Part1.大会直前の記者会見にて




 ぱしゃぱしゃぱしゃ!!
 浴びせられるカメラのフラッシュ。そして耳に劈くほどうるさい記者の質問。そういった事態に慣れていない神尾やある程度慣れてはいるが苦手な大石がたじろぐ中、全くもって気にしない、あるいは注目される事が大好きな人間らは、いつもどおり表情ひとつ変化させなかったり手を振ったり鼻で笑って見せたりといろいろやっていた。
 『子どもの戯れ』を必死になって押さえようとするコーチらの苦労をよそに、一段と響く質問―――になりそうだったものが届けられた。
 「ところで跡部選手が率いるこのチームですが―――」
 『ええええええええええ!!!!!!!??????
 その出だしに、跡部除くおおむね全員がブーイングを飛ばした。
 「跡部がリーダー!? ざけんじゃねえ!!」
 「いつ決まったんだよンなもん!!」
 いつもは全く気の合わない(と見せかけ実は呼吸ぴったりな)向日と英二が珍しくまともに気を合わせて怒鳴る。
 だがそれにも全く応えた様子はなく、跡部がやはり見下した目で全員を見回し、鼻で笑った。
 「ああ? 俺様がリーダーで当然だろ? 俺様以外の誰がこのチームを引っ張っていけるってんだ?」
 「当然・・・・・・って、ちなみにどの辺りが?」
 なんとなく雰囲気に流されて頷きたくもなるが、よくよく考えてみるとおかしいその発言に千石が首を横に傾けた。
 「実力だな」
 「うわ〜。はっきり言い切ったね〜」
 なんのためらいもなく言い切った相変わらずのナルシスト振りに、今度はさすがに拍手を送る千石。
 「何それ? つまり俺たち全員アンタより弱いって事?」
 「当たり前だろ? それとも言われねーと気付けねえのか?」
 「せやけどそれおかしあらへん? 特に俺らダブルス専門は賛成しにくいやん」
 「てめぇらごときが俺に勝てるつもりか?」
 『何〜〜〜!!!?』
 跡部の自身満々の台詞に、リョーマ・英二・向日・神尾・観月の5人が突っかかろうとした。
 その中で―――
 「あれ? そういえば不二くんは反対しないの?」
 「せやな。まあ他のはともかく『実力』言うたらお前あいつと互角やろ?」
 先ほどから特に何も言わず、笑ってやり取りを聞いているだけの不二に千石と忍足が尋ねる。
 「そうかな? 僕は彼に負けたけど?」
 不二と跡部が公式非公式問わず対戦したのは現時点でまだ1度きり。そしてその試合、6−0で跡部が圧勝したのだが・・・・・・。
 「どう見ても手加減しとったやん、お前」
 「そうそう。跡部くんのキメ球とかは全部きっちり取ってたじゃん。どうでもいい感じのところで落としてただけで」
 「しかも全ゲーム同点[デュース]まで持ち込んだやろ?」
 笑う不二に、あっさりとそう言う2人。だがそれに気付けた者は本当にごく僅かであり、世間一般ではこの試合のおかげで跡部のほうが不二より強い、と認識されている。
 失敗回避主義。勝つか負けるかわからない勝負は絶対せず、あえて負けを先に選んでおきながらも自分の実力を見せ付けるだけ見せつける。跡部にとっては最高の屈辱だっただろうが、
 「―――だが結局『負けた』だろ? なら俺のほうが上で文句はねえよなあ? 不二」
 他の者同様に不二をも見下す跡部。つまるところ実際はどうかはともかく、少なくとも不二の中では跡部は『勝てるかどうかわからない相手』と認識されている。そしてテニスは精神[メンタル]面が大きく左右するスポーツだ。その気持ちが潜在的にもある限り不二が跡部に勝てる可能性は0。中学時代不二が手塚に負け続け、
No.2と呼ばれた原因も実はこの辺りが大きい。単純に実力だけで考えれば不二と手塚の差はそこまではなかった―――常に片方のみが勝ち続けるほどには。
 「うん。僕は別に文句なんてないよ」
 「不〜二〜!!!」
 笑顔で跡部のリーダーを認める不二に、英二が両の拳を握り締めて口を尖らせた。忍足の台詞にあったように、跡部の理屈からするとこの中で最も反対しやすいのは不二本人である。なのにそうもあっさり賛成してしまうとは・・・・・・!!
