プチ小説17 ルドルフ編4 〜合流点・青学と〜



 (もう駄目だ。間違いなく次は俺が殺される・・・・・・)
 青褪めた顔で、虚ろな瞳でそんな事を考える裕太。残るは自分と木更津・観月。味方0のこのメンツでどこをどうやれば自分が生き残れるというのだ?
 「んふっ。どうしました裕太君。 顔色が優れないようですが」
 「え? あのいやえと・・・・・・」
 「くす。何ならあの辺りででも休む?」
 「い・・・いえ全然平気です、ホラ!」
 といって持っていたラケットで素振りをする。この雰囲気の中この2人といて『休憩』など出来るわけがない。
 (いっそあっさり死のうかな・・・・・・)
 そうすればこの生き地獄からは抜け出せる。この2人ならたとえ何が起ころうと飄々と生き残りそうだ。
 (そうだ! そうしよう!!)
 そんな裕太の考えを見計らっていたかのように―――
 「―――敵?」
 「ええ間違いなく」
 (やった!!)
 2人の言葉に小さくガッツポーズを浮かべる裕太。これで死ねるチャンスが巡ってきた!
 「観月さん! 木更津さん! 先行って下さい!!」
 「裕太君!?」
 「裕太!?」
 「あいつらは俺が食い止めます! その間に早く!!」
 暴徒は3人。この人数ならこんな言葉を言っても不思議には映らないだろう!!
 ―――そんな事を裕太が考ええていると知っているのかいないのか。観月と木更津は頷き合うと、裕太1人を残して走り去っていった。
 (やった・・・! これで俺も―――!!)
 心の中で神に感謝しつつ、裕太は暴徒に向き合った。いくら死ぬつもりでも、ある程度は足止めをしておかなければあの2人が追いつかれてしまう。
 (まず2人を殺さない程度に気絶させて、ラストの1人も動けないように足の1本でも折っておいてから殺されて―――よし、完璧なシナリオだ)
 ・・・・・・実はほとんど誰にも言っていないが、裕太はケンカは強い方だ。父親の知り合いに護身術を小さい頃習っており(とはいってもそこまで本格的なものではないが)そのうえ小さい頃から他人にはよく絡まれていた。
 (ボーガンは持ってねーみてーだし、ナイフは―――まあ急所さえ守れれば短時間なら何とかなるか)
 武器対策にと持っていたラケットを構える。テニスプレイヤーとしてラケットを間違いなく壊すこの行為は出来ればやりたくないのだが、非常事態である。
 1人目、2人目は予定[シナリオ]どおり気絶させたところで、最後の1人―――棍棒を持った男が走りこみつつ手にした獲物を思い切り振り上げてきた。直接頭に食らえばほぼ間違いなく『死』ぬ。だが今までの4人を見た限り、発光してから消えるまでに数秒間のタイムラグがあり、その間まだ他のものに触れる。数秒あればラケットで相手の膝頭を砕き割るには充分だ。
 そう思い裕太は反射的に避けかけた体をその場に留め―――
 ヒュッ―――
 がん!!
 「げっ!!」
 「は・・・・・・?」
 後ろから凄まじい高速で飛んできた石をまともに頭に受け倒れた男に目を点にした。
 石の飛んで来た方を見る―――までもなく、馴染みのありすぎる声が通り一面に響いた。
 「裕太! 大丈夫!?」
 「え・・・・・・?」
 ラケットを手にしたまま(十中八九これで石を飛ばしたのであろう)駆け寄ってくる兄に思考回路がストップする。
 「不二〜! 裕太大丈夫だった〜!?」
 「しかしさすがだな。これだけの遠距離からピンポイントで石をぶつけるとは」
 「けど不二先輩よく裕太ってわかりましたね」
 「『弟命』の賜物なんじゃねーのか?」
 「はい・・・・・・・・・・・・?」
 不二と同じ方向から走り寄って来た英二・乾・リョーマ・桃の4人に、更に回りの空気も止まった。
 そして―――
 「―――裕太君、大丈夫ですか?」
 「大丈夫・・・・・・みたいだね」
 「――――――はっ!!」
 騒ぎに気が付いて戻ってきたのか、それとも元々近くに隠れていただけで逃げてはいなかったのか、5人とは逆側から現れた観月と木更津の声を聞き現実に戻ってくる―――が、既に手後れだった。
 「な!? 貴様は不二周助!!」
 「やあ久し振りだね観月。ところで今のを見ると君たちが僕の裕太を置いて逃げたように思うんだけど・・・・・・?」
 「観月がいる以上その可能性は
98.2%だな」
 「ひどーい観月! 裕太見捨てたワケ!?」
 「何を言うんですか! これは裕太君が―――!!」
 「うん確かにそう見えるね」
 「木更津! 貴方まで何馬鹿な事を言ってるんですか!?」
 「へえ・・・。キミ意外といい奴だね。あっさり認めるんだ・・・・・・」
 「くす・・・。君の言い分は間違ってないからね。確かにそう見えたよね」
 「・・・・・・。つまり実際は違うって言いたいの?」
 「裕太がそうしたいって言ったから任せただけだよ。死にたい人を止める権利は特に僕らにはないからね」
 「ふーん。ま、その『言い分』も間違ってないんじゃないの?」
 ―――等々のやり取りを聞きながら、
 裕太は気付いてしまった。
 (待てよ。兄貴・菊丸さん・乾さん・桃城・越前・・・・・・。
  ―――青学の中でも問題のあるヤツばっかじゃねーか!!
  それに観月さんと木更津さんだと・・・・・・!?)
 そう、この中にはどんなに妥協したところで『良識人』と言える人は1人もいない。
 (楽になろうと思って余計苦しくしてどーすんだよーーー!!!)
 今だドス黒い空気の中で「くすくす・・・」だの「んふっ・・・」だの「ふふふ・・・」だのなんだのひだすらに怪しい雰囲気を醸し出す一同を特に見やり、裕太が頭を抱えて心の中で魂からの叫びを上げた。
 ―――直接口に出来ないところが裕太が裕太たる所以なのだが。


Survivor――観月・木更津・裕太






 ―――といいつつ実は無意識で裕太も相当に黒い。つーか狡猾。柳沢の言葉ではありませんが彼ならこのメンツでもやっていけそうな気が・・・・・・。
 さて初合流はルドルフ
&青学。ルドルフを書くとどうも裕太視点になりがちなのですなあ。しっかし本気で問題児大集合だ。この先面白そう――もとい、大変そうだ・・・・・・。

2003.1.5write2002.10.28