More Sweet Sweeter
〜ものも人もより甘く〜
かろんかろん。
「あ、いらっしゃいま――――――せえ!!?」
扉の開く音と共に笑顔で挨拶したウエイトレス.だがその笑顔は、入ってきた者達を前に、一瞬で変貌した。
目も口の大きく開けて驚くウエイトレス。どよめく客達。それらの注目する先―――。
「へ〜やっぱ雑誌で言ってたとおりいい感じ〜vv」
「うん。確かにいいね。採光十分に取れてるし、雰囲気も落ち着いてるし」
などと冷静に評価する2人。そして、
「う〜ん・・・。けどやっぱり・・・女性が多いな・・・・・・」
「別にいいじゃないっスか、おいしければ」
居心地悪そうに頬を掻く1人。更に居直ったか『デート』という言葉は完全に頭から追い出して純粋に食べる事のみを目的とした1人。
―――言うまでもなく彼らは先ほどテニスコートにて騒ぎを巻き起こした英二・不二・大石・リョーマの4人である。そして彼らはここでもまた騒ぎを巻き起こそうとしていた。
「すみませ〜ん。4人なんだけど、席空いてるかにゃ?」
先頭にいた英二が指を4本立てて、最初に挨拶(らしきもの)をしてきたウエイトレスに尋ねる。
「あ、は、ははい!! お席ですね!! でしたらいくらでもどうぞ!!!」
「え゙? いやあの―――」
「ささ、こちらへ!!!」
目に異常な炎を灯し、あまりの迫力に制止をかけようとした英二の言葉も無視してびしりっ! と窓際、一番いい席を指す彼女。店に入って来た時見た限りでは、そこには人がいたような気がしたのだが・・・・・・なぜか周り含めて全て空いている。
「ありがとう」
なんだかいろんな不条理さに首を傾げる英二の後ろから、さらになぜかそれを全く以って不自然なものとは受け入れなかったらしい不二が笑顔で礼を言う。
「で、で、で、ではご注文が決まりましたらどうぞ〜・・・・・・・・・・・・」
真っ赤な顔でぽや〜っとどこかを彷徨いつつ去っていくウエイトレス。とりあえずメニューを置く事は忘れなかったようだが・・・・・・
「う〜ん。店の雰囲気はともかくサービスはイマイチかな・・・・・・」
イスを引きながら(実は席につく間もなくウエイトレスに去られたりしたのだが)顎に指を当てそう評価ランクを落とす不二に、大石が冷や汗を垂らしつつ呟いた。
「・・・・・・・・・・・・いや、仕方ないだろ、今のは」
「そう?」
「・・・・・・。もしかして訊くけど、不二っていつもどっか行くたんびにこんな騒ぎ起こしてる?」
げんなりとした表情で席につき、英二も尋ねる。
それにしれっと答える不二。
「いつも、って程でもないけど? それに今回のは僕1人だけのせいじゃないでしょ?」
「はいはい悪かったですね。今回のは俺達にも責任あります!」
こちらを無遠慮な眼差しで見てくる客や従業員たち。その視線を追えば、不二だけではなくその他3人にも送られているのは間違いなかった。
「それに大石はともかく英二は注目されるの大好きでしょ?」
「こ〜いう注目のされ方はにゃ〜・・・・・・」
「どーでもいいですけどさっさと決めません?」
手を顎に当て唸り始めた英二からメニューを奪い取り、リョーマは痛いほどの視線を完全に無視して食べる物を選び始めた。
「さすがだな越前は。これだけの視線にも全く動じない」
「ってか不二と付き合うって時点でもー諦めたんじゃにゃい? この位は慣れなきゃ大変っしょ」
「はは・・・。それはまあ確かに」
と、こちらもまた早くも視線を意識しなくなった英二に、大石は乾いた笑いを浮かべた。確かに恋人だろうが友人だろうが『不二と付き合う』以上この位は出来ないといけないかもしれない・・・・・・。
〆 〆 〆 〆 〆
「あ、あのご、ご注文お決まりになりましたでしょうか、ハイ!」
メニューを広げて4人でわいわいやっていたところで再びウエイトレスから声がかかった。
先程までと変わらずこちこちのウエイトレスを見て、とりあえず代表で不二が首を傾げた。
「決まった?」
「決まったよん♪」
