The Secret makes Woman Woman ?
〜おまけ〜
その後1
一通り終わった試合。なお不二の相手はまたしてもジローだった。
不二と入れ代わる形で中等部から氷帝へと入ったジロー。日吉共々おかげで不二の事を知らず、「へー! おめぇ女だったんだー!」と驚きはしたものの、だからといって手加減したりする事もなく、また不二もショックからは完全に抜け去り、この騒ぎも練習試合にはさしたる影響を及ぼさなかった。強いていえば不二が氷帝ジャージを着続けていたため非常に紛らわしい事、ジャージの下に着れる服がなかったため脱ぐ事が出来ず、熱さで軽い脱水症状を起こした事、さらにそんなこんなでジャージのファスナーをかなりきわどいところまで下ろしては周りみんな(特に青学メンバー)を卒倒させその度に跡部に殴られた事くらい・・・・・・こう並べると、もの凄く弊害が多かったような気もする。
試合が終わり、挨拶も終え、
「ああ、そういや言ってなかったな」
ふいに跡部が声を上げる。
「今日は悪かったな。氷帝[ウチ]の部員が迷惑をかけた」
謝っているのかどうか謎な言い方に、まだ不二に懐いていた英二が文句を言おうとする。
「にゃんだよその言い方! おかげで不二がどういう思いしたと思って―――!!」
「英二!」
「だ、だって不二〜・・・・・・」
「うん。ありがとうね英二。僕の事心配してくれて。でも別に僕は何ともなかったんだし跡部が悪いわけじゃないよ」
「う〜・・・・・・」
唸る英二をなだめ、不二が跡部に向き直る。
「アイツらは―――」
言い、気まずげに目を下ろす。
不二も跡部の事はよくわかっている。たとえ恋人が襲われたとはいえ、襲った彼らも立派な氷帝部員。注意や罰程度はあるだろうが、公私混同で辞めさせたりする事はしないだろう。
そういう性格の彼だから、愛しているのだ。
だからこそむしろその彼の曖昧な態度に微笑み、不二が手を振り―――
「―――殺しとけv」
「は・・・・・・?」
いきなり横手からかけられた言葉に、さらに同時に横手から引っ張られ、笑顔のまま間抜けな声を上げた。
「てめぇは・・・・・・どっからわいて出やがった?」
「ははっ。お前だけには言われたくないな」
「あれ? サエ?」
本気でどこからわいて出たのか、笑顔で問題発言をしつつ英二の手から不二を奪取した佐伯。さらに佐伯の手から不二を奪取する跡部。
急激な勢いと角度で移動しながら―――余談だが、不二のバランス感覚はこのような環境下で発達した・・・らしい―――不二が平然と尋ねる。
「どうしたのさ、こんなところまで来て」
「ん? 俺?
今日青学と氷帝が練習試合だって聞いて、跡部が何か馬鹿な事してないか見張りに来たんだ」
「てめぇはてめぇで暇なんじゃねえか」
「そんな事ないだろ? わざわざこうして忙しい合間を縫ってだなあ―――」
「千石か? てめぇは・・・・・・」
「ああ、確かに口調も内容もそっくりだったね」
「ぐ・・・・・・」
2人の突っ込みに珍しく詰まる佐伯。どうやら彼の中での『屈辱』のボーダーラインは千石にあるらしい。
「それはともかく跡部、お前俺が前に言ったこと、もちろん覚えてるよなあ?」
佐伯の目に冷たい光が疾る。いつから見ていたのか、少なくとも今日起こった事は全て知っているのだろう。
「ああ。『何かやりやがったらすぐに取り返しに行く』だろ?」
平然と跡部も答えた。確かに直接跡部がやったわけではないが、『何かあった』ばかりだというのに。
不二の上で2人の目が静かに絡む。周りから見れば一触即発。不二から見れば―――嫉妬したくなるほどの深い繋がり。
なおも暫し、言葉を必要としない深い深い・・・・・・腹の底の探り合いをし、
佐伯がにっこりと微笑んでみせた。
和やかになった雰囲気にほっとする周り。一方、顔を引きつらせる跡部。彼の方が正しかった。
「じゃあ―――」
それを合図に、不二の腕が再び引かれる。
「甘めえ!」
不二の腰を抱き、自分ごと跡部が一歩下がる。
「残念。甘いのはお前」
腰から引かれたおかげで、慣性の法則により前のめりになる不二の上体。さらに佐伯に引いた手を肩へと上げられ、前へと倒される。
「うわっ!」
不二が声を上げる。完全に泳いだ上半身。肩に置かれた手を弾き跡部が足を止めるが、再び慣性の法則にて不二が自分の元へ戻って来るのには一瞬の間がある。その間を利用して前に進んだ佐伯が―――、
「―――っ」
一瞬、掠めるように不二の唇に触れた。
ほっとした周りが硬直する。彼の行動にか、それとも・・・
「てめぇ・・・。今すぐ殺してほしいか? アーン・・・・・・?」
ゴゴゴゴゴ・・・と怒りのオーラを撒き散らし、底冷えするトーンでそう言う跡部にか。
そんな跡部をそれこそ平然と見やり、
「ま、その様子なら大丈夫だな」
うんうんと頷く佐伯。わけがわからず眉を顰める跡部を他所に、
「あれ? 佐伯。お前不二の事って知ってんの?」
英二がきょとんと尋ねた。そういえば彼は以前『周』の事を尋ねた時も、しれっと何か言っていたような・・・・・・。
「そりゃ知ってるさ。幼馴染なんだし」
「んじゃあ、こないだ俺に言ったのって・・・・・・」
「ああ。一応何か訊かれたらそう答えようって設定は元々あったし」
「・・・・・・ああ。もしかして千石も知ってたり?」
「するな。ついでにまあ、この辺りはもうお前たちも知ってるだろうけど氷帝部員の半分くらいもな。
