プチ小説25 青学編5 〜合流点・山吹&六角と〜



 細い路地をこそこそ隠れての移動。もう慣れた事とはいえあまりやって嬉しいものでもないそれに、全員の不満がそろそろピークに達しようとした頃・・・
 「―――おりょ?」
 先頭を歩いていた英二が突然止まった。
 「どうしたんスか? 英二先輩」
 後輩の呼びかけを無視し、物陰から最小限しか頭は出さないままに目の上に手を翳しきょろきょろ周りを見回す。
 「気のせい、かにゃ?」
 首を傾げる英二。そんな彼に首を傾げる一同。
 「どうしたのさ、英二」
 ラチがあかないので桃に代わって不二が尋ねた。今度はまともに答える。
 「今、ジャージがちらっと見えたような〜・・・・・・」
 「ジャージ? 青学の?」
 「うんにゃ他校の。緑色と、あと赤の」
 「2色刷り・・・?」
 「しかも妙にグロい組み合わせっスね・・・・・・」
 「じゃなくって、多分2人」
 「山吹と六角で決定だな。その色合いはかの2校しかいない」
 乾即答。しかしこれには誰も反論はなかったらしい。あっさり決定される。まあ当たり前だが。
 「えっと・・・、選んだところ違うよね?」
 「全く違うな。山吹は洞窟の中を彷徨う人々を見つけ救出する、六角は無人島よりその場のものを用いて脱出するが課題だ。どちらもこの辺りとは全く関係ない」
 「きっと英二先輩の見間違い―――」
 「ちっがうよー! ちゃんと見たっての!!」
 「あ〜!! わかりました!! わかりましたってば!!」
 地団駄を踏んで騒ぎ出す英二。今がどういう状況か思い出した他のメンバーが彼の愚行を止めようと―――
 ―――するより早く。
 ズビシッ!!
 「うげっ・・・!」
 「やばい。見つかったぞ」
 「言われなくてもわかってるっての!!」
 輪になって話し合う一同の後ろ―――英二が先ほど頭を出した壁が抉り取られている。
 「この角度でこの威力。弾の種類にも寄りきりだけど、建物の密集状況考えれば相当近くに来てるね」
 不二の冷静な分析に、
 「とりあえず逃げるぞ・・・!」
 「え!? でも俺が見た2人は!?」
 「放っといていいんじゃないっスか?」
 「うえ゙っ・・・!?」
 「そりゃさすがにマズくねえか? 越前」
 「いいじゃないっスか。どうせホントに死ぬワケじゃないし」
 「それもそうだね」
 「不二までか・・・・・・」
 そんな薄情極まりない意見は、
 「だー! もー!
  行く!! 助けに行くんだからな!!」
 「もしかしたらシステムの暴走により各『世界[ステージ]』の境がなくなったのかもしれない。本当に事情を知らず迷い込んできたのだとしたら危険だぞ」
 「そうっスよ! それで死なれたりしたら寝覚め悪いじゃないっスか!!」
 討論の結果、3対2という微妙な数値ながらもとりあえず過半数を超えたため―――というよりは言いながらも3人が走っていってしまったため、うやむやの内に救出の方に決定されてしまった。



 なるべく細かそうな道を選んで、しかしながらそれで道に迷っては意味がないため結果的にはほどんど直線ルートで、5人は英二が人影を見たという場所へと向かった。
 その途中で何度も撃たれる弾が壁を抉り地面を跳ねて―――
 ズダ―――ン!!
 「うわっ!!」
 「不二先輩!?」
 つま先ギリギリで跳ね上がった弾に、最後尾にいた不二が歩調を乱し慌てて足を踏み出す。斜め前を走っていたリョーマがそれに気を取られて振り向いた。
 「不二!?」
 さらに前にいた3人も気付いて振り返る。3人に軽く手を振り無事を知らせようとして・・・・・・
 「大丈―――」
 ズダン!!
 「―――っ!!」
 目を見開き、不二の体が仰け反った。
 踏み出していた足から崩れ落ちる。
 「不二先輩!?」
 再度のリョーマの呼びかけ。彼に抱きとめられる形で地面への激突は免れ・・・・・・結局5秒後ぶつかった。ちょっぴり自分の体重は重いのかと不二が初めて気にした瞬間だった。
 起き上がり、右足の脛を両手で押さえる。
 「ん・・・、大丈夫・・・。ちょっと掠っただけ・・・・・・」
 何とか返しながらもその顔は青褪め、いつもの笑みではなく苦しそうだ。しかも押さえ込んだ辺りは青いジャージがどす黒く染まっていっている。
 「ちょっとどころではないだろ?」
 「そーだよ! 今すぐ止血して消毒しないと!!」
 焦って戻ってこようとする3人を、不二は手で制した。
 「僕は大丈夫だから。だから3人は先行って」
 「な、何言ってるんスか!!」
 「先行って・・・英二が見たっていう2人見つけなきゃ。死なれたりしたら寝覚め悪いんだろ? 桃」
 脂汗を流しながらも健気に笑顔で言う。3人は心打たれたようにじ〜〜〜んとして・・・
 「わかった。なら俺たちは2人を探してこよう」
 「すぐ戻って来るからね! ちゃんと生きてるんだよ!?」
 「越前! 先輩頼んだからな!!」
 「ういっス!」
 「任せたよ、3人とも・・・」
 そして、3人が今度こそ走り出す・・・・・・。





