プチ小説23 山吹&六角編2
さらに続く男(いや元々女性はいなかったが)2人旅。途中何度か敵(らしきもの)が登場したが、銃火器付き鈍器まとめて凶器所持者の佐伯、さらに先ほどからずっと洞窟内を迷い続けたおかげで罠のほぼ全ての仕組及び効果を知り尽くした千石の相手ではなかった。互いを囮にしておびき寄せ、油断したところを徹底攻撃などしたりすると面白いように倒れる倒れる。
あまりに面白いので・・・・・・
「あれ? そういや俺達ってずっと誰にも会わなかったのに、何で今更よく出てくるんだろ?」
そんな千石の疑問も、
「さあ? 俺達のところと繋がったからじゃん?」
佐伯の気楽な答えで一発解決してしまった。
「な〜るほど。それもそっか」
「そうそう。気にする事ないって。別にいて困るモンでもないし」
・・・・・・襲われる事は『困る』内に入らないらしい。
「んじゃ、さくさくっと行こっか」
「そだな」
―――という感じでさくさくと最奥まで来た。
げほっ! がほっ!!
ばたばたばた!!
『助けて!! 助けて!!』
『ちくしょう! 我々が何をしたんだ!!』
そこにあるのは阿鼻叫喚の地獄絵図だった。
「・・・・・・ってサエくんのせいじゃん」
「俺だけじゃないだろ? お前だって賛成しただろうが」
「いやしたけどさ。俺が言いたいのは別にやった事そのものじゃなくって、それをめちゃくちゃ他人事風に解説するサエくんはどうか、って事なんだけど」
「他人事だからな」
「うわ言い切ったし」
慄きながらも、千石もまた最奥のちょっと広くなった空間に向け、持っていた草を布を巻きつけたラケットで仰いだ。そこからたなびく、非常に嫌な色の煙が中へと向かっていく。
「ところでこの草、何?」
今更な事を尋ねる千石に、同じく煙を中へ扇ぎ入れつつ佐伯が綺麗に微笑んだ。
「ああ、名前は知らないけど煙がよく出て便利なんだよな。だから最初救難信号に使おうかって思ってたんだけど。
―――あ、大丈夫。人体には無害だから」
そう言う佐伯は目から下をタオルで覆い、ジャージの前を閉じている。
「無害・・・・・・?」
腹の底から信じていない声で千石が呻いた。こちらも一応避難訓練の成果として口元に適度に湿らせておいたタオルを当てている。なおこの煙、完全に空気と同じ比重らしい。狭い空間に立ちこめるおかげで余計に一面全て漂っている。
「ああ。初めて火を付けたとき、そばにいた剣太郎と樹っちゃんが咳き込んで涙流して倒れただけだから」
「それ充分有害だから!!」
「何言ってんだよ千石。3日位した後は何の後遺症もなかったぞ?」
「その前は!? 空白の3日は!?」
「え〜っと・・・・・・。
白目剥いて喉掻き毟ってうなされて、涎垂らして悶絶して時々意味不明の雄叫びを上げてあと――――――」
「タイムタイム!! それって何か薬やった時とおんなじ感じの反応じゃない!?」
「ああ・・・・・・」
千石の突っ込みに何かを悟ったらしい佐伯。いきなりタオルを顔から外し、丸めた葉を口に咥えた。
軽く吸って・・・・・・
「―――確かに言われてみればそれっぽいな。頭クラクラするしちょっと気持ちいいし」
「ってサーエく〜〜〜〜〜〜ん!!!!!!!」
自ら薬[ヤク]漬けになろうとする友人に力の限り突っ込む。確かに千石自身タバコはやっている。それも亜久津直伝、わざわざフィルターを抜いて巻き直して。
が!
「そういう正体不明なものはやらない!! しかも一回食らって3日寝込むって強すぎ!!」
佐伯の口から葉を抜き取り、自分のとまとめてばんばん踏みつけ火を消す。ンな危険物件これ以上やってられっか!!
