ほわいとでー more much ぱにっく!
「ホワイトデー?」
「そ! ホワイトデー」
「で、それが何か?」
「んも〜! 鈍いにゃ〜!
だから! 俺たちバレンタインでチョコもらったっしょ!? けど俺達はあげてないじゃん」
「・・・・・・そー言えばそーっスね」
「でしょ? だから! ホワイトデーはぜひお返ししなきゃ!」
「はあ・・・・・・」
「と、いうわけでおチビも愛しの不二になんかあげなきゃダメだよん♪」
「あげません////!!!」
L O V E L Y
(―――とは言ったけどなあ・・・・・・)
その日の部活にて、リョーマは他の1年共々後片付けをしながら悩みこんでいた。問題は数日後に迫ったホワイトデー。先ほど部室で英二にこっそり耳打ちされた(途中からなんだか大声になっていたような気もするが)とおり、バレンタインデーに不二にチョコをもらった。これは変えられない事実。
バレンタインデーといえば対になるのはホワイトデー。バレンタインデーにもらった以上ホワイトデーにお返しをしなければ。しかしそれをするのは恋人達の場合であって、自分と不二は別にそんなワケでは―――思いっきりあるのだが、だからといって本当に『お返し』をするとまるで自分がそれを認めているようで、そんなことを不二に知られれば付けあがらせる一方で・・・・・・。
(周助の欲しがるもの? バレンタインならチョコ適当に送っとけば良かったけど、ホワイトデーってなあ・・・・・・。何あげんのがいいんだっけ?)
―――などという事を悩んでいたわけではなく、リョーマは今本人が思ったとおりのことをずっと考え続けていた。
「―――越前?」
「え? あ、い、乾、先輩・・・・・・」
ぼけ〜っとしていたところにいきなり声を掛けられ、あたあたするリョーマ。そんな彼を興味深げに見やり、声を掛けた張本人―――乾は持っていたノートを開いた。
「今のは実に興味深い言動だったね。ビデオにでも記録しておくべきだった」
「止めてください。
で、なんなんスか?」
彼から声を掛けられるのは別に珍しいことではない。練習中に彼が部員にアドバイスを掛けていくのはいつものことだ。が、今はもう部活は終わった。
「別に何だというわけじゃないんだけど」
「はあ」
「ただ後片付けも終わったのに何でラケットも持たずに1人でコートに立ってるのかなあ、と思って」
「え・・・・・・」
言われて、周りを見回してみる。確かに誰もいない。コート整備も全て終わり、道具も片付けられていた。
「え・・・っと・・・・・・」
ぽりぽりと頭を掻き、リョーマも部室へ向かおうとした。ところで、
「何か考え事かい?」
「え・・・?」
「今日の部活も集中できていなかった。何か問題があるのなら早めに解決する事を薦めるよ」
「わか・・・たんスか?」
「ステップに若干のばらつきがあった。スマッシュの軌道も微妙だけど安定していなかった。
―――まあ気付いたのは俺と手塚だけだったようだが」
「そう・・・っスか・・・・・・」
自分の事だ。集中出来てないのはわかっていた。だが他の人間にもわかるほどだったとは・・・。
肩を落とし、俯くリョーマを見て、乾が提案した。
「―――ああ、悩みなら聞くくらいの事はできるよ」
「先、輩・・・?」
「たとえそれで解決できなかったとしても、とりあえず話すだけで少しは楽になれる場合が多い。それに何より説明する事で自分の中で整理が出来る。
考え、まとまらなくて困ってんじゃないのかい?」
「・・・・・・」
的確に、それこそテニス同様正確についてくる乾。リョーマはそんな彼を暫し見つめ―――
「実は・・・・・・」
W H I T E D A Y ’ S
「なるほど。そういえばそろそろそんなシーズンだね」
リョーマの話を全て聞き終え、乾がうんうんと頷いた。
「で、肝心のプレゼントが決まらない、と」
「周助にって、何あげていいかわからないし、プレゼントはこの間の誕生日にもしたし―――」
「ちなみに誕生日の時はどうやって決めたんだい?」
「周助のお姉さんに相談に乗ってもらって・・・」
「今回その手は使わないのかい?」
「周助に、バレてて・・・・・・」
「つまりお姉さんは不二に話していた、と?」
乾の質問にこくりとリョーマが首を振る。不二の姉ならば何度も会った事があるが、口が軽そうには見えなかった。となると何らかの理由があってわざと言ったか・・・。
「なら今回は不二にバレないように用意したいのかい?」
「それは・・・まあ・・・・・・」
プレゼントなのだから当たり前と言えば当り前な答え。中身が何か知らなければあける側の楽しみも増える。ただし―――
「けどそれであいつの欲しいと思わないものをあげてしまわないか心配、という訳か」
「周助の趣味とか好物とかって変わってるから何あげたらいいのか全然わかんなくって・・・・・・」
(確かに、な・・・)
むしろ思考そのものが変わっている、と言ってもいい。彼の喜怒哀楽全てを理解する事など、恐らく家族でも不可能だろう。
「ふむ・・・。ならここはオーソドックスにいったらどうだい?」
「オーソドックス?」
「バレンタインのチョコほどじゃないけど、日本のホワイトデーといえばアメかクッキーか、後は本かそれとも花束か。
―――ああ、それならサボテンでも送ったら? サボテン集めが趣味の不二なら喜ぶんじゃないかな?」
「サボテン・・・・・・この間あげた」
「・・・・・・・・・・・・」
リョーマの答えに乾は暫し首を傾げて悩み込み―――ぽんとシャーペンでノートを叩いた。
「じゃあこんなのどうだい?」
P A N I C !