 同じ事を思った他の反対者も、不満げな顔で不二を見る。が、
 「だって・・・・・・」
 続く不二の言葉は極めて恐ろしいものであった。
 「リーダー、って、『厄介事押し付けられ係』って言うか別名『雑用係』でしょ? それにみんなまとめるだけでかかるストレスは確実に胃を壊すくらいだし―――」
 「え、え〜っと、不二くん・・・・・・」
 「念のため聞いておきたいのですが―――」
 「まさか青学ってマジでンな部活だったのか・・・・・・?」
 「となると手塚が休部したんは肩やら腕やら直すためやのうてまさかストレス・・・・・・?」
 妙やたらとリアリティのありすぎる発言に、千石・観月・神尾・忍足が冷や汗を流して訊き返した。
 「おい不二―――!」
 さすがに自分の学校がそんな認識を受けるのは嫌過ぎる。大石が止めようと声を上げかけるが、
 その声を英二が遮った。
 びしりっ! と人差し指を―――なぜか大石のほうに向けて。
 「違うもん!! 手塚は本当に肩壊しただけ!! 胃、壊して入院したのは大石!!」
 「英二・・・・・・全然フォローになってないから・・・・・・」
 ちなみにこれは事実である。中学時代、青学が全国優勝を果たした後倒れた大石。長期間のストレスによる胃潰瘍。かなり重度になっていたそれの理由として本人は『全国大会が迫って緊張していた』と笑って言っていたが、ストレスの原因は外部ではなく青学内部にあった、というのが部員全員の見解であった。今の不二の発言、そしてそれを全くもって疑問に思わない英二の態度を見れば、それも納得できるだろう。
 「そら災難やったなあ・・・・・・」
 「強く生きてください・・・・・・」
 「俺たちもできる限り応援するから・・・・・・」
 「いや・・・・・・だから・・・・・・」
 元他校生らにまで同情的な眼差しで見つめられ、くじけたくなる大石。
 それを無視して不二の発言が続く。
 「けど、不動峰と氷帝ならともかく赤澤君も南君も似たようなものだったんじゃないかなあ?」
 「ああ、まあうちの部活は全員よくまとまってたからな―――深司除いて」
 「それどういう意味? 神尾」
 「いや、別に」
 深司の質問に目をそらす神尾。橘を中心に完璧なまでにまとまっていた不動峰なら中間管理職のストレスなど無縁だろう―――どうやらまとまってない人もいたようだが。
 「ふっ。俺が率いてたんだ、問題があるわけはないだろ」
 「せやなあ。一番問題あるんが中心やったからなあ。他の奴がえろう普通に見えたわ」
 「まあこんな奴に逆らう気力ある奴いねーよな、普通」
 跡部の発言は無視して重々しく頷く忍足と向日。様々な意味を込めて、跡部は部長に最適だったようだ。
 「ウチが? けどウチはけっこーチームでの団結力あったよ?」
 「そうですよ。青学などと同列に扱わないでください」
 「そうかなあ? 千石君と亜久津を見た限りとてもそうは見えなかったけどなあ、ああ、あと強いて言えば団結はしててもその方向性がどこかにズレてたような・・・・・・」
 「ズレてる・・・って・・・・・・」
 「それにルドルフなら問題外でしょ。部長[トップ]より参謀の方が権力持ってたし。というか部員駒にしてるような人がいる時点で団結力なんて欠片もなかったんじゃない? 実際逆らう人多かったし。裕太にしろ木更津・柳沢ペアにしろ。ルドルフと比べるならまだ青学[ウチ]の方が『チームワーク』はあったと思うよ」
 「おのれ不二周助・・・・・・!!!」
 観月相手に特に遺憾なく発揮される不二の毒舌。ぎしりと歯軋りする観月は放っておいて、
 「そんなわけで僕はリーダーは遠慮しておきたいな」
 不二の発言が終わるころには、誰もが気付いていた。
 犬猿の仲、というより縄張り争いの風潮を見せる英二対向日。
