恋愛事に障害はつきものだと言いますが・・・・・・





境界線越え

 







 《不っ二く〜んvv 今度の日曜青学部活休みっしょ? 映画でも見に行かない?》
 《あ、いいね。じゃあ跡部とサエも誘って―――》
 《ああ、でも氷帝も六角も部活あんじゃないかな?》
 《そっか・・・.じゃあムリだね。
  じゃ、2人だけだけど行こうか》
 《よ〜し! じゃあ日曜ね♪ 9時に青春台でいい?》
 《うんいいよ。それじゃ、バイバイ千石君》
 《ばいば〜い不二くんv 愛してるよ〜vv》
 《あはは。もー、何言ってるのさ》
 ぶつっ・・・・・・。





 《だ〜れ〜が、部活アリだあ・・・?》
 《いや、お前本気で部活あるだろ》
 《ンなモン休みにするに決まってんだろーが》
 《うわお前部長としてサイアク》
 《ああ? じゃあてめぇはおとなしく部活してるってか?》
 《え? 自主練? ああ、敵の偵察って手もあるな》
 《・・・てめぇはてめぇで人の事言えねえよ》
 《ああ、一応自分も後ろめたいところあったんだ》
 《うっせえ。なら8時半に青春台だな》
 《あ〜あ。せっかくの日曜を、こんなヤツと一日中デートか・・・・・・》
 《なんで俺様がてめぇとなんかデートしなきゃなんねえ!!》
 《は? 何言ってんだよ。周ちゃんと千石の話だろ?》
 《ぐ・・・! 紛らわしい言い方しやがって・・・・・・!!》
 《じゃ、そういう事で』
 《おい待て―――』
 ぶつっ・・・・・・。





 以上、携帯にてデートの約束をした不二と千石、そして携帯に仕込んだ盗聴器にてそれを聞いていた跡部と佐伯の会話だった。なおただの中学生である彼ら2人による盗聴は問答無用で犯罪行為なのだが・・・・・・不二を護るためならば法律違反など大事の前の小事に過ぎなかった。
 さてそんなこんなで日曜がやってきて・・・・・・







V v v v v v v v v v v V








 「うーん。おっそいな〜千石君。何かあったのかな?」
 「くそ、遅せえ。何やってやがる2人とも・・・!」
 「遅いなあ2人とも。やっぱ場所間違えたかなあ? でも跡部からも何にも来ないし・・・・・・」
 「あっれ〜おっそいな〜不二くんってば。あー・・・、もしかして2人に見つかった・・・・・・?」
 現在午前9時
10分。『青春台』に、今全員はいる。
 唐突の事ながら『青春台』。わりとどこででも起きる現象なのだが、これは電車の駅名であり―――同時にバスの停留所名でもあれば同じ電車は電車でも場所の少し異なる
JRと都電両方の名前であり、さらに地下鉄でもまた同じ名前がある。なおかつタクシー乗り場もまたこのように呼ばれる事から・・・・・・単純に『青春台』と言われてもそれがどこだかわからないのだ。
 とりあえず確率論の問題で別々の場所を探す跡部と佐伯。実のところ盗聴器のことも知っているからこそ、上手くいけば2人を撒けるかとあえてこのような曖昧な場所を設定した千石。
 そして・・・・・・
 「前がタクシーで、その前が地下鉄となると・・・・・・そろそろ単純にバス乗り場になんじゃないかなとか思ったのになあ・・・」
 なぜか千石のパターン先読みを頑張った結果全員の裏を掻くことに成功した不二。
  「「「「違う場所に移動――――――」」」」





