Day? Date Date!
〜今日は日曜デートの日!〜
リョーマとのデートのその日、待ち合わせ時間の30分前に駅前に到着した不二は周りをきょろきょろと見回すと、安堵したように大きくため息をついた。
「あ〜よかった。まだリョーマ君来てないや」
彼の遅刻癖については1年以上の付き合いでよくわかっていた。だが、時として彼は妙に早く着いて不二を驚かせようとしたりするのだ。
(それに・・・・・・)
少しでも長くいたい、と思うのは自分も、そしておそらくリョーマも同じ。ただでさえ自分は世界各国を飛び回っているのだ。そんな中一時でも一緒にいられるようにスケジュールを調節してこまめに日本へ帰って来るようにしている以上、もしかしたら早めにリョーマに会えるかもしれない、と早く来ようとするのは当然だ。
リョーマと会えると思うと自然に笑みがこぼれる。その笑みを隠そうともせず、不二はテニスバッグを足元に置き、柱に寄りかかった。
(リョーマ君、今日はどれくらい遅れてくるかな・・・・・・?)
そんなことを考えるのも楽しい。些細な日常にも幸せを感じられる。それは、不二がリョーマと付き合うようになって初めて持つようになった気持ちだった。
が、些細な日常にならなかったのが周りにいた者たちである。なにせ普段ブラウン管の向こうで華麗に試合を決めている男が今自分たちの目の前で、自分たちのように振舞っていたりするのだ。特に不二を神聖視していた少女らにとってはこれは夢か幻かと思わず彼氏に頬をはたかせたほどである。
だがこれが張本人であるという保証はない。もしかしたらそっくりさんかもしれない。仮に本人だとしても話し掛けはしにくい―――。
などと言った理由で、不二の周り3mほどは人影がなくなり、さらにそれを取り囲んで異様な雰囲気が漂っていた。
その中で、勇気を振り絞ったのはセーラー服姿の女子高生だった。
「あ、あの・・・・・・」
「何かな?」
(((((ふ・・・不二君が笑顔で〜〜〜〜〜〜!!!!!)))))
―――と感動した人は後を絶たないであろうが、答えた本人が実は答えつつもその頭にはこれからリョーマと過ごす時間のことしか考えていなかったと知ったらさぞかしショックなことだろう。
「ふ・・・不二周助さん、ですか? あのテニスプレーヤーの」
「ああ、そうだけど?」
相も変わらずの笑顔で返す。本人自覚0。この瞬間彼の周りで卒倒した人は5人を超えた。
「さ、サイン下さい!!!」
精一杯の勇気を振り絞って少女がすさまじい勢いで不二の前に手帳とボールペンを突き出した。
「僕・・・・・・の?」
「ハイ! あ、けどもしもお嫌でしたら構いません・・・・・・」
聞き返したのにはさしたる意味はない。サインそのものはなぜか中学からよく求められるため慣れていた。訊いてみたのはただなんとなく、スポーツ選手の自分にサインを求める意味があるのかとふと思ったからだけだった。
「―――いいよ」
「本当ですか!!?」
「手帳貸して」
そう言いさらさらと手帳に名前を書き込んでいく不二。英二あたりならデザインなども凝ったものを書くのだが、あいにくと自分はその手に関しては得意ではない。
「はい」
「あ・・・ありがとうございます! 試合応援してます!! 頑張ってください!!!」
「ありがとう」
(う〜ん・・・。そこまで感謝されるほどのことかなあ・・・・・・)
などと笑顔の裏側で考えていると、
「あ、あの・・・・・・」
「不二君・・・・・・」
「私たちにも・・・・・・・・・・・・」
いつの間にか自分の周りにできていた空間がなくなり、むしろごった返す女性らで押しつぶされそうなほどだった。
(まあ、リョーマ君もまだ来てないし、少しくらいならいっか)
こういうのをすべてかわすのは面倒くさい。適当にやってリョーマがきたところで切り上げれば彼女らも納得するだろう。
(なにせ恋人ご到着、だしねv)
先日の一件で自分とリョーマの関係は周知の事実となった。これで人前でいちゃいちゃしてもリョーマに否定する理由がなくなった――と不二が一人ほくそえんでいることを知るのは、生憎と全てを共謀した彼の親友と、そしてその被害者たるリョーマ及び巻き込まれた元レギュラーの友人らのみであろう。
(早くリョーマ君来ないかなvv?)
〆 〆 〆 〆 〆
おおむね同時刻、越前家にて。
「・・・・・・あーーーーーーー!!!!!!!」
毎度のことながら、今日もまた寝坊したリョーマの悲鳴が越前家をこだましていた。
〆 〆 〆 〆 〆
ずだだだだだだ!!
――などというみっともない音を出していたわけではないが、雰囲気としてはそんな感じでリョーマは待ち合わせ場所へと疾走・・・・・・というか爆走していた。
(なんで目覚まし鳴んなかったんだよーーー!!!)
原因は当然のごとく寝ぼけたリョーマが止めてしまったからだが、もちろん本人がそんなことを知るわけはない。
腕時計をちらりと見る。現在9時56分。待ち合わせは10時だが、不二のことだ、30分前には来ているのだろう。
(あとちょっと!!)
