Wanna
  Rise







 夏休みも終えた9月某日の部活前、部室ではこんな会話が繰り広げられていた。
 「じゃあ、あの事は秘密で、って事でいいかな?」
 「じゃあ・・・・・・って、にゃんで?」
 「びっくりさせたいからっていうのもあるけど、それ以前に彼は人前で騒がれることを嫌うからね」
 「確かにそーっスね」
 「ふふ・・・シャイなんだよね。そこがまたかわいいんだけどv」
 「嫌がる理由はむしろ不二の過剰なスキンシップにあると推測するけどね」
 「過剰? そんなことないよv まだまだ全然足りないくらいvv」
 「(ため息)・・・苦労するな、越前・・・・・・」
 「それはいいけど・・・・・・んじゃパーティーの事は? それもぎりぎりまで黙ってるの?」
 「そっちは最初に言っちゃっていいんじゃないかな? そのほうがみんなやる気沸くと思うし」
 「いやあ、今日の練習はあきらめたほうが・・・。みんな浮き足立っちゃうと思うよ・・・」
 「何で?」
 「何で・・・って、そりゃあ不二は慣れてると思うけどあんなにギャラリー多かったら集中は無理じゃないかな・・・?」
 「そんなもの?」
 「・・・・・・・・・・・・そういうもんじゃないっスか?」
 「ふ〜ん」
 「―――話はその程度にしろ。そろそろ部員が来る」
 「じゃ、そういう事でよろしくv」
 その言葉を最後に部室からは気配が1つまた1つとなくなり・・・・・・。







 そして―――







 「――不二、本気でやるつもりか?」
 「そのつもりだよ。
  ――今日は本気で潰す」










§     §     §     §     §











 「・・・・・・な、なあおい越前。今日本当にスゲーな・・・・・・」
 「何が?」
 「何が・・・ってギャラリーの数だよ」
 「うん。しかもカメラ持った人たちまで何人もいるんだけど」
 「あれって絶対学校関係者じゃないよねえ?」
 「取材、じゃね―の?」
 「それにしては人数多すぎるよ」
 「―――まさか!?」
 「どうしたの、堀尾君?」
 「え? あ、いや、何でも・・・・・・」
 尋ねてくるカチローとカツオに慌てて両手を振ると、堀尾は早くも話題に興味を無くしたらしくそっぽを向いてあくびしているリョーマの耳元に囁きかけた。
 (な、なあ・・・やっぱあれのせいか?)
 「さあ。別に興味ないし・・・・・・」
 「ったく、おまえホント冷めてるよなー! 普通テニスプレーヤーとしては感動するもんだろ!!?」
  「「やっぱ何か知ってるの!?」」
 「う、あ、いやその・・・」
 墓穴を掘ってうろたえる堀尾から視線を外し、リョーマはテニスコートを取り囲む黒山の人だかりを(やはり興味なさげに)見回した。高価そうなカメラを持った取材班の群れ。午前中の騒ぎを聞いた(あるいは見た)らしい制服姿の生徒たち。さらにどこから情報をかぎつけてきたのか部外者まで大勢いる。
 (あいかわらずどこへいっても騒ぎ起こすよね、あの人・・・・・・)
 堀尾が黙っているのは別に秘密にしたいからではない。未だに自分でも信じられないのだろう。なにせテニスの名門校とはいえたかだか1中学に、世界トップレベルのプロテニスプレーヤーが来てあまつさえ授業でテニスの指導をしてくれたなどとは。
 と、
 「―――全員そろってるかい? 部活始めるよ!!」
 竜崎の声が響く。よく通るその声に、今までざわめいていた部員たち(及び外野)がぴたりと静まった。
 全員を整列させる竜崎。彼女の後ろには、手塚・大石・英二・乾・河村・桃・海堂と珍しく現在指導をしてくれる先輩たち7人が勢ぞろいしていた。
 「もう会った者もいると思うけど今日は特別にもう1人を指導員を呼んだ」
 その言葉にカメラのシャッター音が重なる。待ちきれないのかギャラリーの少女たちが小声できゃ〜vvと騒ぎ立てる。
 「何だ・・・?」
 わけがわからず戸惑う部員一同。その中で1人ため息をつくリョーマ。
 「知ってるやつも多いと思うけど、ここにいる手塚たちと同期であんた達の先輩」
 「・・・ってオイ・・・」
 「まさか―――」
 「現在世界で活躍してるプロのテニスプレーヤー―――」
 「おいやっぱり・・・!」
 「嘘だろ・・・・・・」
 竜崎の言葉に部員たちの間でも人物像が固まってくる。話では何度も聞いたことがある。20年前の先輩に続く伝説の人だと。
 思わず詰め寄りそうになる部員たちを前に、今までさんざんじらした竜崎が、種明かしをする手品士のような微妙な優越感を抱いて『その人物』を紹介―――
 ―――するより早く、それに気付いた英二がフェンスの外に向かって両手をぶんぶんと振った。
 「あ、不二〜! こっちこっち〜vv」
 「ごめんごめん。準備してたら遅くなっちゃった」
 『・・・・・・・・・・・・』
 『世界トップレベルのプロテニスプレイヤー』の、盛り上がりも何もない自然すぎる登場に場が静まる。
 が、それも一瞬で。
 『えええええええ!!!?』
 驚く部員一同。
 カシャカシャカシャ―――!!!
 間断なく押されつづけるシャッター音。
 『
きゃ〜〜〜〜〜〜〜〜vvvvvvv!!!!!!!!!!
 最早超音波レベルの女性の悲鳴。もちろんここには男性の『うおおおおおおお!!!』というものも混じっている。
 「―――というわけで今日は不二が特別に指導してくれる。なにせ現役のプロだ。いろいろと参考になる話も聞けるだろうしね。
  説明も終わったし、じゃあ練習始めるよ!」
 『ういーっス!!』
 竜崎の掛け声にかつてない意気込みで頷く一同。
 「あ、ちょっとタンマ」
 その盛り上がりに水をさしたのはまたも英二だった。
 「・・・なんだい菊丸?」
 「その前に―――」
 と、部員たちのほうを向き―――
 「みんな! 全国制覇おめでとー!!
  ちょーっと遅くなっちゃったけど不二もお祝いしたいって言うし、今日部活が終わったらタカさん家に全員集合!! パーティーやろ!!」
 「マジっスか!?」
 「絶対行きます!!」
 英二の言葉に盛り上がりがより過激になる。河村の指摘(心配)どおり今日はとても部活になりそうもないと思いきや―――。
 「―――わかったら練習だ! 次は秋の新人戦! 3年が抜けた分の穴はしっかり埋めろ!」
 『はい!!!』
 やはり手塚の号令は部員を黙らせる鶴の一声であった・・・。