話戻して、その千石から連絡あったし。俺に振っといたから訊きに来んじゃん? って」
「そういや言ってたな。てめぇの方が人騙すのは上手いって」
「はっはっは。俺が? アイツより? まさかv
――――――さ〜って千石、お前次会った時覚悟しとけよ・・・・・・。
以上。そんなわけなんだ、菊丸」
「はあ。そんなワケにゃんだ・・・・・・」
「そう。そんなわけなんだ。だから―――」
笑顔のまま、佐伯が英二の襟首を掴む。凄まじい勢いで捻り上げ、
「お前も必要以上に周ちゃんに絡むなよvv わかった上で故意にやった場合は、この間の試合でのイビリが戯れにしか思えないような罰を与えるからなv」
「にゃ〜〜〜〜〜〜!!!!!! あれはやっぱ俺イジメだったの〜〜〜〜〜〜!!!???」
どす黒い、真っ黒けっけな笑顔で警告され、悲鳴を上げつつ英二が助けを求めるように辺りを見回した。
その肩に、さらにぽんと手が置かれる。
「ああ全くだ。次から周に必要以上に絡みやがったら1回につき1回ずつ破滅への輪舞曲ラケットなしで直接喰らわせるからな」
「に゙ゃあ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!!!!!!!」
手を置いた跡部が、こちらも異常としか言い様のない笑顔で宣告する。体に直接喰らうというと切原の各種攻撃が懐かしいが、跡部の輪舞曲ならば1発で骨折程度は免れられないだろう。しかも『1回』とはいってもあれは2段攻撃だ。
恐れ戦き、英二を見捨て10m以上後退する一同。既に慣れた身としてそれを遠巻きに見ながら、氷帝メンバーがため息をついて助言しておいた。
「まあ、そないな感じやから次から不二と接する時は気いつけた方がええで」
「本気で命の保障されてねえからな」
「しかも今までは不二が男って事で通してたおかげでこの2人も目立った事は出来なかったけどな」
「これからは平気で学校乱入部活妨害してきますから」
全く以って何のありがたみもない言葉の数々に、
青学一同は先程の感激の(?)言葉とは裏腹に、このはた迷惑極まりない災厄をもたらす『青学の天災』の再来に、ただただため息をつくしかなかった・・・・・・。
その後2
夜。跡部の携帯に電話がかかってきた。
《景〜。今日一緒に寝ていい・・・?》
心細そうな周の声。その後いろいろあって一時的に忘れてはいたのだろうが、夜暗い部屋で1人になり、改めて思い出したのだろう。昼間3人の男に犯されかけたことを。
あえてそれでも1人にした。ヘタな気遣いはせっかく固まりかけたカサブタを剥がすようなものだ。それに・・・・・・
「しょうがねえなあ。裏のセキュリティ解除しといてやるから直接来いよ」
《うん・・・・・・》
面倒くさそうな声とは裏腹に、跡部の顔はとろけそうなほどに甘い。頼られる事が嬉しい。そうやって、依存される事に依存する。わかっているから、電話の向こうで周も嬉しそうな声を上げた。
不二家と跡部家は直に接している。とはいっても厳密な意味での『隣同士』ではない。跡部家のバカでかい豪邸の裏の塀に、不二家などがくっついているのだ。だからこそ不二家に遊びに来た者たちも、説明されなければ跡部とはお隣さんだと気付かない。
両家の間の塀に、通り抜けられる便利な扉などついてはいない。だが小さい頃からの慣れというか慣わしで、互いの家へ行き来するときは大抵の場合塀をよじ登っていく。だからこそセキュリティ解除云々などという会話が出るのだ。
「じゃあ後でな。
―――ああ、『枕が替わると寝られない』とかホザいて枕持って来んのは止めろよ」
《え〜。いいじゃない別に》
「ンな理由で俺様の腕枕断りやがって。すっげー屈辱だ・・・!!」
《はいはい。景ってばワガママだなあ》
「てめぇだけにゃ言われたかねえよ。
んじゃさっさと来いよ」
一方的に言い放ち、ぶつりと電話を切る。だらだら話はしない。せっかくこれから会えるのだ。そんな事をして会うのを遅らせるのも馬鹿馬鹿しい。
携帯を机に置き、跡部はリモコンでセキュリティの一部を解除すると、靴を履き2階にある自室の窓からするりと身を躍らせた。
・ ・ ・ ・ ・
跡部と抱き合い、キスをする。誘われるままベッドに横たわり、上に被さる跡部が服に手をかけ―――
「・・・・・・っ」
ぴくりと、周の体が縮こまる。反射的な拒絶。昼間の行為が蘇る。
そこで止まり、じっと見下ろす跡部に、
「あ、ご、ごめんその・・・。別に景が嫌ってワケじゃないよもちろん。ただ反射的な行動でだから・・・・・・」
両手を振り言い訳し・・・・・・だんだんその声が小さくなっていく。
跡部を嫌がった。どんなにイイワケを重ねても、この事実が消える事はない。
気まずさに、罪悪感にたまらず顔ごと視線を逸らす周。もちろんそれがわからない程跡部は周の事を知らないわけではない。
わかったからこそ―――
「おらてめぇ俺様拒否するなんざいい度胸じゃねえか!!」
怒鳴りつけ、跡部は周へと襲いかかった。
「え? ちょ・・・景!! うわああああああああ!!!!!!」
そのまま、ノリで寝技など極めてみる。
「ギ、ギブギブギブ!! ロープ! タオル!! なんか腕外れそうな気がするんだけど!?」
それこそ千石と同じ口調と台詞で周がばんばんと布団を叩く。なんだかんだやりつつ、互いが互いに影響を及ぼしあっているらしい。
「よし」
ひとつ頷き、跡部が周を解放・・・しようとし・・・・・・
がしゃぁん―――!!!
