合宿が終わった。ごく一部の者を除き一同げっそりしているところから、この合宿の凄まじさが伺える。実際、

 「ぜってー2度とンな合宿には参加しねえ・・・!!」

 拳を握りこんな事を呟く者までいるのだから。
 さてその合宿はどうなったのかというと・・・・・・









『相性』の問題?

〜2.一週間後の話〜









 バスは、何とか合宿所についた。さっそく部屋割りがあって―――
 ――――――バス席そのままとなった。

 「オイちょっと待て!!」
 「何の陰謀ですかコレ!?」

 若干名の反対は出たようだが、さして気にもされなかった。







Σ     Σ     Σ     Σ     Σ








 1日目。
 合宿の醍醐味といえば夜までお遊び。明日から辛い練習が待っているというのに、元気な中学生どもは元気いっぱい遊んでいた。
 「うっせーぞてめぇら!! さっさと寝やがれ!!」
 ぼすぼすぼすばすばすばすどごすっ!!
 「うわっ!」
 「たっ!」
 「痛っ!」
 「ぐ・・・!」
 「げ・・・!」
 怒りに任せ跡部の放った枕などが、騒いでいた佐伯・千石・不二
に当たった。1打目はラッキーで当たらなかった千石も2打目の広範囲狙いな布団はさすがに当たり、同じく1打目を羆落としで返した不二も振り向く間もなく連打で放たれたピコピコハンマーに再び後頭部を打たれた。
 唯一2打とも普通に避け、現在も意識を保っている佐伯が、周りを見回しぽりぽりと頭を掻いた。
 「さすがにコレはマズくないか?」
 「ああ? 何がだよ?」
 「だって・・・・・・」
 指差す。先にいたのは、
 全てを無視して寝ようと頑張り―――現在やはり枕の犠牲となり就寝に成功した橘と裕太だった。目を開けて寝る習性がない限り、今の状態は『白目を剥いて気絶している』のであろう。
 「あー・・・と・・・・・・
  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・悪りい。つい条件反射で」
 「いや俺に謝られても」
 「てめぇにゃ謝ってねえよ!!」







Σ     Σ     Σ     Σ     Σ








 2日目。げんなりしている跡部とは裏腹に、橘と裕太はぴんぴんしていた。眠りは深かったらしい。おかげで。
 互いの実力見に、さっそく学校対抗で練習試合を行う事となった。まず対戦相手決めに部長(辺り)が呼ばれる。
 集まったその先で。
 「ふあ・・・」
 「大丈夫か跡部。酷く眠そうだが」
 「あいや何でもねえ。大丈夫だ」
 「氷帝部長ともあろう者が練習中にあくびとは。全く、それでは部員に示しがつきませんよ?」
 「・・・・・・・・・・・・悪かった。気をつける」
 「・・・どうしたんだ跡部? やけに素直じゃないか」
 「なんか・・・・・・疲れた」
 『・・・・・・・・・・・・』
 眠い目をこしこし擦ってそんな事を言い出す跡部。ワケがわからず首を傾げる観月・剣太郎そして橘(彼視点で、昨夜一番暴れたのはもちろん跡部である)。彼らとは打って変わってわかったらしい手塚と南は、揃って跡部に頭を下げた。
 『すまなかった』
 「あ、いや・・・。もーいい」
 後ろ向きに慰めあう3人。そこに、ぬっとロープが差し出された。
 「何だ・・・?」
 そんなに苦しいなら首をくくって楽になれという勧めだろうか? 差し出し主を見てみると、剣太郎だった。唯一の1年部長は、楽しそうににこにこ笑っていた。
 「はい。好きなの引いて下さいv」
 『・・・・・・・・・・・・』
 そんなに死んで欲しいのだろうか? さすがにあっけらかん過ぎてためらう3人に、単に意図がわからなかっただけと判断したらしい剣太郎は懇切丁寧に解説を加えてくれた。
 「これで対戦相手を決めるそうです」
 「あ、ああ・・・」
 「そういや、そんな事もやってたな・・・」
 こくこく頷き慌てて取る。ヤバい。このままでは本当に足を引っ張る要因となってしまう。
 「みなさん選びましたか〜? じゃあ、『せーの』で引っ張りますよ?
  せーの!!」