§     §     §     §     §











 「―――ところで不二君、質問なんだけど」
 「なんですか?」
 部活の休憩時間、英二や桃らと話している不二に、月間プロテニスの記者・芝沙織がメモとカセットレコーダーを片手に近づいてきた。もちろん他の記者もインタビューしてみたいだろうし、せっかくの休憩時間、不二にいろいろと話を聞いてみたいという部員も大勢いた。が、相手は世界で活躍するプロ。いくら先輩といえどなかなか気軽には接しがたい雲の上の人だった。
 芝は―――というか月刊プロテニスはその点、割と昔から中学テニスを取り上げていたおかげで不二を含め今ここにいる元青学レギュラー達ともかなり親しい。その利点を生かして単独インタビューに挑戦しているわけだが。
 「今の青学、というか中学テニスを経験者としてどう思う?」
 「どう・・・・・・。難しい質問ですね」
 芝の質問に不二は苦笑して答えた。実のところ答えはたった一言で言い切れた。ただしそれはさすがに口にしにくい。
 「じゃあ質問を少し細かくするけど―――今の中学テニスのレベルをどう思う?」
 「・・・・・・・・・・・・」
 やはりその話か。笑顔を崩さない不二の後ろで英二と桃が苦笑いする。
 「正直―――僕達のころに比べレベルは下がったと思いますね。とはいっても僕達のころを基準にすれば、ですけど」
 不二達が中学生だったころ、それは普段では考えられないほど実力の高い者たちが揃っていた時だ。現在不二と同様に世界で活躍する氷帝の跡部や忍足・向日ペア。世界にこそ出ていないが日本国内ではプロとして上位に君臨する山吹の千石、聖ルドルフの観月。アマチュアながらその実力はプロレベルといわれる不動峰の伊武や青学の菊丸・大石の黄金ペア。そして―――手塚に不二。『中学テニスの黄金期』とまで呼ばれていた位だ。実際この世代の者たちによって、現在のテニス界はひとつの大きな展開期を迎えている。
 「やっぱりそう思う?」
 望んでいた答えを手に入れたからか、芝が身を乗り出してくる。やはりあの頃から取材をしていた彼女としては今の中学テニスは少し物足りないのだろう。
 「けどまあ望みがないわけではないんじゃないですか?」
 「つまり?」
 「新しい風はいつでも吹いてますから」
 思わせぶりな不二の発言に、眉を寄せる芝。
 「どういうことかしら? 
  ―――もしかして注目選手がいるとか!?」
 あの不二が注目する中学生プレーヤー。もしも本当にいるとしたらスクープだ!
 「そうですね・・・・・・。例えば―――」
 笑顔の不二が頭をぐるりとめぐらす。その視線を追って芝も周りを見回した―――ので、そのすぐそばで話を聞いていた英二達が必死に笑いをこらえているのに彼女は全く気付かなかった。
 「あそこにいる―――帽子をかぶった彼、とか」
 「あ、越前君?」
 「さっき授業で少し見たんですけど―――彼なかなか筋いいですよね。技術もあるし、駆け引きもうまい」
 「そうよね! なにせ今年の青学の全国制覇に一番活躍したのは越前君だものね! 1年ながらに異例のレギュラー! これからの活躍が楽しみだわ!!」
 「ええ。その話は英二達に聞いてます」
 ―――余談だがこの時点で不二は一言も嘘を付いていない。リョーマの活躍については肝心の本人がなかなか言ってくれないのだ。できれば見に行きたいが自分も世界を回っている以上全てを見に行くのは不可能。そこで英二らに報告を頼んでいたりする。特に乾のビデオや細かいデータはかなり役に立っている。
 「ああいう子がもっと増えてくれると中学テニスも『第二の黄金期』を迎えられるのに・・・・・・」
 ため息をつく芝の目が―――きらりと輝いた。
 「ねえ不二君」
 「何ですか?」
 「ここは1つ、先輩の教えって事で越前君と試合できないかしら?」
 現役世界プロの先輩が期待の新人、それも母校の後輩にテニスの指導。なんておいしいネタだ!!
 期待に満ち溢れた芝に苦笑し―――不二は少し離れたところにいた手塚に視線を送った。
 「―――だってさ、手塚」
 「・・・・・・・・・・・・」
 笑顔で言う彼に沈黙する手塚。それは芝の案に対してなのか、それとも―――
 暫し考え、結局手塚はため息で返事をした。










§     §     §     §     §











 「―――よし、休憩終わり! これより練習を再開する!」
 手塚の掛け声に、ざわついていた雰囲気が収まった。コートに戻ってくる1・2年。いつも以上に熱が入っているらしく、肩をぐるぐる回したりする者も多い。
 そんな彼らを再び黙らせる一言。
 「後半の練習メニューを一部変更し、これより練習試合を行う。
  ―――越前!」
 「俺・・・っスか?」
 突如名前を呼ばれてリョーマが自分を指差した。レギュラーならば練習試合を行う事もある。が、
 (俺、だけ?)
 レギュラーは他に7人。部活外はともかく部活中は全員同じメニューをこなしている。それなのに自分1人が呼ばれる理由は―――
 (まさか・・・・・・)
 浮かんだ考えに、ちらりと視線をそちらに走らせる。そのリョーマの視線の先では、やはりそれを察したらしい人物がにこやかに小さく手を振っていた。
 (やっぱり・・・・・・)
 肩をコケさせる。どうせそんな事だろうとは思っていたが・・・。
 そんなリョーマのアクションに気付いているのか、続く手塚の声にもごく僅かだがため息が混じっていた。
 「それと不二。お前たち2人で1セットマッチの試合を行ってもらう。他の者は観戦」
 「えええええええ!!?」
 たとえレギュラー同士の試合であろうが、全てのコートを使ったりしない限り他の者は練習させていた手塚の珍しい発言に、英二が思わず身を乗り出した。
 「どしたの手塚!? 熱とかある!?」
 「・・・・・・。菊丸、グラウンド―――」
 「にゃ〜〜〜!!! 冗談冗談!!」
 「けど珍しいね。手塚が練習より観戦を優先させるなんて。まあ俺としてはその方がデータ取りに専念できる分助かるけど」
 「観戦も立派な練習の1つだ。それにこの2人の試合ならば多くを学べるだろう。技術もさることながら2人ともゲーム運び―――殊試合中の駆け引きには長けている。
  それになにより、不二はともかく越前は中学生だ
 「どういう事っスか?」
 「不可能ではない、という事だ。どうも『次元が違う』と考える者が多いようだが、決してそのような事はない。もちろんここには才能や努力などが要求されるが―――
  ―――訊くが越前、不二。お前たちはテニス歴何年だ?」
 「何スかいきなり。2年半っスけど」
 「僕は中学に入ってからだから・・・・・・7年半、かな?」
 『うええええええ!!?』
 予想通りの反応に頷く手塚。ちなみに叫んだのは半分が部員、半分が記者たちだが、テニスを―――何かをやっている者ならばこの尋常でない上達速度に驚くのは当然だろう。特に不二がプロとして活躍しだしたのは4年前。その時点で彼はテニスを始めてまだ3年程度だったという事になる。
 「聞いたとおりだ。ここにいる者でこの2人よりテニス歴が長い者もいるだろう。何も上手くなるのは幼児の頃から英才教育を受けた者のみという事はない。実際不二はここに入ってからテニスを始めている。それ以外にも、俺たちの中でもここに入学する以前からテニスを行っていた者は俺と菊丸の2人のみだ。その点ではここにいる者と俺たち、そして不二との差は0だ」
 幼児の頃から英才教育を受けた手塚の言葉に不二がくすりと笑う。結局のところそんな自分達の頂点に立つのは才能・努力、そして経験の全てを収めた目の前の彼だ。
 「そ、そんなの絶対無理ですよ・・・!!」
 現在の部長が叫ぶのに合わせ、他の者も口々に何かを言い出す。
 風に揺れた草木の如く広がるざわめき。それを撫でるのもまた一陣の風であった。
 「何故だ?」
 「い、いやだから・・・・・・!」
 冷静に問う手塚の声が、広がりつつあったざわめきの渦を一瞬でかき消した。
 「諦めるな。上に立つのに必要なのはこれただ1つだ。貪欲なまでに勝ちに拘れ。『執念は時として技術をも上回る』―――これが『俺たち』の鉄則だ」
 『は、はい!!!』
 手塚なりの教訓―――とも取れそうな言葉。それを聞き、不二は珍しく苦笑いを表に現していた。
 「・・・・・・なんだ、不二?」
 「別に? 何でもないよ?」
 肩を竦めて誤魔化す。苦笑いしたのは、結局彼は長々と時間をかけて自分を皮肉ったのではないだろうか、そんな思いが込み上げてきたからだ。そんな訳はない。彼はそのような事に拘る人間ではない。が、
 (『執念[ぼく]』は『技術[きみ]』に勝てなかったんだけどね・・・・・・)
 貪欲なまでに手塚に勝つ事を求めているが、今だに彼に勝てる自信は持てなかった。
 (ま、いいけどね)
 「―――どーも。不二先輩
 「こちらこそよろしくね、越前君
 務めて他人のフリをする可愛い恋人に、にっこりと微笑み返す。今は―――彼がどこまで上ってくるか、そちらの方が感心がある。










