あくまが2ひき  いけにえ2ひき 





Target1.英二



 「ダメじゃん菊丸・・・。俺をフリーにしちゃ」
 放たれたドロップショットと佐伯の冷たい笑み。驚き呆気にとられた英二の脳に次に飛び込んできたのは―――
 「そうだよ英二。ちゃんとやってくれなきゃ」
 「って不〜二〜!!」
 相方の情け容赦ない批評だった
 「やれやれ。これじゃ先が思いやられるな」
 「にゃにを〜・・・・・・!!!」
 「いいの英二!? 佐伯ごときにあんなバカにされて!!」
 「お前だって思いっきり頷いてただろーが!!!!」
 そんな感じで続く菊丸イジメもとい青学対六角D1。
 それを見て・・・・・・




・     ・     ・     ・     ・





 「・・・あの佐伯って人、不二先輩の幼馴染、なんスよね・・・・・・?」
 「ああ・・・・・・」
 「なんっか・・・・・・。
  ―――スッゲー、よくわかりますね」
 「ああ・・・・・・・・・・・・」
 フェンス越しにてポロリと呟いたリョーマに、乾も静かに頷いたのだった。




・     ・     ・     ・     ・





 3ゲーム取ったところで英二の体力が尽きた。
 尽きた理由は、
 ―――2人の精神攻撃に耐えかねたから、というのが周り大多数の意見だった。


―――いろんな意味でツワモノの2人に万歳!




 ―――アニプリじゃ言ってくれなかったんですよ佐伯のそれも不二の『ダメだよ僕をフリーにしちゃ』もその他のかっこいい台詞も。おかげでサエが情けなさげに見える・・・・・・。


Next Target  不二






Target2.不二



 英二のアクロバティックを封じる事には(とりあえず)成功した。
 (後は、不二か・・・・・・)
 英二のフォローに回る分不二への負担は大きい。しかも樹のシンカーのおかげで必殺技[トリプルカウンター]は使えない。
 (でも―――まだだ。まだ俺達の勝ちにはならない)
 確かに2対1。一見不二に不利に見えるが―――
 (菊丸が動かない分不二から見ればこれはコートの大きなシングルスと同じ。不二はシングルスも相当慣れている。それに持久力はある方だ。よほどこちらも粘らない限り体力切れはない。
  それに―――)
 この状況下でも不二は着実に点を入れていっているのだ。大抵の人間は勘違いを起こしやすいが、なにも不二の武器はトリプルカウンターのみではない。普段の不二におけるこれらの使用率の低さを考えれば当然の事だ。むしろ真に恐ろしいのは相手にその『強さ』を悟らせない事。プレイの仕方によっては、不二は平気で『必殺技』を捨て駒として使うだろう。
 (何とか・・・・・・決定打を・・・・・・!!)
 「―――!!」
 そこで、ふと佐伯は思いついた。不二を完全に潰す『決定打』を―――。
 自然と吊りあがる薄い唇。
 ようやくこの時が来た・・・・・・。
 不二へ、昨年の雪辱を晴らす日が・・・・・・!!
 (これで―――不二に勝てる!!)
 「次は君だよ、周ちゃん!!」
 「―――!?」
 球を打とうとした不二が硬直する。手からラケットが弾かれ、コートの外を滑っていった。
 「ゲーム六角!!」
 「勝った・・・・・・!!」
 注:現在まだ2−4。
 目を見開き見つめる不二の先で、佐伯は閉じた目の幅涙を流して右手でガッツポーズをした。




・     ・     ・     ・     ・





 「『周ちゃん』・・・・・・?」
 「まあ、幼馴染だからね。小さい頃はどう呼んでてもいいんじゃないのか?」
 「はあ・・・・・・」
 「だが―――やるな佐伯。去年のリベンジか」
 「え・・・・・・?」
 「去年の大会では不二にその手を使われ集中力を乱され惨敗したんだ。それをしっかり根に持っていたらしい」
 「アホらし・・・・・・・・・・・・」
 やはりフェンス越しにてため息をついたリョーマに、乾も静かに苦笑したのだった。