 びよ〜ん



 『・・・・・・・・・・・・』
 全く引っ張れずに―――正確には引っ張った中央にでかでかある結び目に―――呆然とする6名+周り。部員達もびっくりだ。
 その中で・・・
 「わ〜い綱引き〜♪」
 「いや〜。面白いね〜」
 ぱちぱちぱちぱち
 「あ、兄貴・・・! 千石さんも・・・!!」
 犯人決定。
 拍手を送る不二と千石に、まずは観月が行動を起こした。
 「不二周助君! それに千石君まで!! 貴方達は一体何を――――――!!
  ・・・・・・え?」
 怒鳴り声が霧散する。くいとロープを引っ張られた。
 同じ事は4人も気付いたらしい。無言のまま結び目をむんずと掴む跡部を、全員同じく無言で見守った。
 「て・め・ぇ・ら・・・」
 ぶるぶる震える手でそれを大きく振りかぶり―――
 「今すぐいっぺん死んで来い!!」
 どがすっ!!
 魂の叫びと共にぶん投げたロープは、見事笑う千石と不二に命中した。ついでに伸びたロープ分がさらに何人かを巻き込んだ。
 それらは気にする事もなく、さらに跡部は血涙を流して暴れだした。
 「ンなに地獄に送られてえか!? だったら今すぐ俺がこの場で引導渡してやる!! そっから逃げんじゃねえぞ!?」
 「落ち着け跡部!!」
 「悪かった!! 本当に悪かった!! だから考え直せ!! 正気を失うな!!」
 ラケットを振り回し本気で殺す勢いでそちらへ向かおうとする跡部を、実質同じ思いでありながら『正気』を失えない者の宿命として、手塚と南は決死の覚悟で後ろから羽交い絞めにするしかなかった。



 かくてこの事態は、後ろから冷静に近付いた佐伯が放った、カゴによる一撃で跡部が昏倒するまで延々
10分ほど続いた。







 その夜。
 「ふふん。これでもう攻撃できないよ、景」
 「俺らのアイディア勝利って感じ?」
 「てめぇら〜〜〜〜〜〜・・・・・・!!!」
 人間とは学習する生き物である。2日連打で気絶させられ、そろそろ2人も自己防衛の方法というのを編み出したらしい。
 橘と裕太を盾にし遊ぶ不二と千石。人間バリアーは同じ人間としてどうかと思うが、そんなためらいを持ってしまう辺り確かに有用な策である事は認めなければならない。
 「おい不二、千石・・・」
 「これって、もしかしなくても〜・・・・・・」
 冷や汗を流しかろうじて笑顔を保つ―――いや、痙攣する頬が無理やり造り出す笑顔で、橘と裕太が恐る恐る見上げた。盾にした相手ではなく、それ越しにターゲットを狙う男を。
 2人無視で、燃える眼差しで不二と千石を睨みつける跡部。睨まれる2人もまた、遊びながら微妙に移動していっている。回り込もうとする跡部に対し逆回りに。
 結果、盾こと橘と裕太は常に争いのど真ん中に放り込まれた状態となった。
 怒涛の冷や汗が流れる。跡部の足元にあるのは、どこから調達したのか明らかに規定量以上の枕。千石と不二の足元には、テニス合宿には絶対いらないであろうバットと竹刀。とりあえずラケットで打ち返そうとしないところから、一応この2人もテニスプレイヤーとしての自覚はあるらしい事はわかったが。
 ・・・・・・それ以前に人間としての自覚を持って欲しかった。
 盾2人は揃ってため息をついた。
  ((つまり、この3人の中で一番の常識持ちは実は跡部(さん)だった、と・・・・・・))
 確認しても嬉しくない事。がしかし、
 そのため息に触発されるように、跡部もまたため息をついた。いや―――
 ―――全身から力を抜いた。
 にっこり笑い、枕を握る。



