プチ小説26 青学編6 〜合流点・六角と〜
「あ、そこちょっと裏通りっぽい?」
「そうだな。これだけ建物の密集した裏路地では遠距離からの狙撃は無理だ」
というわけで、5人は英二の発見した『裏路地』へと入っていった・・・・・・。
入っていって・・・・・・
「・・・・・・ここ、どこ?」
「さあなあ・・・・・・?」
全員が眉を顰めそんな疑問を吐き出すのには、5分とは必要としなかった。
「両側にあるの、建物じゃないっスよね・・・」
「これは岩だな。それも人工的に切り出されたものではなく、自然に出来たものだろう」
「しかも上まで覆われてるし」
「全然光入ってこないじゃん。別に火あるからいいけど」
あくまで結論は出さず回りくどく話す4人に、不二が曖昧な笑顔で結論を下した。
「というか、ありていに言ってあからさまに洞窟じゃないかな・・・・・・?」
「にゃ〜〜〜! 不二〜〜!! それは言わないで〜〜〜〜〜〜!!!!!!!」
英二が慌てて不二の口を塞ぐ。が、時既に遅し。不二を抜いた3人のじと〜〜〜っとした眼差しが集中する。
「で、どーいう事なんスか? 英二先輩」
代表らしきリョーマの言葉。
「どーいう、って・・・・・・」
ンなモン俺が訊きたいし。
―――とはとても言えず。
「え〜っと・・・・・・」
暫し首を目をあちこちに彷徨わせ・・・・・・
「あ! とりあえず恐怖は去った、って感じ? 俺ってばすっげー!!」
今までいた場所とは明らかに違う以上、その場所でのイベントであったあの狙撃はもうないだろう。
にぱ〜っと笑う英二。過程はどうあれ結果オーライ☆ そう表情で語る彼の―――いや、彼らの耳に、
ずだだだだだだだだ!!!!!!
『何か』の連射音が届いた。
「・・・・・・・・・・・・」
ぴこっと指を立てたまま英二が凍る。笑顔のまま徐々に青褪めていく彼に・・・
「英二・・・」
これまた不二がとどめを刺した。
「あれ、銃の連射音に聞こえるんだけど・・・・・・」
『・・・・・・・・・・・・』
重苦しい沈黙が辺りを支配した。
「確かに『狙撃の恐怖』は去ったっスね」
「『狙撃の恐怖』は、ですけどね」
「一難去ってまた一難。見事なまでにその礼を示してくれたようだね、英二」
「ゔゔっ・・・・・・!!」
ますます温度の下がっていく一同の眼差し。受けて・・・・・・耐え切れず・・・・・・・・・・・・
「様子見てきます!!」
『いってらっしゃ〜いv』
かくて、
悪質な4人の策略により、英二は先遣隊などという最も危険極まりない役職を不条理にも務め上げるハメとなった。
銃声のした方向へと走っていった英二。『事件解決』ではなく『生存』が目的である以上、明らかにトラブルが発生しているであろうそちらへ向かうのは一見どころかそれこそあからさまに無意味な行為に映るが決してそうではない。こういう場合、得てしてトラブルから逃げる形で進んだ方が死ぬ率が上がるものだ。こちらが陽動である可能性は捨ててはいけない。
つまり―――
「英二が帰ってきたらそっちが安全という事だね」
「な〜るほど〜」
「帰ってきたら、っスね」
「そう。帰ってきたら、ね」
・・・・・・凄まじいまでに帰ってこない事を前提に話されているように聞こえるのは気のせいだろうか?
様々な建前をつけて話す一同。その本音は―――最初に死なせるならもちろん原因を作った英二だ。そう雄弁に物語っていた。
・・・・・・・・・・・・
―――そう。当り前だがトラブルに自ら突っ込んでいった奴の死亡率が一番高い。『トラブル』がそのままそこに留まるのかそれとも移動するのか、どちらにせよ現在自分達のいる地点からそちらに向かっている英二が必然的に最初に遭遇するわけで。
その、ハズなのだが・・・・・・。
「―――あれ?」
「青学・・・・・・?」
「え・・・・・・?」
「アンタたちは・・・・・・」
「黒羽君に、亮君・・・・・・?」
「なんで六角がここに・・・・・・?」
英二の向かっていった方向。そちらに一応顔を向けていた一同が見たのは、なぜか英二ではなくひょっこり現れた黒羽と亮だった。
「あ・・・・・・」
誰かが何かを言おうとする―――前に。
ざ―――っと、面白いように2人の顔から血の気が引いた。
「ってちょっと待て!!」
「ストップさ―――!!!」
2人が今来た方に手を伸ばし何かを叫びかけ―――
ずばだだだだだだだだだ!!!!!!!
