ばれんたいん de ぱにっく!
「―――みんな揃ったね」
集まった一同をぐるりと見回し不二が笑顔で頷いた。
「じゃあ行こうか」
「行くって・・・・・・本当にやるのかい?」
1人目―――大石が眉を顰めて尋ねる。
「当り前でしょ? 何のためにわざわざ集まったのさ」
「そーっスよ大石先輩! たまには英二先輩にサービスしなきゃいけませんよ」
驚く不二に2人目・桃が同意した。
「しかし桃、大石ならしっかり『サービス』はしているだろう―――無意識ではあるだろうが」
「い、乾・・・・・・!!」
更に追い討ちをかける3人目・乾。
そして―――
「―――ていうかその前になんでこんな事で呼び出されなきゃいけないわけ? 相変わらず勝手だなあ、青学の奴って」
「諦めーな。不二に逆らえるわけあらへんやろ? 見てみい。めちゃめちゃヤル気やし」
「なになに? 2人とも暗いよ? もっと明るくしなきゃラッキー逃げちゃうじゃない」
毎度恒例ぼやいている4人目・伊武。彼の肩に手を置きため息をつく5人目・忍足。さらにおなじみの台詞を明るく言い放つ6人目・千石。
さてそんな奇妙な組み合わせの彼らが一体何をこれからやりに行くのか――
「じゃあ行こっか」
『お〜・・・・・・!!』
―――言おうとしたのだが、残念ながら微妙に盛り上がらない掛け声とともに彼らが移動してしまったためその話は後とする。
さてさて、そんな彼らを遠くから見つめる影がちらほら・・・・・・
L O V E L Y
「周助〜・・・! 『日本にいる間はず〜っと一緒にいようねv』とか言っときながら何俺差し置いて他のヤツといるんだよ・・・!!!」
7人から10mほど離れた店の看板に隠れ、リョーマは握り拳を戦慄かせていた。
「浮気とかだったら本気で殺してやる・・・・・・」
据わった目でそんな固い決意もしてみたり。もちろん本人は最早自分が何を口走っているのか―――いや、自分が声を出していることすらわかっていない。彼の注意はひたすら笑顔で前を歩く恋人にのみ向けられており・・・・・・、
「今日来るのどれだけ楽しみにしてたと思ってんだよ・・・」
「そうそう。なのにいきなりキャンセルしてきやがって・・・!」
「マジでムカつく――――――って・・・・・・」
何故か会話になっている『独り言[モノローグ]』。さすがにそれに気付いたリョーマがゆっくりと首を後ろに回していく。首から下は・・・・・・いつものように後ろからのしかかられているため動かない。
「何やってんスか? 英二先輩・・・」
「大石の浮気現場の取り押さえ。ちゃんと証拠になる様にカメラだってレコーダーだって持ってんだからな・・・!!」
その言葉に首に巻かれた両手を見る。確かにその手には今流行りのカメラ付き携帯に、録音機能もついているMDウォークマン(マイクももちろんセットになって)が。
それらをみしみしと音が鳴りそうなほど力を込めて握り、闘志を燃やす英二。ついでにその状態で首を絞められているためかなり苦しい。
とりあえずリョーマは身の安全を優先し、英二の腕を離してから会話を続けた。
「って事は、やっぱ英二先輩も何やるか知らないんスか?」
「浮気っしょ浮気!! もー許せない!! 今すぐ殴りこみかけてやる!!!」
拳を胸元で震わせそう宣言すると、英二は影から立ち上がり7人の下に駆け寄ろうとし―――今度は逆に、リョーマに後ろから羽交い絞めにされた。
「ストップストップ英二先輩!」
「何だよおチビ! 邪魔すんなよな!! 俺は今からあの浮気男に正義の鉄槌を―――!!」
「じゃなくて! 浮気ならそれ相応の証拠を押さえないと言い逃れされますよ!!」
「ゔ・・・・・・」
その言葉に固まる英二。確かに大石と言い争えば最終的にはほとんどの場合で自分が勝つが、それはあくまでも彼が妥協してくれたからに過ぎない。残念ながら言い争いのみで彼に勝てるほどの話術も弁論術も自分は持ち合わせていない。
ちなみにそれはリョーマも同じく。その上不二の理解不能、摩訶不思議の理論にいつも最終的に妥協させられるのは自分となる。だからこそ現場を取り押さえようとこうして看板の陰で拳を戦慄かせているのだ。ここで英二に乱入されてしまえばこの努力は無駄になる!