返事をしてきたのは英二1人。だが他の2人も特に反対はしてこないので、肩を竦めて不二はウエイトレスに笑みを向けた。
それだけで当然の事ながら耳まで真っ赤になるウエイトレス。それをさらりと無視して不二はメニューを指差した。
「じゃあ僕は・・・・・・ラズベリーパイとアップルパイお願いします」
「あり? 2つ?」
「うん。この2つが特においしかったって裕太が言ってたから」
「・・・出たよ不二の『裕太バカ』」
「裕太バカ・・・って、今回は別にそんなつもりじゃないんだけどね。とりあえずおいしいって勧められたから食べてみようって思っただけで」
「とか言いつつ今めちゃめちゃ顔嬉しそうだったじゃん」
「・・・・・・? そうかな?」
「そーそー。おかげでおチビの機嫌更に悪くなったみたいだし」
「って俺に話振らないで下さい」
「ああ、リョーマ君ごめんね。別にそんなつもりじゃ―――」
「アンタもあっさり信じるなよ! 別に機嫌悪くなんて―――」
「とかいいつつむくれてんじゃん。にゃ〜。おチビってばカワイ〜vv」
現在丸いテーブルを囲んで不二・リョーマ・英二・大石の順で座っているのだが、その関係で丁度隣にいたリョーマを英二がいつもの如く抱き締め頭をぐりぐりと撫でた。
某人物を中心に辺りの気温が一気に下がり・・・・・・。
「と、とりあえず注文先にしないか? このままだとウエイトレスの人も仕事が出来ないし」
この中にて唯一騒ぎを静める立場にいる大石がどうどうと手を上げた。別にそこには言う事を聞かせるだけの迫力があるワケでもないのだが・・・・・・。
「ああ、そういえばそうだっけ」
「んじゃ次俺ね!」
あっさりと騒ぎは収まった。
「―――さすが『青学のお母さん』っスね」
「・・・・・・素直に喜んでいいのかい、それは・・・?」
〆 〆 〆 〆 〆
「んじゃ俺は〜♪ どれにしよっかにゃ〜♪
思い切ってこれにしよっかにゃ〜♪」
と、英二の指差したのはなかなかに豪勢なパフェ。当然の事ながら値段もなかなかにいい。
「あれ? 英二、確か今月お金がないって騒いでなかったっけ?」
首を傾げる不二に、なぜか英二は笑顔で答えてきた。
指をぴこぴこ振り、
「ん? へーきへーき。なにせ大石のおごりだし♪」
「ああなる程」
「ちょっと待ってくれ英二」
「はにゃ?」
「何で俺のおごりなんだい?」
「ええ!!?」
大石の(至極まっとうな)意見に驚愕の声を上げる英二。
「だってこういうのの定番って言ったらもちろん大石のおごりで―――」
「そうそう。普通はそうするものだよ」
更に不二も相槌を打ってくる。
「あ、もちろんリョーマ君の分は全額僕が払うからねv」
「当り前じゃん」
己を指差しにっこりと笑う不二にリョーマがためらいなく頷く。こういう付き合いもどうかとは思うが・・・・・・。
「いや、そりゃ越前と不二だったらわかるけど。越前はまだ中学生だし不二はもう仕事持って充分稼いでるわけだし・・・。
けど俺達だったら別じゃないか? バイトは同じだけやってるしそれに不二の家でも働いてる分英二の方が稼ぎはいいだろ・・・?」
別に奢るのが嫌なわけじゃない。英二が今月金欠であることも知っているし、せっかく念願叶って来れたのだから、もし好きなものを頼めないようなら奢ってもいいと思ってはいた。
が―――
(何で当然の如く俺が奢る方向で話がまとまるんだ・・・・・・?)
そんな疑問を覚えるのだが、当然の如く彼の奢りで話をまとめていた2人―――英二と不二はむしろそんな彼の発言に眉を顰めてきた。
「奢ってくんにゃいの、大石・・・・・・」
「最低だね。こんな時にちゃんと奢ってあげる事で懐の大きさを見せるのが男としての義務じゃない」
男の英二を前に素晴らしく偏見に満ち溢れた発言をする不二。
「そういう・・・もん、かな・・・・・・?」
返事に詰まり、とりあえず現在唯一中立の立場に立っている(っぽい)リョーマを横目で見やる。だが、
「そういうもんみたいっスね」
頼みの綱はメニューから視線を外す事無く頬杖をついたままあっさりそう言い切った。
「・・・・・・。わかったよ。奢るよ」