 9時半。一向に会える気配のない互いに、ついにネを上げた千石が不二へと電話をかけた。互いが会えず一番困るのは彼だ。せっかくのデートがどんどん短くなる。
 《不二く〜ん。今どこ〜?》
 《ああ千石君? 今地下鉄の方に向かいかけてるんだけど》
 《うっそぉ! 俺今さっきそこから離れたばっかだよ!!》
 《あはは。アンラッキーだったね。なら別の場所にする?》
 《う〜ん。ま、しょーがないっしょ。地下鉄のトコいるから》
 《うんわかった』
 それだけ言い早々電話を切るのは少しでも早く会いたいからか―――それともせめてもの抵抗か。
 「あ〜あ。せ〜っかくのデートだったのに」
 「そりゃ残念だったなあ」
 「ホント、『アンラッキー』だね、千石」
 「・・・・・・・・・・・・いいけどね」
 会話を聞きながらも全力疾走してきたのだろう。耳にイヤホン―――と見せかけインカム。髪や襟などに隠れてはいたが、口の部分にはしっかりとマイクがついていた―――をつけたまま荒い息をつく跡部・佐伯両名に、千石はため息をついた。普段の学校生活やテニスですらここまでやらないだろうに。最早他人事のようにゴクロウサマと思ってしまう。
 気まずさ―――本人たちより周りの。ギシギシと空気を軋ませつつそれでも笑顔(エセ)で楽し『げ』に話す3人は傍から見てとても怖い―――を醸し出す事1分程度。ぱたぱたと、こちらは普通に走ってきた不二が、3人を見てきょとんとした。
 「千石君おまたせ。ところで―――
  ―――なんで跡部とサエがいるの?」
 「丁度部活が休みだったんだよ」
  「「うわあ・・・・・・」」
 「ああ、俺は今日は自主練だったから」
  「「ウソくさ・・・・・・」」
 2人の説明に互いと千石がツッコミを入れる。しかし聞かされた不二は、
 「へえ。偶然だね。僕達も今日は自由なんだ」
 (『偶然』、って・・・・・・)
 (いいのかよ、それで・・・・・・)
 (いいんじゃないかな?)
 特に不思議には思わなかったらしい。一応こちらにもツッコミを入れておき、跡部と佐伯はなおも何か言おうとした千石を死角へと転がしておいた。
 何も気付かないまま、不二がにっこりと笑う。
 「じゃあ丁度いいからさ、4人で出かけない?」
 「へえ。いいね」
 「ま、どうせヒマだし付き合ってやるよ」
 「わ〜いv 4人デートだねvv」
 「ゔゔゔ・・・。不二くん、俺とだけじゃないの・・・・・・?」
 「ああ? 何か言ったか千石?」
 「あれどうしたんだよ千石。そんな所にへたり込んでて。ああ、疲れたのか。じゃあ先帰った方がいいんじゃないか?」
 「え? そうなの千石君? ごめんねせっかくの休みに無理させちゃって」
 「大丈夫です!! 俺ってばめちゃめちゃ元気満々!!」
  「「ちっ・・・・・・」」
 「何かな跡部くんサエくんその舌打ち」
 「いや別に(爽やかに)?」
 「大丈夫か。そりゃよかったな(棒読み)」
 「愛情0%の言葉ありがとう」
 「じゃあ
Lets Go!」
 かくて―――
 ギシギシの空気を余計に軋ませ、それでありながら不二の周りだけでは吐き気を催すほど甘い。そんな、近付けばその差に酔いそうな雰囲気を垂れ流しつつ、4人デートはスタートしたのだった。