 「盾ごと破壊しちまえば問題ねえよな?」



 「ちょっと待ってください跡部さん!!」
 「跡部!! それは本末転倒っていうモンじゃねえのか!?」
 「てめぇらも死ね!! 俺のためを少しでも思ってくれるんだったら幸せの礎として一緒に死んでくれ!!」
 「うわわわわわわ!!!」
 「跡部くんが壊れた!?」
 「そんな! 跡部!! それは君、人としてどうかと思うよ!?」
 「てめぇらに言われたかねええええ!!!!!!」





 
30分後、部屋に戻ってきた佐伯の見たものは、
 ―――身も心もズタボロになり、それでも寝る事には成功したらしい5人の姿だった。
 それを見て、
 「あーやっぱ避難しといてよかった」
 ほっと胸を撫で下ろすコイツが、人として一番どうかと思われる。





 かくて、
 この部屋の最初の脱落者は、被害者の証言によりノイローゼと判断された跡部となった。







Σ     Σ     Σ     Σ     Σ








 3日目。跡部の代理で忍足が部屋に招かれた。そして・・・
 「お願いです観月さん。今日だけでいいですので
部屋替わって下さい
 「んふ。神妙な表情でいきなり何を言うかと思えばそんな事ですか」
 「じゃあ―――」
 「ええ構いませんよ。ぜひあの部屋に行き――――――そして今日こそ不二周助を、さらに憎っくき者たちを一斉に片付ける!!」
 雷バックに吠え猛る観月。もちろんさりげなく計算高い裕太は口にしなかった。『憎っくき者』の1人であり、同時に唯一の味方になってくれるであろう跡部は既に部屋にいないなどと。
 そんなこんなで夜。





 「んふふふふふふ・・・。今日こそ決着をつける時ですよ不二周助・・・・・・」
 「ふふふふふふふ・・・。裕太押しのけて替わりに君が来たんだ。いらっしゃい。歓迎するよ観月」
 毎度恒例、どす黒いオーラ垂れ流しで微笑み合う観月と不二。遠くから見やり、



 「な、なあ・・・。
  あの2人、大丈夫なのか?」
 「さあ?」
 「ダメなんじゃん?」
 「なら止めないと―――!!」
 「せやけどなあ。手ぇ出して俺らが恨まれても」
 「そんな薄情な事でいいのか!? 友だろう!?」
 「そ〜んな青臭い台詞言われても」
 「友人として周ちゃんに加勢しろと?」
 「いや、止めてえや佐伯。自分荷担すると騒ぎ3割増んなるわ」
 「俺は地味にこっそり終わらせるぞ? 観月抹殺して死体隠して終わりだろ?」
 「・・・そんなキナ臭い台詞言わないで」
 「だから!!」
 いい加減我慢が出来なくなったらしい。がばりと立ち上がり、橘はびしりと雄々しく件の2人を指した。
 「誰かこの2人を止めてやらないのか訊いてるんだ!!」
 『誰が?』
 3人に返されさっそく詰まる。
 「い、いつも誰が止めてるんだこういう騒ぎは・・・?」
 『跡部(くん)』
 これまた綺麗な三重奏。示された人物は、もちろん今ここにはいない。
 「ほ、他には・・・・・・」
 「君が止めたら?」
 「止める気満々やし? 2人とも自分曰くの『友』なんやろ? 公平に扱えてええやん」
 「そ・・・それは・・・・・・」
 千石と忍足に逆に指差され、しどろもどろに答える。自分が止められそうならとっくに止めている。事なかれ薄情主義ではないし、仮に見ず知らずの他人2名が争っていたならば普通に止めに入っただろう。が、
 問題なのはこの2人がこの2人だからだった。自分にはさっぱりわからない事情でいがみ合う2人。ただのケンカならともかく何だか摩訶不思議な勝負を繰り広げられれば、いくら自分とはいえ出来れば関わり合いたくないと思ってしまって無理はないだろう。
 ためらう橘に助け舟が出された―――ワケはなかった。
 ぱんぱん。
 「はい論議はここまでー。解散」
 『わーい』
 佐伯の合図と共に、2人は本当に解散してしまった。争いをほっぽって、平然と床につく。そして、
 ・・・・・・平然と寝てしまった。この怪しいオーラの中で。心臓を鷲掴みされているような不快感と恐怖を前に。
 2人が争う間中―――即ち一晩中―――寝られなかった橘。1度聞いたら1週間は耳につきそうな笑い声にうなされながら、ぼんやりと呟いた。
 「なるほどな。お前のありがたみがよくわかった、跡部・・・・・・」







