桜の花が咲きました。
桜といえば花見です。
そんなワケで
今日は青学のみんなでお花見に来ました。
魔力と魅力に無力なリョーマ?
「すっげ〜・・・・・・!!!」
「ホント・・・、スゴイっすね・・・これ・・・・・・」
上を見上げて―――見上げっぱなしで簡単の声を上げる英二とリョーマ。上を見上げる2人の視界はただひたすらに咲き誇った桜に埋め尽くされていた。
「2人とも、上ばっか見てると危ないよ」
さすがに見かねて河村が注意するが、完全に桜に虜になった2人には効果のないものだった。
「まあ仕方ないんじゃない?」
くすくすと不二が笑う。確かに日の光すら遮りそうなほどに詰まった桜の花。それも1本や2本ではない。見渡す限り今日は一面薄いピンク色に埋め尽くされている。
「―――と」
上ばかりを見上げていた英二が足元の根っ子につまづいた。
もちろんこれで無様に転ぶほど英二はどん臭くはない。とっさに前に跳んで勢いを殺そうとした。が、
「あり?」
その前に横から伸びてきた腕に抱きとめられる。
「大石?」
「英二、上ばっか見てると危ないぞ」
一応河村同様注意の言葉。だがその顔は柔らかい。全く、しょうがないなあ、と苦笑しているのがよくわかる。
「へへへ〜。ごめんにゃv」
「反省が足りないぞ」
「いてっ!」
こつんと軽く握った拳で英二の頭を叩く大石。頭をさすって大げさに痛がる英二。
効果音(?)をつけるならばいちゃいちゃと。そんな空気が漂う。
さすがにその恥ずかしさに目をそらす一同。その先では―――
「リョーマ君、君も上ばかり見ていたら危ないよ」
そう言い、不二が後ろからリョーマを抱き込んでいる。
「じゃあそうやってずっと押さえててよ。俺上見てるから」
「いいね。それv」
((こっちもかよ・・・・・・・・・・・・))
バカップル2組とげんなりするその他。かなり珍妙な取り合わせが花見会場に到着した。
v v v v v
「ほいほ〜い! みんにゃ〜。おべんといっぱい持ってきたから食べてねv」
「あ、私も! 私もいっぱい作ってきたからどうぞ召し上がれvv」
「あ、よかったら俺も・・・寿司、持ってきたから・・・」
「母が・・・ぜひ持っていけと・・・・・・」
「ああ、あと食後のデザートにケーキと和菓子、両方持ってきたよ」
上から英二・朋香・河村・海堂、そして不二。
男女テニス部合同+αで行なわれた今日の花見。特に弁当を持ってくる係などを決めていたわけではないのだが―――いろいろと持ってくるメンツに妙な偏りがあるのはいつものことである。
そして、
「あ、あの・・・、大石先輩。お弁当、作りましたのでもしよろしかったら・・・・・・」
「不二先輩、一品如何ですか? 自信作なんですv」
などと言うような誘いもまた。
「え、え〜っと、その・・・・・・」
「ダメー!! 大石は俺の弁当食べるの!!」
「・・・・・・と、いうわけだから・・・」
「そ、そうですよね。すみませんでした」
「ごめんね。気持ちはありがたくもらっておくよ」
「こちらこそ、ありがとうございます」
というわけで大石へのお弁当差し上げ権は英二の独占となった。
「僕はどうしようかな?」
「(ムカ・・・・・・)別にいいんじゃないの? もらったら?」
「そう? じゃあもらおうかな」
「(ぴく・・・・・・!)」
「ありがとう」
「い、いえ、そんな・・・・・・」
不二に微笑まれ赤くなりたいのは山々だが、隣で自分をあからさまに睨みつけるリョーマの陰険な眼差しに青くもなりたい、総じて何色にもなり様はなく(紫色では窒息中)ただあいそ笑いを浮かべるしかない―――言葉に出さなくとも手にとるようにはっきりわかる彼女の感情に、一同はただ同情の篭った眼差しを向けるしかなかった。
(越前もはっきり言葉でいえよな。ンな意地張ってねーで・・・・・・)
(というか不二、あからさまに気付いてたよね。越前の様子・・・・・・)
(だがやはり桃城の言う通り言葉ではっきり言って欲しかったのだろう。見た目ではわからないが・・・・・・不二も相当に苛立っている可能性が極めて高い)
(けどやっぱり言葉で言うのは難しいっすよ)
(つまり海堂、お前は俺に言いたい事があるが直接口にはしにくいと?)