「わ〜い大石ありがと〜vvv
―――じゃあ俺はこれお願いしま〜すvvv」
「はい、イチゴチョコパフェスーパーデラックス(笑)ですね!」
「ってなんでいきなり頼む物を変えるんだ!」
英二持ち前の明るさに、緊張感も解けて和やかになったウエイトレス。彼女の言葉を聞き、大石はテーブルを叩いてツッコミを入れていた。
イチゴチョコ―――以下略。それはここの喫茶店の名物でもあり・・・・・・そして最も値の張るものだった。
「え〜。だって大石がおごってくれるって言ったし」
「だめだよ大石。額によって態度変えるなんて、それじゃ信用なくすよ」
「―――へー、そーなんだ」
と、今まで全く以って会話に興味を示さなかったリョーマが顔を上げてきた。
にやりと笑って、
「じゃあ俺も英二先輩と同じのにしよっかな」
「あ、リョーマ君そうするのv? じゃあ今の2つでお願いします」
「はい。かしこまりましたv」
「・・・・・・って・・・・・・」
ごく普通に進んでいく会話に、リョーマもまたかくりと肩を落としてツッコミを入れた。
「なんで普通に進んでいくんだよ・・・」
「え? 何が?」
理由がわからないらしく、心底不思議そうに聞いてきた不二にため息がもれる。と、
「越前、不二の稼ぎは年億単位だ。その上金をかけるべきものが何もない。多分少しくらい高いものを強請ったところで喜ぶだけで困らないと思うよ」
リョーマの狙いを唯一察した大石が、やはりため息混じりに解説を加えてきた。
ちなみに不二は本気で身の回りのものに金は掛けない――というか全体的に金には無頓着だったりする。気に入れば額に関係なく買うが、高級志向は微塵もない。実際、雑誌の表紙も飾りそれはどこのブランドかと質問の相次いだ服が実は500円のバーゲン品だった、などという事はしょっちゅうだったりする。
現在彼が唯一まともに金をかけるのはリョーマ関係のみ。これでは今のリョーマの策が嫌がらせになる訳がない。
「ぐ・・・・・・・・・・・・」
呻くリョーマを見やり、とりあえず後注文していないのは自分だけだ、と大石がウエイトレスに話し掛けた。
「じゃあ、俺はお汁粉で」
「はい。解りました。ではすぐお持ちしますので、暫くお待ち下さいvv」
緊張感の溶けたウエイトレス。ここぞとばかりに自分を売り込み、周りの客や同僚らに睨まれてはいるが―――、
「わ〜いわ〜い。大石のおかげで助かったよ。ありがとにゃ〜vv」
「え、いやそれほどのことじゃ・・・・・・////」
「すぐ持ってくるって。良かったね、リョーマ君v」
「俺は全然嬉しくない・・・・・・」
早くも自分たちだけの世界に入り込んだ4人は完全に無意味な行為だった・・・・・・。
〆 〆 〆 〆 〆
「はいリョーマ君v」
「大石も」
『「はいあ〜ん」vv』
『何で!?』
にこにこと笑顔でフォークとスプーンを差し出しハモる不二と英二に、リョーマ・大石両名も綺麗にハモり返した。ついでに周りの悲鳴もこちらは不協和音ながら見事にハモる。
全員の視線を受け、不二と英二がきょとんとした。
「何で・・・て・・・・・・」
「当り前っしょ?」
「・・・・・・どの辺りが?」
「恋人ならこのくらいの行為は当然―――」
「どこの世界での常識だ!!!」
どばんと机を叩いてリョーマが猛然と抗議をした。至極真っ当なその言い分に大石が頷く。嫌なわけではない。可愛い恋人が笑顔でそんな事をやってくれて嬉しくないわけはない。だが、
「英二、不二。仮にもここは公共の場だぞ。とりあえずそんな事をするのはどうかと・・・・・・」
「公共の場だからやるんだよ。そんな事もわからないのかい?」
(『だから』・・・・・・?)
即答してくる不二に首を傾げる。
「普通逆だろ・・・?」
「わかってないなあ大石は」
「そーそー」
「英二まで・・・・・・」
2人揃ってため息をつかれ、大石もまたため息をついた。2人とは明らかに理由は違ったが。
再び頼みの綱のリョーマを見やる。が、今度彼はあからさまに首ごと視線を逸らしていた。
(何なんだ・・・・・・?)