・     ・     ・     ・     ・





 (『周ちゃん』・・・)
 頭の中で反復する。
 (『周ちゃん』・・・・・・)
 何度も何度も。
 (『周ちゃん』・・・・・・!)
 ああ、わかる。今すっごく鼓動が速い事は・・・!
 (『周ちゃん』・・・・・・!!)
 なんていいんだこの響きは!!
 「佐伯!!」
 わなわなと震える手でラケットを拾い上げ、不二がいきなり怒鳴りつけた。見開かれる目、紅潮した頬に、誰もが怒っているのだと思った。
 ―――のだが。
 「次からずっとそれでよろしく!!」
 『は・・・・・・?』
 佐伯を見る不二は笑っていた。それもいつもの笑みでも絶対零度の笑みでもはたまた獲物を見つけた狩る側の笑みでもなく―――ひたすらに怪しい笑み。爛々と輝く瞳に鼻息荒く汗べったり、堪えきれないとばかりに口元は痙攣している。
 あまつさえ「グー!」などと言わんばかりに親指まで立てられて。
 (どうしよう・・・。ヤツは本気だ・・・・・・・・・)
 佐伯は如何に自分がやってはならない行為を行なってしまったか、今になって深い深い後悔の波にその身を沈めるハメとなっていた。


―――いい年こいた(14歳)男の『周ちゃん』は、呼ばれた側のみではなく呼ぶ側もけっこー恥ずかしいものです。




 ―――ちなみにこちらはアニメ基準。ゲームの流れが原作とアニメけっこー違うんですよね。おかげでアニメではサエと不二の打ち合いがちょろっとだけあったり(お互いサポート無しで打ち合った初っ端と英二のサポートに回ったちょっと)。ただし本当にそうだったか確認していないため佐伯の台詞時、彼と樹どちらが打っていたか書いてません。


Next Target  佐伯






Target3.佐伯



 (う〜ん。呼ばれたからには僕も呼び返さないとね・・・・・・)
 相も変わらず硬直した試合の中で、不二はのんびりとそんな事を考えていた。
 そんな事を考える不二は―――もちろん去年のことなどさっぱり忘れ去っていた。というか誰もが佐伯の不幸さに嘆く中、唯一何も自覚していなかった。
 佐伯へとボールを返しながら―――
 「行くよ、サエvv」
 笑顔で可愛らし〜く呼びかける。その可愛らしさに、始めて見る剣太郎とリョーマが真っ赤になって鼻を押さえ、慣れた2・3年はふい、と明後日の方向を向いた。
 そして―――
 「甘いな不二! その手はもう喰わないよ!!」
 バシ―――!!
 緩い球を英二無視で逆サイドへ打ち、佐伯がにやりと笑った。去年この手で負けて以来、その悔しさをバネに必死に精神統一の修行を行なった!! その成果がついに現れた(・・・って、剣道の練習は英二対策ではなかったのか・・・?)!!
 心の中には
Congratulations と花が吹き荒れ天使がラッパを吹き鳴らしている。ついにあの不二を完全攻略した、と!!
 ―――不二とは違う意味でヤバイ笑みを浮かべる佐伯を見て、(さすが幼馴染・・・・・・)と誰もが思い切り引きまくる。
 その中で、
 「ヒドいよサエ・・・・・・」
 なぜか不二が潤んだ目元に(どこから取り出したんだか)真っ白なハンカチを当てていた。
 「不二・・・・・・?」
 「僕はただサエが『周ちゃん』って呼んでくれたのが嬉しくて・・・。だから僕も昔みたいに呼んだだけなのに・・・。なのに、なのに・・・・・・」
 ―――余談だが、『昔』と言う割に不二は佐伯に会う度本人の迷惑を全く省みずにこのような呼び方をしているのだが。
 「『その手』って何さ!! 僕はそうとしか考えてなかったんだよ!? しかも僕の呼び方『不二』に戻ってるし!!」
 「どっちについてなんだよ怒りたいのは!!」
 「両方に決まってるじゃないか!!」
 「・・・・・・・・・・・・」
 きっぱりはっきり言い切る不二に、佐伯はくらくら揺れる頭を押さえて最善策を講じた。ちなみに去年はやはり試合中に自分の呼称で言い争い、お互い一歩も引かなかった結果「やだ〜! やだ〜!! 『サエ』って呼ぶ〜〜〜!!!」と両手を振り回して首をぶんぶん振ってダダを捏ねる『青学
No.2の天才』を前に、現実逃避したくてたまらない頭で無理矢理引きつった笑みを浮かべて必死になだめた。
 たっぷりたっぷり悩み―――
 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・わかったよ、『周ちゃん』」
 「ホント? サエ」
 「ああ。もういいよ」
 呼ばれ方なんてどーでも・・・・・・。
 ふ〜っ、と長いため息をついて人生に悟りを開く佐伯。その先では、不二が先程の佐伯に負けず劣らず花を撒き散らしていた。
 ぱああああ・・・!!! と効果音が付きそうなほどの笑みを浮かべ喜ぶ不二を見て―――
 (まあ、いっか・・・・・・)
 苦笑している佐伯もまた、人生終わってると思う・・・・・・。