肩からずり落ちそうになるテニスバッグを直すことらせず―――むしろ引きずる勢いで走った成果か、なんとか時間には間に合いそうだ。
と・・・・・・
「ん・・・・・・?」
なんだか待ち合わせ場所付近が騒がしい。思わずスピードを緩めて凝視する。
(ヤな予感・・・・・・)
姿を見ずとも、耳障りな黄色い悲鳴の嵐から事態を予測するのはきわめて簡単だった。
ぴたりと足を止める。人が群がる中心に、よく見慣れた栗色の頭がふらふらする。
「周助・・・・・・」
浮かれかけていた気分が一気に降下する。自分がこんなに急いできたというのに周助は女の子と楽しそうに―――!!!(責任転嫁)
「周―――!!!」
嫌がらせで大声で呼んでやろうとしたところで、なぜかばっちりと目が合った。
「リョーマくんvv!!」
まさしくカウンター。逆に大声で呼ばれてリョーマの顔が赤くなる。
俯くリョーマに構わず不二は彼の腕を取ると、後ろで呆然と見ていた女性らに軽く頭を下げた。
「すみません。恋人が、来ましたのでこれで」
にこやかにそう言われ、さすがにそれ以上追うこともできずに立ちすくむ女性一同。
「―――ってなんで俺が周助の恋人なんだよ!!?」
「え? そうじゃないの? だってあれだけ大々的に公表したわけだし」
「アンタがそれを言うなーーー!!!」
わめくリョーマを軽くあしらい、不二はリョーマを引きずってその場を去っていった。
〆 〆 〆 〆 〆
で、たどり着いた先はテニスコート。不二としてはせっかくリョーマとデートができるのだから、映画館だのウインドウショッピングだの食事だのもう少しデートコースっぽいところへ行きたかったのだが、あれ以降なかなか機嫌を直してくれないリョーマのご機嫌取りとしてテニスが一番いいだろうと判断したからだった。
「すみません。コート空いてますか?」
「ああ、少々お待ち―――ってあなたは不二周助選手!?」
「え・・・ええ、まあ」
「はい!! コートですね!! それならいくらでも!!!」
「・・・・・・・・・・・・」
となにやら1人喚く受付係に苦笑する不二。その後ろではリョーマも「あーあ、何やってんの」と言いたげにため息をついている。
(やっぱ失敗だったかなあ・・・?)
何も―――コートの予約表すら確認せずに案内する受付係についていきながら、不二は心の中でそう呟いていた。
「あー!! 不二におチビ!!!」
コートの中から突き刺さるよく響く声に、コートへ向かう階段を降りかけていた2人の足が止まった。
見るまでも無い。このような呼び方を―――このような言動を取るのは知り合いでも1人しかいない。
「英二」
「にゃ〜! 奇遇〜〜vv どったの、今日は?」
「リョーマ君とデートvv そっちは?」
「俺たち?」
と英二が後ろを振り向いたとおり、英二1人ではなかった。
「俺たちはコーチのバイトだよ」
後ろから近寄ってきた大石が的確な補足をする。そういえばここのテニススクールは2人のバイト先だった。
「・・・・・・あれって、もしかして不二周助? ほらテニスプレーヤーの」
「・・・・・・まさか。本人だったらこんなところにいるわけないだろ?」
「・・・・・・けどさっき、『不二』って呼ばれてませんでした?」
周りからのこのような囁きを気にすることなく、不二はちょうどよかったと2人に質問した。
「ねえ、コート空いてる?」
「ん〜・・・。今日休日だからね。ちょっと今はまんぱんかにゃ?」
「そう・・・・・・」
「ああ、けどもうじき俺たちの教えてる子達が終わるから。そうしたらDコートが空くよ」
「ほんと? 大石、ありがとう」
「―――って不二、俺は〜!!?」
「英二も、ありがとう」
「にゃv」
ぶんぶんと手を振って戻っていく英二と、そんな彼に苦笑する大石を見送り、不二はリョーマの方を振り向いた。
「だって。準備運動でもして待ってよっか?」
「ふーん・・・・・・・・・・・・」
今のやり取りでさらに機嫌が悪化したらしい。とりあえず理由については思い当たるところがしっかりあるため放置しておく。
(焼もちは恋愛の程よいスパイスなんだって、リョーマくんvv)
ポイントは焦げさせすぎないこと。もちだって炊き込みご飯だって程よく焦げているからおいしいのだ。残念ながら炭では食べる気が失せる。
「じゃ、行こう」
さりげなく手を差し出す。リョーマが拗ねながらも握り返してくれたのを確認して、不二は階段を下りていった。
〆 〆 〆 〆 〆
準備運動を終え―――
「意外と遅いね、英二たち」
「・・・ホント」
Dコートは今だ英二たちと教え子だろう少年らとが談笑している。ちなみにその内容はいかにも知り合いっぽく話していた不二についての英二の自慢が9割方を占めるのだが、まあその声は幸いなことにコートの外でやることもなくボーっとしていた2人には聞こえていなかった。
「リョーマ君。なんだったら飲み物でも買って来る?」
「え・・・・・・?」
「のど渇いたでしょ? コートだったら僕が取っておくよ」
「ああ・・・・・・、うん・・・・・・」
と頷きつつももちろん本音は『一緒に行きたい(というかついて来い)』。―――口には絶対出さないが。
(周助ほっとくとまた何やるかわかんないし・・・・・・)
そんなリョーマの心を読んだか、くすりと笑うと不二は500円玉を渡しつつ、
「僕ものど渇いちゃった。何か買ってきてくれないかな?」
「何か―――って、またコーヒー? ブラックの」