と―――
「はにゃ?」
とりあえず当面の怒りを収めて再び影に身を潜めた英二は、『それ』を見てきょとんとした。
「どうしたんスか?」
「あれ・・・・・・」
と、指を指す。7人が去っていったのとは逆の方から近づいてきたのは・・・・・・
「だから、俺は別にいいって!」
「いいワケないでしょ!? 神尾君は深司君が何やってるのか気にならないの!?」
「アイツが何やってるかなんて―――アイツの自由だろ!?」
「今一瞬悩んだでしょ!? やっぱ気になるんじゃない!!」
・・・・・・・・・・・・
「あれって桃先輩の彼女と―――」
「橘の妹に神尾じゃん。めっずらしい組み合わせ。にゃにやってんだろ?」
などと首を傾げるまでもなく納得する。やっているのは間違いなく今の自分達と同じ。ただ1名乗り気ではなさそうな人もいるが。
「ちょっとたんまたんま」
「あ、アンタ青学の―――」
「菊丸さん? それに越前君も?」
丁度横を通り過ぎるタイミングを見計らい、両手を振って通りへ英二に2人が脚を止める。
「にゃにやってる―――かは訊くまでもない?」
「あ、じゃあもしかしてあなた達も―――?」
たった一言。それだけで瞬時にお互いの状況・動機・思考など全てを理解する4人。さすが類は友を呼ぶ(笑)。
「なら―――」
「もちろん協力しない手はないわね」
ふっふっふという笑いと共に、なにやら怪しげな同盟が結ばれようとしたところで・・・・・・
「あ・・・・・・」
今度呟いたのはリョーマだった。ついでに最初にそちらを見た神尾が眉を顰める。
「マムシじゃねーか。何やってんだ?」
「自主トレでしょ? アノ人の事だから」
「まあそんな格好だよな・・・・・・」
という会話通り、通りの逆側をランニング姿の海堂が走っていた。普通ならその姿を見ればこの2人と同じ事を考えるのだろう。この状況さえなければ。
「海堂はっけ〜んvv」
「やっぱり海堂君も無関心な振りをしつつも気になるのね」
きゅぴーんと瞳を光らせ、赤ど真ん中の信号を無視して横断歩道を渡る2人。驚く海堂を両側から拘束し、次の青信号で戻ってきた。
「・・・・・・って、いきなり何するんですか!!」
至極最もな反論をする海堂だったが、返って来たのはリョーマと神尾の極めて寒い言葉だった。
「ゴシューショーサマ。海堂先輩」
「海堂・・・。お前も苦労してるんだな・・・・・・」
「ああ?」
ワケのわからない言葉に――ついでにリョーマにはいつものようににやりと笑われ、挙句の果てに神尾には何故か肩まで叩かれ、海堂の目つきが険しくなる。が・・・・・・
「そんなワケで、さ〜あいつらを追うぞ〜!!」
「急がないと、見失っちゃうわね」
と、歩きかけて・・・・・・
「―――あ!」
「今度は誰!?」
口に手を当て小さく驚く杏に、慣れたものでその意味を瞬時に悟った英二が訊き返した。
「あれって・・・向日君じゃない?」
「向日ぃ〜・・・・・・!?」
上げられた名に、英二の顔が面白いようにしかめっ面になった。中学以来どうもこの2人は仲が悪い。本人たちは否定しているが似た者同士の近親憎悪だろうと周りには評価されていたりするが。
とりあえず英二は無視して杏と同じ方向を向く。確かに自分たち同様(と言うと海堂と神尾は猛反対するが)、柱やら看板やら店やらに隠れてコソコソと、露骨に怪しく先行く7人を追う向日の姿がそこにはあった。
「どーするんスか?」
リョーマが尋ねた。ここで変な揉め事でも起こされたら追跡ができなくなる。ならば声はかけるべきではないと思うが・・・・・・
「とりあえず声でもかけてみましょうか。その後一緒に行くかはともかく、2グループにも分かれて後つけてたらさすがに気付かれるわ」
(それもそっか・・・・・・)
客観的に見て、これだけ怪しいグループが2つもあれば気づかない方がどうかしている。まだそれなら1つにまとまった方がマシ・・・かもしれない。
「じゃあそれで異論ある人」
はい!