―――というわけで、『周ちゃん』&『サエ』に決定されました。




 ―――ところで疑問。アニプリにても去年佐伯は不二に負けたという話をしていたのですが、一体去年の何の大会で当たったのでしょう・・・? 原作を参考にすると、青学が関東ベスト4まで上った(ので必然的に全国まで出たわけですし)去年の全国大会か? 実際お互い相手の手の内は知りつくしてますし。しかしその割にアニメではなぜお互い全く相手の事を知らない!? びっくりでしたよ1年2人はともかく言われなきゃ気付かないお互いが。


Next Target  樹






Target4.樹



 不二のつばめ返し炸裂。今度はラケットを立てて使ってくる不二に―――
 「樹っちゃん。不二は今度は―――」
 「あーーーーーー!!!」
 樹に注意を呼びかけようとした佐伯を遮り、不二が思いっきり叫び声を上げた。
 びくりっ! と驚く一同。振りそこなった樹を無視して、不二はラケットで佐伯をびしりと指した。
 「サエってばなんでそういう呼び方するワケ!?」
 「え・・・・・・?」
 「それじゃまるでそっちも仲良いみたいじゃん!!」
 『みたい』もなにも、チームメイトだし友達なのだから仲が良くて当り前だ。が、このような一般の理論が通じないのが不二である。
 ―――のだが、佐伯もまた譲れないラインというものはある。
 「当り前だろ!? 樹っちゃんはパートナーなんだから!!」
 「ヒドいヒドい!! しかも今そっちは名前で呼んだクセに僕の事また名字にした!!」
 「なんでそこまでよく聞いてるんだよ・・・・・・」
 不二のあまりの言い振りにコケる一同の中で、英二が静かに突っ込む。―――当然の事ながら無視されるが。
 「そんな事言ったら周ちゃんだって菊丸の事名前で呼んでるじゃないか!! 他はみんな名字なのに!!」
 「英二はみんな名前で呼んでるからでしょ!?」
 「樹っちゃんだってみんなそうやって呼んでるんだよ!!」
 「ゔ〜・・・・・・」
 (おお・・・・・・)
 (不二が押された・・・・・・)
 口を尖らせ唸る不二に誰もが感心し、言い負かした佐伯も得意げに笑ってはいるが―――
 ―――佐伯は気付かなかったようだ。彼の発言もまた、どう解釈しようと不二と同様パートナーにヤキモチを妬いていたという事になる事を。
 まあなんにしろ、
 「いいけどさ・・・・・・・・・・・・」
 険悪な上目遣いで頬を膨らませた不二の、初めての敗北宣言で全ては終わりを迎えた。
 ・・・・・・筈だった。




・     ・     ・     ・     ・





 「樹っちゃん行くよ!」
 ガラガラガラ!!
 不二の台詞に誰もがコケる。その中唯一平然としていた樹が普通につばめ返しを返す。
 自分の横をすり抜ける球を何もせず見送って―――
 「ナイス樹っちゃん!!」
 やはり不二が笑顔で言った。
 「周ちゃん、それは俺への嫌味なのか・・・・・・?」
 「だ〜って、『みんなそうやって呼んでる』んでしょ? じゃあいいじゃない」
 にっこりにこにこ。
 0円スマイルで爽やかに答える不二に、佐伯の額に一瞬青筋らしきものが浮かんだが・・・・・・。
 こちらも笑顔で、佐伯がふいと横を向いた。
 俯き、動かない英二へと。
 「英二! 頑張れあとちょっと!!」
 「ほえ〜!?」
 いきなり対戦相手に、それも妙に親しげに名前で励まされ、さすがに顔を上げた英二が素っ頓狂な声を上げた。
 が、なぜかそれを言った本人はこちらを見ていない。
 「やるね、佐伯
 「君には負けないよ、不二
 ふふふふふ・・・・・・とドス黒いオーラを垂れ流して微笑み合う幼馴染2名。
 最早誰にも止められないバトルを前に、
 (もうヤダよこの試合・・・・・・・・・・・・)
 英二は彼にしては極めて珍しく、ひたすらくじけまくっていた。


―――なんで原作はともかくアニメ、黄金ペアじゃなくてこの2人なんだろう・・・?