うげ、とでも言いたげなリョーマに苦笑する。
「そんなに嫌がるほどのものでもないと思うけどなあ。慣れるとおいしいよ」
「周助のブラックってめちゃくちゃ苦いじゃん。よくおなか壊さないね」
「う〜ん・・・・・・、そうかなあ・・・・・・?」
本気で首をかしげる不二。呆れたリョーマが手を振って自販機へと歩いていった。
「じゃあよろしく」
「うん。早く帰ってきてねv」
「バカ?」
笑顔でお前は新婚さんか? と突っ込みたくなるようなことを言う不二に対するリョーマの返事は当然の事ながら極めて冷たいものだった。
リョーマが自販機へ向かって暫し―――も待つ事無く。
「あ、あの・・・・・・」
と、またもや先ほどと同じ事が起こった。ここはテニスコートだし、リョーマの事もTVなどで有名になったからか、話し掛けてくるのは早かった。
「不二周助さん、ですよね? テニスプレーヤーの」
先ほどとの言い回しの違いが、自分のことを確信した上で話し掛けてきたのだと悟らせるのは十分だった。
(さて、どうしようかな・・・・・・)
リョーマがいつ戻ってくるかわからない以上、ここで話(要求)に応じるのは賢いやり方とはいえない。だが、他人の振りをしようにも相手はしっかり自分と確信しているし、英二たちもまだコートで話し込んでいるため、話を切り上げる口実にはならない。
(だからといって話してるのをリョーマ君に見られたりでもしたらさらにヘソ曲げられそうだし・・・・・・)
が、そんな心配はしなくてもよくなった。
「―――おい! 香!! なに俺がいない間によその男なんかと話してんだよ!!」
「こう、き・・・・・・」
様子からすると彼女の恋人だろう。不二自身より少し年上であろう男が、ジュースの缶を握り締めてずかずかと近寄ってくる。
「ああ!? さっそく浮気か!!?」
―――だとしたらあまり威張れたことではないはずだが、妙に偉そうに胸を張る男に嫌悪感が沸く。
「そんなんじゃないよ。ホラ、広喜も名前くらい知ってるでしょ? プロテニスプレーヤーの、不二周助さん」
「プロぉ? そんなのがこんなチンケな所にいるわけないだろ?」
「で、でも、見た目もそっくりだし、テニスやるし・・・・・・」
「ほお〜・・・・・・?」
上目遣いで、ね? と尋ねてくる彼女。ここはさすがに肯定するべきだろうが、あえてしなかったのは彼女と違う意味で上目遣いを向ける―――つまりは睨め上げてくる男がこれからどういった反応をみせてくるのか予想がついたからだった。恐らく肯定してもしなくても同じだろう・・・・・・否定すれば別だろうが。
と思う不二の予想を外す事無く(口語訳:ワンパターンに)因縁をつけてくる。
「不二周助の名前くらいなら聞いたことはあるぜ。あの『天才』ってわけか、お前が?」
ぎゃははと下品な笑いをする男に、さすがにそろそろ騒ぎに気づいたか、コートから英二たちが自分たちの方を見ているのが視界の端に映る。
「あ〜あ、にゃんか不二絡まれてるよ」
「助けに・・・・・・行くべきじゃないかな。一応。ここで騒ぎ起こされても困るし・・・・・・」
お気楽そうな英二に、助けに行くべきか否か困っている大石。どちらもまったく困った素振りを見せていない自分に対する正確な判断だった。
「なら―――」
と、笑いを止めた男が自分たちが使っていたらしいCコートへと入っていく。サービスエリアの端に持っていた空缶を立て、
「サーブ1本でこれ当ててみろよ。1回じゃねえぜ。2回、空中に浮いてる間にもう一回当てるんだ。
―――『天才』ならこのくらい簡単だろ?」
「そ、そんなのできるわけないじゃない! いくらなんでも!!」
男の一見無茶な要望に焦る女性、周りで騒ぎを見ていた人たちもざわめきだす。その中でぼそぼそと口に手を当て小声で話す英二と大石。
「にゃ〜んだ。簡単じゃん」
「・・・って、英二にはできないだろ?」
「うっさいにゃ〜。『不二には』って意味だよ」
「まあどっちにしても相手が不二のことを過小評価していて助かったよ。これで簡単に解決する」
大石のその言葉を受けたわけではないが、不二は軽く肩をすくめた。
「構いませんよ」
その余裕の態度が癪に障ったのだろう。男が怒鳴ろうとする―――
―――よりも早く。
「な〜んだ。簡単すぎて笑っちゃうね」
上のほうから聞こえてきたボーイソプラノの嘲笑にその場が静まり返った・・・・・・。
〆 〆 〆 〆 〆
階段の上で全員を見下ろしながらリョーマは内心でため息をついていた。
ジュースも適当に決めて急いで戻ってみれば不二がまたもや女に話し掛けられている。ムカついて駆け寄ろうとすると今度は男が因縁をつけ始めた。これで少しは不二も懲りるかと見てはいたが、男の出す『条件』のあまりの簡単さに口を出さざるを得なくなった。ここでこれ以上不二をのせてしまうわけにはいかないというのが1つ。そして―――不二の実力がその程度だと思われたのが気に食わないというのがもう1つ。
「うげ、おチビ・・・・・・」
「これで『簡単に解決』の道はなくなったな・・・・・・」
英二と大石の呟きは気にせず、階段をゆっくりと下りる。
「早かったね、リョーマ君」
「なんだ、気付いてたワケ?」
自分の存在に気付いていながらこんな事をやっていたのか、そう考えるリョーマの怒りのボルテージは更に上昇した。
「知ったのは今だけど、君の話からするともっと前から見てたんじゃないかなあ、って思って」
「ふ〜ん・・・・・・」