 ちなみに他の部屋では。
 「裕太ー! せっかく部屋戻ってきたんだし遊ぶだ〜―――」
 「ああ、ちょっと待って柳沢」
 裕太にちょっかいをかけようとした柳沢を、木更津が軽く伸ばした手が押し留める。
 2人に見つめられ、それにすら気付かず。
 「寝られる・・・! 今日こそ寝られる何事もなく・・・!!
  お休み俺・・・! ああ何だか明日はすっげーいい日になりそうだ・・・・・・!!」
 1人きらきら眩しい裕太は、人格を半分ほど崩壊させ充実した眠りを堪能していた。







 さらに氷帝部屋にて。
 「おーい跡部〜。遊ぼーぜ〜?」
 「・・・・・・」
 「何だよだんまりかよ。せっかく誘ってやってんのにこの生真面目部長が」
 「お前ちっと位リラックスしろよ? マジで身ぃ持たねえぞ?」
 「・・・・・・・・・・・・」
 「おい・・・・・・」
 「あ宍戸さん、俺様子見てきますね」
 「おう。悪りいな長太郎」
 いつまで経っても何も返事が返ってこない。リビングから隣の寝室に身を乗り出し声をかける一同の中で、全体的に下っ端っぽい・・・もとい身の軽い鳳が、直接寝室へと向かった。
 「そういえば、樺地も戻って来ないなあ・・・」
 呟きながら寝室に入る。全ての答えはここにあった。
 豆電除いて明かりが消され、薄暗くなった寝室。ベッドの前で座っていた樺地は、鳳を見るなり口に指を当ててきた。
 「静かに・・・してあげて下さい」
 「え・・・?」
 きょとんと首を傾げる鳳。とりあえず言われた事は守ろうと、忍び足でそちらへと近付いていった。
 ベッドを見下ろし、納得する。
 (どうりで返事がないと思ったら)


 zzz・・・・・・


 跡部は寝ていた。ぐっすりと。
 なかなか戻ってこない鳳を心配(?)し、他の3人もやってくる。
 「おい長太郎―――」
 『しー』
 今度は2人揃ってのボディランゲージ。ベッドを指差され、3人も静かに部屋に入ってきた。
 「うわ・・・。爆睡・・・・・・」
 「まあ、相当疲れてたみてえだからな・・・・・・」
 「大丈夫かな侑士・・・」
 「大丈夫ですよ、忍足さんなら」
 かなり勝手に言いまくる一同。じゃんけんで決まった事―――というのを名目に、じゃんけんに弱い跡部の特性を利用して彼に全て押し付けた事とはいえ、さすがに罪悪感が募っていたらしい。
 「とりあえず、寝かしとくか」
 「ウス」
 「おやすみなさい」
 「跡部〜。頑張れよ〜」
 「せめて今日だけでもゆっくり寝ろよ?」
 合掌し、5人は部屋を出て行った。
 後には、実に幸せそうに眠りを貪る跡部だけが残された。







Σ     Σ     Σ     Σ     Σ








 4日目。疲れ果てた橘とは逆に、今度は裕太とそして跡部がぴんぴんしていた。
 よろよろと、橘が跡部に近付く。
 「跡部・・・。頼む、戻ってきてくれ・・・・・・」
 「いいぜ?」
 「な・・・・・・?」
 驚く橘に、
 跡部は実に力強い笑みで言ってのけた。