 恐るべき執念にて5年前から陰険な争いを続ける不二と観月。
 人の言うことなど片っ端から聞きはしない、俺様至上主義的ゴーイングマイウェイ人間、跡部・伊武・リョーマ。
 とりあえず全員と仲はいいがいざとなったら自分だけ真っ先に安全圏に逃げるクセ者、千石・忍足。
 そして、この中では唯一まともでありながらそれ故に押しの弱い大石と神尾。
 ―――まずこのチームをひとつにまとめるのは絶対ムリ。何でこんなに問題児ばかり集合したのか。今まで挙げられた彼らの母校ですらこれに比べればまだマシであろう。緩衝役―――むしろ良識人か―――の少なさでは最早自慢出来るほどだ。
 ぽん、と跡部と不二、そして観月を除く全員が手を叩き、いっせいに笑顔で言った。
 「リーダーは跡部に決定!!」
 「頑張れ跡部くん!!」
 「俺らも微力ながら応援するで」
 「だな。ちょっとでいいならちゃ〜んと応援してやるぜ」
 「頼りにしてます跡部さん」
 「いろいろとくじけたくなる事が多い―――ってかくじける事しかないと思いますけど跡部さんなら大丈夫です!!」
 「随分協力的だね、神尾。跡部の事嫌いじゃないかったっけ?」
 そんな賛成と励ましの言葉を、大石が締めくくる。
 「跡部・・・・・・。
  人生には山もあり谷もある。多分今もの凄く深い谷底にいるんだろうけど大丈夫だ。それを越えれさえすればきっといい事がある。前向きに行こう!
  ―――とりあえず短期間だからそうそう医者にかかるほどの問題にはならないと思うよ。けどどうしても時には自分をコントロールできずについつい握り締めたラケットを後ろを向く誰かに振り下ろしたくてたまらない衝動に駆られるかもしれない。そんなときは俺が相談にのるよ。そういうことは慣れてるから任せておいてくれ」
 「よかったね、跡部。そういう事のプロがいて」
 「おい・・・お前ら・・・・・・」
  ぽんと跡部の肩に手を乗せ、やたら重々しく頷く大石。後ろでうんうんと頷く英二。さすが黄金ペア。完璧な呼吸に、誰もが感動した。
 (大石先輩、そんな事考えてたんだ)
 (う〜ん。無理もないんじゃないかな。僕が彼と同じ立場だったらとっくに全員殺してるよ)
 (・・・・・・。大石先輩が真っ先に殺したかったのって、どー考えてもアンタなんじゃ・・・・・・)
 (すぐにそれを実行できない人間っていうのも大変だね。そうやってまたストレスを溜める)
 (だからアンタ俺の話聞けよ・・・・・・)
 ぼそぼそと耳打ちする不二とリョーマ。実状を知る人間だからこそ感動しようのない場面に―――当然だ。彼に最もストレスを与え、そのような事まで考えさせ原因の
80%以上を握る問題児3人がこの場にいるのだから。しかも彼の後ろで相槌を打つ片割れこそが最大原因とくればこの『応援』は皮肉でしかない。最も、その程度で通じる相手ならばここまで思い悩む事もなかっただろうが―――淡々と『客観的』評価を下す。
 と・・・・・・
 「待って下さい!! なぜいきなり全員跡部君がリーダーになる方針で固まってるんですか!?」
 唯一納得できない観月が反論した。彼からしてみれば多少クセがあろうが問題があろうが、チームメイト=駒である。他の者にリーダーの座を渡せば、操り難いどころか自分が駒にされてしまうではないか!!
 だが、残念ながらこの場にて彼の『駒』になり得る人物はほぼ皆無であった。
 特に彼。
 「へえ、観月、リーダーになりたいんだ・・・・・・」
 「だったら何なんですか!? 言っておきますが僕がリーダーになったならば貴方にも従ってもらいますからね!!」
 馬鹿にするように―――もとい完全に馬鹿にして―――不二がくすりと笑った。噛み付く観月を無視して、全員に見えるように手を挙げる。
 「はい。観月がリーダーになるんだったら僕がリーダーに立候補します」
 『
却下!!!