V v v v v v v v v v v V








 最初やってきたのは予定通りの映画館。千石が持っていた指定席のチケット(もちろん隣同士)を横取りし、さらにその隣と後ろ2席を購入する。
 「って、なんで5席?」
 1つ多い席に首を傾げる不二の肩を抱き後ろから押しつつ、2人はにっこりと笑みを浮かべた。
 「すぐにわかるよ」
 「というワケで、お前はここだな」
 「ここ?」
 不二が座らされたのは5席の中でも1番中央にある席。案内した2人は、なぜか空いている両端を無視し、自分達の買って来た後ろの席に腰を落ち着かせた。
 「あれ? 跡部くん? サエくん?」
 「どうしたんだよ千石?」
 「おらさっさと座れよ。邪魔だろ?」
 「え〜っと・・・、どこに?」
 「空いてんだろうが不二の隣」
 「好きな方でいいんじゃないか?」
 「はあ・・・・・・?
  じゃあこっちに」
 と、千石が座ったのは不二の左隣。不二は右利きではあるが―――右利きだからだろうか―――まず右手で物を受け取り、それを左手で取り出したりなどするクセがある。必然的に、左側にいる千石がポップコーンなどを渡せばそれを受け取るためにこちら側に体を傾ける。
 そんな打算はもちろんおくびにも出さず、さも適当に選んだ的に座る。尤も後ろに座る2人はわかっていたのだろうが。その証拠に2人の席は丁度今座る千石と不二のすぐ後ろだ。映画館の大体中央に取っておいた指定席。さらに左に1つ席を取った上、左の入り口から入り案内、不二を先に座らせる事で彼を跨ぐかぐるりと回らないと右側には座れない状況下にまでしてきた2人にはクドいが本当に脱帽する。これで意地でも右を選ぼうものなら不二に言われるだろう。「あれ? せっかく後ろの2人も左[こっち]側にいるんだし、千石君もこっちにしたら? 四角形になって話しやすいよ?」と。
 どこをどう転んでも同じ状況にしかならない。あがいてもムダな事はさっさと切り上げ、4人は仲良く映画を見たのだった。なお不二の右隣は当然のことながら空席。適当に荷物でも置いておけば、『間違って』座ったり1席越しに不二に手を出す不埒な輩は防げる。残るは1人。
 というワケで、次に席を立つまでに後ろから
26回殴られた千石。なお跡部と佐伯の兄馬鹿2人組は、不二に手を出す奴等には容赦しないものの、自分達自身がその座に納まろうという気はさらさらない。だからこそ、ふざけならともかく本気で仲間割れするような事はない。
 (むしろそうしてくれた方が楽なのにな〜・・・・・・)
 空席となった不二の右隣を恨めしそうに見やりつつ思う。2人が争ったならば他に目をやる余裕などないだろうに。
 (ま、それはそれでつまんないんだけどね)
 2人の妨害も最早レクリエーションの1つ。これ無くして自分と不二の付き合いは成立しないであろう。
 「あ、千石君お帰り」
 「たっだいま〜不二くんv 俺がいない間何もなかった?」
 「何大袈裟に言ってやがる。あるわけねーだろ?」
 「そうそう。世の中お前みたいなのばっかりじゃないんだからさv」
 ごすがすっ!
 不二の手を両手で握り締めた途端
27&28発目。なお上映時間の長いこの映画は現在中休み中であった。





 「あ〜おもしろかった。ラストなんて本当に泣いちゃったよ」
 「周ちゃん昔から感傷的になりやすいもんね」
 「あ、ちょっとサエそれどういう意味!?」
 「相変わらずガキくせえっつってんだよ。そうやってすぐ膨れっ面になりやがって」
 「む〜!!」
 「まあまあ2人とも。でも、ある意味そうかな?
  だから―――これからもずっと感情豊かなままでいてね、って事」
 「サエ・・・・・・」
 「クセえ。どこの少女漫画だよ」
 「読んでんの? 跡部くん」
 「読んでねえ!!」
 「うん。でも、俺もちょっと泣いちゃったな。―――頭痛くて」
 「んじゃ次行くぞ」
 「聞いてよ〜〜〜〜〜〜!!!!!!」