本当にそう推測したのか、それとも知っていてしらばっくれているのか。どちらとも判別つかなかったが、とりあえず押し問答している時間はないようだった。
「おい! ガキが!! 邪魔すんじゃねえ!!」
「こ、広喜! その子―――」
(ウルサイ・・・・・・)
なんか騒いでいる2人を冷たく見、リョーマは男の置いた缶に歩み寄っていった。
手に持っていたファンタのプルトップを開け、何をするつもりかと好奇の視線が集中する中、ごくごくと飲んでいく。コート内での飲食はマナー違反だが、気にせずに飲み干した。
その缶と、もう1つ買っておいたファンタの缶をコートに置いてあった缶の上に立てる。
「やることは同じ。1球で缶3つ跳ね上げさせて、落ちるまでの間にもう1回ずつ当てる」
「な・・・・・・!?」
「できるのか、そんな事!?」
「出来るわけないだろ!!」
周りから驚愕と非難の声があがる。が・・・・・・
「うん。・・・・・・で?」
その中で1人、笑みを崩さぬまま不二が先を促した。男と違いリョーマは自分の実力を正確に評価している。そして今のような状況ならば、その上で出来ないと予想される事を要求してくるはずだ。だとしたらこの程度で終わるわけはない。
そんな不二の予想通りリョーマは足元の缶を指し、続けた。
「今置いた缶、1つはこれから飲む分なんだよね。だから後でちゃんと返してね」
「つまり―――へこんでたり、開けたら中身が飛び出したりしちゃだめ、って事?」
「当り前でしょ」
「―――えええええええ!!?」
しれっと答えたリョーマに驚いたのは不二―――ではもちろんなく、英二だった。缶を指差し、
「んなの無理に決まってんじゃん!! おチビの今置いたのって、2個ともファンタだろ!?」
ファンタは当然の事ながら炭酸飲料である。従って振れば中で膨張する。ボールをぶつけて飛ばせばアウト。軽く当てても地面に落下した時嫌でも振られる。
つまりは絶対不可能である。
が―――
「ああ、後・・・・・・」
と、リョーマはまだコートの外にいた不二に近付き、疑問符を浮かべる彼の頭に愛用の帽子を深くかぶせた。
「え・・・?」
「目、瞑ってやってね」
「はあ!!?」
更に引くギャラリー一同。
「おいおい、いくらなんでもそりゃ無理だろ・・・・・・」
なぜか最初に不二に絡んでいた男まで不二の弁護を始める。だが、そんな男の弁護はリョーマの一言であっさり意味を無くした。
「何で? 簡単じゃん」
『はい・・・・・・?』
心底不思議そうに言ったリョーマに、目を点にする一同。
やれやれとため息をついて、リョーマは不二から帽子を取ると缶の置いてある方へ近寄っていった。一番上の1つを同じエリアの逆側―――端に置き、ボールの入った籠を持って逆のコートへと歩いていった。
目が隠れるよう帽子のつばを深く下ろしたところで聞きなれた声がかかる。
「リョーマ君」
「何?」
「帽子じゃ打ってる間に落ちちゃうでしょ? ちょっと待ってて」
そう言うと、不二は自分のバッグへと走っていき中からスポーツタオルを取り出して戻って来た。
「はい、帽子とって」
言われたとおり帽子を取るリョーマ。背後からその目に細く折りたたんだタオルを巻きつける不二。
「どう? 見えない?」
と言って、リョーマの目の前に手―――ではなく顔を近づける。息まで殺しているのか、リョーマがそれに気付く気配はない。
丁度リョーマの顔がギャラリーから完全に隠れたであろうところで、囁く。
「さっきリョーマ君に帽子かぶせられた時、リョーマ君の匂いがして凄く気持ちよかったよ」
「〜〜〜〜〜〜〜////!!!」
至近距離からの声、そしてその内容。どちらにも反応したリョーマの顔が赤く染まった。
そしてリョーマがラケットを振り上げ殴ろうとするよりも早く、後ろに回った不二がリョーマの肩にぽんと手を置き、耳元にもう一言囁く。
「頑張ってね」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜////////////!!!!!!!」
真っ赤になって俯くリョーマ。そんな彼を見て、英二が不二に尋ねた。
「ありゃりゃ。おチビ真っ赤だよ。
―――にゃんか変なコト言ったんでしょ?」
「『変なコト』? 例えば?」
「『目隠しされたリョーマ君も素敵だよv』とか『今度は目隠しして別のプレイしようか、もちろん夜の』とか何とか」
「英二・・・・・・それはさすがにオヤジギャグじゃないかな。しかも寒い」
「いいじゃん。俺ギャグ好きだし」
「それは知ってるけど―――今のはちょっと・・・・・・」
彼には珍しく曖昧な笑みを浮かべる不二。そして―――
(しゅ、周助の、匂いって・・・・・・)
こちらはこちらで今だパニックの収まらないリョーマ。今彼がしているのは不二愛用のタオルである。今日はまだ使っていないが、試合の時含めていつも使っているものだ(さすがに洗濯中は除くが)。
―――というのもこれはリョーマが今年の誕生日、不二に送ったものである。青と濃紫を基調としたシンプルなデザインで、端についた“F”のマークはリョーマ愛用のFILAのロゴ―――ではなく不器用なリョーマが菜々子に教わり自分でつけた不二のイニシャルだった。
半年以上経ったというのに今だ飽きもせず使い続ける不二の香りが染み込んでいそうなタオルを巻かれ、ついつい意識がそっちにいってしまう。視覚が塞がれた分、余計に嗅覚に意識が集中していく。
思わず息を深く吸って―――
(―――じゃなくって!!)
