プチ小説27 六角編5 〜合流点・青学と〜
脅迫した―――もとい親切に教えてくれた男の供述を基に原住民らのアジトへと向かう3人。辿り着いた洞窟へと、互いに1つ頷き合って入る―――なり見つかった。
「ここは強行突破だな」
焦る2人をよそに至極冷静に言い放つ佐伯。
「強行突破、って・・・・・・」
「何でだよ?」
向かってくる者達を指差し黒羽と亮が問いた。彼らは一様に棍棒だの鎌だの武器を持っている。洞窟はそこまで広くはないのだが、だからこそ短めの武器であり振り回すのにさしたる障害はない。
素手で行けば相当に痛い。というか死ぬ。こちらの武器はラケット程度―――
「ああ、これで」
と、佐伯が掲げたのはトンファーだった。
「はあ? それ?」
「どうしたんだよサエ、それ」
「この間襲われた時パクった」
「・・・・・・あ、そう」
「いいけどよ、別に。
―――でもそれ1つでどうすんだよ。向こうどう見ても10人はいるだろ?」
2人の表情が全く晴れないのも当然の事。友人の明らかな犯罪行為はこの際いいとして、それだけの人数相手にたかだかトンファー1丁では武器なしと同じようなものだ。その程度の武装で佐伯はどうするつもりなのか。
などと思う2人を押しのける形で佐伯が1歩前へ出た。
「とりあえず、
―――耳は塞いでた方がいいよ。最初は特に痛いし」
『はあ?』
疑問の声を上げる間に、
ずだだだだだだだだ!!!!!!
佐伯の翳したトンファーから射出された『何か』が、向かい来る男らを肉塊に変えていく―――というとグロテスクなため普通に『打ち倒していく』と言い換えておくが。
静かになった空間。発砲音が空気を震わせついでにもちろん耳を塞ぐ余裕などなかった2人の鼓膜も麻痺させたままながら、とりあえず静かにはなった。
「なあ、サエ・・・。お前それ・・・・・・」
「もしかして、鉄砲だったり・・・・・・しないよな?」
青褪めた顔で今度は佐伯の持つ『トンファー』を指差す。今まで襲われた中で、火器など一度足りとも用いられなかった。ならば彼はこれを一体どうしたのだろう・・・・・・?
2人が指差すそれを見て、
佐伯はあっさり断言した。
「ああ、一応自家製の拳銃。まあ初挑戦だしまだまだ改良の余地とかはいっぱいあるけど。威力とか精度とか」
「そ、そうか・・・・・・」
向かい来る者たちに確実に全弾当て、しかも至近距離とはいえ頭蓋骨を吹っ飛ばす勢いだったがそれでもまだ足りないらしい。さすが『殺戮者[スレイヤー]佐伯(とここに至るまでに影で命名された)』だけある。
と―――
『様子見てきます!!』
洞窟の壁で反響されつつ、奥の方からそんな声が聞こえてきた。大方今の発砲音にビビった原住民らだろう。
「げ・・・! 人増えんじゃんかよ・・・」
「サエ・・・。お前俺達苛めて楽しいか?」
「苛める? 何言ってんだよ。俺はみんなの安全のことを思ってるに決まってんだろ?」
「その台詞さ・・・、本気か?」
「もう諦めろよ亮。コイツは100%絶対確実に本気で言ってるから」
帽子の上からでもわかりそうなほどの勢いで冷や汗を流しつつ呟く亮に、こちらはもう閉じた瞳から涙を流しつつ黒羽が首を振った。
そんな彼らを曇り一片もない純粋な疑問顔で見つめ、とりあえず佐伯は展開を進めることにした。
「じゃあとりあえず、そっち向かおうか。
―――ということで、バネさん、亮。頑張れv」
『はい?』
今・・・・・・何かとてつもなく不条理なことを言われなかっただろうか?
