プチ小説24 山吹&六角編3 〜合流点2・青学と〜



 さて、作りかけていたイカダを完成させいざ海へ。しばらくも進まないうちに光に包まれ、これで(千石はともかく佐伯は)ゲームクリアかと思いきや・・・・・・。



 「・・・・・・あれ?」
 「全っ然、変わんないねえ・・・・・・」
 光が消えた後、2人の立っていたのはちょっぴりレトロなヨーロッパちっくの街並みだった。少なくとも、元の世界―――現実世界へは帰ってきていない。
 「おっかしーなあ・・・。千石はともかく俺はちゃんとゲームクリアしたのに」
 「あっはっはv サエくん、連帯責任ってヤツ?」
 がっしりと肩を掴みそんなことをホザいてくる千石に、佐伯は仕方ないなあとため息をつき肩を竦めた。
 「まあいっか。暫く迷ってみたらまた誰かに会えるかもしれないし」
 そう言う佐伯だったが、
 ―――まさかそれが実際果たされるとはさすがにこの時点では思っていなかっただろう。



 「・・・・・・あれ?」
 再びの声。今度上げたのは千石だった。
 「どうした?」
 「今のって・・・、銃声?」
 さらりととんでもない事を言う千石。が、
 「だろうな。しかも狙撃用のライフルじゃん」
 さらにあっさりと佐伯がとんでもない事を言った。
 「・・・・・・よく知ってるね」
 「周ちゃんとこの間撃ちに行ったから」
 「ああ、そういえば不二くんってライセンス持ってんだっけ。サエくんも?」
 「いや? 持ってないよ」
 「・・・・・・・・・・・・。『撃ちに行った』?」
 「細かい事は気にするなよv」
 「そりゃまあ不幸になりたくないから全力で気にしないようにするけどさ」
 とりあえずそこで会話を切り、
 「さって、じゃあ―――」
 と、2人で方向転換をした。さすが『君子危うきに近寄らず。面白い事だけ首を突っ込もう♪』をモットーとする2人だけある。とりたてて確認する必要もなく、足並みを揃えて銃声とは反対方向に歩き出した。
 が、世の中上手くいかないものである。ここに2人を放り込んだ主(まあコンピューターだが)は余程2人にもこのトラブルを体験して欲しいのか、逆側に歩いた筈なのになぜか危険事態と遭遇するハメとなった。
 「あれって・・・・・・」
 「青学・・・? なんでこんなトコ・・・・・・」
 ちらっと見えた、青白赤のジャージ(どうでもいいがこういうとまるでフランス国旗のようだ・・・)。2人ともに見覚えのあるそれは、間違いなく同じく関東強豪として名を馳せる某中学のものであった。たとえ『ちらっと』であろうが、動体視力に自信と定評のある2人に見間違いというものは存在しない。
 「そういや、青学って確か選んだヤツこんな感じのじゃなかったっけ?」
 「ああ、確か街中で起こった連続狙撃事件の犯人を探すとか何とか・・・・・・」
 言いかけて、気付く。
 この状況。そしてシステムの暴走という事態。
 ―――足してしまえば結論は1つ。
 「逃げようサエくん!!」
 「そうだな俺もそう思う!!」
 ・・・・・・性根腐りきった2人に万歳。
 しかし、現実はもう少し厳しかった。
 ズダ―――ン!!
 『うわっ!!』
 『不二先輩!?』
 向こうの方で聞こえる、転びそうになって慌てて足を踏み出した時の声と、先行していたけどその声に気を取られて振り向いた時の呼びかけ(具体的過ぎ)。
 それらに、(ようやっとまともに)2人が反応する。
 「周ちゃんまだ生きてんのか・・・!?」
 「んでもってリョーマくんも!?」
 佐伯と千石、2人の目が一気に引き絞られる。ここからの行動は先ほどまでと違う意味で早かった。
 互いに使えそうな武器をテニスバッグから取り出し、体各所に装着の後バッグはその場に置いていく。なお今回狙撃を前提とするため『武器』の中にラケットは入っていない。一体2人は何を持っていったのか。