§     §     §     §     §











 審判台の上から手塚がコートに立つ2人を見下ろす。実のところ他の部員を観戦させているのには、先程の理由[タテマエ]の他に2つ、本音があったからだ。1つはこれから本気で試合を行うであろう2人の集中を阻害させたくなかったから。そしてもう1つは、自分もまたこの試合に感心があったからだ。勝敗が―――ではない。間違いなくこの試合は不二が勝つ。それは部活前、不二自らが宣言した事だ。
 (問題は・・・・・・この試合で越前がどう変わるか、だ。そして不二もまた―――)



 ―――『今日は本気で潰す』



 そう言った不二の真意は予想がつく。荒治療ながらリョーマにとっては絶対に必要な事だ。だが不二は? 彼はこの試合で何を得る?
 (テニス界の転換期は、まだ始まったばかり・・・か)
 自分のした行為を―――もうテニスの出来ない体を後悔するわけではない。だがその場に自分がいられないことは残念に思う。
「不二先輩・・・・・・」
 「何?」
 「倒しちゃっても、いーんすよね?」
 「倒せるならね」
 自分の下で―――いや,自分の上で、か?―――そんなやり取りをする2人を見据え、手塚はゲーム開始の合図を出しだ。
 「1セットマッチ! 不二、サービスプレイ!」










§     §     §     §     §











 現在2ゲーム終わって成績は1−1。互いに一歩も引かない展開にカチローとカツオは盛り上がっていた。
 「スゴイ! スゴイよリョーマ君!! 不二先輩と互角に戦ってる!!」
 「うん!! これなら、もしかしたら―――!!」
 「ばっかだなー。そんなワケないだろ? あれは不二先輩が手加減してるんだよ。じゃなかったら越前が世界のトッププロと互角になんて戦えるハズがないだろ〜?」
 そこに水を差す堀尾。
 3人のすぐ隣にて、かろうじてその話の聞こえた英二は口を開いた。視線は2人から外せぬまま、
 「うんにゃ。『様子見』って意味じゃ確かに手加減してる。不二もおチビも。
  ―――けど本気だよ。じゃなかったらあんなふうに笑えない
  「「「え・・・・・・?」」」
 わけがわからず1年トリオが揃って訊き返した。不二の笑顔はいつものことだ。試合中も含め、余程のことがない限りそれが崩れる事はない。不二が少女らに『笑顔の貴公子』と呼ばれる所以だ。
 英二の横で試合を見ていた桃が会話に気付いたらしく、こちらも視線は逸らせぬまま呟く。
 「俺初めて見ました。不二先輩の『本気』。
  ―――スゴイっすね。気迫がここまで伝わってくる・・・・・・」
 生唾を飲み込む。背中を汗が伝う冷たい感触がかろうじて伝わってきた。
 「確かにな。不二が本気になるのは俺が記録する限り、手塚と対戦して以来だ。
  ・・・・・・しかし手塚の判断は正しかったな。この状態で練習の続行は不可能だろう」
 乾の言葉に1年3人が周りを見回した。そういえば今まで散々騒いでいたギャラリーや記者の声が一切しない。
 よくよく見る。ギャラリーは口をぽかんと開け、記者はカメラを構えることも忘れ、目の前の光景に魅入っていた。
 「ホント・・・・・・、マジ、呑まれる・・・・・・・・・・・・」
 「え、英二先輩・・・・・・?」
 そう呟く英二の様子がおかしい。フェンスぎりぎりまで顔を近づけ、大きな目を極限まで見開き―――口元に堪えきれないかのように笑みを浮かべていた。
 「すげえ・・・・・・」
 最早自分がしゃべっている事すらわかっていないであろう。そんな英二の―――みんなの様子に堪えきれなくなったカチローが「ヒッ!」と短く悲鳴を上げた。
 助けを求めるように3人は再び周りを見回し・・・・・・そして彼らもまた『それ』を見た。










§     §     §     §     §











 リョーマの目は、強大な敵と退治した勇者のそれだった。
 獰猛に満ち溢れた瞳が、爛々と輝く。
 (ウマい、この人・・・・・・)
 全国を制覇する過程で様々なテニスプレーヤーと戦ってきた。特に関東・全国では強いプレーヤーが大勢いた。だが自分が負けるとは絶対に思わなかった。『勝つ』という盲信にも似た確信を常に持ち、そして勝ち続けてきた。
 勝てるかどうかわからない―――思ったのは今日が初めてだ。
 (おもしろいじゃん・・・・・・)
 そんな風に思った事も、また。
 半端な駆け引きは通用しない。僅かな油断が命取りになる。
 (けど・・・・・・)
 目の前に立ちはだかる壁は大きい。だが―――だからこそ。そんな相手だからこそ・・・。
 (乗り越えてみせるって思うんでしょ・・・!?)
 リョーマの打ったスマッシュが不二のコートへと一直線に向かっていった。







 不二の目は、捜し求めていた獲物を見つけた狩人のそれだった。
 歓喜に喜び震える瞳が、妖艶に輝く。
 (さすがだね・・・・・・)
 技術そのものはまだ荒削りだ。ゲーム運びや駆け引きも中学生離れした上手さだとは思うが、世界のプロを相手にしてきた自分から見ればそれらも幼稚なものでしかない。が、
 まだ幼いが故に底が見えない。僅かな試合経過で着実に成長している。
 (おもしろい・・・・・・)
手塚と戦って以来、久しく忘れていた感覚が蘇る。
 1瞬でも油断すればあっさり追いつかれ、捕らえられる。追う側ではない。追われる側としての緊迫感[スリル]。
彼の『底』は一体どこにあるのか?
 (けど・・・・・・)
 だがまだ底を見る気はない。彼の底はこれからまだまだ深くなる。
 ―――自分が深くしてみせる・・・!
(今回は勝たせてもらうよ・・・!)
 打たれたスマッシュを、体を半回転させてダイレクトに打ち返した―――。










§     §     §     §     §











 トォォ―――ン・・・・・・
 目を見開いたリョーマの後ろを、ゆっくり落ちた球が軽くはねた。
 「―――へえ・・・・・・」
 呟くリョーマの声に微かに動揺が混じる。自分の打ったスマッシュは完璧だった。自分にミスはない。
 ―――ならばこれが不二の実力。
 「これが、トリプルカウンター・・・・・・」
 不二の試合の中で何度か見たことがあるが、実際に食らうのは今のが初めてだった。彼を『天才』と呼ばせる3種の返し技。食らってみてよくわかった。―――彼は『天才』であると。
 「こんな神業普通じゃ出来ないっスよ」
 不満げに言う。だが瞳は歓喜に満ちていた。
 (絶対破ってやる・・・・・・!!)