―――と手を挙げかけた英二の口を素早く背後から塞ぎ、関節を極めて地面に転がす。当然周りもそれに気付いたはずだが―――
「―――ないわね。それじゃあさっそく声を掛けてみましょう」
あっさりそう言う事に決まった。
柱の影にて「侑士のヤロ〜〜〜〜・・・!!!!!」と歯軋りする向日に背後から近寄り、振り向く前に殴り倒して気絶させ、騒ぎになる前に建物の間に連れて行き、事情を説明している間代わりに杏と英二の脅迫によりスピードのエース・神尾が7人の追跡役となった。
―――実に鮮やかな手並みだった。鮮やか過ぎてそれが誘拐一歩手前だと誰も気付かないほどに。
かくて、建物の間で一体なにが行なわれたのか、神尾が7人の行き先を携帯で杏に伝える頃にはすっかりこちら6人も仲間として結束を固めていたのだった・・・・・・。
V A L E N T I N E ’ S
さて、裏でそんな取引(?)がされていることを知ってか知らずか、7人は特に振り向く事もなく『目的地』(厳密にはその1つ)へと辿り着いた。
デパートの地下街。バレンタインシーズンにはおなじみの特設コーナー。様々なチョコ菓子からその材料、ラッピングまで色々なものが売られた店内は当然の事ながら女性達でごった返していた。
が・・・・・・。
ずざざざざざざ!!!
不二ら7人が入った途端、一気に客が引いた。それはいい年した男性が集団でこんなところに、という軽蔑ではなく、突如現れた有名人かつ『イイ男』の集団に慄いたためだが・・・・・・。
テレビ等でしょっちゅう取り上げられる不二・忍足の事は当然世間に知られている。そして2人ほどではないがプロとして活躍する千石もまた、その目立つ存在のおかげでよく取材を受ける。更に少しテニスに足を踏み入れた者なら―――いや、自分は踏み入れずともマスメディアが勝手に踏み入れさせてくれるが―――現在注目株の大石及び伊武も有名であろう。
そして、これこそ今更言うまでもないであろうが・・・・・・全員そこに存在するだけで人の目を引く者達である。それが集団でいれば、注目されないわけがない。
だがそれを気にする事もなく――訂正。それに気付く事もなく、7人は極めて普通に店内に入り、そして各々籠を持って好きな物を中に手にとっていった。
「リョーマ君だったら甘い物好きだから―――」
「英二なら可愛いもの、か・・・。後は『質より量』かな?」
「橘妹か〜。アイツ菓子とかけっこーよく作ってくるからな〜・・・。よっぽど何か変わった事やんねーと笑われそうだよな〜・・・・・・」
「海堂の好みに合わせるならばカカオは100%にすべきか。下手に味のついたものは却下だな。アイツの舌が『作られた』味に満足する可能性は0%だ」
「アキラに・・・? 別に今まであげてなかったのに何で今年はあげなきゃいけないのさ。大体アキラの好みなんて俺が知るわけないだろ・・・・・・(ボソボソ)」
「岳人になあ・・・。アイツ何気に見た目に拘りよんねん。せやけど変にムズカシイの狙ってもなあ・・・。作れへんかったら意味あらへんし・・・」
「あ、だったら大丈夫。飾りとかだったら僕得意だよ」
「―――って不二に作らせたなんてバレたら後で怒られるわ」
「う〜ん。可愛いコにか〜。どんなのにしよっかな〜。やっぱ可愛いコには可愛いものじゃないとね〜vv」
「もしかして千石さんまだあげる人決めてないんスか?」
「ん? 決めてるよ。
俺のあげるのは全国の『可愛いコ』vv
―――あ、もちろんだからちゃんとあげるよ。不二君にリョーマ君・菊丸君・杏ちゃん・神尾君・それに向日君にはねvvv」
