アンタの家まであと6分!
「リョーマ君、朝だよv」
「ん〜・・・・・・、あと5分〜・・・・・・」
「ダメだよ。部活に遅れちゃうよv」
「部活〜・・・・・・。
――――――――あーーーーーー!!!!!」
ばたばた!!
「あ、リョーマ君、おはようの―――」
「ンなのしてる時間ない!!」
「・・・・・・・・・・・・」
がちゃん。
・ ・ ・ ・ ・
「あ〜あ、雨かよ。ついてね―な、ついてねーよ」
学校からの帰り道、桃は空を見上げ思い切りため息をついていた。講義が終わってダッシュで青学へ向かったというのに部活は突然の雨で中止。ぼやきたくなるのも仕方ないだろう。ついでにヤケクソでまだ止んでいないというのに傘もささずのんびり歩くのも。
「なあ、越前」
上を向いたまま桃は呼びかけた。隣で自分同様濡れながら歩いている後輩へ。いつもならここで何か返って来る筈だ。同意なり、反発なり。まあ彼の場合おおむね反発―――というか生意気な言葉を返してくるが。
が、
「―――オイ越前?」
返事のない後輩に、桃は上に上げていた顔を下に下ろした。後輩――リョーマは隣を歩いている。やはり先ほどまでの自分同様空を見ながら。そして―――
ばしゃり。
水たまりを踏み潰しても尚気付かず歩き続ける。
さすがにそのいつもと違う様子が心配になり、桃は足を止めリョーマの肩を掴んだ。
「オイ越前!」
「・・・・・・何スか?」
引っ張られ、ようやく反応するリョーマ。この様子では自分が足を止めていたことすら気付いていなかったのだろう。
きょとんとする彼に、先程より深いため息をついて桃は腰に手を当てた。
「今日のお前なんか変だぞ? なんかあったのか?」
「別に」
「ンなワケねーだろ? 悩みあんなら言ってみろって。俺はお前の先輩だぞ?」
「そうだったんスか?」
「オイ・・・・・・」
嫌味なのかそれとも地でボケているのか、今のリョーマからはなんとも判断がつかない。
「冗談っスよ。別に何でもないデス」
「そうかあ? そりゃまあ俺は大石先輩とかに比べりゃ頼りねーかもしれねえけどな,悩み聞くくらいなら出来るぜ? 言ってみろって。言うだけで大体楽になれるもんだし」
な? と明るく笑う桃をじっと見つめ・・・・・・リョーマは再び空を見上げ、呟いた。にわか雨降る今の空。見えないその色がアノ人を彷彿とさせる。
「構ってもらえないと、やっぱ、寂しいっスよね・・・・・・」
思い出すのは朝の事。急いで起きて支度して、久し振りに会えたアノ人に、俺はどれだけ目を合わせた?
「―――なんて、俺らしくないっスね」
にやりと笑う。いつものように。
ウジウジ悩むのもらしくない。気持ち考えんのなんて出来ないし。だったら俺がされて嬉しい事するだけ。
「すんません桃先輩、俺寄り道して帰りますんで」
「え? あ、オイ、越前―――!?」
いきなりの成り行きにわけがわからない桃を置いて、リョーマはそう決心すると来た道を逆走した。行き先は学校近くの花屋。もしかしたらまだあるかもしれない、アノ人がいいって言ってた、小さなサボテンが。
「あ〜あ、行っちまった」
頭をぽりぽりと掻いて桃が笑った。
「まあなんにしろ、越前の様子が戻ってよかったよかった」
・ ・ ・ ・ ・
「暇だなあ・・・・・・」
プルルルル―――
ガチャ
「あ、英二、何?
え? これから?