「休息[サボタージュ]完了。今日の俺様は完璧だ。今度こそアイツらを地獄の底に叩き込んでやるぜ」




 「いや待て跡部。やはりいい―――」
 控えめに断る橘の言葉は、
 一気に下降した跡部の機嫌の前に、棄却させざるを得なかった。
 「ああ? てめぇ今何か言ったか橘?」
 「な、何も特に・・・。お前が戻ってきてくれて嬉しいぞ・・・」
 「そーだよな? やっぱ俺様がいねえと何も始まんねーだろ」
 「・・・という事で、今日はウチも他のヤツを向かわす―――」
 「あ゙あ゙?」
 跡部の充電は本当に完了したらしい。ここ数日消沈気味だった気迫がしっかり戻ってきていた。
 口をつぐんだ橘の襟を捻り上げ、綺麗な笑みで彼を睨め上げる。
 「ちなみに、
  『戻ってきてくれ』っつったからには、もちろんてめぇもその部屋にいるんだよ―――な!? 橘!?
 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。ああ。もちろんだ」
 そしてまたも夜。







 「んふふふふふふ・・・。今日こそ決着をつける時ですよ不二周助・・・・・・」
 「ふふふふふふふ・・・。裕太押しのけて今日もまた替わりに君が来たんだ。いらっしゃい。歓迎するよ観月」
 毎度恒例、どす黒いオーラ垂れ流しで微笑み合う観月と不二。遠くから見やり、



 「よし跡部! 出番だ!!」
 「ああ? 何でだ?」
 「だから!! 2人を止めるんだろ!?」
 「アイツらを?」
 指差され、跡部もそちらを見てみて。
 「別にいいじゃねえか。好きなだけやらせとけば」
 「何でだ!?」
 「言うじゃねえか。友情っつーのはまず意見が対立して殴り合ってから成立すんだろ?」
 「そういうのはごく一部だろう!? というかだったらこの2人にはいつになったら友情が築かれるんだ!?」
 「まあ、周の執念深さは佐伯譲りだしなあ。冷めるまで待つとしたら・・・
  ・・・・・・
30年後くらいか?」
 「何をやったんだ観月は!?」
 地団駄を踏む橘に対し。
 跡部はふっと笑って彼の肩を叩いてやった。
 「まあ落ち着けよ橘」
 「・・・・・・まさかお前に言われる日が来るとは思わなかったな」
 そんな橘の皮肉は綺麗に無視し、誰もを虜にして止まない笑顔のまま跡部が続ける。
 「争いっつーのは関係ねえ第三者が加わると余計こじれるモンだ。実害がねえんならとことん争わせるべきだろ?」
 「そ、それはまあ確かに・・・・・・」
 「わざわざ突っ込まなくいいモンに首突っ込んで怪我してもな。勝手に潰し合うならいいじゃねえの。そのままやらせとこうぜ?」
 「説得力が一気になくなったぞ!?」
 「つーワケだから、解散。
  寝るぞお前ら」
 『わーい』
 「昨日と何も変わらんじゃないか!!!!」





 ――――――2人目の脱落者は橘となった。







Σ     Σ     Σ     Σ     Σ








 5日目。橘の替わりに裕太が戻ってきた。
 「んふふふふふふ・・・。今日こそ決着をつける時ですよ裕太君・・・・・・」
 「ふふふふふふふ・・・。そうだねえ裕太。さあ今日こそ協力して一緒にあの陰険参謀を倒そうか・・・・・・」
 「だから何で俺まで巻き込むんだよ!?」
 毎度恒例、どす黒いオーラ垂れ流しで微笑み合う観月と不二―――に巻き込まれる裕太。遠くから見・・・る事もなく、