V v v v v v v v v v v V








 ちょっと遅めの昼を取る。さすが千石というか、彼に連れられるまま4人が来たのは女性に特に人気のパスタ店。雰囲気もなかなか良く、昼下がりとはいえそこそこに混んでいた。
 そんな所に適当に若い男4人が固まって。客や店員の好奇の視線はそんな微妙な意味合いを含んで―――
 ―――は、もちろんいなかった。
 (な、何アレ何アレ!? めちゃくちゃカッコ良い〜〜〜vvv)
 (どっかのモデルかな〜? それとももしかしてこれからナンパとか?)
 (いいないいな〜vv 私がされたい〜〜〜vvv)
 (私よ!!)
 等々と勝手に騒ぎ立てる部外者はいいとして。
 「あ、跡部のそれおいしそうv どんな味?」
 「あん? ったくしょうがねえなあ」
 フォークに絡めたパスタを口に運びかけた跡部は、きらきらと興味津々にこちらを見つめる不二にため息をつき、
 ―――フォークを差し出した。
 「ありがと〜v」
 いわゆる『はい、あ〜んvv』。大口を開けて固まる千石とその他一同は無視し、さらに佐伯も同様に巻きつけたフォークを差し出した。
 「じゃあ周ちゃん、次はこっちも食べてみる?」
 「いいのサエ?」
 「そりゃもちろん」
 「わ〜いvv」
 ぱああっ、と花を散らせて微笑み、そちらももちろん受け取る不二。絡み損ねたパスタの端をちゅるりっとすすい、
 「あ、ちょっと付いちゃった?」
 おかげで口の端についたソースを佐伯は指で掬い取った。
 舌先を見せずそれを舐め取る彼に卒倒者が続出する中、
 「そっちもおいし〜vv」
 「そりゃよかったな」
 「うん。確かにこの店は当たりだね」
 ごく普通に受け流し、3人はそんな感想を飛ばしつつ再び自分の分へと帰る。
 と、
 「あ、じゃあ僕の分もあげるよ」
 「お前の?」
 「ああ、じゃあ千石にあげたら? ホラ、まだ千石の分貰ってないだろ? それちょ〜だいv って意味で」
 「うわ、サエくん寒・・・・・・」
 「ん? 千石、何だったら俺が直接『お願い』してあげようか?」
 「いいえ結構です」
 にっこりと、裏しかない笑みを向ける佐伯からは早々に視線を外し、千石は不二に向き直った。
 「じゃあ千石君、はいあ〜・・・vv」
 「あ〜〜〜・・・・・・」
 (あ〜〜〜vv 不二くんが俺のために〜〜〜vv 俺ってラッキ〜〜〜vvvvvv)
  「「ん!!」」
 2人の声がハモる。笑みのまま千石の口へとフォークを一気に突っ込む不二と、目を見開き一瞬で真っ赤にした顔中から汗を噴出す千石の声が。
 白目を向いた千石が後ろへと倒れかけ―――
 ―――ギリギリで戻ってきた。
 「辛〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!」
 叫んで水を一気飲み。全然飽き足らずに自分の分のパスタをかっ込む。心配して水を持ってきてくれたウエイトレスさんから水差しを奪い、5杯ほど咽に流し込んだところでようやく落ち着いた。
 落ち着き、思い出す。
 「不二くん・・・。そういえばさ、頼んだパスタ、カルボナーラじゃなかったっけ・・・・・・?」
 「そうだよ?」
 何を今更、と首を傾げる不二。彼の目の前にある皿は真っ赤に染まっている。
 さらに視線を逸らす。近くにあったタバスコを手にとって振ってみれば、空っぽだった。
 ウエイトレスさんに説明を求めるようにタバスコを向ける。彼女はぶんぶんと首を振った。可愛いその顔は引きつり、まるで未知の物を見るように紅い皿とその食べ主に向いていた。
 「あ、ゴメン。千石君も使う?」
 「いや・・・。俺はいいかな・・・・・・」
 さらに逸らす視線。その先で千石へとそれを勧めた元凶は、
 何も気付いていないかのように、平然とパスタをすすっていた。





 「ちょっとサエくんも跡部くんも酷いんじゃない!?」
 「は? 何がだよ」
 「さっきのパスタに決まってんじゃん! 何で俺に押し付けんのさ!!」
 「んなの気付かねえてめぇの責任だろ?」
 「ちょっと位教えてくれたってバチは当たらないと思うんだけど!?」
 「別にいいじゃん。ちょっと辛い思いしたただそれだけで、周ちゃんと念願の『はいあ〜んv』が出来たんだろ?」
 「感謝されこそすえ、文句言われる筋合いはねえなあ」
 「ゔゔゔ〜。本気で俺だけ損してるっぽい―――」
 「―――お待たせ〜。あれ? 千石君どうしたの? なんか浮かなさそうな顔して」
 「慰めてくれんの不二く―――!!」
 「気のせいだよ周ちゃん」
 「おらさっさと行くぞ」
 「そう?」
 「しくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしく・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」







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 さて続行される『デート』。映画を観て食事をして、となると次はこんなものか。
 最近出来たというアウトレットへ行く4人。最近のアウトレットは遊び場や男性向けの店も増え親子で楽しめるらしい。
 初めて来たそこに、きょろきょろと物珍しそうに見ながらどんどん奥に入っていく不二。同じく初めて来た身ながら、あまり買いものに興味のない跡部と佐伯は、そんな不二をじっくりと鑑賞した。
 「あ、であっちが俺のオススメで―――」
 唯一来慣れている千石にナビは任せ、3人はその後ろをついて―――
 「―――ってアレ?」
 なくなった返事に振り向く。その時にはもう、彼のそばには誰もいなかった。