「ありがとうございました」
乾から『それ』を受け取り、彼にお礼を言うリョーマ。これなら変わった物好きの不二も喜ぶだろう。
「いやいや。役に立てて嬉しいよ」
問題が解決し、すっきりしたように頭を下げるリョーマに乾も軽く手を振って答えた。
去り行くリョーマを見送り―――
「さて、ついにあれが不二の手に渡るか。どうなるか楽しみだな・・・・・・」
ぼそりと不穏な台詞を呟く乾。その顔は逆光でよく見えない。だが、中心にあるメガネだけが暗い中でも輝いていた。
そして、
ふふふ・・・と堪えきれないように笑い出す。肩まで震わせ笑みを零す彼の先には、今ではもうすっかり小さくなってしまったが嬉しそうに微笑むリョーマの後ろ姿があった。
「ホワイトデーか。俺も海堂にチョコを送ったな。だとすればこれは『お返し』を要求しなければ・・・・・・」
P R E S E N T
それから数日、あっさり経ってホワイトデー当日。
「周助」
「どうしたのリョーマ君? 改まって」
「これ・・・・・・」
「?」
「今日・・・・・・ホワイトデーだから・・・・・・」
顔を赤らめそう言うリョーマに、不二の目が見開かれる。今日がホワイトデーだと知ってはいたが、まさか彼から何か言ってくるとは思わなかった。しかも『お返し』まで用意して。
「リョーマ君・・・・・・」
それ―――ラッピングされているため中身が何だかはわからないが、大切そうに持つリョーマの両手を包み込んで、不二はリョーマに顔を近付けた。
「ありがとう、リョーマ君」
「ん・・・・・・」
目を閉じ、自ら顔を上げてくるリョーマの唇を十二分に堪能し、
「―――開けていい?」
「いい・・・けど・・・」
潤んだ目で荒い息をするリョーマににっこり微笑んで訊く。もちろん今の状態のリョーマを放って置くわけはないが、その前に彼が用意してくれたというプレゼントも気になる。
リボンを解き、見上げるリョーマの目の前でがさごそと包みを開き―――
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「―――何? これ・・・」
「だから、バレンタインのお返し」
「・・・・・・は、わかるけど・・・・・・」
「で、何をあげたら周助が喜ぶかって乾先輩に相談したら、これにするといいって―――」
「乾か・・・・・・・・・・・・」
「周助変わったものが好きだからどうかなあって」
「確かに『変わってる』ね・・・・・・」
「・・・・・・。もしかして気に入らなかった?」
単調な返事に不安を覚えて訊くリョーマ。不二は心配そうな彼の頭をなで―――る事は都合上できないので、微笑み返した。
「そんな事はないよ。ありがとう、リョーマ君v」
「よかった・・・」
嬉しそうに笑うリョーマに、もう1度尋ねる。根本的な疑問を。
「で、何かな? これ・・・・・・」
これ―――目で不二が示したものは、鉢植えに飢えられた植物だった。毒々しい見た目の花と、刺だらけのツルを持つ、謎の植物。開けた途端高速でツルに絡まれ、現在両腕とも拘束された状態である。ヘタに取ろうとすると刺が他の部分まで傷つけそうで動けない。
気のせいだろうか? 絡み付くツタが脈動しているように見えるのは。しかし浅いながらぼろぼろに切り裂かれているはずの両腕は、表面こそ血で真っ赤になっているものの1滴たりともそれは下には落ちていない。
にっこりと笑う不二に、リョーマもにっこりと笑って、
「吸血植物」
「・・・・・・・・・・・・」
完。
―――以上。強制終了。
F O R Y O U ! !