と花を飛ばす千石に、乾の続全員が殺気の篭った眼差しを向け(まあその表情は人それぞれだが)、そして乾は違う意味で彼を眼鏡越しに見つめていた。
・・・・・・どうやら彼は海堂が千石曰くの『可愛いコ』に加えられなかったのが不満だったらしい。
まあそんなこんなで買い物は続き・・・・・・
D A Y
7人のいるところ追跡者在り。
というわけで、ここでもまた数m離れた違う店を物色する振りをして、リョーマら6人は更に殺気の篭った眼差しで特設コーナーをうろつく者達を見つめて――というかあからさまに睨んでいた。
「何アレ何アレ!!!? 自分からあんなトコうろついちゃってさあ!!!」
「ホント!! そんなにチョコ欲しいわけ!!!?」
「大石のヤツ〜〜〜!!! 俺に言えばチョコなんて10個や20個! 100キロだって渡してやるのに〜〜〜!!!!!!」
「俺からもらうだけじゃ不満とか言うつもりかよ!!!!!?」
全身に青筋を立て、やはり全身を震わせ、それでも足りないか全身から怒りのオーラを撒き散らすリョーマ・杏・英二・岳人の4人に、海堂と神尾は更に5mほど離れてため息をついていた。
離れていた理由は言うまでもなく。あちらがあちらなら当然の如くこちらも目立っていたためだ。だが周りから「きゃ〜vvv」と上げられる黄色い声などもちろん届かず、ただただ彼らは穴の開きそうな勢いでそれぞれの『恋人』を凝視していた。
「なあ・・・まだ、続けるつもりか・・・・・・?」
神尾が弱気に尋ねるも・・・。
『もちろん!!!!!!!』
異口同音。役者ですらそこまできれいには揃わないぞ的な脅威のハモりを見せ肯定する4人に・・・・・・やはり神尾と海堂はため息をつくしかなかった。
H A P P Y
「ただいま〜」
<close>の札のかかったドアを軽く叩く不二。待つこともなくあっさりドアは開き―――
「お。遅かったな、兄貴」
「ただいま裕太。けど・・・店閉めてるんだ?」
「ああ。これだけ大人数でやるんじゃ台所だけじゃ足りねーだろ? それにまあ・・・今日開けとくと大変だし。
―――あ、こんにちは」
と、ドアから半分身を乗り出した裕太が遅ればせながら頭を下げる。その先には先ほどからの6人がおり・・・。
「お。裕太」
「裕太君。悪いね。店まで休みにしてもらっちゃって・・・・・・」
「いいですよ。兄貴1人の面倒見だけでどうせ店は休みですから」
「そ・・・それもそうだね・・・・・・」
その言葉に、はははと乾いた笑いを浮かべる大石。今回はそこに更に乾まで加わるのだ。大丈夫なのか、この面子・・・・・・?
―――と思う彼の言葉からわかるとおり、このメンバーの中には料理はある程度出来る者はいるがさすがにお菓作りまで得意な者はいない。
さて裕太。なにせ喫茶店で立派に仕事をこなしているのだ。新しい料理の開発は姉・母と3人で行なうが、普段の経営は彼が中心を取り仕切っている。そして臨時含むアルバイターにはちょっとした手伝いはさせるものの、基本的に料理を作るのは彼の役割だ。『ホームメイド』をモットーとしているためもちろん外部で作ったものをただ出すなんてことはない。
つまるところ、彼は当然のことながらお菓子作りは得意である。なので―――
「で、何作るんですか?」
ここにいる7人中3人は同い年であったり兄弟であったりで敬語を使う必要のない人間だが、とりあえず残り4人に合わせて敬語で尋ねる裕太。
「僕はチョコケーキv」
「俺は・・・普通にチョコを形作るだけかな・・・?」
「俺は―――あ〜ダメだ! まだ決まんね〜〜!!」
「俺はブラウニーでも作ろうか」
等々。何故か見事に全員違うものを言い出す。
(これで一緒に作る意味ってあんのか・・・・・・?)
