プチ小説16 青学編4 〜合流点・ルドルフと〜
あれから暫しして、先行した(笑)桃に4人が追いつき、青学一行は再び前へ進みだした。目的地はかわらない。街壁を目指してとりあえず進む。余程の方向オンチでない限りもうじき壁に辿り着くところだった。
―――が、なぜか今先頭にいるのはその『余程の方向オンチ』だった。
「なーおチビー・・・」
「何スか、英二先輩?」
「ここドコ?」
「街の中でしょ?」
『・・・・・・・・・・・・』
リョーマの言葉に4人が首を傾げる。確かに門どころか街壁にすら辿り着いていない。その点ではリョーマの言い分は最もだと思う。が・・・・・・
「―――にしては、あまりにも今までと違い過ぎない?」
不二が後を続けた。今までは100年位前のヨーロッパ風だったのだが、今いるのは『街』というより『村』と言った方が良さそうな所だった。家も高さの低い一軒家がまばらにあるだけで、道の舗装すらされていない。
「貧富の差が現れた? にしては妙だな。普通このような現れ方はしない」
「ああ、スラム街っぽくなるんスね?」
「確かにそうだよね。じゃあここはどこなんだろう?」
むか・・・。
「えぇ!? てことはもしかして俺たち迷子!?」
「『迷子』とは言わないだろう。そもそも正しい道も行き先もわからないのだから」
ピク・・・・・・!
「けどどーすんだよ!! 大体なんで越前が先頭歩いてんだよ!?」
「う〜ん。とりあえず越前君が自信満々に歩いていってるみたいだからついていただけなんだけどね」
ピクピク・・・・・・・・・!!
「ど〜すんだよおチビ〜!!」
「けど越前のせいだけだとは言えないだろう。越前が極度の方向オンチだとわかっていながら先頭を任せた俺達にも責任はある」
「うるさーい!!!!!」
ぼろくそに扱き下ろされついにリョーマがぶち切れた。びしりと一方向を指し、
「そんなにここがどこか気になるんだったらそこにいる奴にでも訊けばいーじゃん!!」
『え・・・・・・?』
言われて前を見る一同。途中から横を向いて話し合っていたため気が付かなかったが、確かにそこには人がいた。
「ん〜・・・・・・」
英二が手を目の上に翳し、目を細めついでに唇を突き出す。夜である事と距離がかなりある事でよくは見えないが・・・・・・。
「にゃ〜んか、乱闘してるっぽいよ、1対3」
「乱闘ねえ。じゃあ終わってから訊きに行こっか」
「けどそれで死なれたりしないっスか?」
「大丈夫だろう。接近戦をやっている以上お互い銃を所持している可能性は低い。鈍器や刃物類で即死させるのは思うより難しい」
「とりあえず口さえきければいいわけだしね」
「あ、大丈夫っぽいよ。1人、倒れてノビてる。ピクピクしてたからまだ生きてるんじゃにゃい?」
「じゃあ終わるまで休みません? 俺眠いんスけど」
「そうだね。じゃあ―――」
言いかけて、不二の動きがぴたりと止まった。
「んにゃ? どったの不二?」
心配そうに顔を覗き込む英二に何の反応も見せず、いつもは閉じられている瞳をギリギリまで開いて硬直する不二。その瞳は乱闘者4人(残り3人)を見据え―――
「裕太!!」
「え? 裕太って―――あ、不二!!」
一言叫ぶと英二の静止も聞かず不二はテニスバッグを肩にかけたまま全速力で走り出した。
(裕太、今行くからね!!)
だが明らかに遠い。裕太がケンカが強いのは知っているが、武器を持った複数を相手にどこまで通用するか。
走る間にも1人が倒れる。シルエットからして裕太はまだ立っているようだが・・・・・・
「―――!!」
最後の1人が長い棒状のものを振り上げる。狙うは裕太の頭。
(間に合わない!!)
体は勝手に動いていた。走りながらも足元に落ちていたテニスボール大の石を拾い上げ、かがんだまま横滑りし足を止める。反動でテニスバッグが肩から落ちる。
ファスナーを開け、中に入れた手に最初に当たったラケットを取り出しサーブのモーションに入る。体勢はめちゃくちゃ。だが立て直す暇はない。
狙うは襲う側の頭。ピントを合わせるように目を細める。永遠のように感じられる一瞬の中、ただそれ1つだけを考えラケットを振る。
(当たれ―――!!)
ヒュッ―――
がん!!
「げっ!!」
凄まじい高速で飛んでいった石は、正確なコントロールで暴徒の後ろ頭に激突した。
そんな妙芸をしたとは思えないほど普通な感じで不二が弟の下へ走り寄って行く。
「裕太! 大丈夫!?」
「え・・・・・・?」
突如現れたせいか目を点にする裕太。そこへ追いついてきた英二・乾・リョーマ・桃が声を掛けてくる。
「不二〜! 裕太大丈夫だった〜!?」
「しかしさすがだな。これだけの遠距離からピンポイントで石をぶつけるとは」
「けど不二先輩よく裕太ってわかりましたね」
「『弟命』の賜物なんじゃねーのか?」
「はい・・・・・・・・・・・・?」
更に増えていく人々に混乱が深まったらしい。裕太が完全に硬直したところで―――
「―――裕太君、大丈夫ですか?」
「大丈夫・・・・・・みたいだね」
「――――――はっ!!」
そういえばいなかった他のルドルフ生―――観月と木更津が駆け寄ってくる。何故いなかったのか、導き出される答えは自ずと1つに絞られるわけで・・・・・・。
「な!? 貴様は不二周助!!」
「やあ久し振りだね観月。ところで今のを見ると君たちが僕の裕太を置いて逃げたように思うんだけど・・・・・・?」
驚く観月に回りの気温を極度に下げながら不二が尋ねた,どちらかというと確信に近かったのだが。
そこに決定打を出す者多数。
「観月がいる以上その可能性は98.2%だな」
「ひどーい観月! 裕太見捨てたワケ!?」
「何を言うんですか! これは裕太君が―――!!」
「うん確かにそう見えるね」
「木更津! 貴方まで何馬鹿な事を言ってるんですか!?」
「へえ・・・。キミ意外といい奴だね。あっさり認めるんだ・・・・・・」
「くす・・・。君の言い分は間違ってないからね。確かにそう見えたよね」
「・・・・・・。つまり実際は違うって言いたいの?」
「裕太がそうしたいって言ったから任せただけだよ。死にたい人を止める権利は特に僕らにはないからね」
「ふーん。ま、その『言い分』も間違ってないんじゃないの?」
―――等々。周りの空気をひたすらに下げつつ行われたそんなやり取りは、裕太の『まあそんな言い合いはいい加減止めて先行きません・・・?』という指摘が入るまで続いた。ちなみに余談だが本気で眠かったらしいリョーマは、いつの間にかテニスバッグを枕に道端で寝こけていた・・・・・・。
Survivor―――不二・英二・乾・桃城・リョーマ
―――リョーマの方向オンチっぷりは次元をも越える! さすが越前!! ・・・・・・などという寒いギャグは置いておいて、
さてでは『真実』はどうだったのか、それはルドルフ編をごらん下さい。
2003.1.5(write2002.10.28)