 完全に足音が聞こえなくなるまで見送り―――
 リョーマは支えを外しぱちぱちと気のない拍手を送った。
 「さ〜っすが不二先輩。演技派っスね」
 「あれ? 気付かれた?」
 「そりゃ気付くっスよ。『痛い足』に普通に体重乗せてんじゃん。大体1分前と言ってる事逆だし」
 「あはは。鋭いね、越前」
 笑い、不二もまた普通に立ち上がった。摩擦で擦り切れたジャージの裾をめくる。少し擦過傷にはなっており、僅かに血が滲み出してはいるがその程度だ。適当にジャージで拭き取ってしまえば、早くも塞がり、固まり始める。
 「どうやって血、出してたんスか?」
 「コレでね」
 笑って両手を見せる不二。その手は赤黒く染まって・・・・・・いや、
 「チョコ・・・・・・?」
 「さっき壊された店のウインドウにあってね。後でみんなで食べようかって思ったけど、丁度よかったから使っちゃった」
 彼の細く白い手を覆う茶色い液体。確かに近寄れば甘い香りが広がっている。
 「他はともかく、よく乾先輩にバレなかったっスね」
 「青と赤を混ぜれば黒だからね。しかも気になる事が他にもあれば自然と注意力は散漫になるさ。
  それに・・・・・・
  ――――――演技派、なんだろ?」
 「そうっスね」
 にっこり笑う不二に、リョーマもまたくつくつと笑い、彼の手を取った。
 ぺろりと舐め、
 「アンタ最低」
 「君もでしょ?」





 さて2人に騙された挙句面倒かつ危険な事を押し付けられたとはつゆ知らず、3人は極めて真面目に人探しを行なっていた。
 いくつかの曲がり角を曲がり、広場に抜けたところで―――
 「―――っ!?」
 逆側に見えた2人の姿に、乾が走りを止めて最短で驚きの声を上げていた。確かに六角と山吹の2人。英二の見た条件にぴったりだ。しかもさらに特徴のあるあの髪色は・・・
 「佐伯・・・! 千石・・・・・・!?」
 「どーしてお前らこんなトコいんだよ!?」
 同じく気付いた英二が乾を押しのけ2人を指差す。確かにそれは疑問だ。だがその前にやらなければならない事がある。
 こちらの声に気付いたらしい。2人がこちらを向き、きょとんとする。
 「あっれ〜? みんな」
 「どうしたんだ?」
 極めて普通な驚きの元、とりあえずこちらに来ようというつもりか2人の足が踏み出される。
 ―――この、開けた空間を横切って。
 ズビシッ!
 2人の足元に、まるで警告のような一発が加えられる。
 「え・・・・・・?」
 どんなに動体視力がよかろうと人間には目で追う事が不可能な銃弾。音とあとかろうじて跳ね上がる弾は見えたか、2人がぽかんと足を止めた。最悪な事に。
 「危ない!!」
 とっさの判断で飛び出したのは誰が最初か。気が付いた時には3人とも物陰から飛び出していた。
 (しまった・・・・・・!!)
 心の中で乾が呻いた。これこそ最悪な判断。的から外させるつもりが、自分達自身が的となってしまった。
 ズドン!!
 轟音と共に飛んでくる銃弾。まるで直接ねじ込むように耳に衝撃が届き―――