 そんなリョーマの目を見ながら―――
 不二の興奮はさらに上がっていった。
 相手の技を完全に無力化する必殺のカウンター。今までそれを食らって負けを確信した相手は多い。が、逆に燃える人間は極めて少なかった。中学以降では、手塚と―――そして、目の前の彼。
 (ドキドキする・・・。気持ちいい・・・・・・)
 自分を見つめるリョーマの目に欲情する。それはどんな
sexよりも激しく自分を燃え上がらせる。
 見せてほしい。もっと、もっと、君の本気を。
 「いいよ。じゃあ・・・破ってみる?」
「もちろん」
 予想通りの―――確信どおりのリョーマの返事に、不二の笑みがさらに深くなった。










§     §     §     §     §











 もうどの位繰り返しているのか。まだ数球なのか。それとも本当はとっくに試合が終わってしまっているほどなのか。そんな中で―――
 トォォ―――ン・・・・・・
 またも決まる羆落とし。が、
 「アウト!!」
 手塚の抑揚のない判定に、最初誰もがその言葉の意味を理解できなかった。
 一瞬の沈黙。そして誰もが理解する。
 「アウト!? そんな! あの不二が!!」
 「返し技[カウンター]を失敗するなんて・・・!!」
 ざわめきが収まらない中、もう1度不二がチャンスボールを上げた。その下へ駆け寄るリョーマ。ラケットを振り上げ・・・
 「もうロブ上げてくれなくていいっスよ!」
 この瞬間、『偶然』が『必然』に変わる。彼は対抗策を編み出したのだ。
 トォォ――ン・・・・・・
「アウト!!」
 その彼の言葉を証明するように、やはり先程同様出されたアウトの判定。
 肺に貯まっていた息を吐き出し、不二はリョーマに微笑んだ。
 「とんでもない事するなぁ。凄いね越前君」
 「そりゃどーも」
 とんとんとラケットでネットを叩くリョーマに賞賛を送る。まさかそんな手で来るとは思わなかった。
 (さて、できるかな・・・?)
 やったことはないが、挑戦するしかない。
 にやりと笑うリョーマ目掛けて、再び不二はチャンスボールを上げた。







 こうなれば羆落としは通用しない。それをわかっていながらまたもロブを上げてくる不二に、リョーマの目が苛立たしげに細まった。
 (舐めてるワケ?)
 今の2球を偶然だと思ったのだろうか? だとしたら不二らしくない判断ミスだ。それとも余程自分は下に見られているのか。
 「―――っ!」
 呼気を吐き、スマッシュを放つリョーマ。彼の放ったスマッシュは狙い澄ましたようにネットを掠り、羆落としの体勢に入った不二のラケットに向かっていった。
 この技のためだろう、広めに作られたスイートスポットを、強引にコースを変えた球は外して当たる。微妙なコントロールを要求される羆落としはこれでもう打てない。
 ―――筈だった。
 「―――ポイント不二」
 「な・・・!!」
 スイートスポットは外した。羆落としは決まらないはずだった。
 「にゃんで!? おチビネットに当ててたよ!!?」
 同じ事を思ったらしい英二が騒ぐ。
「恐らくスイートスポット以外でもある程度ならコントロールが利くのだろう」
 「嘘だろ!? だって羆落としってメチャクチャコントロール難しいんだろ!?」
 「だから『天才』なんだろう。トリプルカウンターを打てる時点で普通のレベルは既に超越している」
 騒ぎ立てる英二に冷静に答える乾。彼の憶測は正しい。確かにスイートスポット以外でもある程度ならコントロールは利く。ただし―――その状態で羆落としを挑戦したのは初めてだが。
 「出来るんスか、そんなこと?」
 「出来たみたいだね、どうやら。
  ―――さあ、どうする?」
 これで勝負は振り出しに戻った。リョーマはこれでもまだ挑みつづけるだろうか?
 そんな不二に応えるかの用に、スプリットステップを始めるリョーマ。
 2人の間を風が通り抜ける。
 「いい風が吹いてきたね・・・・・・」
 そして不二がトスを上げた・・・・・・。










§     §     §     §     §











 ぱすっ。
 試合は情けない音とともにあっけなく終わった。弾まない打球を無理やり打ち返した結果だ。
 ボールに突っ込んでいったリョーマが前に転ぶのと、ネットに当たった球がゆっくりと落ちていくのは同時だった。
 「ゲームセット! ウォンバイ不二、6−2!」
 わああああああ!!!
 周りからの歓声が響く。不二へだけでなく、最後までいい試合をしたリョーマにも賞賛は送られた。
 ―――それが聞こえているのか否か、リョーマはのろのろと身を起こすと落ちた帽子を拾い上げ、目元まで深くかぶった。
 「ありがとう。すごく面白かったよ」
 笑顔で握手を求めてくる不二の右手を凝視する。勝者は彼なのだ。彼を称賛して右手で握手するのは常識である。
 「・・・・・・」
 無言で右手を取り、軽く握手するリョーマ。握手をしながらも左手で帽子のつばを直す。今の自分を、彼には見られたくない。
 フェンスから外に出る。一歩先に出た不二にはカメラが向けられ、何人もの記者が取り囲んでいた。
 「・・・・・・・・・・・・」
 記者たち、そしてファンの人たちの厚い壁に覆われた中でいつもと変わらぬ笑顔で何かインタビューに答えている不二を、虚ろな目で見つめる。物理的なこの距離が、全ての距離を現しているようだ。
 息を吐いて水道に足を向けたリョーマにいくつかの声がかかる。
 「惜しかったね、リョーマ君」
 「まあけどいい勝負したんじゃね―の? あの不二選手相手に2ゲームも取ったんだぜ!?」
 「スゴイよリョーマ君!!」
 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 1年トリオの的外れな慰めに苛立ちがより積もる。つばの下で3人を睨み付けた。
 そんなリョーマに決定打を打ち込んだのは、今日もまた見学にきていた桜乃だった。
 「でも仕方ないわよ。相手はプロの選手だもの。けどリョーマ君も頑張ったじゃない。だから落ち込まないで」
 「ウルサイ・・・・・・」
 「え・・・・・・?」
 肩に伸ばしかけた桜乃の手を思い切り振り払う。
 「―――っ!!」
 「オイ越前!!」
 「リョーマ君! どうしたのさ!?」
 「なんかおかしいよ、今日の君!!」
 「・・・・・・」
 耳障りな叫び声を背に、リョーマは水道へ向かった。