本来の目的を思い出し、危ういところで戻ってくるリョーマ。吸った息をすべて吐き、気持ちを落ち着ける。
腰をかがめ、ボールを手に取る。
まずは1つ。打たれたボールが下の缶に当たり、2つとも跳ね上げされる。
2つ、3つとタイミング良くボールが打たれ、まださほど落下速度のついていない缶がボールの勢いそのままに後ろのフェンスに激突した。
「ラスト」
驚く一同の中、特に感動を覚える事もなくリョーマは4つ目のボールを手に取った。
体全体を横にした一見ツイストサーブ風の構えで、トスはせず、肩の高さからゆっくり落とす。
そのボールが下に下ろしたままのラケットに到達したところで、ようやくラケットを構えた。
下から振り上げたラケットは遠心力の助けを借りて、ロブで上がった球に適度な回転を与える。
ボールは放物線を描いて唯一まだコートに残っていた缶に向かい―――
―――その上で一回軽くはね、ぴったり収まった。
「――――――!!!」
誰もが息を呑んで驚く中、ぱちぱちと拍手の音が響いた。
「さすがだね、リョーマ君」
能天気に言い放つ声の主を見やるべく左手でタオルを外すリョーマ。その下から現れた眼を半分閉じ、僅かに口を尖らせる。
「―――バカにしてんの?」
「まさか。君をバカにできる人なんてプロでも少ないと思うよ。せいぜい南次郎さんか、あとは手塚くらいじゃない?」
「2人ともプロじゃないじゃん」
「けど僕の知る限りどのプロよりもプロらしいと思うけどね。
利き腕とは逆の方でそれだけの技術がある人はさすがにプロでも少ないんじゃないかな」
「そりゃどーも」
間違いなくその『少ない』の1人に当てはまるだろう不二の賞賛。本人にはもちろんそのつもりはないだろうが、解釈のし様によってはかなりの嫌味にも聞こえる言葉に、リョーマはあからさまな嫌味で返した。
「けどこんなん簡単すぎて芸のうちにも入んないでしょ」
言いながらタオルを渡す。不二は今の言葉に反応する事もなくタオルを受け取り―――
「あれ? リョーマ君のは?」
「はあ?」
「リョーマ君のタオルは?」
「・・・・・・。なんで?」
「もちろん目隠しするためだよ」
「それでしたらいいじゃん」
「だめだよ。それじゃつまらないじゃない」
「・・・・・・・・・・・・何が?」
「ああ、なんだったらリョーマ君の帽子でもいいよvv」
ようやく不二の言いたい事がわかり、リョーマは再び顔を赤く―――しなかった。
「あ、ちょっと待ってて」
「・・・?」
さすがに予想外だったリョーマの反応に不二が首を傾げる。
「―――はい、コレ」
「え? これって・・・・・・」
戻って来たリョーマの持っていたものは、いつも見慣れたタオル(誕生日プレゼントのお返しにと不二が送ったタオル。器用な彼らしくリョーマのものより綺麗に“R”のイニシャルが入ったそれを、嫌がりながらもしっかり使ってくれるリョーマはとても可愛い―――以下、不二のノロケ数十分)ではなく、明らかに粗品とわかる会社名のプリントされた白いタオルだった。
「いつも使ってるのちょうど洗濯中で」
そう言い、勝ち誇ったようににやりと笑うリョーマ。
「これでいいんでしょ?」
が、
「じゃあコレ借りるねv」
「な・・・・・・!!」
リョーマがそれに気付いた時は既に遅く、身長差を活かした不二がリョーマの頭に手を伸ばしあっさり帽子を奪取していた。
「ちょっと! それ貸すなんて一言も―――!!」
「え? さっき僕にかぶせたでしょ? あれ『貸す』って意味じゃなかったの?」
「それはさっきの話だろ!?」
「けどだから今は無効、っていう理由にはならないし」
弁論術(屁理屈)で不二に勝つのはやはり無理だった。諦めたリョーマが缶とボールの回収に行くと、準備に入った不二の明るい声が響いた。
「けどこれってなんかゲームみたいだね」
「ゲーム? 何で?」
「一発勝負で勝敗のはっきりしてるトコとか。成功したら僕の勝ち。失敗したらリョーマ君の勝ち。ってね」
「ふーん。じゃあ何か賭ける?」
「いいね。何にしようか?」
「負けた方は勝った方の言う事に今日1日従うとかは?」
「個数制限は?」
「1個でしょ、普通?」
「1つか・・・・・・ちなみにリョーマ君は何お願いしたいの?」
「命令! 俺だったら―――」
悩むために間を開けた―――のではない。口の端を吊り上げ、リョーマは1拍置いて言った。
「『今日1日俺以外のやつと口訊くな』、とか?」
そのせいで今日は何回嫌な思いをさせられてるんだ、と暗に非難する。だが、そんなリョーマに返って来たのは―――
くすり、と不二が笑う。
「そんな事でいいの?