これ以上は書けません。怖すぎて。
というわけでなんだかワケのわからないホワイトデー話でしたv ―――ふ〜。ヤな感じだなあ。
では、お口直しにおまけ行ってみましょ〜。不二リョ以外の救済話。とはいっても本編に出てきた人たちだけですが、どうやらリョーマよりは上手くやったようです。
2003.3.14
おまけ。
「どう? 大石v」
「うん。凄くおいしいよ。さすが英二」
「にゃ〜vv 大石に誉められた〜vvv」
菊丸家にて。今日は(都合よく)誰も家にいないため、バレンタインデーのお返し、という名目で大石を家に呼んで食事をご馳走する事にした英二。
大石に頭を撫でられ、嬉しそうな彼の様子からすると、この企画はむしろ英二本人にとって喜ばしい結果が出たようだ。
・・・まあ彼の頭を撫でる大石の笑顔を見れば、あながち英二のみとは言えないかもしれないが。
「―――海堂」
掛け持ちバイトの合間にロードワークをしていた海堂を見つけ、さっそく乾は声を掛けた。
「乾先輩・・・・・・」
「どうだい、様子は」
「まあまあっスよ」
「なるほど」
頷く乾を凝視する海堂。彼がロードワークに付き合う事は珍しいことではない。だが、今の彼の服装は普通の私服。ロードワークにはあまり適していない格好だ。
「乾先輩。それで、何スか?」
「ああ、邪魔して悪かったね」
「いえ、そんな・・・」
相手は仮にも先輩、ただ気になったから聞いてみただけなのだが、それが邪険しているように聞こえたのならば失礼な事だ。
慌てて謝ろうとする海堂。が、それに気付いているのかいないのか、乾はあっさり話題転換してきた。
「ところで海堂、今日は3月14日だけど」
「はあ・・・」
「3月14日と言えばホワイトデーだけど」
「はあ・・・」
彼らしくない回りくどい言い方だ、と思いつつ、とりあえず曖昧に頷く。
だが、心配の必要はなかったようだ。次の言葉は極めて明瞭かつ簡潔だったのだから。
「お返しは?」
「はあ!?」
いきなり飛び出た謎の要求に海堂が全身で驚いた。
「だから、お返し」
「なんで俺が先輩に!?」
「あげたじゃないか。バレンタインデーに、チョコ」
「あ、あれは先輩が勝手に―――!!」
「けど俺があげて君がもらった。これは紛れもない事実だ」
「ぐ・・・!!」
「と、いうわけでお返し」
「そ。お返しするかしないかはもらった側の自由でしょうが!!」
「なるほど。しかし日本のバレンタインといのは面白い行事だ。愛の告白に止まらず、お中元・お歳暮に続く第3の挨拶としての意味を持つ。
―――つまりお前は今後俺と平穏な付き合いは望んでいないというわけか」
「誰が言ったんスかそんな事!!」
「じゃあお返し」
「〜〜〜!!!
そんなものいきなり言われて出るわけないでしょう!?」
「そうか。では今後用意してくれる、と」
はっ!
予想、どころか想像すらしていなかった結論に硬直する海堂。なんだか乾の発言に片っ端から突っ込みを入れているうちに気が付いたらこんな事になってしまっていた。
「じゃあ楽しみにしているよ。
ロードワークの邪魔をして悪かったね」
「待・・・・・・!!」
なんとか硬直から脱し、引きとめようとする。が、時既に遅し。乾はもう通りからいなくなっていた。
頭を抱え、その場にしゃがみ込んでひたすら今後どうするべきか考える。
(追いかけるか・・・!? いや、だが、それでまた言い争いになって・・・・・・もし、もしも更に悪い方向に向かっていったら―――!!!)
結局―――
ロードワークを中断し、海堂はそばにあったコンビニへ『お返し』を買いに入って行った。
―――End