§     §     §     §     §











 その後は特に何事もなく部活も進み、ギャラリーも帰っていった部活終了後。
 「越前! お前本気でパーティー行かねーのかよ!?」
 「行かない」
 「何で? だってせっかく先輩たちが全国制覇記念にって開いてくれたんだよ?」
 「興味ない」
 「そんな事言わないでさ。パーティーの主役はリョーマ君じゃないか」
 「俺だけじゃないでしょ」
 「そんなことないわよ。だって一番活躍したのリョーマ君じゃない」
 「別に。それに人といるの嫌いだから」
 「そりゃそうだろうけど〜・・・」
 『堀尾君!!』
 「ゔ・・・・・・」
 なんだか勝手に盛り上がっている4人を横目に、早足で校門を出るリョーマ。と・・・・・・
 「あ、終わった?」
 『不二先輩!!』
 だけではない。校門脇にはなぜか先に帰ったはずの手塚・乾・英二の姿もあった。
 「タカさんに大石・海堂・桃はパーティーの準備があるからって先行ったよ」
 「先輩は、なんで・・・?」
 「僕たち? 僕たちはもちろん主役のお迎えに。
  ―――行こ。リョーマ君v」
 「え・・・?」
 名称が変わったことに最初に気付いたのは桜乃だった。試合をして親しくなったとでも思っているのだろうか。だとしたらリョーマにはいい迷惑だろう。
 (リョーマ君はこんなに落ち込んでるのに・・・・・・!!)
 言いようのない怒りが込み上げる。相手が誰であろうとお構いなしに注意しようと、一歩前に出たところで・・・・・・。
 その脇をリョーマがすり抜けていった。
 「・・・?」
 俯き、不二の脇をも通り過ぎ―――ようとして、
 がしり、と腕をつかまれた。
 「行かないの?」
 笑顔で尋ねる不二に、苛立ちがさらに込み上げる。それがピークに達しようとしたところで、
 不二がその手を離した。
 「?」
 顔をさすがに上に向け、怪訝そうに不二を見上げる。と、
 「そっか。来ないか。じゃあ仕方ないね」
 「―――って不二! そんなに簡単に諦めちゃうの!? せっかくのパーティーなのに!!」
 「仕方ないでしょ? 来たくないって言ってる人無理やり連れて行っても楽しくないだろうし」
 「なら不二。アレはどうするつもりだ?」
 「大丈夫。ちゃんと持ってきてるから」
 わけのわからない会話に口を開きかけたリョーマの目の前に大きな包みが差し出された。
 「はいリョーマ君。全国制覇おめでとうv」
 「え・・・・・・?」
 魔法のように出された包み。それを呆然と受け取るリョーマにさらに声がかけられた。
 「俺たちがカンパ集めて作ったんだよん」
 「本来1人の選手のみ優先するのは望ましくはないのだろうが」
 「不二がぜひって言うからね」
 「これ・・・・・・」
 ちょうど今肩にかけている物くらいの大きさと重さの包みに、その中身の予想がおおよそついた。
 「開けてみて」
 促されるまま包みを解く。中から出てきたものは、リョーマの予想通りのものだった。
 「ラケット・・・・・・?」
 覗き込んできた堀尾が呟く。
 「僕と手塚、それに乾の合作だよ」
 「俺が調べた越前のデータを元に、手塚が作り、仕上げを不二が担当した。おかげで数字の上からだけではわからない細かいクセなどにも対応している」
 「右と左、どちらの手で使っても問題はないはずだ」
 「にゃははははv おチビ、愛情篭りまくりv」
 現れた赤いラケットのグリップを握り、ガットを拳で弾き、そして軽く振ってみる。全体的な印象は今使っているものと変わりない。だが今始めて使うのにも関わらず、そのラケットはよく手になじんだ。余程自分のことをよく知る人間が、綿密に調べ上げ、そして完璧に作り上げたのだろう。
 「どう?」
 「いい・・・・・・と、思う・・・・・・」
 ぼそぼそと呟くリョーマの声を聞き取り、不二が静かに尋ねた。
 「―――負けて悔しい?」
 「―――!!!」
 今一番聞かれたくない質問に、ラケットを見つめていたリョーマの肩がびくりと上がった。
 『不二先輩!』
 『不二!』
 1年4人と英二・乾の非難が被る。その中でただ1人静観していた手塚をちらりと見て、
「悔しいんだったら・・・・・・上っておいで、ここまで」
 見上げてくるリョーマの目をしっかり見て、言う。
 その言葉に、再び俯いたリョーマの肩が小刻みに震え出す。それは肩だけに留まらず―――。
 ぼすっ、とリョーマが不二の胸に顔を埋めた。
 着ていた不二のジャージをきつく掴み、震える声で嗚咽を漏らす。
 「勝ちたかった・・・・・・! 勝って、同じ場所に、立ちたかった・・・・・・!
  なのに・・・・・・なんで、全然歯が立たないんだよ・・・・・・!
  早く、周助に追いつきたいのに・・・・・・!!!」
 彼と付き合うようになってからずっと感じていた自分達の距離。大人と子ども。プロとただのアマチュア。それは酷く遠くて、酷く重苦しく自分にのしかかる。
 だからちょっとでも近付きたかった。不二と互角に試合ができれば、少しでもその差を埋められるのではないか―――その一心で今までテニスをし続けてきた。なのに―――
 「なんで・・・・・・全然、歯が立たないんだよ・・・・・・!!!」
 「リョーマ君・・・・・・」
 その言葉を受け、不二はひっく、ひっく、としゃっくりを続けるリョーマをやさしく抱きしめた。
 言い聞かせるように、ゆっくり囁く。
 「大丈夫。あせらなくていいから。
  僕は君が来るまでずっと『ここ』で待ってるから。
  だから―――ゆっくりでいいから1歩1歩上っておいで」
 夕日の中で濃緑色に輝く髪をなでつけ、まだ小さいその体に言い聞かす。
 「大丈夫―――泣くほどに悔しさを感じる事ができるのなら、君はまだまだ強くなれる」
 その言葉に安心したのか、リョーマのしゃっくりの音がだんだん弱くなり―――
 緊張感の解けた幼い体ががくりと崩れ落ちた。
 「―――疲れてたんだね。寝ちゃった」
 その体を抱き留め、不二がクスと笑った。
 「リョーマ君はこのまま連れて帰るね。さすがにこれじゃパーティーに参加させるのは無理でしょ?」
 「う〜ん。そりゃそうだけど―――
  やっぱ疲れるんだね。不二の毒気にやられて」
 にゃははv と笑う英二の後ろで乾がノート片手に静かに呟いた。
 「英二、今はお前の発言を止めてくれる大石はいないぞ」
 「う゛・・・・・・」
 固まり、目だけをそろそろと不二に向ける英二。その先で不二は「うん、そうだねえ」と笑顔で頷く。
 「さすがに睡眠2時間でこれだけの運動はきつかったみたいだね」
 「は?」
 「やだなあ。久し振りに会えたっていうのに僕がリョーマ君寝かせるわけないでしょ?」
 「・・・・・・」
 「ちなみに『睡眠時間2時間』って言うのは」
 「授業中爆睡したって。おかげで先生に怒られたって部活前に怒られちゃったv」
 「成る程・・・・・・」
 シャーペン片手に何のデータを取っているのか頷く乾。暫し絶句していた英二が、疑問に思った事を尋ねた。
 「・・・って事は、もしかして不二って今日・・・・・・」