じゃあ僕は―――なんか普通すぎるような気もするけど・・・『今日1日リョーマ君は素直に僕の言う事を聞く事』かな?」
(ホントに普通すぎ・・・・・・)
いつも意識してなのかそれとも天然なのか奇抜な言動の多い不二にしては、その命令はかなり平凡なものだった。だからというわけでもないが・・・・・・
「いいよ」
あっさりとリョーマは承諾し、自分が確実に勝てる方法を実行した。
「あああああああ!!!?」
手に持っていた缶―――中身の入ったファンタの缶を上下に激しく振るリョーマに非難の声が集中する。
「おチビ!! にゃにやってんだよ!!」
「別に。ただ缶振っただけっスけど?」
「ンな事したら破裂すんだろ!?」
「そりゃそうでしょうね」
「ヒデー!! ずりーー!!!
それじゃ不二勝てないじゃん!!!」
最初にリョーマ自身が出した条件からすると、この時点で不二の負けは決定である。だがそれを仕向けた張本人は、動じる事もなくしれっと答えた。
「難易度上げただけじゃないっスか。それに―――
『「天才」ならこのくらい簡単』なんでしょ?」
「う・・・・・・」
今ではすっかり忘れ去られていたが、そもそもの原因となった男が自分の吐いた台詞にたじろいだ。確かにそう言った。が、
(そこまでやれとは誰も・・・・・・)
実は彼、隠れながら不二のファンだったりする。だからこそ最初はただの語りだと思って『不二』に絡んだのだ。だがここにきて―――特に一緒にいるリョーマの技術の高さを、さらにその彼と普通にやり取りする『不二』を見て、さすがに本物だと思い始めていた。
(あ゙あ゙・・・。なのに・・・・・・)
自分のせいでその不二が崖っぷちに追い込まれている。あの天才が、負ける事も失敗する事もとてもではないが想像できないあの『天才』が自分のせいでその醜態をさらそうとしている・・・・・・!!!
―――などと男が1人苦悶に喘いでいる事など、連れの女含めて当然誰も知るわけはなく、リョーマの横暴な行為に動じる事もなく不二が笑顔のまま言った。
「じゃあリョーマ君、代わりに1球打ってもらえるかな?」
「?」
謎の言葉に眉をひそめるリョーマ。だが不二が掲げてみせたラケットを見て、とりあえず何をすべきかはわかった。
(つばめ返し・・・・・・)
今見せられたように打つ前動作としてラケットを軽く回すのはつばめ返しの特徴である。『カウンター』である以上直接打つ事が出来ないそれには必ず相手のトップスピンという条件がつくため、わざわざ自分に頼んだ理由は判明した。が、
(それで何すんだろ・・・?)