「ありません言いたい事なんて!!!」
乾の根も葉もない言いがかりに思わず小声で話していたのを忘れて怒鳴る海堂。他の人の視線が一気に集まる。
当然のことながらその中にはバカップルらの視線を混じっていたわけで。
海堂はふしゅ〜っと長々と―――見ていた者の一部が飽きて他に視線を移すほど長く息を吐き、そして気を落ち着けて座り込んだ。自然と視線もだんだん薄らいでいく。
そんなこんなでうやむやの内に食事は終わり・・・・・・
v v v v v
「さ〜ってんじゃ〜あそぼ〜!!」
『お〜!!!』
英二の一声に賛同する一同。この公園はさらに奥に入ると少し小高い丘になっている。そこからここの桜を見下ろすと絶景であり、桜を見下ろす、という珍しい見方にTVなんかでも良く取り上げられていた。
そこへぜひ行ってみたいと言う者が多い中―――
「あれ? おチビは?」
「俺はここでいいっス」
「行かないの? リョーマ君」
「・・・・・・別に」
不二の誘いもかたくなに断る。というか不二が誘うと思い切り眉間に皺を寄せてきた。
(不二・・・いー加減おチビと仲直りしなよ・・・・・・)
(何で僕に言うの? 僕は特に悪い事してないよ?)
(・・・・・・ダメだコリャ)
ラストのはもちろん小声でも出さなかったが。
乾の推測は毎度の事ながら完璧だったようだ。余程リョーマが先ほど何も言ってくれなかった点に腹を立てているらしい。
聞こえよがしに言われた事に、リョーマの眉間に寄る皺がさらに増えたが、それを気にせず『準備』をすると不二はさっさと行ってしまった。
「あ、不二! 待ってよ!!」
それを追って英二も行ってしまう。
「・・・・・・・・・・・・ふん」
不機嫌MAXで鼻を鳴らすリョーマ。首を大きく振り―――動いた視線が『それ』を発見した。
v v v v v
「周助・・・の・・・・・・?」
それを手にとって見てみる。黒く細長いただの魔法瓶。不二のバッグのそばに置いてあった以上不二のものである可能性はかなり高い。
「けど・・・・・・こんなんで飲んでたっけ?」
昼・・・・・・。
ひたすらムカついててよく覚えてないが、確か不二はここに来るまでにみんなで買っておいたジュースを飲んでいた。
「じゃあ違うのかな・・・・・・? けど・・・・・・」
確かに不二のバッグに寄りかかるようにして置かれていた。それとも誰かが適当に置いただけだったのだろうか?
「・・・・・・ま、いっか」
考えるのも面倒臭い。まさかちょっと飲んだくらいじゃ文句は言ってこないだろう。
そう結論づけて、リョーマは魔法瓶の中身をキャップにとくとくと注いでいった。
暖かい湯気と共に、ほんわか香る桜の香り。
「桜湯・・・・・・?」
生憎とキャップごと黒いため中の液体の色は良く見えない。だが、注ぐまでのほんの僅かな間に見えたピンク色はどうやら周りの桜のせいだけではなかったようだ。
一口、くぴりと飲んで。
「あったかい・・・・・・」
今までの怒りも忘れ、リョーマは僅かに微笑んでそう呟いていた。
v v v v v
「おっチビ〜v おまたせ〜vv
・・・・・・って」
「どーしたんスか英二先輩」
「おチビが・・・・・・ヘン」
『え?』
英二の抽象的過ぎる台詞に、わけがわからないままとりあえず一同は1人シートに座って荷物の番をしていたリョーマの周りに集まった。
「なるほど・・・・・・」
「確かに変、だね・・・・・・」
と全員の意見が一致するのも当然だろう。とろんとした瞳で頬を赤らめ笑みなど浮かべていたのだから。
「起きたばっか、とか・・・・・・?」
「むしろ寝てるんじゃ・・・・・・」
「目、開けて・・・・・・?」
憶測が飛び交う中、まず最初に行動したのはもちろんこの人、不二だった。
「リョーマ君、どうしたの?」
優しく問いかけ、ついでにリョーマの真正面に腰掛ける。
優しくリョーマの頬を撫でると―――
「しゅーすけ〜・・・・・・」
今の本人の様子そのままの舌足らずな声で、上目遣いで、うっすらと笑みを浮かべて。
リョーマは不二の胸にぱたりと倒れこんだ。
眠ったから―――ではない。現に今も気持ち良さそうに不二の胸に頬を摺り寄せている。
「越・・・前・・・・・・?」