 裏通りらしいくねくねした道を通り抜ける。丁度広場へ差し掛かったところで、
 「佐伯・・・! 千石・・・・・・!?」
 「どーしてお前らこんなトコいんだよ!?」
 遭遇したのは、やはり見たとおりの青学メンバー、その内の乾・英二・桃だった。
 <よし>
 2人が小さく目配せで合図する。その意味はもちろん知ってのとおり。千石は桃に、佐伯は英二に負けた借りがある―――とかいう以前にあの2人でなければ後は誰であろうと構わない! 囮にするのは!!
 ・・・・・・・・・・・・本気でつくづく性根の腐った2人である。
 「あっれ〜? みんな」
 「どうしたんだ?」
 あえて警戒心は表さず、普通に驚いたように話しかける。そして1歩踏み出し―――
 ズビシッ!
 つま先寸前をえぐる銃弾。実は踏み出した後僅かに引っ込めたのだが、注意を上に払っておいたおかげで動体視力に優れる英二も見抜けなかったようだ。
 「え・・・・・・?」
 やってる自分たちには微妙にどころか思い切り寒い演技。だが向こう側は信じてくれたようだ。
 「危ない!!」
 とっさに建物の陰から飛び出してくる囮[バカ]3人。的の登場に、狙撃銃が唸りを上げる。
 血と組織の飛び散る方向から相手の居所を推測。どうでもいいがこのリアルな死に方はお子様には不評だろう。まあ自分たちには役に立つが。
 物陰に戻った佐伯が今回もジャージ下に隠していたトンファーを翳し、そちらに向けフルオートで撃ち続ける。中〜近距離用の手製銃。せいぜい的に確実に当てられるのは5m程度が限界なのだが、それでもある程度の威嚇にはなる。
 その間に広場の真ん中まで転がり出た千石が、腰に下げていたこちらも手製瓶詰め爆弾(発火装置というかマッチ付)を引っ張り抜いて安全装置を外し(即ち摩擦でマッチに火をつけ)そちらへと放り投げる。はっきりいって銃弾は千石の動体視力を持ってしても何かに当たるまで全く見えないスピードだ。だがだからこそ逆にそれだけ相手は近くにいることになる。射出後時間のたった弾があれだけ速いワケがない。しかも設定上百年程度前となればなおさら。角度からしてもさして高くはないようだ。
 爆弾炸裂。実験は一切行わなかったが、ちょっと液体火薬を濃縮しすぎたらしい。ビルが1つ、倒壊する。
 下敷きになったかな?と心の端で思いつつももちろん油断は禁物。さらにジャージポケットに突っ込んでおいた草―――もちろん前回のあの物件―――を取り出し、そこへと投げ込む。こんなこともあろうかと予め錘つきで括っておいた。
 火に煽られ、一気に煙が噴出す。こちらまで押し寄せ、丁度いい煙幕の役割を果たしてくれた。
 「サエくん!」
 「わかってる!」
 煙を吸い込む前にさっさと避難。実は後の実験により(誰を実験台にしたのかは企業秘密)この煙は1度体験すると2度目以降の効きは極端に悪くなるという性質があると判明したのだが、残念ながら2人ともまだ1度も経験していない。ここで3日もだえ苦しむのは馬鹿馬鹿しい。
 広場を突っ切り再び入るは細い通り。一本一本よく見回し確認しつつ入り込む事少し、ついに目的の2名を発見した。
 「―――サエ!?」
 「・・・に、千石さんも・・・・・・」
 壁によりかかり足をひょこひょこさせる不二と、彼を支えて自分もよろけるリョーマ。
 ―――さらに液体火薬と葉のにおいにイカれた鼻がかがせる幻臭だろうか? 2人の周りには仄かに甘い香りが広がる。
 あえてそこは突っ込まず、単純に会えた喜びを噛み締める。
 「周ちゃん!」
 「リョーマくん! 会いたかったよ〜〜〜vvv」
 駆け寄り、無事を確かめ抱きしめて、ついでに千石はリョーマに殴られて。
 抱き締めがてら、ちらりと不二のジャージを見下ろす。右足脛にある赤黒い染み。単純に見れば血だろうが・・・・・・甘い香りと足せば決して血ではない。その証拠に抱き締められても全くよろけない。
 あえてそこもまた突っ込まず。