それに応えるようにこちらに向かって放たれた銃弾の雨嵐の前に、あっけなく消滅していった。
そして・・・
『え・・・・・・?』
突然の事態に間抜けな声を上げる4人もまた、
だだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだ!!!!!!
―――『さ』で始まる某六角S男の悪意バリバリ戦略の餌食として、反論どころか己の不幸を嘆く事すら許されないままゲームオーバーとなったのだった。
さてこちらは先遣隊こと走っていった英二。しかし世の中とは無情なもので、彼が分かれ道に到達した時には既に銃声は止んでいた。
「え〜っと・・・・・・
―――こっちかにゃ?」
銃声が聞こえた―――ように思えた方向を選んで再び走り出す。しかしここは洞窟。それも複雑に入り組んだ類の。当然音は反響する。
そう・・・・・・
――――――英二の選んだ方向は、見事なまでに『トラブル』発生地点とは逆だった。
ずばだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだ!!!!!!!!!!!!!
「にゃんだー!?」
再びする銃声―――それも今度はやたらと長い音に、ビビって逃げだ・・・そうとする足を無理矢理押さえ、英二は(今度こそ)そちらへと向かった。今度は間違いない。なにせ――――――
「今銃声したのって・・・みんなのいる場所じゃん!!」
もしかしたら違うかもしれないが、真後ろから響いてきたその音、可能性としては充分ありえる事だ。
急いで向かう。等間隔で明かり用の薪がたかれ(通常このような洞窟でそんな事をすれば余程換気がよくない限り二酸化炭素が溜まり火が消えるか窒息するかのどっちかなのだが、まあそこは創られた架空の世界だから、とだけ言っておこう)足元は確保されているとはいえ、焦りが頭の回転を鈍らせ足との連係を崩す。
上手く働かない足をそれでも前へ前へと動かし、みんなが無事である事を祈りながら元いた位置へと戻ってきた英二。その場に広がる光景に―――
「――――――っ!!??」
彼はただ、息を呑むしかなかった。
そこにいたのは自分と共にいた青学の仲間ではなかった。こちらの足音を聞いてか棒立ち状態から振り向いてきた男は・・・・・・、
「ああ、菊丸」
「さえ・・・き・・・・・・? なんでお前、ここに・・・・・・?」
試合会場で偶然会った並の親しさと素っ気無さでこちらへと呼びかけてくる男―――六角の佐伯。本気でなぜ彼がここにいるのだろう。
「ってか・・・・・・みんなは? でもってさっきの銃声って・・・・・・?」
いろいろ疑問の多すぎる事態に小さく呟く。そんな英二に、
「銃声なら多分俺が撃ったやつだな」
しれっと佐伯が言い、手にしていたものを軽く掲げてみせた。一見ただのトンファー。ただしただのトンファーなら中心が空洞で、しかもわざわざ螺旋状の溝がついているなどという・・・・・・あたかも銃のような構造はしていないだろう。
「いや俺が撃ったやつって・・・。ンな軽く言うなよお前・・・・・・」
さらに英二の声が小さくなっていく。聞こえたのか否か、あるいは聞こえた上で無視したのか、今度は佐伯が質問してきた。
「ところで菊丸、『みんな』って?」
「乾と、桃とおチビと、あと不二。ここにいたんだけど・・・・・・」
「いたのか?」
「・・・・・・・・・・・・もしかしなくってもさ、お前確認せずに撃った?」
「先に行ったバネさんと亮が帰ってこないからさ、これは何かトラブルあったのかな?って」
「むしろお前が『トラブル』なんじゃ・・・・・・・・・・・・」
最早そう呟く声も、自分ですら聞き取れないほどに小さく掠れている。
(うっわ〜・・・・・・)
どうやら事態は最悪極まりない方向へと転がって―――どころか落ちていったらしい。思考をストップさせる。もう何も考えたくない。
(ああもう疲れたよパ●ラッシュ。いや別にいないけどさあ、気分としてはそんなモン?)
凍りついた脳がちょっぴりはしっこから壊れていく。
が、
「つまり、どうやら生き残りって俺達だけになったみたいだな」
「あっさり言うなああああああああ!!!!!!!!」
避けていた結論を一言で言い切りやがる全ての元凶に、さすがに回復して突っ込まざるを得なかった。
それもまたあっさりと無視される。
「というわけだから、よろしくな、菊丸」
差し出された手に―――そして絶対わざとだろうが銃内蔵型トンファーを持ちっぱなしな挙句銃口をこちらに向けたまま笑顔で言ってくる佐伯に、
「嫌だああああああああ!!!!!!!!!」
英二はただ心の奥底から叫ぶしかなかった・・・・・・。
Survivor―――英二
六角&山吹というかSコンビとはまた違って六角onlyとの遭遇です。そしてどう転んでもこうなるようです。サエと英二の2人旅。9割9分間違いなく英二は次回殺され・・・もとい不幸な事な死を遂げそうですね。
2004.5.24