「おチ・・・・・・ビ・・・・・・?」
あからさまにいつもと違う。
普段なら誰がなんと言おうと絶対確実に100%間違いなく起こるはずのない事態だった。
「おチビが不二に・・・・・・」
『甘えてるぅぅぅぅぅぅぅ!!!!????』
思わず叫ぶ全員。
「こ、これは異常事態だな・・・・・・」
「そうだな・・・、まずはこの事態に対して正確なデータを―――」
「って大石先輩、タカさん、キャラ違うっスよ!!」
「ふ・・・不二・・・、ついに思い余っておチビに何かしたワケ?」
「ありえるな。脳の一部を破壊し、廃人同然にした後意のままに操るなど不二の力を持ってすれば造作もないことだろう」
「え,英二先輩、乾先輩。いくらなんでもそれは不二先輩に失礼だと・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
などなど混乱は広がるばかり。大抵の異常事態には慣れっこの元レギュラーらでさえこれなのだ。部員らの混乱はさらに激しいものだった。
それらは全て無視して、不二がリョーマを可愛がる片手間で近くに転がっていたものを取り上げた。
「―――ああ、リョーマ君これ飲んだんだ」
『え?』
さらりと告げられた事に、全員の注目が不二の手に集まった。
黒い魔法瓶。振って中を確かめる。いっぱいに入れてきたはずなのにすっかり空っぽだった。
「桜酒。丁度は並にぴったりかなって思って持ってきたんだけど。せっかく僕たちは20歳になったんだし」
「不二・・・・・・。ほとんどの者は未成年だ。だいたい中学生の集まりに酒を持ってくるな」
「まあまあ手塚v 固いことは言わないで」
眉間に皺を寄せこめかみに指を当てる手塚に、にっこりと笑って不二が答えた。
「つまり―――」
「酔ってる・・・・・・?」
潤んだ瞳。上気した頬。意識妄ろうでふらふらとする全身。確かに言われてみればそんな感じだ。
「にゃ〜んだ・・・・・・」
「びっくりさせやがって・・・・・・」
が、驚くべき事態はさらに後に起こった。
v v v v v
とりあえずリョーマとしがみつかれて動けない不二はそのままに、全員は再びシートに戻りどんちゃん騒ぎを繰り広げていた。
と―――
すっかり動かなくなったため寝たものと周りからは思われていたリョーマがむくりと身を起こした。
「あ、おチビ起きたんだ」
「・・・・・・って、何かまだ様子へんじゃんないっスか?」
ギャラリーの声が届いているのか否か。リョーマは今まで不二の服を掴んでいた手を離し、両腕を不二の首に回した。
「しゅ〜すけ〜・・・」
「ん? 何? リョーマ君」
「キスしよ〜」
『はい!!??』
突然の申し込みに第3者全員が大声で訊き返した。ふ、不二ならともかくあのリョーマが? 人前でキス!? それも自分からねだったぁ!!!???
その異様を通り越して完全異常事態に一同がパニックに陥る中、
不二は慣れたもので、
「いいよv」
全く動じずに頷き、リョーマを抱き寄せたまま頬に手を当て、ゆっくりと顔を近づけていった。
公衆の面前で堂々と行なわれるディープキス。
男子生徒は真っ赤になり、中には不自然な角度で首を回して視線を背けるものまでいた。
女子生徒はきゃ〜vvvと歓声を上げ、握り拳でそれを見守った。まあ中には毎度恒例ショックを受けて呆然とするものもいたが。
そして元レギュラーらは―――
「おチビって・・・」
「酔うとキス魔になんのか・・・・・・?」
「・・・・・・とするとやっぱあのお酒って・・・・・・」
「間違いない。不二の策略だ」
「え・・・と、じゃあわざと越前が発見しやすいように外に置いておいて・・・・・・?」
「そういえば・・・最初に越前に話しかけたのも不二先輩・・・・・・っスよね・・・・・・?」
「(ため息)全く不二は・・・・・・」
おおむねの事態を悟り、リョーマに気の毒そうな眼差しを向けた。まあ本人も喜んでいるようなので不二にしては珍しく(極めて失礼)いい事をしたのかもしれないが。
一通り終えて満足したらしいリョーマが、今度こそ不二の胸にもたれて眠りについた。
静かになった空間に、リョーマの寝息だけが響く・・・・・・。
「寝ちゃったみたいだね。