 確か彼は今日、練習はオフであるが雑誌やらなんやらの取材にパーティーの準備、そしてそれらの合間を縫っての学校訪問と忙しかったはずだ。
 その英二の懸念を裏切る事無く笑顔で不二が答えた。
 「うんv 徹夜v」
 「・・・・・・・・・・・・」
 「―――つまり今日の試合は徹夜と睡眠不足の2人によるものだった、と?」
 「そうなるね」
 あっさり頷く不二に、ある者は頭を抱え、またある者は深いため息をつき、さらにある者は眉間の皺をより深くした。
 「じゃ、僕達帰るね」
 笑顔でそう言うとリョーマを軽々と抱えあげる不二。いくらリョーマが小柄だろうと細身のその体でよくそんな事ができるなあ、と最早他人事として考えたくなる人々。が、
 『お姫様だっこぉ〜!!?』
 数名の声がハモる。両腕をリョーマの肩と膝の裏に入れたその姿はたまさしく世の女の子の憧れ・お姫様だっこだった。
 「ふ、不二・・・ちなみにどこに帰るの?」
 「え? そんなの僕の家に決まってるじゃない」
 「不二。ちなみにそれは『人さらい』と言うが?」
 「大丈夫。ちゃんとリョーマ君の家の人には言ってあるからv 『数日間リョーマ君を預かります』ってvv」
  ((恐るべし不二・・・・・・))
用意周到すぎる不二に2人が心の中で呟いた。だが最も恐るべきはそれを了承した越前家の人々かもしれない。
 「不二・・・・・・これ以上の睡眠不足は部活を含めた日常生活に差し支える。せめて今日は寝かせてやれよ」
 せめてもの計らい、と乾が声を掛ける。
 「まあさすがに今日は、ね。
  ―――けどどうだろう? 僕はそう思ってもリョーマ君は、ねえ・・・・・・」
 正確には、不二視点から見たリョーマは自覚無自覚問わず全ての行為で『誘い』をかけてくるため抑えられる自信がない、という意味なのだが(あくまで不二視点での話)―――受け止める側は当然の事ながら違う意味で捕らえた。
 「ええ〜!!? おチビやる〜vvv」
 「これは予想外だな。まさか越前からそのような行為をするとは・・・」
 (・・・・・・・・・・・・。ま、いっか)
 2人の考えは全く持って外れている、という訳でもない。負けず嫌いの彼は恥ずかしがりながらも積極的に接してくる。
 「じゃあね」
 「にゃ〜vv 不二頑張れ〜vvv」
 「イヤ、これ以上不二に頑張らせたら越前の身が持たないだろう・・・」
 手を振る英二と珍しく言いよどむ乾に笑顔で挨拶して、不二はリョーマを抱っこしたまま自宅に帰ろうとした。と、
 「―――不二」
 今までほとんど黙り込んだままだった手塚が声を掛けてきた。
 「何?」
 「先程の試合、なぜ越前に1ゲーム取らせた?」
 「・・・・・・」
 振り向いた不二の笑顔は、全く揺るがなかった。予想していたのだろう、彼のその質問は。
 「どういう事? 不二がおチビに取られたのって2ゲームでしょ? それに『取らせた』って?」
 「1ゲームは様子見だ。だがお前は言ったな? 『今日は本気で潰す』と。ならばなぜ1ゲーム取らせるような真似をした? 半端な手加減は越前をつけ上がらせるだけだぞ」
 問い詰める手塚の言葉に不二は暫し黙り込み―――手塚を、そして自分の腕の中で眠り続けるリョーマを見やった。
 苦笑する。
 「まさか羆落としを破られるとは思わなかったからね。
  ・・・ちょっと動揺しちゃったかな?」
 嘘ではない。ただしそれが理由の全てでもないが。
 「どういう、事・・・・・・?」
 英二が再び尋ねる。が、彼も彼も気付いてきたのだろう、今日の勝負がただの『後輩指導』ではないかった事に。
 いつもとは打って変わって真剣みを帯びた彼の声に、不二は閉じていた瞳をゆっくりと開けた。
 今にも泣き出しそうな弱々しい微笑で、再び手塚を見、そしてリョーマに視線を落とした。
 「彼を見ていると昔の自分を思い出すよ。―――『負ける事』の意味を知らなかったあの頃の僕を」
 「『負ける事』・・・?」
 首を傾げる英二。だがそちらに一切注意を払う事無く、不二の独白[モノローグ]にも似た話が続く。
 「リョーマ君は、『負け』を知らない―――」
 「え? けど越前いつも負けてるって・・・!!」
  「「堀尾君!!」」
 話の流れを折る堀尾の驚きの声にクレームを飛ばすカチローとカツオ。不二は彼らに瞳を閉じてクスと笑みを送った。
 「『負けた事がない』とは言わないよ。僕だって最初は教えてくれた父さんや裕太、それに他にもいろいろよく負けてたよ。
  ―――さすがにそういう意味での『天才』はそうそういないんじゃないかなあ」
 言いながら、ふと思う―――彼なら、手塚ならもしかしたらそうだったのかもしれない。たとえ初心者のうちであろうと彼が負ける姿は到底考えられるものではない。
 「僕が言ってるのはそうじゃなくて『負ける意味』を知ってるかどうか。多分リョーマ君は今まで知らなかったと思うよ。だから今日始めて『負けて』泣いた
 「全然、わかんないんだけど。不二の言ってる事・・・・・・」
 英二が呟く。彼にはわからないだろう。彼だけではなく、ここにいる者ほとんど全員には。
 唯一理解してくれそうな手塚に訊いてみた。僅かな嫉妬心を込めて。
 「ねえ手塚。君は知ってる? それとも君は今だに知らないのかな?」
 「・・・・・・さあな。
  だが俺はお前でもなければ越前でもない。お前たちの気持ちは解り様がない」
 「まあ確かに」
 それは理屈でしかない。多分、彼は今だに知らないのだろう。だからこそ、完璧でいられる。勝者の足元で惨めにあがく事もない。
 ―――そして、だからこそ知っている自分達を羨ましく感じている。
 (・・・・・・なんていうのは僕の勝手な思い込みかな?)
 羨ましがっているのは果たしてどっちか。この気持ちを知らなければ自分もまた完璧なる『天才』でいられたのだろうか?
 (まあ、それじゃつまらないんだろうけどね)
 「くだらないプライドだよ。勝っちゃうから、簡単に上に立っちゃうから―――『負ける事』を避けようとする」
 『天才』と幼い頃から呼ばれていたが故に身についてしまったプライド。自分は上にいなければならない。それはただの思考を飛び越え、いつの間にか自分を形成するアイデンティティの1つと化していた。
 だからこそ極端に『負け』を恐れる。負ける事、それは自分を否定する事と同意義になっていた。
 「テニスを教えてくれる人だから。自分のテニスのコーチだから。コーチが自分より強いのは当り前の事だ。
  ―――そうやって無意識のうちの言い訳を考える。だから自分が負けても別に不思議ではない、そう言い聞かせて納得する。それで自分を守り続ける」
 アメリカだろうと日本だろうと場所がどこであろうと、大人だろうと子どもだろうと相手が誰であろうと常に勝ち続けてきたリョーマ。その彼が唯一負け続けている父親に対する考え方はこんなものだろう。『倒したい相手がいるんだよね』。口ではそう言いながらも心の中では妥協していた。