 即座に英二・大石・リョーマ・千石・向日・忍足といった、正月に行なわれた大会で一緒になったメンツが猛反対を出した。
 「不二がリーダー!? ざけんな!!」
 「てめーにだけはやらせねえ!!」
 「不二くん・・・。もしかして俺達になんかとてつもない恨みある?」
 「・・・・・・っていうか殺意でしょ。はっきりと」
 「お前がリーダーやりおるんなら俺ら全員ボイコットするわ」
 「不二、頼むからそれだけは止めてくれ・・・・・・」
  ((一体何があった・・・・・・?))
 思わずその他全員にそう思わせる程の剣幕を見せる6人。それを不二はなぜか満足そうに見て、
 「だって。じゃあキミのリーダーも無理みたいだね」
 「どうしてそういう結論になるんですか!!!」
 お手上げ、とばかりに肩まで上げた手を軽く開いて言う。そのめちゃくちゃな論点のすり替えに―――もちろん観月は納得しなかったようだ。
 「じゃあどうしたいのさ」
 喚く観月に、目を閉じたまま口を尖らせ不二がやれやれと言わんばかりに首を振りつつため息をついた。観月の額に浮かぶ青筋が一気に増加する。
 「だからさっきっから言ってるでしょうが!! 跡部君がリーダーになるのには反対だと!!」
 「ああ? てめぇ俺の言う事に逆らう気か?」
 「当り前でしょう!! リーダーとは全員に求められてなるものです!! 何ですか貴方のその言い方は!! それでは恐怖政治と変わりないじゃないですか!!」
 「はっ! 俺のやり方について来れねえやつはそもそも必要ねえんだよ」
 不二
vs観月から跡部vs観月へと移ろうとしたところで―――
 「―――まあまあ。わかったから。とりあえず2人とも言い争いは止めてね」
 ちょうど2人の間にいた不二が(ついでに余談だが跡部が中心で観月が端。ダブルスとシングルスで左右2方向に分かれているためその間にはさらに千石・リョーマもいたりする)両手を上げて制止させる。自分から始めたにも関わらずまるで子どものケンカをなだめる母親のような言いっぷり。そのあまりの態度の豹変に―――ツッコミを入れる者は誰もいなかった。この程度でいちいち反応していてはまず身が持たない。
 「つまりまとめれば観月は全員の意見を反映させた上でどちらがリーダーに相応しいか決めたい。跡部は自分に忠誠を誓う人が欲しい。
  そこで多数決で決めるって言うのはどうかな?」
 「『そこで』・・・・・・?」
 「多数決なら全員の意見が最も確実に現れる。それに跡部に忠誠を誓える人ならまず間違いなく跡部に賛成するでしょ?」
 「なるほどな。いい案だ」
 「じゃあどちらをリーダーとするかは多数決で決定。1人1票、好きなほうに手を挙げる。過半数を超えたほうがリーダー。なお観月が選ばれた場合は僕との決選投票」
 「ちょっと待って下さい。なんで僕だけそんなオプションが・・・・・・?」
 「反対が出ないならそれでいいね。
  ―――ならまず跡部がいい人」
 ばっ!!!
 投票者全員がよどみのない動きで手を挙げる。不二の言った通り、明確な結果が現れた。
 「賛成全員でリーダーは跡部に決定」
 ぱちぱちぱちぱち!!!!!