ただ当てるのに必殺技のトリプルカウンターを使う必要はない。試合中でさえほとんど出さないそれをここで使う理由は―――
(ま、いいけどね)
何があろうと自分の勝ちは揺るがない。リョーマは先ほど自分が打った球を1つ取り上げ、コートの右側に立った。
“F”マークのついた帽子を深く被った不二に問い掛ける。
「トップスピンなら、何でもいいんだよねえ?」
訊くだけ訊いて、答えを待たずにツイストサーブのモーションに入る。
リョーマが何をするつもりか見ずともわかったであろうが、不二は特に止める事もせず頷いた。
「うん。いいよ」
最初に動いたのはリョーマだった。ツイストサーブの前動作としてボールを地面につく。静まり返った中、ポー・・・ン、ポー・・・ンと一定のリズムでボールの音だけが響いた。
それが5回を数えた頃、不二がトスを上げた。お手本のような綺麗なフォームで放たれたボールは、先程のリョーマの時同様1番下の缶に当たり、3つを跳ね上げる。
ついで籠からボールを2つ取り出し、放り上げる。完全に同じように投げたわけではないボールは、空中で互いにぶつかったりしながら複雑な軌道で下に落ちてきた。
それを同時にラケットに当てる。2つのボールはここでもぶつかり、違う方向―――2つの缶が跳ね上がった方向へ飛んでいく。
「リョーマ君!」
丁度地面についていたボールが手に戻って来たとき合図を受け、リョーマはそのままツイストサーブを放った。
不二のすぐ手前を狙ったボールに自らぶつかりにいくかの様に前に出る不二。手に持たれたラケットが小さく弧を描いて回される。
中身の重さも加わり早くも落下し始めていた3つ目の缶に全員の視線が集まった。
「―――っ!」
不二の息を吐く音が無音の世界に突き刺さり―――
『――――!!!』
全員の注目する中、地面にぶつかる寸前だった缶の端にピンポイントで球が当たり、そのまま缶はコマのように回転しながら地面を滑っていった。
〆 〆 〆 〆 〆
「―――どうだった?」
大口を開けたまま誰も何も言えない中で、最後の1球で取れてしまった帽子を拾い上げた不二が、ついた埃をパタパタとはたきながら訊いた。
「全部に当たったよ。とりあえず、ね」
ここまでは予想できていたことだ。帽子を受け取ったリョーマがそう呟いた。
「そう?」
笑顔のまま首を傾げて答える不二。疑問ではなく確認の意味で、だ。
散らばったボールと缶の方へ近寄り、片付ける。ボールはラケットで跳ね上げコートに置きっぱなしだった籠へスマッシュ、缶はさすがに腰をかがめて取り上げた。
全て終わったところで再びリョーマの元へと近付く。中身の入った缶を差し出し、
「はい、リョーマ君」
「・・・・・・」
手を伸ばす事無く、恨みがましい目つきを缶と笑みを浮かべた不二に往復させるリョーマ。
(なんでそんな笑ってられるんだよ・・・!)
間違いなく自分の勝ちのはずだ。なのにこの不二の余裕はなんなんだ?
「周助開けて」
その言葉を受け、不二は缶を左手に持ち替え、上部に右手を添えた。
普段そのまま飲めるように口を自分側に向け人差し指でプルトップを開ける不二が、今回は口を遠ざけるように親指でプルトップを引き起こすのを見て、リョーマの心に僅かな希望が浮かんだ。
が、
プシュッ―――!
開けられた缶は無情にも隙間からいつも通りの音を出すだけで、吹き出したりはしなかった。
「はい、リョーマ君」
青褪めたリョーマに缶を渡す不二。実は本人もびっくりしてるのか、笑顔が妙に嬉しそうだ。
「・・・・・・・・・・・・」
缶を引ったくってヤケクソ気味に飲む。当然の事ながら炭酸も効いている。
「まさか・・・・・・取り替えたりして、ないよね」
「するわけないでしょ? 乾じゃないんだからリョーマ君が何味のファンタ買うか予想できるわけ無いし、それに前もって買ってたんならもっとぬるくなってるでしょ?」
「そ、そりゃあ・・・・・・」
だとしたら他にどういう理由があるのだ?
「不二〜! それってどうやったの!?
―――まさか黒魔術!!?」
そんなリョーマの疑問と(予想と)ぴったり同じことを考えていたらしい英二が尋ねてきた。
「さすがに黒魔術にそんな技はないんじゃないかなあ?」
「・・・・・・って、俺が聞きたいのはそこじゃなくって。ていうか不二どんな技あるか知ってるワケ?」
恐るべき質問をする英二。それに対する不二の答えは更に恐るべきものだった。
「ある程度は。試した事はないから実際に出来るのかそれともただの迷信かはわからないけどね。
―――とりあえず今回は違うよ」
「じゃあにゃんで?」
それ以上突っ込んだ質問をするのはいくらなんでも無理だったか、本題に戻ってくる。
「この間たまたま見たテレビの裏ワザ紹介でやってたんだよ。泡立っちゃった炭酸を元に戻すには容器を倒してコマみたいに回すといい、って。それでやってたのはペットボトルだったけど、もしかしたら缶でもできるかなあって思って」
「で、つばめ返し」
「地面寸前で弾けば地面に落ちた衝撃も逸らせるしね。おかげで缶も潰れずにすんだよ」
「ほえ〜・・・」
不二について改めて思い知り、感嘆のため息をつく。技能の高さと―――それをこんな事のために惜しげもなく披露する彼のいろんな意味での凄さに。
「―――と、いうわけで・・・・・・」
「ゔ・・・・・・」
本当に嬉しそうな不二の声。そしてそれとは対照的に完全に青ざめたリョーマの呻き声が短く聞こえる。
「賭けは僕の勝ちだね。じゃあ―――
―――これから駅前の喫茶店行こうv で、その後いろいろ見てv それで夕食食べて、夜は高台で星見ようねvv」
「はあ!!?」
いかにも『デートコース』といわんばかりの計画に、リョーマが珍しく全身で驚きを示した。
もはや何も言えない彼に代わって大石が尋ねる。
「ふ、不二・・・・・・」
「何?」
「『駅前の喫茶店』って―――あの、雑誌にも載って話題になってる?」
「うん。姉さんもオススメみたいだし、お土産で買ってきてもらったパイが美味しかったって裕太も言ってたからね。
―――姉さんも裕太もさすが喫茶店やってるだけあって舌は確かだから」
ちなみに不二家は不二本人含めてかなり味にはうるさい。その割になぜ不二のような味覚の持ち主が現れるのかは今だ不二家2番目のの不思議である(なお一番はもちろん裕太のようなまっすぐな性格の持ち主があの家から輩出された事である)。
「そりゃ話題になるくらいだから味はいいだろうけど・・・・・・」
と、妙に言いよどむ大石。暫く口をモゴモゴされ、ようやく切り出した。
「あそこって・・・・・・たしか客のほとんどは女性じゃなかったか?」
確か店内も女性が好みそうな、光をよく取り込んだ清潔な造りになっていて、ちょっとしたところに観葉植物や小さな写真、小物などがアクセントとして置いてあって雰囲気もいいらしい―――余談だがこの造りは不二家の経営する喫茶店も同じである。
そのせいか客は―――というかターゲットは10代、20代の若い女性中心。恋人などで男性も入るが、結構肩身の狭い思いをしているようだ。
「そうだけど・・・・・・あれ? よく知ってるね」
「あ、ああ・・・まあ・・・・・・」
首をかしげる不二に曖昧に笑ってみせる。実は不二の今言っている喫茶店は事ある毎に英二が「行きたい行きたい行きたい〜〜〜!!!」とわめいているところだったりする。そんなに行きたければ1人で行ってくれば・・・・・・などという言葉は英二には通用しない。彼の性格上どこに行くにも人と一緒で(まあ『トイレ友達』ほどではないが)、なおかつそれに付き合うのは目の前の親友か、さもなければ自分であることが定番となっている。
案の定―――
「え〜!!? 不二たち今からそこ行くの!? じゃあ俺たちも一緒に行くー!!