 「どうしたの? 2人とも」
 「ああ、俺が無人島からの脱出で千石が洞窟内の人質救出だったんだけど、システム暴走のせいなのか空間がリンクしたらしくってさ、それで遭遇したんだよ」
 「んで、いろいろあって出てきたんだけどそしたら光に包まれて、ゲームクリアかな〜?って思ったらココだったってワケ」
 「ふーん」
 「2人は?」
 「僕達は知ってのとおり狙撃犯の捜索だったんだけど、こっちもシステム異常のせいか逆に狙われるハメになっちゃって」
 「ってそういえば、先輩たちは?」
 きょとんとリョーマが首を傾げた。合わせて不二も小首を傾げる。
 (うわ〜。『そういえば』って・・・・・・)
 (間違いなく綺麗に忘れ去ってたんだよな・・・。しかも2人とも)
 (てゆーかもしかしなくても2人とも、死んでる事前提で訊いて来てない?)
 2人は心の中でそれぞれ拍手を送った。よくこれだけ曇り一片のない様子で演技が出来るものだ(人の事は言えないが)。
 「ああ、もしかして乾と菊丸と桃城?」
 「そうそう。もしかして会った? 英二が君たちの学校のジャージちらっとだけど見たって言って走っていったんだけど・・・・・・」
 「なるほどな」
 いろんな意味で事情納得。
 (あの3人、二重の意味で囮だったんだな。別に今更悪いとは思わないけどさ)
 (まあ、それで不二くんとリョーマくんが助かったんだし、いんじゃん?)
 半眼でいろいろ言いたい事もあるが、2人は笑顔のまま頷くだけだった。
 「あ、もしかしてサエたちも見た?」
 「ああ。それでこっち来たんだ」
 しれっと言い切る佐伯。千石もうんうん頷く。どうやら2人の頭には『嘘』という概念は存在しないらしい。もしかしたら『本当』の方かもしれないが。
 「それで、2人は?」
 問う2人に―――
 答える2人は重々しく沈黙した。
 「悪いんだけど・・・・・・」
 「アイツらは、俺たちを助けようとして・・・・・・」
 ここで切る言葉。後は適当に俯いて首を振れば十分だった。
 2人はショックを受けたように(あくまで『ように』)呆然として・・・・・・
 「そう・・・・・・っスか」
 「なら・・・仕方ないね・・・・・・」
 「ゴメン・・・。俺たちももうちょっと気をつけてればよかったんだけど・・・・・・」
 「ううん・・・? 仕方ないよ・・・。2人ともきたばっかで知らなかったんだからさ・・・・・・」
 「アンタたちが生きてんなら、いーんじゃん・・・・・・?」
 沈黙は全く終わらず。しかしいつまでもこのままでいてもどうしようもない。
 というワケで開き直って。
 「じゃ、とりあえず場所移ろっか」
 「そうだな。このまんまだと俺たちも危ないし」
 「え?」
 「危ない、って?」
 「ホラ、このまんまじゃまたいつ狙われるかわかんないじゃん。とりあえずまだマシそうなところにね」
 「それに周ちゃん、足怪我してんだろ? 早く治療しないとな」
 「ああ、うん・・・」
 そんなこんなで4人は場所を移ることにした。風下から、風上へ。



Survivor―――佐伯・千石






 ―――さりげにここはサエ不二
&千リョですか? ついでにどうでもいいですがこの組み合わせ、カタカナ多いなあ・・・。そしてどのCPでも常にサエは不二先輩を、千石さんはリョーマを可愛がり、そしてサエとリョーマは衝突しそうです。性格の不一致(? 近親憎悪と言うなかれ)で。次はそんな2人も書いてみたいなあ・・・。
 ところでこの2人、もしや観月以上のえっぐい作戦に出てる・・・? というかこの2人と比べると観月って可愛い・・・・・・? そんなことを思ったりもしますが、それこそ大丈夫☆ 不二
&リョーマの方も十分えっぐい策略に出てますv というわけでそちらのほう及び『甘い香り』の謎は青学verをどうぞ。つくづく今回死んだ3人は報われません。

2004.5.18