プチ小説14 山吹編3
さて、(やかましい)千石もいなくなり残り2人となった山吹。だがなぜかその後は呆れるほどに順調に進んでいた。
「室町先輩、調子いいですね!」
「・・・ああ、そうだな」
(まあ注意すべき人間が2人から1人に減った訳だし)
なぜ今まで山吹が罠にかかりまくっていたのか、半分は面白がって千石が起動させるからであり、残り半分が太一の不注意によってだった。
なので―――
「あ、太一、そこ―――」
「あ! 危なかったです!!」
太一の足元にあった色の違うタイルを指摘してやる。千石がいなくなった今、たったこれだけのことで罠はほとんど全て防げる。
(ありがとう、千石さん・・・・・・)
―――と心の中で思ったかどうかはともかく、
「―――ん?」
『それ』に先に気付いた室町が足を止める。
「どうしたですか?」
「音が・・・・・・」
言葉少なに呟く彼に合わせ、太一もまた無言で耳を澄ました。
聞こえてくるのは―――足音、何かを引きずる音、そして、荒い息遣いと呻き声。
「―――な、な、なんなんですか、アレ!?」
歯をガチガチ言わせ室町にしがみつきつつ太一が尋ねる。こんな暗い洞窟でこのような音が聞こえれば立派にホラーものだ。
「さあな。俺が知る訳ないだろ?」
だがこんな時も『慌てる』という言葉を事象の彼方に置き去りにしてきた(千石&太一談)室町は、冷静に至極当然のことを口にした。
「そ、それはそうですけどー・・・」
「だろ?」
「―――ってそういう事を言いたいんじゃなくてですね、アレ・・・アレ・・・・・・!!」
「・・・・・・・・・・・・」
緊張感をほぐすための会話(らしきもの)も上滑りするだけで、2人の視線は音の発生源である横道の方に集中していった。
「・・・・・・」
「――――!」
「・・・・・・・・・・・・」
「〜〜〜〜〜〜〜!!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・(ため息)太一、うるさい」
「だ、だってだって――――って出たーーー!!!!!」
室町が懐中電灯で照らす中、徐々に姿をあらわすそれに完全にパニック素起こす太一。その一方で、
「―――あ、何だやっぱ千石さん生きてたんですか」
「・・・・・・え?」
盛り上がりどころか身もフタもなく冷たく言い放つ室町に感化され、落ち着きを取り戻した太一が目を凝らした。
「・・・あ、千石先輩」
「や、やあ・・・・・・」
光の中に現れた千石は―――まあ一言で言うとズタボロだった。全身薄汚れており、着ていたジャージは所々が裂けている。髪もいつも以上(笑)に絡まり、これがあの千石かとついつい訊きたくなるほどだ。
壁に掴まりヨロヨロしながらもピースと笑みを忘れなかった点でとりあえず本人だと確認し、室町が今までのいきさつを簡潔に尋ねた。
「どうしたんですか、千石さん?」
「―――って一言目がそれ? ひどいなあ室町くんは。せっかくの再会なんだからもうちょっと何か言ってよ」
その言葉に即答する。
「千石さんなら生きていると信じていましたから」
「室町くん・・・・・・(感)」
嬉しい発言に涙する千石。もちろん彼は知らない。室町の言う『信頼』が、『まあ千石さんの事だから本気で何とでもするだろうし』などという意味であろう事は。
「―――で?」
「そーなんだよ聞いてくれよ〜!!」
・・・・・・と泣きながら話してくれたものを頭の中で整理し、
(なんだやっぱ千石さんが悪いのか)
室町はこう結論づけた。
Survivor―――千石・室町・太一
―――やっぱ生きてました千石さん。本気でどうやって生きてたんでしょうあの状況で。
ちなみにこの話はちょっとしたパロディとして、「もうちょっと何か言ってよ」という千石の言葉に室町が顎に手を当て暫し悩み込み、『・・・・・・よかったっスね死ななくて。で?』と冷たく返すなどというものもあったりして。もちろんこの際が『室町君・・・・・・(泣)』と違う意味で涙するんでしょうが。
では山吹はこの3人で合流点へGo!
2003.1.4(write2002.10.22〜25)