『COUNTER』
counter(名)・・・広義:〔ボクシング〕迎え打ち・〔フェンシング〕受け流し
狭義:不二の得意技の総称。相手の力などを利用し、通常ではまず無理な打球を放つ事。返し球。
「これから見せるのが三種の返し球[トリプルカウンター]最後の1つ・・・白鯨」
不二のその宣言に、青学の応援サイドは大きくざわめいた。彼らですら誰一人として見た事のない最後の1つ。果たしてどんな技なのか。
「白鯨だって」
「んがっ。クジラ?」
1年トリオも例に洩れず。これから手品を見せられる子どものように興味津々の目を宣言者へと向ける中、その話を最初に振られたリョーマは宣言にではなく次のカツオの言葉に反応した。
「ツバメにヒグマにクジラ・・・
何だか凄そうだよ、コレも・・・」
(ふーん。ツバメ・ヒグマ・クジラ、ねえ・・・・・・)
「そういえば陸海空制覇ですね、不二先輩」
どうでもいい軽口。本当はどんな技かドキドキしている。それこそ今ざわめいているギャラリーのように。ただそれを目の前の彼に悟られるのは嫌だった。
が、
「あ、そういえばそうだね」
手を叩いてあっさり頷いてくる不二。その様子からすると本人も今まで気付いていなかったらしい。
「・・・・・・そうなるよう決めたんじゃないんスか?」
「え? 別にそうは意識してなかったけど?」
「・・・・・・・・・・・・。
じゃあ何基準にして決めたんスか?」
呆れ返るリョーマに、しかしながら不二は彼ではなくその後ろで自分を応援にきたという弟を見やった。
普段ではまず見せない、そしてこんな試合の最中には全く以って似つかわしくない、優しげな笑みを湛え・・・
「裕太が小さい頃好きだって言ってた動物の名前だよv」
『はい・・・・・・・・・・・・?』
ある意味では先程の宣言以上のその衝撃の告白に、ざわめいていた周りは一瞬にして重苦しい沈黙に包まれた。
レギュラーらの、特に不二と親しいものらもまた然り。あの技名にまさかこんな背景があったとは、さすがの彼らでも知らなかった。
「どうしたの?」
無邪気にきょとんとする不二に対し、なんと言ったらいいかわからず黙り込む一同。いや、それは応援席にて完全に石化した裕太に対して、かもしれない。
カウンター。最早説明するまでもないだろうが相手の球の威力などを利用した不二必殺の返し球。その名称に必ず動物の名がつくが、その通称『動物シリーズ』の元ネタが裕太に関係あり、という事は・・・・・・
沈黙が続く中、一同を代表してリョーマが言った。
にやりと笑い、首だけで振り向いて裕太を見やり、一言。
「返されたり落とされたり。やられっぱなしだね、裕太」
「う、う、うるせぇぇぇぇぇ!!!」
顔中真っ赤にして裕太が叫び返した。
「兄貴も! 勝手にンなモン使ってんじゃねー!!!」
びしりっ! と指を突きつけた先で、不二が困ったように瞳を閉じたまま眉を顰めた。
「え? でもせっかく裕太が好きって言ってたものだし・・・・・・」
「嫌がらせにしかなってねーよ!!!」
「けどいつもいつでも裕太の事を考えていられるようにって願いも込めて―――」
「ンな思い出し方すんな!!!」
「う〜ん。困ったなあ・・・・・・・・・・・・」
と、やはり試合中であるにも関わらず不二は真剣に悩み込み出した。初夏だというのにやたらと冷たい風が1分ほど吹き付け・・・・・・
「兄貴のばかやろぉぉぉぉぉぉ――――――!!!!!」
「あ、裕太!」
耐え切れずに応援席を飛び出した裕太。それを追おうと手を伸ばす不二。だがその手の向こうには最早小さくなった弟の姿しかなく・・・・・・。
・ ・ ・ ・ ・
「あ、わかった! つまり裕太はそんな間接的にじゃなくて直接自分の名前を入れて欲しいって言いたかったのか!!」
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
スポーツドリンクからはっと顔を上げ、愕然とした表情でそんな事をいう馬鹿兄に、
((可哀想に、裕太・・・・・・))
その場にいた全員の意見は見事一致したのだった。
―――誤解は訂正されぬまま終わる。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
ふと思いついた話をそのまま書いてみました。しかしあの技の数々、本気でどうやって名前決めたのでしょうか? やはり見た目から? だがそれだけであんな名前思いつけるのか? など考え始めるとなかなかに不思議なトリプルカウンターの話でした。けど不二先輩、なんっか思い込み激しそ〜だな〜・・・。
2002.2.19