 ―――アニメだと城成湘南戦前に大石の手、一応治ってたのになあ。やはり無茶したからまた悪化したのでしょうか?


Next Target  ?






Target5.?


 (さあ周ちゃん、どうする?)
 たとえ口ゲンカと醸し出す雰囲気では互角であろうととりあえず試合は青学が圧倒的に不利である。英二は電池切れで動けない。不二の不完全なつばめ返しは樹が全て返している。
 それでもまたつばめ返しのモーションに入る不二に、舌打ちして佐伯が呼びかけた。
 「まだつばめ返しで頑張るつもり!? どんなにやっても樹っちゃんには通じないよ!!」
 「それはどうかな?」
 「何・・・!?」
 不二の顔に不敵な笑みが浮かんでいる。思わせぶりなその態度はハッタリかそれとも本当か。
 緊迫感を帯びた佐伯の瞳が不二の一挙手一投足、筋肉の動きから目線まで全てを捕らえる。
 その瞳の束縛の中で―――
 「な―――!?」
 不二のモーションが大きく変化した。
 右半身を後ろに下げた姿勢から、左足を一歩下げて。
 振り上げたラケットを弧を描かせて左胸元まで落とす。
 (これは―――)
 驚く佐伯の首筋を柔らかな風が撫でていき―――
 「白鯨!!」
 誰かの声と共に不二の手元から放たれた超スライスボールが、佐伯をからかうようにホップし、屈み込んだ樹を避けて着地。そのまま不二の手元へと戻っていった。
 『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
 黙りこくる一同の中で、
 「よくよく考えなくってもさ、トリプルカウンターって別につばめ返しだけじゃないんだよね」
 視線を斜め
45度に落として不二がふ・・・と笑った。
 理屈としては合っている。誰もつばめ返しだけで勝負しろとは言っていない。
 が、
 「周ちゃん・・・。
  こーいう時って普通つばめ返しで勝負しようって思わない?」
 一同を代表しての佐伯の言葉に、こくこくとその他一同が頷く。
 それを聞いて、一言。
 「真っ向勝負って嫌いなんだよね」
 『をい・・・・・・』
 完。


―――樹のシンカーって封じれるのつばめ返しだけのような・・・・・・。




 ―――そして実は一番の疑問。なぜアニメでまで前衛にいたサエはわざわざ避けてまで後ろの樹につばめ返しを返させようとしたのでしょう? わざわざあんな超低姿勢にならせなくてもバウンド前に打ってしまえばいいような・・・。つばめ第2弾が嫌ならトップスピン以外で返せばいいと思いますし、特にアニメではマンツーマンマークではなかったわけですし・・・。
 ・・・なんて突っ込んだ私はやはり無粋なのでしょうか・・・・・・?
 ちなみにゲームを参考にすると、代わりに白鯨が打てる条件はバックハンド時にトップスピン以外の球だそうです。


Lasr Target  ・・・






Lasr Target.・・・


 「菊丸スマーッシュ!!」
 復活した英二のスマッシュによって勝負は終わりを迎えた。
 なお―――


 ―――不二と佐伯のやり取りのおかげでムダな時間が大量に出来、
100どころか500以上数えた英二は完全復活を遂げていたりした。


―――ふう。ようやく終わった・・・・・・。








あとがき


 さて原作とアニプリ完全混合のこの話。佐伯の性格と初っ端のセリフは原作ベース、幼馴染設定
&展開はアニプリベースです。コミックスはまだ佐伯の台詞止まりなもので。しかし原作。アニメ見てからまた読み返すと佐伯と不二の絡み少ないなあ・・・。アニメじゃ初登場時ず〜っと佐伯は不二の隣にいましたし。それに試合でもマンツーマンじゃなくてある程度は打ち合いしてましたし・・・。
 最近サエにはまりまくってます。あ〜かっこ良いよ〜vv サエ〜vv アニメだけだとなんだかサエ情けなさげだったけれど原作だとめちゃめちゃかっこ良かですたい!! 不二と互角に張り合えそうです!! その割にこの話はサエが情けなさげでしたが(爆)!!
 ではこれからもサエ不二、ネタがあったらやりたいな〜(再び爆)。