僕はリョーマ君連れて先に帰るよ。ごめんね」
謝罪の言葉はどの口から出ているのか、リョーマを抱き上げる不二はこの上なく嬉しそうに微笑んだ。
「まあ・・・、それなら仕方ないだろ」
「じゃ、不二先輩」
「まったね〜ん♪」
「じゃあ、ね」
v v v v v
さて、越前宅―――ではなく不二の家にて。
リョーマをベッドに横たえ、だがなぜか掛け布団は一切かけずに部屋を出て行く不二。
下からファンタを持ってきて、呼びかける。
「と、まあこんなもので満足してくれたかな?」
「―――なんだ、気付いてたワケ?」
不二の呟きに、寝ていたはずのリョーマが返事をした。
ベッドから身を起こし、ファンタを受け取ってゆっくりと飲み干す。その間に、不二は笑って返答した。
「正真正銘桜『湯』じゃねえ。酔い様がないよ」
「人に酔った」
しれっと返すリョーマ。
「『僕』に?」
「バカ?」
「だろうね。『リョーマ君バカ』v
―――だから早く2人っきりなりたかった」
「ただのバカでしょ? アンタの場合。
しかもそのわりには俺放ってったじゃん」
「だってリョーマ君ってば止めてくれなかったんだもの、お弁当の時。だからその仕返し」
すごく寂しかったよ、僕・・・と続ける不二。それを半眼で見て、リョーマがぼやいた。
「さっさと自分で断ったらいいじゃん。それとも英二先輩みたいにやって欲しかったわけ?」
「それはもちろんv」
「絶対ヤダ!」
怒鳴って、疲れたとばかりにリョーマがベッドにごろりと横になる。
そこに覆い被さる不二。
「誘ってるの?」
笑みで問う。
「さあね」
リョーマもまた、にやりと笑って答えた。
v v v v v
「あ、けどさっきのリョーマ君ほんっと可愛かったよvvv」
それからどれくらい経ったのか、不二がふと思い出して言った。
「・・・・・・・・・・・・何が?」
心底嫌な予感を覚えてリョーマが訊く。
「『酔ってる』リョーマ君vv 周りの桜と合わせてすごく妖艶な感じだったvv
ねv またやってvvv」
「イヤ」
「そう言わずにvv あ、今度は夜桜がいいかなvv 暗闇の中、桜を従え不思議な色香を漂わせるリョーマ君vvv
すっごく可愛いvvv ぜひ写真にでも撮りたいなvvv」
何を想像しているのか、普段の3割増の笑顔でそれこそ『怪しい』オーラを漂わせて―――むしろ垂れ流して提案する不二に、
「絶対絶対ヤダ!!!」
「大丈夫vv もちろん僕以外の人は寄せ付けないからvvv」
「そういう問題じゃない!!!」
「あv ちゃんと姿勢とか服装とかはリョーマ君によく合うものにするよvvv」
「だから―――!!!」
この後も延々と言い争いを続けた2人。
果たして、今回上手だったのはどちらだったのか!?
えんど
v v v v v
哀里:「いろんな意味で問題作。『スチャラカ勇者奇行』の後に書いた、というと(いや、いわずとも)わかるかと思われますが―――」
不二:「むしろ読んだ時点でわかるんじゃない?」
哀里:「ごもっとも。
で、今回、書き方をいつもと変えてみました。無意識に(爆)」
不二:「綺麗にまとめるとね」
リョーマ:「っていうか『無意識』って何?」
哀里:「いっや〜眠かったもので。本気で自分が何やってるのかワケわかってませんでした。ついでにキーボードに置く手の位置間違ったまま打ち続けて押すキー1コずつずれてたなんてのもザラだったし。
つまるところすっばらしくやっつけ仕事でした。というか本気で眠い中やってたので文章ひとひねりもありません。内容は捻ったつもりですが。これでも」
不二:「そうかなあ? いつもとあんまり変わらなかったんじゃないかなあ?」
リョーマ:「ま、どーせこの程度の文章力なんでしょ? 起きてても」
哀里:「ゔゔゔゔゔ〜〜〜。確かに下降の一途を辿ってるような気がしてたけど」
不二:「『気』じゃなくて『事実』」
リョーマ:「まだまだだね」
哀里:「・・・・・・・・・・・・(完全撃沈)」
リョーマ:「ま、こんなバカは放っておいて」
不二:「そうだね。僕たちはぜひこの続きを―――vvv」
リョーマ:「しないって言ってんだろ!!???」
異常―――もとい以上。『花』見現場からのリポートでした。
2003.4.8〜9