現実に戻ってきて声を上げる2人に、佐伯は笑顔のまま両手に持った銃内蔵型トンファーをこんこんと軽く打ちつけた。
「危なさそうだったら援護射撃するからv」
「いやそっちの方が遥かに危ないだろ・・・・・・」
「でもバネさんも亮も銃の扱いは無理だろ?」
「うーん・・・。そりゃまあ・・・・・・」
問答無用で説得力溢れる発言。素人の拳銃扱いは危ない。ヘタすると反動で己の脚を打ち抜く。その辺りはそれこそ『素人』たる自分らも知っていること。
「・・・ってちょっと待てよ。お前だって『素人』じゃあ―――」
「細かい事は気にするなよv」
『・・・・・・・・・・・・』
「それにホラ、銃のライセンス持ってるやつも身近にいるし」
「お前は持ってないのかよ・・・」
「あと一歩で詐欺だろその言い方は・・・・・・」
「まあまあv」
佐伯の鉄壁の(どちらかというと液体水銀の、か。何をしても壊れなさそうだ)笑顔に押され、なし崩しに2人が斬り込み隊として向かう事になった。
―――実はこの時点でこちらは時間を掛けすぎ、「様子見てきます!!」と言った者とは途中の分岐点ですれ違いになっていたのだが、まあこの辺りは後々事態を引っ張る伏線となるため今は無視する。
とりあえず前に進む2人(とついていく1人)。暫し進み、死角の向こうに人の気配を発見した。
「じゃあ手筈通り。俺達がまず向かうから、お前は戦闘になったら踏み込めよ、サエ」
「逆に言ったら、戦闘になるまで絶対に踏み込むなよ」
「そりゃもちろん。
―――ああ、じゃあわかりやすいようにさ、大丈夫だったら合図くれよ。突入後5秒以内に」
「突入後5秒以内、って・・・さすがに短すぎねえか?」
「だな。相手の確認とかしてたら5秒なんてあっという間だろ?」
「そうか? じゃあ10秒以内くらいでどうだ?」
「まあ・・・、その程度なら」
「・・・・・・だな」
そんなやり取りの後、黒羽・亮両名は人の気配のする方へと突入していった!!
突入班2人。その先で待っていたのは・・・・・・
もの凄くよく見慣れた一同だった。
「え・・・・・・?」
「アンタたちは・・・・・・」
「黒羽君に、亮君・・・・・・?」
「なんで六角がここに・・・・・・?」
「いや、そりゃ俺らの台詞だけど・・・」
「乾に不二、桃城、越前まで・・・。なんでお前ら青学がンなトコいんだよ・・・・・・?」
なぜかそこにいた青学メンバー4人。確か向こうは探偵ちっくなものを選んだ筈だ。いるべき世界は全く違う。
「あ・・・・・・」
なんと声をかけていいか戸惑う一同。だったが・・・・・・
後ろで増大する気配―――というか殺気―――に、2人が我に返った。
ざ―――っと、面白いように顔から血の気が引くのがわかる。
―――『ああ、じゃあわかりやすいようにさ、大丈夫だったら合図くれよ。突入後5秒以内に』
そういえば後ろにいたヤツ(最早名前も思い出したくない)がそんな事を言っていなかっただろうか? その後5秒は10秒まで引き伸ばされたが、今の呆然としていた間では余裕で15秒は経ったのかもしれない。
(いや、アイツの事だから10秒きっかりで攻撃しかけてくるだろうな・・・・・・)
予言などよりも確実に見える未来。その先にある―――いや、もう『その先』はない自分達の人生に、なんだかもう開き直って冷静に考える。しかしながらそんな運命を受け入れた自分達ならばともかく、何も知らない4人をいっしょくたに殺させるのは気が引ける。
「ってちょっと待て!!」
「ストップさ―――!!!」
2人は急いで後ろを振り向いた。両手を掲げ―――、
ずばだだだだだだだだだ!!!!!!!
―――わかってはいたが綺麗に無視され、2人の人生はあっさり終わりを告げた。
消滅しかかる2人に聞こえたのは、残り4人の上げた『え・・・・・・?』という甚だ道理に合わない事態に意味のない声と、
そして、
だだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだ!!!!!!