額に一筋汗を流しつつも、裕太は兄譲りの(というか不二家伝統の)笑みを浮かべこう提案した。
「じゃあそれぞれ別別に作ってて下さい。わからないところあったら教えますから」
「よろしくね、裕太v」
一同を代表して不二が頷いた。
こうして少々変わったお菓子作りが始まり―――
L U C K Y
『な・・・・・・!!!』
<close>の札を前に、4人は思わず驚愕の声を上げていた。何故今日に限って休み? 確かに今日は不二の試合のある日ではないが、彼が日本にいる時など正に稼ぎ時だろうに。それが何故・・・!?
「そこまでして隠したい事をやっているのか・・・・・・?」
本人は否定するがいつも彼に付きまとっているデータマンに影響されているらしく、無意識の内に物事を分析するようになってきた海堂。彼の他意のない台詞に、4人の肩が面白いようにびくりと跳ね上がった。
「しゅ〜う〜す〜け〜・・・!!!」
「お〜お〜い〜し〜・・・・・・!!!!」
「も〜も〜し〜ろ〜く〜〜ん〜〜〜・・・!!!!!」
「ゆ〜〜う〜〜し〜〜〜・・・・・・!!!!!!」
火に油とは正にこの事で。
血走った目で暗黒のオーラを纏い、4人は慄くその他2名を無視して中の様子が探れないかと周囲を散策し始めた。
そして―――
「あった!!」
リョーマの声に群がる一同。部屋の空気の流れを調節するためか、あまりつけられなさそうな北側にある小さな窓。薄いレースのカーテンこそあるものの、中の様子を見るのにはさして支障はなかった。
「おっしおチビでかした!!」
「って英二先輩重いっスよ!」
「2人とも静かに・・・!」
「そーだぜバレちまうだろ・・・!?」
((ムカ・・・・・・))
・・・・・・違う意味でいろいろ支障はありそうだが、とりあえずそこから中の様子を窺う事にしたのだった・・・。
C H O C O L A T E S
「あのさあ、兄貴・・・・・・」
「ん? 何、裕太?」
幸いな事に全員裕太が思ったよりも器用なおかげでさして苦労する事無くお菓子制作が進む中、裕太は不二の肩をちょいちょいと叩いて耳元に囁いた。
「いいのか? 外の・・・放っておいて・・・・・・」
「ああ・・・・・・」
と、今更ながらに気付いたような不二の返事にため息をつく。本気で今まで気付かなかったわけではないだろう、この兄ならば。
それでありながら何も行動を起こさないため今まで無視していたのだが・・・・・・さすがに2時間以上ご苦労な事に見張り続けられていればそろそろ声を掛けるべきかと思う。ただでさえ彼らのいる北側の窓は少し高めに作られており、下に台もなかったため英二らならともかくリョーマ、それに杏は相当辛い姿勢をしなければならない筈だが・・・・・・。
だがそれに答える兄は実に朗らかに笑ってみせた。
「もうすぐ全員出来るから。そしたら呼んでおいてくれないかな?」
「(ため息)早めに呼んでやれよ?」
「出来るだけ、ね」
P A N I C ! !
「―――何やってんですか?」
やはり前述した理由により敬語で問う裕太に、こっそり隠れていた(らしい)6人は大きく後ずさった。
「な、な、な、何で裕太・・・・・・」
「い、いつ気付いて・・・・・・?」
本気で気付かれているとは思ってもいなかったらしい。くじけたい気分を何とか奮い立たせ、頭を抱えたくなるのを無理矢理堪えて裕太は家の中を指した。
「そこ、寒いでしょ? 中入ったらどうですか?」
「え・・・いやあのその俺達は―――」
「そ、そう。たまたま通りかかっただけでー・・・・・・」
かつてストーカーとして警察に突き出された不二のファンの子と同じ言い訳をする一同に、さすがにため息を洩らしつつ後を続ける。
「そうですか。
―――ところで兄貴たちが『用事』を終わらせて待ってますけど―――」
―――という台詞が終わるまでもなく、
ドアへと爆走していった6人を見送り、裕太は半眼で本人らの―――そして彼らのファンの前では口が裂けても言えない言葉を呟いた。
「そんなにいいもんか、アレが・・・・・・?」
P R E S E N T
「周助!!」
「大石!!」