特に止めもせず、佐伯がしゃがんだまま見上げてくる。
「ちなみにこれ、お線香と同じ感じで火を消した後の方が煙よく出るから」
「・・・・・・・・・・・・」
笑顔で説明を聞き、
千石は笑顔のまま煙吹き出る草を最奥へと放り込んだ。
「さって、そんな感じで無傷で一網打尽に出来たな」
「俺たちはね」
ぱんぱんと手を払い言ってのける佐伯に、目線を逸らして千石が頷いた。
煙のようやっと落ち着いてきた最奥では、15人程度の老若男女―――いや、丁度働き盛りの男はいないか―――が地面にのたうち回っていた。
中でもまだ軽傷そうな老人―――ついでに一番身なりの良さそうなそれに近付く。
「じゃあ、事情聞こうか」
にっこり見下ろす佐伯に、老人が突如がばりと身を起こしてしがみついてきて・・・・・・
「た、助けてくだされ―――!!」
「嫌v」
ごすっ!
哀れご老体、佐伯にあっさり蹴飛ばされ後ろへと転がっていった。
最早慣れた様子で千石がぱちぱちと拍手を送る。
「うっわ〜。サエくんいろんな意味ですっげー」
「ははっ、ありがとう」
「誉めてないから」
「そりゃ残念」
さして残念でもない感じで、再び佐伯が同じ台詞を言う。今度はトンファー先端兼銃口を相手の額10cm手前に突きつけ。
「じゃあ、事情聞こうか」
その武器―――トンファーまではまだしも佐伯が改造した以上銃については知らないだろう。だがどちらかというと佐伯の様子から身の危険を悟ったのか(当り前)、かなり従順な感じで老人が答えてくる。
(ああなるほど。サエくんも上手いね)
相手を自分に従わせる方法。脅迫・懐柔・詐欺・逆従服いろいろあるだろうが、一番簡単な手が今の佐伯の方法か。徹底的に相手をいたぶり、自分との力の差を見せつけた上で何かを持ちかける。その頃にはもう相手に逆らう気力は残っていない。
と思ったのだが、意外とこのご老体はしぶとかった。
「た、助けて・・・」
「だから嫌だって」
佐伯の笑みに僅かなひびが入る。後ろで千石が雰囲気だけでもと黙祷を捧げた。
が、
「わ、ワシは・・・・・・、
ワシたちはここに迷い込んでしまって、そして奴らに捕らえられていたのですじゃ!!」
告げられた事実に、2人の動きが止まった。
「なあ千石。お前・・・っていうかお前ら山吹って確か・・・・・・」
「そういやそんな人たちの救出が目的だったっけ」
振り向く佐伯に肩を竦める千石。老人の顔がぱああっ・・・と明るくなり、
「でも俺達を襲った賊との区別って付かないよな」
「だよね。実は一緒だったり」
「話だけだと信用性ないしな」
「一緒に連れてって後ろから襲われたらサイアクって感じ?」
「お前ゲームクリアして人生ゲームオーバーになるのとゲームクリアは出来ないけど人生クリアすんのどっちがいい?」
「もちろん人生クリア? ンなの今更訊く必要ないっしょ」
「じゃあ決定だな」
洞窟の最奥に銃の連射音が響き渡る。
「いっや〜大漁大漁♪」
「けっこーいいのあったな」
最奥に落ちていたものを一通り検証し使える物だけ持ち出しての帰り道、目印とやらを探してしゃがみ込んだり手がかりを頼りに壁を上ったりと忙しい佐伯をのんびりと見やりつつ、千石がふいに口を開いた。
「そういやさあ、サエくん」
「ん?」
「もしさっき、俺がゲームクリア選んでたらどうしてたのさ?」
問う千石に、
佐伯は今日1日の中で最も綺麗に笑ってみせた。
「もちろん―――」
「そんなのは選ばないけどねv」
先に釘を指しておく。佐伯は抜きかけたトンファーをホルスターへと戻し、今度は本当に残念そうに首を振った。
「俺達って上手く行きそうだよね」
千石が笑う。
「ああ。そうだな」
佐伯も笑顔のまま頷く。
2人の先で、
暗闇は終わりを告げ、全ては光に包まれた・・・・・・。
―――サエの悪逆非道っぷりが際立つ一方千石さんが良識人過ぎ? いえいえそんな事はありませんよ。よくよく読まずとも千石さんも最初っから飛ばしまくってます。
そしてまるでこれでこの2校は終わりのようですが―――残念ながらここで終わるほど世の中哀しくはありません。せっかく友情築いた以上活躍してもらわなきゃv
2004.5.17