それすらも無視した佐伯の一斉射撃の音だった・・・・・・。
「さって、危険は回避されたな」
暫し後、気配のなくなった場所へふらりと現れた一番の『危険』―――もとい佐伯はぐるりと辺りを見回した。他と変わらぬ洞窟の通り道。変わっているのは銃弾により抉れたところ程度か。
見回し、首を傾げる。
「おかしいな・・・」
あるはずの死体がない。手ごたえは確かにしたというのに。
「バネさんと亮はともかく、この『世界』のヤツだったら残ってるはずだしなあ・・・・・・」
―――ちなみに六角サイドでは今まで参加メンバーが死ぬ場面においてロクな描写がされなかったためわかりにくいが、参加者が『死んだ』場合は、データ消滅という意味で光った後跡形もなく消え去る仕組だ。
「そういえばさっきの声って・・・・・・」
ふいに思い出す。反響していてわかりにくかったが、あの男にしては中途半端に高い猫声は・・・・・・
と、
再び現れる気配。今度は後ろ、自分達の来た方からだった。
(やり過ごされた、か・・・?)
あえて振り向かず、気配だけでそちらを探る。急いで振り向くのは得策ではない。その動作が隙となる。
走るペースでの足音を伴って近付いて来た気配は、適当な位置で強制的に止まった後無言で声を上げた。
吸気音が辺りを支配する。戦闘体勢を整えたのではない。単純に、悲鳴を上げ損ねただけだった。味方が予想以上にあっけなくやられたからだろうか?
安全だと判断し、佐伯はゆっくりと振り向いた。いたのは『敵』ではなかった。見覚えのある青ジャージ(というと多大な語弊あり)。特徴ある外ハネ赤毛。声からおぼろげに想像していた通りの人物だった。
「ああ、菊丸」
「さえ・・・き・・・・・・? なんでお前、ここに・・・・・・?」
向こうからすれば完全に予想外だったらしい。やたらと驚かれる。
「ってか・・・・・・みんなは? でもってさっきの銃声って・・・・・・?」
驚きはそっちだったようだ。どこで聞いていたかは知らないが、これだけ反響する洞窟であれをぴたりと『銃声』だと判断してきた英二に軽く感心しつつ、佐伯は手にしていたままだった銃内蔵型トンファーを掲げた。
「銃声なら多分俺が撃ったやつだな」
「いや俺が撃ったやつって・・・。ンな軽く言うなよお前・・・・・・」
とりあえずその辺りは軽く流し、
(ん・・・?)
佐伯は先ほどの英二の台詞を頭の中で反復させた。
―――『ってか・・・・・・みんなは?』
「ところで菊丸、『みんな』って?」
「乾と、桃とおチビと、あと不二。ここにいたんだけど・・・・・・」
「いたのか?」
「・・・・・・・・・・・・もしかしなくってもさ、お前確認せずに撃った?」
「先に行ったバネさんと亮が帰ってこないからさ、これは何かトラブルあったのかな?って」
「むしろお前が『トラブル』なんじゃ・・・・・・・・・・・・」
(そういやバネさんや亮もそんな事言ってたっけ?)
じっとりと呟く英二に、佐伯は今や懐かしい事を思い出した。
思い出して、
(酷いなあ。俺のどこが『問題事撒き散らし人[トラブルコントラクター]』だよ・・・・・・)
――――――無自覚(?)もここまでくれば天晴れなものだ。
それはともかくとして。
(なるほどな。そういうワケか・・・)
どうりで手ごたえがしたのに死体がないと思ったら、どうやら『殺した』のは全員ゲーム参加者だったらしい。
納得し、結論を出す。
「つまり、どうやら生き残りって俺達だけになったみたいだな」
「あっさり言うなああああああああ!!!!!!!!」
なぜか叫ぶ英二は気にせず、手を差し出す。
「というわけだから、よろしくな、菊丸」
「嫌だああああああああ!!!!!!!!!」
Survivor―――佐伯
―――どうでもいいですが『殺戮者佐伯』。『さつりくしゃ』も『スレイヤー』も『佐伯』も全部Sがつくんですよね。素直に『サド佐伯』と呼ばせるべきか・・・・・・。そして『トラブルコントラクター(あえて日本語は外す)』。『スレイヤー』でとある有名小説を思い出された方はこちらも思い出されるかもしれません。意味(日本語訳)は180度逆で『やっかいごと請負い人』でしたが。
2004.5.26