「深司!!」
「侑士!!」
―――短距離走の勝者はこの4人だった。いやそんなことはどうでもいいのだが。
怒鳴りつつ殴り込みをかけたリョーマ・英二・神尾・向日。そして一歩遅れて駆け込んできた杏と海堂の前に―――
『HAPPY VALENTINE!!』
という言葉と共に、包みが差し出された。
『え・・・・・・?』
突然の事態に怒りも消え、呆気に取られる珍入者一同。ぽかんとする彼らに計画者は笑いながら説明を入れた。
「今日はバレンタインでしょ? けどいつもだと僕たちがもらう事が多いから、今回は逆にあげてみようと思って」
呆然とそれを聞き・・・・・・・・・・・・まずはリョーマが確認を取った。
「じゃあ今日みんなといたのって・・・・・・」
「もちろん君(たち)にあげるチョコ菓子を作るためv」
「〜〜〜〜〜////////」
にっこりと、それこそとろけるような極上の笑みを浮かべ答える不二に、リョーマが耳から真っ赤になった。
次いで英二が尋ねた。
「それじゃ、俺との約束断ったのは・・・・・・?」
「あ、いや・・・ゴメン。不二の話のほうが後だったんだけど・・・・・・驚かせようと思って」
「にゃんだ〜・・・・・・」
へなへなと座り込む英二に大石が慌てて手を貸す。
「なんか1日損した。まともに付き合った俺が馬鹿みてーじゃねーか」
「まーそー言うなや岳人。お前がヤキモチ焼いてくれたんめっちゃ嬉しいわ」
「べ、別に俺は―――////!!!」
と赤くなって否定する向日にニコニコと笑いながら言い寄る忍足。
「用事終わりましたね。じゃあ俺はトレーニングの続きがありますんで」
「まあ待て海堂。トレーニングには適度な休憩も必要だ。幸いここは喫茶店であり休憩所として最適だ。それにトレーニング後の炭水化物・たんぱく質・それにビタミンCの摂取は迅速な回復を促す」
「俺はトレーニング後じゃなくてトレーニング中です!」
などと言いつつも結局は乾の押しの強さ―――ではなく理論武装―――を前に折れざるを得ない海堂。
「モモシロ君。私のために・・・・・・?」
「あ、ああ・・・。とはいってもお前みたいに上手くはねーけどな・・・・・・」
「ありがとう・・・・・・」
照れくさそうに横を向く桃に微笑む杏。お互い顔を赤らめ、まさに『中学生日記』並みの初々しさを醸し出す。
そして・・・
「あ、あのさ、深司・・・。それ、まさか・・・・・・」
信じられないと顔中に書いて神尾が尋ねた。
「アキラ。何その『信じられない』って顔。別にいいよ。受け取って欲しいとか一言も言って無いし。じゃあこれは俺が食べるから―――」
「――って早ッ!」
「早いのはアキラの専売特許でしょ。俺はもう帰るから」
「ちょっと待てよ! 欲しくないなんて一言も―――!!」
なぜかもうドアを開けスタスタと歩き去りかけていた伊武に神尾が走って追いかけていく。
そんなこんなで今日1日。いろいろと途中経過はあったが結局収まるべきところに収まって、バレンタインデーは各々幸せに過ごしたのだった・・・・・・。
―――凄まじくまとまりのないまま終わる!
F O R Y O U ! !
さてそんなワケでフライングバレンタインデーネタ、第3段はテニスでした。しかもパラレルもの。の割には普段のままでも一向に構わないような・・・・・・。
とりあえずけっこー好きなCP(とか)ごちゃごちゃに入れてみましたって感じですね。このシリーズの都合上裕太は今回特に参加はしませんでしたが。
しかしリョーマ・英二・岳人まではともかく杏ちゃん・・・・・・。『爽やかカップルでいいな〜vv』とか言ってた割に今回凄い言になりましたね。何となく彼女。普段はクールっぽい(笑。ここで笑う理由を2種類とも当てられた方、見事貴方はここの管理人と同じ感性の持ち主となり・・・・・・え? 嬉しくない? ごもっともですな)けど浮気とかには厳しそうだ・・・・・・。
では、実はさり気に乾海と伊武×神尾を出した理由のはっきりしないこの話(爆)を終わりにします―――強制終了!2003.2.6〜2.12
P.S. さて、千石さんは結局誰にチョコをあげたのでしょうか?