 「な・・・・・・!!」
 「ふっ。当然だな」
 惜しげもなく送られた拍手に、観月が灰と化し、そして跡部が鼻で笑った。五十歩百歩というか百歩百歩の投票に決定打を与えたのはもちろん不二の一言だったのだが、決まってしまったならそんな事はどうでもいい。
 「チームも決まってリーダーも出て、にゃ〜v にゃんかホントに部活っぽいvv」
 「うん。中学の頃が懐かしいね、リョーマ君v」
 「『今』部活やってる俺に振らないでよ」
 「あ、いいねえ。じゃあ本当に部活にしよっか」
 「せやなあ。跡部が『リーダー』言うんはおかしい思うけど『部長』っちゅうんなら普通やな」
 「それに『日本代表』っていうと重い気がするけど『〜部』なら慣れた呼び方だし」
 「部活か・・・・・・。あれからもう結構経つんだな・・・・・・」
 「ああ本当だね。懐かしいよ、先輩たちにひたすらコキ使われて逆らったらすぐ殴られたあの頃」
 「だからな深司・・・・・・」
 「けど部活って何部にすんだ? 『テニス部』じゃわかりにくくねーか?」
 向日の疑問にふと気付く一同。中学の頃なら『〜中学テニス部』ということで(その呼ばれ方にはさまざまなものがあったが)1つの固有名詞として機能していた。が、
 「そうだねえ。『日本代表テニス部』じゃおかしいし」
 「せやけど俺ら他に共通点ないんとちゃう?」
 「う〜ん。あるとすれば年齢の低さ、かなあ。『若者たちの集い』とか?」
 「それ他の国にめちゃくちゃ失礼だろ・・・・・・」
 「てゆーか、それ・・・『部』?」
 「じゃあ他には・・・・・・」
 と、腕を組み目や首を
360度様々な角度に向けて悩む。
 暫しして―――
 ぽん、と不二が手を叩いた。
 「にゃににゃに? にゃにかいい案あんの?」
 尋ねる英二に、そして他の全員に見えるよう握り拳を軽く掲げ、1本1本指を広げていく。
 「青学・不動峰・ルドルフ・山吹、それに氷帝。リョーマ君の場合少し例外に当たるけど、僕たちって共通点が他にあるとしたら、中学時代東京のわりと強いこの5校にいた、っていうのがあるでしょ?」
 「そりゃあ・・・」
 「まあ・・・・・・」
 「で、『5』といえば戦隊ものによくある数。戦隊ものといえば『何とかレンジャー』。
  ―――というわけでチーム名は『東京強豪5校レンジャーズ』っていうのはどうかな?」
 『だっせえ・・・・・・』
 会場中全員の声がハモった。ぶっ飛びすぎる展開を見せる理論―――というか最早理論にすらなっていない単なるこじつけはこの際無視するとしても、
 「不二・・・・・・それはさすがにマズいだろ・・・・・・」
 「なんで?
  ―――ああ、『〜部』ってつかなかったね。ごめんごめん」
 「ソコじゃないから。ポイント」
 「それホンマにつけたら俺ら全員のセンス疑われるで」
 忍足の言葉にうんうん頷く全員。嫌だ。はっきりと嫌だ。そんなチームのメンバーになるのは。
 が、それを聞く不二の顔は全く変化しなかった。どころかより楽しそうに、
 「ああ、大丈夫だよ。使うのは僕たちの間でだけだし、ちゃんと公式には『日本代表』として扱われるだろうし。
  それに―――」
 『それに?』
 意味深の『溜め』に全員が眉を潜めた。そのチーム名は絶対嫌だが、その言われ方では続きが気になる。
 全員の注目を浴び、1本指を立てた不二がにっこりと笑った。
 「チーム名は部長が掛け声に使うものだよ。ね、跡部?」
 その言葉に、場がしーんと静まり返った。
 そして・・・・・・
 『
おっけー!!!!
 「よ〜しチーム名それで行こー!!」
 「じゃあ跡部は試合の前に必ずそれで掛け声をかける、と!!」
 「てゆーかむしろ今すぐ練習!?」
 目を見開き、鼻息を荒くして異様な盛り上がりを見せる一同(−跡部)。観月も灰から立ち直り、「んふ。珍しく良い事を言いますね、不二君」などと含み笑いをしていたりする。
 「じゃあさっそくv」
 反論する権利を持たされないまま決定されたチーム名。それをこの場でぜひ言えと強要する不二に、跡部は硬直した。人と感性が全体的にずれているような感のある跡部も、さすがにこのチーム名を言うのは恥ずかしいらしい。普段の行為とどっこいどっこいのような気もするが・・・・・・。
 期待に―――何に対しての期待なんだかよくわからないがとりあえず期待に満ち溢れた全員の眼差しを受け、
 3分程目を閉じて黙考した後、意を決して顔を上げた。
 息を吸い込み,肺を固め―――
 一気に吐き出す!
 「『東京強豪5きょ―――校レンジャーズ』出動!!」

 あ〜っはっはっはっはっは!!!!!!