「周ちゃん大丈夫!?」
「サエ!!」
「うお佐伯・・・。つーかここ2階じゃねえか・・・。てめぇは毎度毎度どうやって来てやがる・・・・・・?」
「そんなに誉めんなよ跡部。照れんじゃん//。
ていうか周ちゃんのピンチなら来ないワケにはいかないだろ?」
「第一で誉めてねえ!! ざーとらしく頬染めんな!!
しかもそのたんびに器物破損してんじゃねえ!! 普通に玄関から入って来い!!」
不二家同様、跡部家の裏にある佐伯家(母方の実家)。どうやら佐伯は周同様に塀を乗り越え入って来たらしい。周の通過後、即座にセキュリティは元に戻しておいたのだが、コイツに対してそれが全く有効に働かないのは今までの出来事でよくわかっている。
「大体どこが周のピンチだ! 俺は周が変に意識するから普通に絡んでやっただけだろ!?」
「お前が組み敷いた時点で周ちゃんの大ピンチに決まってるだろ!?」
「ンなワケあるか!! 俺がいつコイツをピンチな目に遭わせた!?」
「いつもいつもだ!! お前のせいで清純な周ちゃんが――――――ってやっぱこの話題止めようか」
「ああ、そうだな・・・・・・」
非常に嫌な人物を思い出し、2人の勢いがふしゅるるる〜・・・と収まった。
全員で一息つき、
「じゃあ今日は3人で寝ようかv」
「ああ?」
「あ、いいなそれ」
「待て佐伯。周はともかくなんでてめぇまで賛成しやがる?」
「そりゃお前と周ちゃん2人っきりにしとくと何しだすかわかんないからだろ?
―――そういや必要以上に絡んだらペナルティとして1回につき輪舞曲1回だっけ?」
「てめぇはわざわざンな技使わねえでも今すぐここでぶちのめしてやるよ」
ばきぼきと指の骨を鳴らし火花を飛ばす2人。またしてもないがしろにされムカついた周が、
「じゃ、お休み」
2人の腕に両腕を絡め、全てを無視してぼふりとベッドに横たわった。
引きずられてこちらも横たわる跡部と佐伯。周を間に挟むように2人とも内側を向き、
跡部は電話で話した通り周の頭の下に己の腕を敷きもう片腕で抱き寄せ、
佐伯は片腕を周に絡めたままやはりもう片腕で抱き寄せる。
「ああ、ゆっくり休めよ、周」
「お休み、周ちゃん」
両側から囁き、2人で周の頬にキスを送った。
恋人らの夜は、優しく更けていく・・・・・・・・・・・・。
―――今度こそFin
・ ・ ・ ・ ・
跡不二・・・? なんか途中、不二跡になってたり、最終的にはサエ跡不二で収まってたり、ってか虎跡(あるいは跡虎? どうでもいいですがこの並び順、むやみにかっこいいぞ。ちょっぴり『跋扈』って感じ・・・・・・)で不二がどっちにヤキモチ焼いてるのか不思議だったりいろいろしますが、これは跡不二ですええ断言して。
跡不二とそれに絡む佐伯。彼にとって2人は可愛い弟&妹です。そして時にきょうだいや友人というのは恋人以上に親しくなったりするものです。というわけでサエがむやみに出張ってます以上。
ではなぜか1話のはずだったこの『The以下略』。とりあえずの区切りがついたのでここでまとめて挨拶を。今までありがとうございました。そしてなんだか変則verでまだまだ続きそうな予感がします。よろしければこれからもまた、たらたら長々超不定期更新になりそうですが、出来ましたらお付き合いくださるようよろしくお願い致します。
2004.4.30