 そして自分は―――父や裕太にもいつの間にか勝てるようになり、そのプライドを結局捨てる事が出来ないまま日々を過ごしていた自分は・・・・・・。
 「僕は1年のランキング戦の時、手塚に負けて初めて『負け』た。言い訳は出来ない。戦うまで手塚を『上』だとは思っていなかった」
 確かに手塚は1年の時から―――いや入学してきた時から既にテニスの才能を見込まれており、リョーマ同様最初からランキング戦に参加し、そして最初からレギュラーを獲得していた。
 だが実力そのものではない。立場として手塚が上か、そう問われれば決してそんな事はなかった。だからこそ全力で挑んだのだ。妥協は一切せずに。
 「『負け』てみて、ようやくわかったよ。凄く悔しい。勝ちたい、って―――絶対勝ってやるって思った。
  初めてだったよ。ここまで『勝ち』に拘ったのは。
  他人の目なんてどうでも良くて、プライドを紙クズみたいに燃やし尽くして、『天才』が聞いて呆れるくらいただ貪欲に手塚に勝つことだけを目標とした。
  ・・・・・・その結果が今の僕」
 おどけて肩を竦める。なんて惨めな姿だろう。ブラウン管の向こうの『天才・不二周助』に憧れを抱く少年たちにとても見せられるものではない。
 静かな寝息を立てて眠り続けるリョーマを見る。このあどけない顔の少年は、これからどんな成長を遂げるのだろうか。
 「リョーマ君は僕とは違う。確かに今は僕を追い続けているけど、きっとそれだけじゃ満足できなくなる。誰よりも上に立ちたいって思うようになる。
  ―――彼は強くなるよ。そう遠くないうちに。僕を追い抜いて、誰よりも強く・・・・・・」
 だから彼に引かれたのかもしれない。自分には決してない、その強さに恋焦がれて。
 話を終わらせ、不二はいつもの笑みでくすり、と笑った。
 「―――話、長くなっちゃったね。みんな待ってると思うよ。パーティー、早く行ってきなよ」
 「あ! そうだった!!
  行こう、みんな!!」
 慌てて駆け出す英二。それにつられて1年トリオ、朋香、桜乃も走り出す。乾はそんな3人を見送って肩を竦め、そして手塚は―――
 「―――不二」
 「何?」
 先ほどのデジャビュのように繰り広げられる会話。
 「何を笑っている?」
 「え・・・?」
 手塚の指摘に首を傾げる不二。その顔は英二たちに向けたものとはまったく違ったものとなっていた。
 先程の試合そのままにきれいな笑みを浮かべた不二が、堪えきれないようにクスクスと肩を震わせて笑い出した。
 心底面白そうに。今まで誰も見たことのない不二の笑い。
 「さっきの君の質問に答えるよ。1ゲーム『取らせた』んじゃない。『取られた』んだよ。動揺も何もない。純粋に彼の実力だ。
  ―――まさかここまで強くなってたとはね。初めて相手してからまだ1年半しかたってないんだよ? たった1年半。その間にリョーマ君はどれだけ強くなった?」
 「・・・・・・・・・・・・」
 初めて不二とリョーマが試合をした時。その時は自分もいた。そして―――6−0であっさり勝つ不二をコートの外から見ていた。
 『リョーマ君はどれだけ強くなった?』
 強くなったのは不二も同じだ。既に一定以上のレベルに達しているにも関わらず、ここ1年半の彼の伸びは凄まじいものだった。もしかしたら―――自分を目指していたころ以上かもしれない。
 (その裏で、こんなことを考えていたのか・・・・・・)
 上達の速さは不二の執着心を表している。だとすると彼は自分よりもリョーマの事をより思っていたという事になる。
 (バカバカしい・・・)
 あくまで不二が自分に対して持っていた『執着心』は上の者に対して、だ。リョーマに対しての愛情[モノ]と同じだと考えるところににそもそもの間違いがある。
 ―――などと手塚が思っている間にも不二の独白は続いていた。
 「面白いじゃない。初めてだよ、こんなスリル。
  追われる側っていつ追いつかれるかドキドキするね。
  ねえ、僕はいつまで彼の『上』でいられるかなあ――」
 とさり、と。
 その言葉が引き金になったかのように、糸の切られたマリオネットの様に不二の体が崩れ落ちた。
 「―――っ!!」
 とっさに手を伸ばしその体を抱き留める手塚。不二の手から滑り落ちたリョーマを乾が抱える。
 「不二!?」
 力の抜けた不二の体からスー、スー、と規則正しい息遣いが聞こえてきた。
 「眠って、いるのか・・・?」
 「どうやら―――寝不足はともかく、精神的疲労は不二も同じなようだね」
 「そうだな。どうする?」
 「保健室・・・・・・はもうさすがに閉まってるだろうね。
  ―――そういえば手塚、君は今日車で来たんだろう?」
 「ああ、そうだな。当分目覚めそうもない。家に送っていこう。
  ―――悪いが越前の方を頼めるか? さすがに2人同時には運べない」
 「それは構わないよ。どちらか1人でもこのまま放置しておくと何かと危なさそうだしね。
  ―――ところで・・・・・・送るのは2人の家へ、かい?」
 「そのつもりだが。―――何かあるのか?」
 随分と含みのある言い方だ。なぜか妙に楽しそうに見える。
 「いや・・・。別に君がそうしたいと言うのなら構わない。だがしかしそうすると越前はともかく不二はさぞかし怒るだろうと思って」
 「・・・・・・・・・・・・不二の家にしよう」
 「正しい判断だと思うよ」
 「・・・・・・・・・・・・」
 何も言い様がなくて、とりあえず先程までの不二同様彼を抱き上げる。
 (軽い・・・・・・)
 見た目から軽いだろうとは予想していたがそれ以上だ。この小さな体で彼は世界を相手に互角以上に張り合っているというわけか。
 ―――『ねえ手塚。君は知ってる? それとも君は今だに知らないのかな?』
 不二の言葉を思い出す。感情と表情を切り離すのは得意だが、あの時何も顔に出さなかった自分を褒め称えたい。
 (俺は・・・・・・お前が思っているほど大した男ではない)
 『知らない』のではない。『知りたくないから逃げた』のだ。
 自分のテニスは2度と出来ないと知った時、絶望を覚える中で僅かに安堵した。不二の上達振りは大したものだった。初めて試合をした時には厳然と目の前に横たわっていたはずの格差は、僅か2年と少しの間に消え失せた。それでも留まるところを知らない不二の上達。追われる側のプレッシャー。自分はそれをスリルではなく『恐怖』として捉えた。
 自分が今彼らと同じ場所にいないのは、その資格がないからなのかもしれない。2人のように『強く』はなれなかった。
 「―――手塚」
 どのくらいそうしていたのだろうか、乾から声がかかった。
 「・・・ああ、何だ?」
 同様を悟られないよう、務めて平静に応える。
 「君その抱き方のまま行くつもりかい? 車の置き場所までは割と遠かったと思ったんだけど。
  ―――まあ君がそうしたいというのなら別に俺は構わないけど」
 「―――!!!」
 その言葉に珍しく同様を露にした手塚が、乾と同様不二を抱っこからおんぶに変えたのは言うまでもないだろう。その時彼が何を思ったかは残念ながら表面からでは読み取れなかったが。