 目は閉じたまま、クセなのか人差し指を天高く上げて言う跡部の耳に、掛け声ではなく爆笑が届く。
 頬を僅かに赤らめて、目を開く。までもなく―――
 「笑える〜〜〜〜〜!!! 腹いて〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!」
 「跡部、今のお前ほんっまダサかったで・・・・・・!!!」
 「ダッセ―!! マジださ!! 宍戸風に言えば『ダセえぜ。激ダサだぜ』ぇ!!?」
 「こんなのに負けたのかと思うと全く以って納得いきませんね・・・・・・!!!」
 「ふーん。これが氷帝軍団
200人を率いた挙句今夜世界ランキングNo.1にまで上り詰めたあの跡部かあ」
 「うわ深司、それすっげー嫌味。けどまあ確かにそーだよな〜・・・・・・!!!」
 腹を抱え、うずくまり、後ろの壁をどんどんと叩いて大爆笑する英二と向日。口を押さえ、手をパタパタ振る忍足。怒り半分、笑い半分でぴくぴく震えるこめかみを押さえつける観月。世にも冷めた目で(いつもどおりという意見も有)見上げる深司にやはり涙目で口を押さえて笑いたいのを必死に堪える神尾。
 「てめえら・・・・・・」
 肩を震わせる跡部に、さらに千石・不二・リョーマが追い討ちをかける。
 「てゆーか噛むかな〜? 普通ソコ」
 「無理矢理ゴマかしたみたいだけど、おかげでダサさ5割増になったね」
 「『計算ミス』ってやつ? ダサすぎ。まだまだだね」
 「不二・・・・・・てめー図ったな・・・・・・?」
 「僕が? やだなあ。ダサさはともかく噛んだのは君の責任だよ」
 「言い難いんだよ! わざとそうやって並べやがったな!?」
 「言い難い? どこが? 『とうきょうきょうごうごこうレンジャーズ』。ほら、ちゃんと言えるじゃない」
 「ああ、そーいえば早口言葉みたいだね」
 「周助カツゼツよかったっけ?」
 「僕は別に普通だと思うけど。多分跡部は力入れすぎなんだよ」
 「やっけに力入ってたよね〜。しかも『出動』って・・・・・・」
 ここまで来て千石も笑い出す。確かに不二は『5→戦隊モノ→レンジャーズ』とは言った。だが、そこでさらに掛け声に『出動』とまで来るとは・・・・・・。
 「跡部くん・・・、君もしかして戦隊モノけっこーよく見てた・・・・・・?」

 あ〜っはっはっはっはっはっはっは!!!!!!!!

 
千石の質問に、倍化される笑い。
 「似合わね〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!」
 「んじゃもしかして小さい頃からテレビにかじりついてヒーローたち応援してたとか!!?」
 「ちゃうやろ!! 跡部なら悪役[ヒール]応援しとったで!! せやからあの目立ちたがりなんや!!!」
 「なるほど!! じゃああの指パッチンやら全員の前でジャージ脱いでやらはその辺りからの発想か・・・・・・!!!」
 「つまり跡部君のあの性格は戦隊モノの悪役から来ている、と・・・・・・!!!」
 「普通逆じゃない?」
 「小さい子なら素直にヒーローに憧れようよ、跡部くん・・・・・・」
 「その頃からもう性格終わってたんじゃないの?」
 「言えるね。この性格なら生まれた時から変わってなくても不思議じゃない」
 どすどすどすざすざすざす・・・・・・と全員に体中をナイフで刺されたような錯覚を覚え、跡部の体がぐらりと横に傾いた。
 それを、隣にいた―――そして唯一会話に加わっていなかった大石が支える。
 「頑張れ跡部。この程度の嫌がらせはまだまだ序の口だ」
 「ありがとよ。大石・・・・・・」
 よもや人の情けがここまで温かく感じる日が来るとは思わなかった。珍しく素直に礼を言い、跡部が体勢を立て直したところで、
 「―――あ、俺そろそろ時間だ」
 「時間? 何の?」
 「学校の講義。他のは桃ちんとかに代返頼んどいたけど次のは実習だからいかないとヤバいんだよね」
 「大変だね。大学生活って」
 「そーそー大変大変。てなわけで、じゃ〜ね〜」