1人今だにわけがわからない大石に、不二が言葉を続けた。
「だから、人前じゃなきゃ見せ付けの意味はないでしょ? あ、もちろん1番の理由は僕がリョーマ君にやりたいからだけどねvv」
「そーそー。周りにちゃんと見せ付けとかなきゃ。大石どこで誰に取られちゃうかわかんないじゃん。ま、そんなのホントはど〜でもいいかんじで大石にやりたいからだけにゃんだけどねvv」
「英二・・・・・・」
花が咲くように笑みを零す英二に、大石は笑みを返してわしゃわしゃとその頭を撫でた。
「大石?」
「わかったよ。一緒に食べよう」
「うん!」
と、幸せに片付くバカップルの一方。もう片方は・・・
「というわけでリョーマ君v」
「やだ」
フォークを差し出し微笑む不二にリョーマはこれまた即答し、目の前のパフェを食べ始めた。
「こっちのパイ、凄くおいしいよ。いらない?」
「食べたい」
「じゃあ―――」
「自分で取るからいい」
あくまで食べさせてもらう事は拒否するリョーマ。だが不二はそう簡単に引き下がるような性格ではなかった。
「けどリョーマ君のスプーンじゃ切り分け難いでしょ?」
「じゃアンタ切り分けといて。それもらうから」
「スプーンで掬い取る時ぼろぼろ零れ落ちちゃうんじゃない?」
「そんなヘマしないよ、俺」
「・・・・・・・・・・・・」
笑顔のまま黙り込み―――フォークを引っ込める不二。リョーマは心の中でガッツポーズを浮かべた。が、
「じゃあリョーマ君、かわりに僕に食べさせてv」
「はあ!?」
「僕もそのパフェ食べたいなあ」
「・・・・・・。食べたらいいじゃん」
「食べさせてくれるのvv」
「誰が!! 自分で食べてよ!!」
「けど僕のフォークだと短くて届きそうにないんだ」
「上の方がまだあんだろ!? それとったらいいじゃん!!」
「じゃあ遠慮なくv」
と言って2枚だけ刺さっていたウエハースを取ろうとし―――。
「それはダメ」
リョーマのスプーンに妨害される。
「ならこっちは?」
と、早くも残り1個となったイチゴをフォークで刺そうとし―――
「それもダメ」
これまたリョーマのスプーンに妨害された。
「・・・・・・結局どれだったらいいわけ?」
「アンタわざとやってるだろ・・・」
む〜っと口を尖らせる不二をリョーマが半眼で見る。
「わかったよ、君がそう言うんなら。
―――英二〜。すこしそのパフェちょうだいv」
「な・・・!!」
「いいよ〜ん。んじゃこの辺でいい?
『はいあ〜ん』」
「あ〜ん」
ぱく。
「ありがとう英二。こっちもいる?」
「いるにゃvv」
「英二・・・!!」
「じゃあ英二、『はいあ〜ん』」
「あ〜ん」
ぱく。
「おいしいにゃ〜vv」
「本当にね.確かに話題になるだけあるよ」
向かいの席で話題に花を咲かせるメイツ。同じテーブルにて、大石が灰となり、そしてリョーマが肩を震わせた。
「なにそれ見せ付け!? 周助俺より英二先輩の方がいいワケ!!?」
「やだなあリョーマ君v そんなわけないじゃないvv」
「当り前だろおチビvv いまさらそんな事確認すんなよなvv
それに、そんな風に言うんだったらおチビがあげたらいいんだしvv」
「ねえvv」
「ぐ・・・・・・!!!」
最もな意見にリョーマが詰まる。確かにそのとおりなのだが・・・!!
(俺が周助に『はいあ〜ん』なんて・・・!!! 周助が俺にか・・・!? どっちでもいいけど、いや良くなくて、でもだからって英二先輩とやんなくったって・・・・・・!!! しかもこの状況じゃ、俺が催促する事になんじゃん・・・・・・!!!)
頭を抱えて呻くリョーマ。
ふと、名案がひらめく。
「俺、大石先輩のお汁粉が食べた―――」
しゅび!
「はいリョーマ君、お汁粉だよ。あ〜んvv」
「は・・・?」
目の前に再び現れた不二のフォーク。違いと言ったらそこに刺さっていたものか。パイではなく―――白玉。受け皿の上にはゆっくりと汁粉が垂れていく。
「いつの間に・・・・・・」
「恐るべし、不二・・・」
リョーマと英二が呆然と呟いた。2人の動体視力をもってしても今の不二の動きは残像ですら捉えられなかった。
目の前に差し出された白玉。自分で『欲しい』と言った以上断る事は無理。
完全敗北。
頭上に重くのしかかるその現実を前に、リョーマに出来たのはため息をついて口を開く事だけだった。
「『はいあ〜ん』」
「あ〜ん」
ぱく。
周りの絶叫―――声帯が限界を超えたらしく、最早ただの鋭い呼気にしか聞こえないそれらを頭から完全に追い出し、ただ無心に白玉を噛み締めるリョーマ。とりあえず白玉がおいしかった事だけは記しておく。
山も谷もないまま次へGo!
〆 〆 〆 〆 〆 〆 〆 〆 〆
うっわ〜本気で話としてまとまりありません。強いて言えばバカップルがバカップルやってただけ。ある意味このシリーズ(パラレル『天才〜』全般通して)の象徴ともいえますな(ものは言い様)。
さてリョーマ、なんかデート初っ端っから連敗続きです。挽回のチャンスはあるのか!? むしろ負けまくったまま終わりそうだぞ!?
ではそんなリョーマの運命―――はど〜でもいいかんじで(爆)この話を終わりにさせて頂きます。
2003.2.22〜3.25
そういえばイチゴチョコ以下略。アニプリにて出てきたアレですね。しかしあれ・・・どのあたりが『チョコ』だったんだろう。DVDで確認した限り上にはそれっぽいところなかったと思うんだけどなあ・・・。それとも途中からなのか・・・・・・?