 「何か今日は平和だな」
 「そうだな。おかげでお茶が美味い」
 「あ、サエくんおかわり〜」
 「よしよし。
1杯120な」
 「高・・・」
 「茶葉とお湯代か? ンなにかかんねーだろ」
 「そりゃかかんないだろ。5番出し位だし」
 「換えろよ!!」
 「んじゃ新しいの買ってくるから
5千円
 「どこの高級茶買うつもりだよ!?」
 「もちろん手数料」
 「ちなみに実際いくらの買うつもり?」
 「えっと・・・・・・百均?」
 「手数料
4895円!?」
 「まあ妥当な値だな」
 「どこの誰基準でだ!?」
 「ここの俺基準で」
 「最悪だな」
 「んじゃお前らは5番出しでオッケーと」
 「『お前らは』? 君は?」
 「もちろん1〜4番出しだ」
 「てめぇの出がらしかこりゃ!?」
 「ちょっとズルいよサエく〜ん!! だったら最初っから
10杯分くらい作ってちびちび分け合うモンじゃないの!?」
 「よこせその1番茶!!」
 「何やってんだよ跡部!! お前セコいぞ!?」
 「てめぇだああああああああああ!!!!!!!!!」
 ずたばたずたばた!!!







Σ     Σ     Σ     Σ     Σ








 6日目。練習終了後、室長会議と名目付けられるものが行われた。大体どこも学校単位で割り振られているため役職そのままに部長が参加し―――
 ―――混合部屋からはなぜか佐伯が参加した。
 「なぜだ・・・?」
 「いやホラ、一応副部長?」
 「部長だのマネージャーだのもいるだろう?」
 「さっきから何でか行方不明で」
 「あくまで『さっきから』なんだな・・・」
 「それで?」
 軽くすら取り上げられず流され、かくて室長会議は何の問題もないまま開始された。
 議長らしい手塚が咳払いをし、


 「とある部屋が夜な夜な五月蝿いと、他の部屋から苦情が来ている」


 「へえ。そりゃ迷惑だなあ」
 「
お前の部屋が五月蝿くて迷惑だからどうにかしてくれと言っているんだ!!」
 さらに机をどばんと叩いた。
 そんなに叩きつけて腕や肩は大丈夫だろうかと誰もに心配されながら、そんな心配は無用だとばかりに掲げた左指を突きつける。
 ―――もちろん佐伯へと。
 向けられた先で、佐伯は驚愕の顔を浮かべていた。
 「ウチの部屋が、五月蝿い!? そんな!!」
 「気付いてなかったのか!?」
 「確かに初日ちょっと障子を破り昨日もお茶を少量畳にばら撒いた! けど!! それらの後始末はしっかりしたぞ!?」
 「それだけしか残ってないのかお前の頭の中には!?」
 「他にもいろいろあるだろ毎日!?」
 「いろいろ・・・・・・?」
 佐伯が整った眉の間に皺を寄せた。元々意志が強そうにしっかり吊り上っているため笑みを浮かべていないと割ときつい顔の造作となるのだが、それすらも気付かないほど真剣に悩み込み・・・・・・・・・・・・
 ぱっと顔を上げた。


 「何かあったか?」
 『今のシンキングタイムは何だったんだあああ!!!???』


 怒鳴りながら、何となく全員察した。この部屋が―――彼のいる部屋が五月蝿い理由。何より、それを彼自身が思いつけない理由。
 「―――という事で」
 ため息の後、最初に立ち直ったのは南だった。こういうダメダメ部員を持つことに関して、実は手塚よりも遥かに慣れた人物。
 「もう残り少ないけど、部屋の人替えをしようと思うんだ。お前の部屋で、一番五月蝿くなる原因は誰だ?」
 『だからお前替われ』と暗に込めているのだが、
 ―――暗に込めようが真正面から尋ねようが通じないのが佐伯である。
 「一番五月蝿くなる原因・・・・・・?」
 再び暫し悩み込み・・・
 「それなら―――」