 軽く手を振り、そそくさと英二が退場していった。
 「あ、悪いけど俺も実験の続きがあるから・・・・・・」
 さらにすまなさそうに大石も出て行った。
 「いけね。俺もバイトの途中だった」
 「なんだ、放り出してきたの? だめじゃん」
 「てめーがムリヤリ連れて来たんだろーが!!!」
 一方的な言い争いをしながら、深司と神尾もまた、退室した。
 「んふふふふ・・・。では僕は参謀としてみなさんのお役に立てるようさっそく各国の弱点を焙り出しますか・・・・・・」
 「そろそろ終わりっぽい? じゃー俺もか〜えろっと」
 これまた会場を後にする観月と千石。
 「あ」
 「どうしたの?」
 「そろそろ帰んなきゃ。カルピンにエサやる時間だ」
 「ああ、じゃあ一緒に帰ろv」
 「別にいいけど」
 リョーマと不二もまた、仲良く(?)帰っていった。
 そして―――
 遺された元氷帝レギュラー3人の中で、跡部がぼそりと呟いた。
 「なあ、このメンバー、どうやって決まったんだ・・・・・・?」
 「何言ってんだよ、跡部」
 「プロアマ問わず実力のあるヤツやろ? ちゃんと大会で決まったやん」
 「それ・・・・・・、裏とかなかったのか・・・・・・?」
 「あらへんかったんとちゃう? ちゃんと大会の成績上位者がその場でチームに選ばれたわけやし」
 「とうとうお前もボケちまったか?」
 「こら先精神科行った方がええで。大会中なんかあったら大変や」
 「まあお前がどうなろうと俺達には関係ねーけどな」
 「そないな事言うなや岳人。そらそんな事があってもええように選手余分におるんやけどな」
 「ホラ。やっぱ別にいいんじゃん」
 「せやけど『部長』になれるんは跡部だけやで」
 「・・・・・・いらねーだろわざわざ。てゆーかそっち強調する理由なんだよ?」
 「決まっとるやん。
  ―――あの掛け声かけられんの跡部か不二だけやで」
 「跡部。今すぐ病院行け。なんだったら俺達がついてってやるから。お前はぜひ必要だ」
 「てめぇら・・・・・・」
 完全に濡れ衣を着せられ、跡部の中にふつふつと怒りが込み上げてくる。
 ―――が、あっさり萎える。それを爆発させられるほどの気力はもう彼の中には残っていなかった。
 向日と忍足に左右から支えられながら退室していきつつ、跡部が魂の叫びを響かせた(ただし心の中でのみ。口にする気力ももう残ってはいない)。
 (だからこのメンバーは本気でどうやって決まった・・・・・・!!!?)
 正解は忍足の言った通りである。実力のみを重視して決められたこのメンバー。本気でここまで問題児が揃っていたとは関係者ですら当人たちを一箇所に集めるまで気付かなかった。気付いていたのは・・・・・・お互いをよく知る当事者たちのみ。
 さらにそして―――







・     ・     ・     ・     ・








 「会見、これで終わりなんですか・・・・・・?」
 「まだ・・・質問、1つもしていなかったんですけど・・・・・・」
 今日初めてそれを知ったマスコミらが呆然と呟く中、肝心の選手が誰一人いなくなった会場では関係者たちがお互い頭を抱えて責任を擦り付け合っていた・・・・・・。



―――これで本番は大丈夫なのか!!?




















・     ・     ・     ・     ・     ・     ・     ・     ・     ・     ・     ・     ・     ・     ・

 うむ。なんだか跡部が完全ギャグキャラになってます。かっこ良い跡部様Fanの皆さんすみません。この調子では彼はラストまでギャグ専門になりそうです。というか本気で跡部はギャグの方が書きやすい・・・・・・。そしてこのメンツ、予想はしてたけど不動峰2人絡めるのむずかしい・・・・・・。
 では本番。性格的には問題児揃いですが、テニスの腕では問答無用で最強メンバー。大会は問題なく勝つでしょう。結果的には

2003.4.1620