§     §     §     §     §











 手塚が車で2人を送り届けていたのとおおむね同時刻、パーティー会場ではちょっとした騒ぎが起こっていた。
 「え〜! 不二先輩来ないんスか!?」
 「そうにゃんだよ。みんな、ゴメンにゃ」
 「けど、何で何スか?」
 「不二は現在おチビとラブラブランデブーv の最中だからだよんv」
 「―――っておい英二!!」
 にゃ〜vvv っと喜ぶ英二に大石が慌てて静止を掛ける。が、既に時遅く。
 『えええええええ!!!?』
 「ど、どーいう事ですか、それ!!?」
 「え? いやあのその・・・・・・」
 詰め寄る部員たちにたじろぐ大石。そこにひときわ大きな声が響く。
 「そ〜っスよ! どういう事ですか英二先輩!!」
 「桃! お前は知ってるだろ!? なんでわざわざ訊く!!」
 「そーじゃなくって! ランデブーって一体何があったんスか、俺達がいなくなった後!! 全っ然そんな雰囲気なかったじゃないっスか!!?」
 「それがも〜なんていうかほのぼのイチャイチャだったんだよvv
  おチビってば不二に泣きついちゃってカワイ〜vvv」
 その言葉に桃は「おおおおお!!?」と雄叫びを上げ、大石・河村・海堂も目を広げ驚愕した。こうして伝聞による誤解というものは広まっていく・・・。
 ―――そして、その事実すら知らなかった部員たちが更に騒ぎ出す。
 『ええっ!!?』
 「やっぱそれってそういうことですか!?」
 「越前と不二先輩がその・・・
付き合ってる(モゴモゴ)、って事っスか!?」
 「うん。そうだよv」
 『えええええええええ!!!!?
 ひたすらに騒がしくなるかわむらすし店内。
 「英二! 言うなって不二に止められてるだろ!?」
 「それはカメラの前で、でしょ? ここに不二とおチビが来てたら絶対見せ付けてたってv」
 「そ、それはそうだろうけど・・・だからって勝手に言いふらすのはマズイだろ」
 「不二の休暇って2週間じゃん、だったら絶対不二のやつなんだかんだ言って毎日おチビに会いに来るっしょ。だったら先言っといたほうが良くない? その度に練習中断されるよりは言っといて2人のラブラブモードは完全無視って事にしといた方が」
 「それは・・・・・・確かに」
 「それでいいのかな・・・?」
 なぜだかあっさり納得させられる大石に河村が冷や汗を流した。が、彼は知らない。2人の『ラブラブモード』の恐ろしさを。英二と共に毎回それを食らう身として(さらに最悪な事にそれを見た英二が対抗心を剥き出しにし、さらにそれを見た不二が―――とひたすらにパワーアップしていく)助言させてもらうのなら、それを食らわない唯一の方法はひたすら他人のフリをして避け続ける事だ。なにせあの2人のいちゃつきぶりと来たら、『ウザい』と思う程度のレベルではない。あまりの凄さに突っ込みを入れるどころか脳を正常な状態に保つ事すら極めて難しくなる。
 アレに比べれば世のいわゆる『バカップル』らはいかに可愛らしく微笑ましく見える事か!!
 「それでいいんだ、タカさん・・・・・・」
 「そう・・・なの・・・・・・」
 肩に手を置いて重々しく言い放つ大石にさすがに河村も納得せざるを得なかった。
 そんな2人を他所に会話はさらにヒートアップして行く。
 「みんな〜! けどコレ言っちゃダメだよ〜! じゃにゃいと不二の黒魔術がかかるよ〜♪」
 「なんすかその『黒魔術』って!!?」
 「ふふん。知りたい? なら教えてあげようかにゃ。
  ―――不二の黒魔術、それは乾の特製汁に続く青学男子テニス部の2大恐怖.不二の逆鱗に触れた、っていうか機嫌を損ねたヤツにはなぜか原因不明の高熱その他諸々の病気が一気に襲い掛かり死んだほうがマシな状態が1週間ほど続く.そしてその後それを食らったヤツは治ると同時に学長室に駆け込んで『転向させてください! ぜひ! それも出来るだけ遠くに!!』と訴えるという。その間何が起こったのかは今だ一切不明。けど偶然にしてはあまりにも異常すぎる事態に回りの者は口をそろえて言う。『これは不二の黒魔術だ』と・・・・・・」
 神妙に話す英二の言葉に聞き手全員ががごくりと唾を呑んだ。あの不二が、まさか、そんな事―――とは思う。だがそれを話すのは彼の親友であるという(自称。ただし今日1日の2人の親しげな様子を見るとどうやら全くの嘘ではないらしい)英二。しかも今日のリョーマとの試合で見せたあの恐ろしい雰囲気は、そんな事をしても不思議ではないという考えを助長させた。
 『・・・・・・・・・・・・』
 黙り込み、是対言うもんかと誓いを堅くする一同を前に、いつもの調子を戻した英二が手を振り上げた。
 「ま、そんな訳で2人はほっといて、パーティー始めよ!!」
 『お、おーーー!!!』










§     §     §     §     §











 その後のスポーツ新聞や週刊誌等にて、
 『あの世界トッププロ不二選手が注目する中学生!!』
 『第2の「中学テニスの黄金期」か!?』
 などという見出しで、不二とリョーマの試合はマスコミを通じて大々的に発表された。が、特にその中でも月間プロテニスは他社とは少々違うトップだった。
 曰く―――
 『「大丈夫―ー―泣くほどに悔しさを感じる事ができるのなら、君はまだまだ強くなれる」
  不二選手、将来有望な後輩にエール』
 ―――実はすっかり忘れられていたが英二らとともにあの場にいて、その後しっかりパーティーにまで参加した芝のスクープである。ただし彼女の計らいで2人が付き合っているといった事実は公表されなかった。
 おかげで月間プロテニスは同じ話題を取り扱ったメディアの中で最高の売上部数を誇ったという・・・。





――End? or Start



















§     §     §     §     §     §     §     §     §     §     §     §     §     §     §

 クリスマス話の前段階として必要だったため書き始めたこの話。気が付くと手塚・不二・リョーマ3人の気持ちが掘り下げられた妙やたらと深めな話になってました。おかげで本当はこれと不二様の学校訪問記『Let’s 学校訪問!』とセットにしようとしていたのに長くなりすぎてしまったため断念。なので少々解り難いところがあったかと思われますが(不二がいつリョーマの様子を見たのか、とか)、その辺りはそちらの話で補足されていると思います。
 けどこの話、よくよく考えるとこのシリーズ全般を通しての3人の考え方、になってました。このシリーズではこれを基盤に3人は動いてます。
 ・・・・・塚→不二になってしまいましたね。最初はそのつもり全然なかったのに。というか手塚と不二の
CPはどちらかというと苦手だったのに・・・(あくまで私は、ですけど。なんとなく手塚部長に色恋ものはどうも・・・・・・・)。最近妙に手塚の片想いにハマリつつあります。手塚Fanの方ごめんなさい。けどなんっか彼は幸せそうな2人(のうち1人)を遠くから見守るのが合いそうで・・・・・・。

2002.12.1719