 千石が指すのとは全然別の方向にふらふらと入り込んでいった不二。止める理由も―――ついでにそれを千石に知らせる理由も―――なかったため2人もまたついていく。
 「このお店いいな〜」
 ウインドウに飾られている商品から見るに、カメラ専門店らしい。カメラそのものを気にいったのか、それとも落ち着いた雰囲気を気にいったのかは謎だが、これまた入るのを止める理由はない。
 「なら入ってみたらいいんじゃねーの?」
 「いいの?」
 「そりゃもちろん。せっかく来たんだから、いいのがあったら見てみないと」
 「じゃあ見てみよ〜♪」
 自分の趣味だけを優先させるのはどうかと思ったが、そう言ってくれる2人に笑顔で礼を言い、中に入った。





 「ああ! いた〜不二くん!!!」
 暫くして、不二を(厳密には3人を)発見した千石。その時には・・・・・・
 「これいいな〜・・・・・・」
 不二は気にいったらしいカメラを手に、じ〜っとそれを見つめていた。カメラそのものと―――置かれていた値札を。
 「んじゃ買えばいいんじゃねえの?」
 「う〜ん・・・。でもちょっと値段が・・・・・・」
 「あれ? アウトレットって安くなってなかったっけ?」
 「なってる・・・・・・んだけど・・・・・・・・・・・・」
 曖昧な答え。視線に流されるまま、佐伯もそちらを見やり―――
 「――――――ああなるほど。へえ、カメラってそんなに高いんだ」
 「仕方ないか。お金貯まったらまた来よ。上手くいったらまだあるかも」
 「なら―――」
 口を挟みかけた跡部―――をさらに遮り。
 「だったら俺が買っちゃうよ!」
 「え? 千石君、でも・・・・・・」
 「だ〜いじょうぶだって♪
  今日のためにちゃ〜んと費用は貯めておいたんだから。それにせっかく見つけたチャンスでしょ? 逃しちゃもったいないよ」
 「けど、そんな千石君からもらう理由なんて・・・・・・」
 「あれ? ない?
  俺は今日不二くんといられるだけで幸せいっぱいなんだけどな〜。そんな幸せをくれた不二くんに幸せ返し〜☆ なんてね」
 「千石君・・・・・・」
 うるうると見上げてくる不二に、感激した千石がレジまで軽やかに跳ねていき―――
 「はい
10万円ね」
 ―――そこで撃沈した。
 「あの・・・千石君、大丈夫?」
 「あ〜あ。千石終わったって感じだな」
 「フッ。この程度でイっちまうようじゃあ話にならねえなあ。
  ―――不二、俺様が買ってやるよ」
 「え? 跡部が?」
 「まあ確かに、跡部からしてみればこの程度たかが
10万こっきりって感じだろうな」
 「でも・・・・・・跡部に買ってもらう理由ないよ?」
 なおもためらう不二。まあ当り前だろうが。
 そんな不二の頭をぽんぽんと撫で、
 「なら貸しといてやるよ。金が出来たら返せばいい。利子は0にしてやる。ありがたく思いな」
 「ホント!? ありがとうvvvv」
 カードを手にいつもの笑みを浮かべる跡部へと不二が抱きついた。







V v v v v v v v v v v V








 「今日は本当にありがとうvv」
 「どうだ? 楽しめたか?」
 「うん! すっごく楽しかったよ!」
 「そっか。よかったね」
 「うんvv」
 「ところで不二くん、聞いていい?」
 「え? 何?」
 「今日さ、何のために集まったか、覚えてる・・・・・・?」
 「遊ぶためじゃないの? みんなで」