う〜ん・・・・・・
まあ、ちょっと位だったら・・・・・・」
ガチャ
「まあ、いっか」
・ ・ ・ ・ ・
「何それ・・・・・・」
「だから、兄貴は菊丸さんに呼ばれてコーチの手伝いに行ってるって」
不二の家にて、見当たらない恋人の姿を探している最中の事。店にいた裕太にふいに呼び止められ、告げられたその言葉にリョーマは半眼で呟いた。
「俺よりテニスなわけ? 周助・・・・・・」
・ ・ ・ ・ ・
バッグにサボテンの鉢を入れたまま、不二の部屋でせんべいを齧りつつテレビを見ていたリョーマ。そこに、
がちゃり。
「―――お帰り」
入って来た部屋の主に、不機嫌丸出しで言う。
「ただいま・・・・・」
入って来た人もまた、普段はにこにこしてるくせに声にまで不満丸出しで返してくる。
いつもとは違うその声色に、振り向いて確認する。
「・・・・・・何?」
「別に?」
「・・・。それ俺の台詞」
「そうだった?」
「・・・・・・」
今度は笑顔でしれっと言ってくる不二に、リョーマは黙り込んでベッドに腰掛けたまま彼を見上げた。
部屋に入ってくる不二。いつもならここでまず真っ直ぐ自分に向かってきて『ただいまのキス』などと称してべたべた触れてくる。
なのに―――
リョーマの脇をすっと通り過ぎ、不二は部屋の中央にあるカウチに深く腰をかけると付けっぱなしのテレビを見出した。
「・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
続く、無言の時。珍しくはない。
―――なのに、やけに重苦しい。
(何考えてんだよ・・・・・・?)
「周助」
とりあえずリョーマは呼びかけてみた。素直に反応する不二。くるりと顔だけをこちらに向け―――
「・・・・・・」
じっとこちらを見てくる瞳[め]。空色のそれは完全に据わっていて。
(だから! 何拗ねてんだよ!?)
「何?」
「別に・・・・・・」
「そう」
短くそれだけ言って、再び前を向く、その姿に。
(あ〜もう!!)
がりがりと頭を両手で掻いて、リョーマはバッグの中から買って来たサボテンを取り出し、不二の元へ後ろから近寄っていった。
気付いているだろうに振り向かない不二を背もたれごと抱き込む。
「リョーマ・・・君・・・・・・?」
驚いて、ようやくまともに口を利いてくれた不二に、持っていたサボテンを見せ、
「分った! 俺の負け! 今朝の事謝るから!」
ぶっきらぼうに、本当に謝ってんのかと思わず聞き返したくなる程乱暴にそう言うリョーマ。その手ごとサボテンを包み込んで、不二は振り向かずに聞いた。
「このサボテン、僕に?」
相変わらず声から感情はわからない。だが不満は消えたようだ。とりあえず表からは。
「他に誰がいるのさ」
口を尖らせ、そっぽを向いてリョーマが返す。こういった態度がいけないとは分っている。
(けど仕方ないでしょ? これが俺なんだから)
甘える事なんて、恥ずかしくて出来なくて。自分に出来るのは冷たい言葉で突き放すだけで。
だから―――
抱き締める手に力を込めて、嘘じゃないと態度で伝えて。
抱き締めた腕の中で、不二が動いた。
リョーマの手を振り解き、
―――後ろを向いて、優しく抱き返す。
「周助・・・?」
先程の逆で、聞き返すリョーマ。その全てを抱き締め、
「ごめんねリョーマ君。つまらないことで怒っちゃって。
それと・・・
ありがとう。凄く嬉しいよ」
「周助―――」
自分だけに向けられるこの上なく優しい声、そして笑顔。それに安心して、リョーマもまた解けた腕を再び不二の首に絡めた。
「明日は朝練ないからさ、今日は一緒にゆっくり寝ようね・・・・・・」
・ ・ ・ ・ ・
「本当!?」
「ゔ・・・?」
「じゃあ一緒に寝ようね! もちろん今すぐ!」
「はあ!? まだ晩飯も食べてない―――」
「いいからいいからvvv」
「嫌だーーー!!!」
―――Happy End v
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
と、いうわけで越前リョーマデビューCD『cool E』の、『キミが待つ家[うち]まであと6分』よりでした。なにかいろいろと間違ってますが。おおむねこんな感じで―――はもちろんありません。こんな婦女子が喜びそうな歌ではないですよ。けどカルに踊らされる―――もとい、まあなんていうかのリョーマは可愛いです。聴いてて和みます。
では、ラストに毎度恒例の―――リョーマ、CDデビューおめでと〜v
2003.3.5