ね〜、大石〜!! 一緒に行こ〜vv」
目を輝かせて英二乱入。握りこぶしをぶんぶん振ったかと思えば腕に絡んでくる。こういう仕草は男女問わず周りから敬遠されるものだが、異ここに関しては既に誰もが慣れてしまっているためむしろほほえましく見られる。まあ慣れた理由の大部分は英二自身の見た目及び行動全体の可愛さ―――つまりは『目の保養』にあるのだが。
ね〜? と上目遣いで見られ、さすがに大石もたじろぐ。2cmしか違わない背丈の割にはこのような事をしてくる英二にはとことん弱い。
はあ・・・とため息をついて、
「というわけなんだけど、不二、俺たちもいいかな?」
「いいよ。僕たちは」
殊勝な台詞だ。これの意味が『誰がいようと僕たちのラブラブv には変わりないからvv』であることを解る者などそうはいまい。
「わ〜い!! これでダブルデートにゃvv」
「―――だから『デート』なんて俺は―――!!!」
『デート』という言葉にやはり反応したらしいリョーマが再び反論しようとする。が、
「リョーマ君v」
「ぐ・・・・・・!!」
にっこり笑った不二が何を言いたいのか即座に察し、リョーマの反論がぴたりと収まった。
その様子に大石は気の毒そうな目を送りつつ、
「じゃあコートの整備をやって、それから―――」
「あ、じゃあ僕たちはコート使ってないから先行くねv」
「そういやそうっスね」
『え・・・・・・?』
と、絡んできた2人に整備を任せる不二とリョーマ。
「じゃ、じゃあ俺たちは・・・・・・」
「んじゃ今日の練習は終わり。みんなコート整備ちゃんとやっとけよ〜!」
「ええ〜!!?」
「コーチ達は!?」
「俺達? 俺達は今からデートvv だから邪魔しちゃダメだぞ!」
「そ、そんな〜〜〜・・・」
そして教え子達に整備を押し付ける英二。
「・・・・・・・・・・・・ま、いいけどな」
最早この程度のことでいちいち気にしていては胃が持たない。人生20年弱でそんな悟りを開いた大石だった・・・・・・。
バカップルは永遠に続く!!
〆 〆 〆 〆 〆 〆 〆 〆 〆
え〜っと、そんな訳でシリーズものです。前々からやりたくてたまらなかった設定でして。なんかもう不二リョはこのくらい年齢離さないとなかなかリョーマが甘えてくれない・・・!! 室リョとかだったら甘えてくれるのに〜!!!
という訳で(?)このシリーズ。そうは言ってもこのサイトの王子ですので基本は『俺様至上主義』。やっぱ強気に攻めて頂きたい!! なので今回はかなり強め(?)に。嬉し恥ずかしバカップルからかなりシリアスっぽいものまで書けたらいいなあ、と。それに応じてリョーマの強気度(別名王子度)は変化。不二は一見従っているように見えてもちろん最強。そして忘れちゃならない英二&裕太の存在。この2人がこれから(これまで?)の重要なキーポイントを握ります。
ではこの『英語はノリで勝負!』シリーズ――もとい『バカップルデート記』は全3〜4話になりそうです。出かける先は不二先輩の言葉により4箇所。果たしてそのうちどこがネタにされるのか!?
あ、最後に、このシリーズ、裏テーマが上記のとおりですのでタイトルの英語は訳をよくよく考えなくてもおかしいです。イエ決して管理人の英語能力が中学生以下だからとかそんなんじゃ(ゲフンゴフン)・・・・・・。
2002.12.2〜12.6
―――そういや追記。不二様のやっておられました『裏ワザ』。今や有名なあの番組での紹介です。私は怖そうなので試した事ありませんが・・・。