 きょとんとする不二に、ため息をつく千石。珍しく大爆笑する跡部と佐伯。
 「くっそ〜! こーなったら実力行使!! 不二く〜〜〜―――ぐ!!!」
 落ち込みから一転、立ち直りかけた千石を当然の如く跡部と佐伯のダブルかかと落としが襲った。実力行使を選んだのはなにも千石だけではなかったらしい。
 ―――ちなみに千石の質問に対する正解は『2人でデートするため』だったのだが。
 「・・・・・・大丈夫? 千石君」
 地面に倒れる千石の頬を、しゃがみ込んだ不二がつんつんと突付く。反応は一切ない。
 「ほっとけ、ンな馬鹿野郎」
 「そうだよ周ちゃん。もう夜も遅いし(注:現在午後6時)、そろそろ帰らないとね」
 「うん・・・・・・」
 先に歩き出す2人に返事し、振り向きざま立ち上がろうとして―――
 「え・・・・・・?」
 頬を突付いていた手を取られた。
 「ありがとv 心配してくれて」
 「千石く・・・ん・・・・・・?」
 耳元への囁き。同時にほっぺたへの掠めるようなキス。
 そして、
 どすがすごすっ!!!
 「ひぎゃああああぁぁぁぁぁ
ぁぁぁぁぁ・・・・・・・・・・・・」
 瞬間移動並みのペースで戻ってきた2人により、とどめを刺される千石。
 「え〜っと・・・・・・」
 「おら行くぞ周!」
 「さあゴミは放って置いて行こうねえ周ちゃんvv」
 「・・・・・・・・・・・・。ま、いっか」
 肩を竦め、不二は立ち上がった。その前に一瞬だけ指先で唇に触れ、さらにそれを再起不能そうな千石の唇に触れさせて。
 そんな不二の様を振り向いた先でしっかり見ながら、跡部はため息をつき、佐伯は苦笑するだけだった。
 「じゃ、帰ろ♪」
 2人の間に収まりながら、不二が体重をかけて両腕を絡める。もちろんその程度で体勢を崩すほどやわでもない。しっかりと不二の体重を支え、3人は家路へとついた。







V v v v v v v v v v v V








 「次こそ絶対不二くんとちゅーするからね〜〜〜〜〜〜!!!!!!」
 1人置いていかれた道端で、千石は夕日辺りにその思いを宣言していた。
 なかなか虚しいことをやる彼の顔にはしかしながら―――





 ―――小さく笑みが浮かんでいた。



 

―――進展なしにHAPPY END





















V v v v v v v v v v v v v v v v v v v v v v v v v v v v v v v v v v v v v v v v V

以上、幼馴染下における千不二話でした。実はこのサイト的幼馴染設定における唯一の(?)欠点だと思われていたもの、それは千不二話が書けない!! というものでした。いや〜お兄ちゃんs強すぎ。しかも他の人相手ならまだしも、千石さん相手なら絶対情け容赦ないだろうなあ・・・と。
 ―――そう思っていたのですが一転。むしろこの幼馴染設定、1番書きやすいのは千不二!? この話では絶対意味がわかった方はいらっしゃらないだろうなあ、と断言したい位の不足ありすぎ内容でしたが、お兄ちゃんsは別に2人の付き合いは反対していません。むしろどこぞの馬の骨に大っっっっ事な!!! 娘―――もとい弟をやるよりは遥かにいいでしょう。ただしだからといってサコサコ結ばれてはムカつく。せいぜい自分達の手の平で存分に踊ってろ。むしろ面白おかしく楽しませろなんていうアンタら鬼か的発想により苛めてるだけで。そしてもちろんそれは全員了承済。
CP千不二などと言いつつもこの2人はお兄ちゃんsの存在無しにはくっつかないかと。なんだかんだ言っても4人でいるのが好きなんだなあああもお勝手にやってろバカップルども(誤)!! といった感じです。
 はい。では以上、仕切りなおしましてこの幼馴染設定の新たな欠点、むしろ逆に千不二と絡むお兄ちゃんs以外の展開にしようがない、という問題が浮上してきた辺りでさよ〜なら〜。
 ・・・・・・せんべとサエ不二・千不二と虎跡だとお互いが絡まない。跡不二だとサエと千石さんが絡みようがない。やっぱこの幼馴染一同、恋愛関係を持ち込むのがそもそもダメっぽいです。

2004.3.26

 

 そういえば駅? での待ち合わせ、私はついこの間やりました。私は自分の使う電車の駅で待ち、友人の1人はもしかしてとモノレールの駅で待ち・・・・・・正解はバスの停留所でした。誰一人として使った事のないそこはさすがに思いつきませんでしたね。