは無理。
  それに君のための存在でしかないから、誰か他の人に押し付けるのも出来ないよ?」
 実に楽しそうに、笑いながら言う不二に、
 リョーマもわざとらしくため息をつく。
 『周助』に見せた、生意気な笑みで、



 「仕方ないなあ。そばに置いておいてあげるよ」



―――Happy End

 
 
 
 
 
 














 は〜。なんでしょうねこの話。かなりのムリが生じてます。まあとりあえずやりたかったのは卑怯な不二先ぱ―――ごぐふがふ! 悪魔演じる『不二先輩』にもう少しリョーマに冷たく接してもらえるとより話の意味がわかりやすかったのでしょうが、今回の話は軽く爽やかにそして幸せにがモットーだったのでやりすぎてあまり暗くなってもなあ・・・・・・ということで断念。ついでに同じ理由で実は悪魔は悪魔のままでリョーマを騙し続け、動けなかった不二から奪って嘲うという案も却下しました。ドス黒過ぎだっつーの。
 では以上、本日発売の(そして
Getは昨日の)リョーマ1年ぶりのニューシングル《Dreaming on the Radio》を聴き、<今夜 君の 声が聴きたいんだ>だの<君に恋したんだDJ>だのよりによって不二先輩(と海堂)がマンスリーパーソナリティだった1月にそんな曲を流していたのかと悶え、まるでラジオを聴いて不二に惚れたリョーマが自分の気持ちを曲にしてリクエストとして送りつけ、それを流してもらった挙句感想言ってもらえたなんつー展開を考えむしろそっちで話作れよと突っ込みたくなるほど不二リョ(むしろリョ不二か?)に萌え、久々に書いてみた不二リョ話でした。こんな理由でモットーが『軽く以下略』となりました。あ〜現在すっごい脱線気味ですがやっぱ不二リョいいな〜vvv ラジプリ万歳!!

2004.4.28