 ――――――部屋を追い出されたのは裕太だった。







 「何で裕太がいないのおおおおお!!!???」
 「今度はどういう陰謀ですかああああああ!!!???」
 「てめぇどういうつもりだ!? せっかくの人身柱だったっつーのに!!」
 「何!? サエくん俺らにそんなに恨みあり!?」
 「ん? おかしいなあ。それがいるから五月蝿くなるっていう事でいなくならせたのに、何でむしろ五月蝿くなるんだ?」
 「クス・・・。さすがだね佐伯。天然での嫌がらせ王者の手腕は相変わらず落ちてないんだね」
 「サンキュー淳」
 阿鼻叫喚の地獄絵図となった周りを他所に、『客』として1番茶をもらった木更津は、能面の顔に仄かな笑みを浮かべ美味しそうにすすっていた。







 再び部屋に戻ってきた裕太。一連の流れを聞き、
 「俺か・・・? 俺なのか原因は・・・・・・?」
 ただひたすら、己を見つめ直すしかなかった・・・・・・・・・・・・。







Σ     Σ     Σ     Σ     Σ








 7日目。ついに合宿最終日。夜までしっかり練習し、明日の朝帰る事となった。
 「泣いても笑っても今日で最後! もう部屋は自由に解禁しよう!!」
 今まで泣き続けもう疲れた一同がこんな暴挙に出ても無理はない。
 そして・・・




「え!? 部屋自由!? じゃあ大広間使ってみんなで泊まろうよ!!」





 そんな提案をする者が出てもまた。
 だが・・・・・・




「じゃあせっかくみんなで一緒になったんだし、思い出作りに流しそうめんパーティーをやろうよ!!」





 ・・・・・・なぜこんな提案が出るのだろう?
 しかも・・・・・・・・・




 「いいねいいね!!」
 「よっしさっそく竹用意して―――!!」




 ・・・・・・・・・・・・なぜ今までの物事を反省する事もなく、全員賛成してしまうんだろう?
 かくて・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・







ぐぎゃげふがふぅ!!!







 勢いよく流れる乾汁に乗ってやってきたあんなものやこんなものにより、合宿最後の夜は意外と静かに暮れて行った。







Σ     Σ     Σ     Σ     Σ








 そして、1週間の長きに渡るお泊り会が終わった。
 「で・・・、俺ら何のために泊まってたんだっけか?」
 「さあ・・・?」
 そこここでそんな囁きが交わされる中、



 「ぜってー2度とンな合宿には参加しねえ・・・!!」



 拳を握り橘はこんな台詞を吐いていた。だが彼は気付かないのだろうか。問題を起こしたほぼ全員が、彼と同じ3年である事を。来年になれば、今度は高校で何も知らない一同が同じ計画を企て・・・同じ企画を画策するという事を。
 逆に、



 
「ああ、早く来年の合宿に参加してえ・・・」



 裕太は、問題児が抜け平穏になるであろう次回へと早くも思いを馳せていた。



―――こうなったこの合宿は!








Σ     Σ     Σ     Σ     Σ     Σ     Σ     Σ     Σ     Σ     Σ     Σ

 何だか1年半ほったらかしなのに意外と人気らしく続きのリクの多いこの話。メインは前回のポッキーゲームですよ〜!!! と改めて強調したところで本題に入りまして。
 うーみゅ。長かった1年半。実はこの話考えた当初のサエの性格が今とまるで違うため、今と相当違う反応しますね。1日目はよっぽど投げ返させようかと思いました。まあ・・・後半になるとだんだんイっちゃってきてますが。
 そして1年半。1番の変化といえば立海が登場した事ですか。くそー。この合宿も立海がいればさらに私的に楽しいことに・・・!!
 ―――部長同士が集まった2日目、なぜああも跡部が乙女ちっくなのかというと・・・・・・立海が参加していたものだと勘違いしていたからですv その際は幸村ではなく真田となりますが、手塚・橘・南・真田(+赤澤と剣太郎もいますが)の中に跡部を入れると、妙に跡部が姫に見えてたまらないのですが。
 なお裕太、前回の罰ゲームはどうなった!?という声も寄せられましたが、今回すっかり忘れ去られてますねえ(爆)。いや、なんかもーこれ以上やらせると可哀想ですよ? 罰ゲームお題は『人身柱』だったような気もしますが。

2005.7.49