 ―――そこで乾・英二・桃の意識は途切れた。





 人助けに行かなかった2人。立て続けに鳴る銃声と爆発音に、
 「何か銃の種類、増えた?」
 「あの間隔、って・・・、絶対狙撃銃じゃないよね・・・・・・」
 「てゆーか爆発・・・?」
 不二とリョーマはそちらに首を向け―――傾げて終わった。
 「行かなくていいんスか?」
 「まあいいんじゃない? 他ならどうしようか、って思ったけど英二曰く山吹と六角だ、っていうし」
 「そこならいいんスか?」
 「いいんじゃない?」
 似たような応答。不二が肩を竦め答える。その顔に浮かぶはいつも通りの笑み。
 「山吹と六角でそれぞれ1人ずつ。どれだけ時間が経ったかわからないけど、僕らと同じくらい経ったと仮定すれば、英二の見かけたその『2人』だけが2校の生存者かもしれない。
  ―――生き残りそうなのなんて予想がつくでしょ?」
 「山吹だったらあのラッキーな人?」
 「そうそう。ついでに六角だったら十中十サエだろうね。他全て犠牲にしても確実に生き残るだろうし、逆に他の人が生きててサエが死んでるとはとても思えない」
 「・・・・・・それだったら行く必要ないんスか?」
 「ないでしょ? 彼らは仮にも生存者[サバイバー]だよ? この位平気でしょ」
 「・・・・・・・・・・・・そういうモンっスか?」
 「そういうものだね。どちらかというと『助け』に行った3人が戻って来る事を祈ろう」
 「はあ・・・」
 淡々と部活仲間の死を確定させるこの先輩もどうかと思ったが、だからといって自分が動く気にももちろんならず、リョーマはぽりぽりと頭を掻いて誰かが来るのを待った。
 と―――
 「先輩・・・!」
 「うん・・・!」
 2人の体に緊張が走る。足音が近付いて来た。
 適当に壁に寄りかかっていたのをもう少し直す不二(もちろん今度は『痛い』足には体重は乗せず)。彼を支えるように腕を回させるリョーマ。これでもし仮に3人が戻ってきたのだとすれば、ウソがバレては面倒だ。
 足音最接近。現れた2人は―――
 「―――サエ!?」
 「・・・に、千石さんも・・・・・・」
 予想通りの人達ながらも一応驚く。お愛想というものだ。
 「周ちゃん!」
 「リョーマくん! 会いたかったよ〜〜〜vvv」
 『・・・・・・?』
 向こうは妙に確信を持って話し掛けてくるのが不思議だが、ヘタに突っ込んで返されても仕方ないので軽く流して。
 駆け寄ってくる2人。無事を確かめるように抱き締められ、とりあえずリョーマは千石を殴り倒しておいた。
 「どうしたの? 2人とも」
 「ああ、俺が無人島からの脱出で千石が洞窟内の人質救出だったんだけど、システム暴走のせいなのか空間がリンクしたらしくってさ、それで遭遇したんだよ」
 「んで、いろいろあって出てきたんだけどそしたら光に包まれて、ゲームクリアかな〜?って思ったらココだったってワケ」
 「ふーん」
 「2人は?」
 「僕達は知ってのとおり狙撃犯の捜索だったんだけど、こっちもシステム異常のせいか逆に狙われるハメになっちゃって」
 「ってそういえば、先輩たちは?」
 ふと思い出して(=今まで忘れていて)リョーマが問いた。本当に2人が来た時点でその運命は目に見えるようにはっきりしたが、不二もまたジェスチャーで尋ねた。
 「ああ、もしかして乾と菊丸と桃城?」
 「そうそう。もしかして会った? 英二が君たちの学校のジャージちらっとだけど見たって言って走っていったんだけど・・・・・・」
 「なるほどな」
 何を悟ったか頷く2人。
 「あ、もしかしてサエたちも見た?」
 「ああ。それでこっち来たんだ」
 「それで、2人は?」
 訊いたところ―――
 答える2人は重々しく沈黙した。
 「悪いんだけど・・・・・・」
 「アイツらは、俺たちを助けようとして・・・・・・」
 言葉が切れる。後は続けられないと俯き首を傾げる佐伯と千石に、
 (うわ、この人達本気で先輩たち殺してるよ)
 (相変わらずすごいなあ。なんて言うかその神経が)
 2人は呆気に取られつつ心底感心した。よくこれだけ曇り一片のない様子で演技が出来るものだ(人の事は言えないが)。
 「そう・・・・・・っスか」
 「なら・・・仕方ないね・・・・・・」
 「ゴメン・・・。俺たちももうちょっと気をつけてればよかったんだけど・・・・・・」
 「ううん・・・? 仕方ないよ・・・。2人ともきたばっかで知らなかったんだからさ・・・・・・」
 「アンタたちが生きてんなら、いーんじゃん・・・・・・?」
 沈黙は全く終わらず。というか一体どこで切ればいいのかがわからない。
 とりあえず切ってくれたのは向こうの2人だった。
 「じゃ、とりあえず場所移ろっか」
 「そうだな。このまんまだと俺たちも危ないし」
 「え?」
 「危ない、って?」
 珍しく2人が素できょとんとする。この様子では狙撃犯は追っ払っただろう。もしかしたら十把一絡げに殺したのかもしれないが。
 「ホラ、このまんまじゃまたいつ狙われるかわかんないじゃん。とりあえずまだマシそうなところにね」
 「それに周ちゃん、足怪我してんだろ? 早く治療しないとな」
 「ああ、うん・・・」
 そんなこんなで4人は場所を移ることにした。2人曰くの『ここよりはまだマシそうなところ』に。


Survivor―――不二・リョーマ






 ―――この話、最初に書き始めてから1年と半年以上軽く経ってます。なので一人一人の性格が初期の頃と違げふんごふん!!
 さてこちら、何だか途中が不二リョかリョ不二ちっく? そんな事もまたないですよ? リョーマが不二の手舐めたのは『共犯者』という意味でです。別にサエ不二と千リョを推奨しているわけでもありませんが(この話は基本的に
CP抜きで行こうかな、と。なにせ壮絶な蹴落とし合いですのでしかも某S2人は確実に)。

2004.5.18