case5'.跡部再び
そして始まった跡部の試合。毎度恒例のOPは飛ばすとして、まず1打目を華麗なリターンエースでとった(ちなみにトスにてサービスは取り損ねた)跡部が、相手に向かって―――そして会場中に向かって何かを言った。
そう。何か、を。
「―――何?」
首を傾げるリョーマ。聞き取れなかった訳ではない。言った内容が理解できなかったのだ。
しかし客達は理解しているようで、わ〜きゃ〜とさらにはやし立てて―――もとい、盛り上げている。
「・・・・・・?」
完全理解不能の流れ。だがわかっていないのは自分だけらしい。一緒にいたチームメイトらは軽く流していた。
一人置いていかれたことに憮然としたリョーマだが、だからといって他の人に素直に聞くのも癪にさわる。
そんなワケで結局リョーマは誰にも聞かずについていけているフリをしたのだった。
・ ・ ・ ・ ・
さて、意味不明の騒ぎはまだまだ続く。
今度は相手のひょろ球をスマッシュで返し、やはり一言。
ゲームをとってもこれまた一言。
その度に―――どころかそれ毎に会場中の空気の温度が上昇していく。
―――ひとりわけのわからないリョーマを置いていったまま。
・ ・ ・ ・ ・
(くっそ〜・・・! 英二先輩だってわかってるってのに・・・・・・!!)
『恥』のボーダーラインを下回ったことにいらいらするリョーマ。そこに―――
「―――ああ、もしかしてリョーマ君、あれわからない?」
ようやくそんなリョーマの様子に気付いたらしい不二が跡部を指差し、尋ねてきた。その優しげな、そして屈辱的ないい方に―――もちろんリョーマが首を立てに降るわけはない。
「別に!」
きっぱりと、さっぱりわからないのだが。
だがさすが不二。リョーマの扱いには長けたもので、
「そう? じゃあ僕の勝手な独り言だから気にしないでね。
―――うん。跡部っていろんな意味ですごいよね。ああやって自分のキメ台詞わざわざ相手にわかるよう相手の話す言葉に訳して」
「はあ!?」
「だから、跡部が今言ってるのは全部ロシア語なんだけどね。ちなみに言った言葉は最初から『俺様の美技に酔いな』・『俺様の前にロブをあげたお前が悪い』・『腕落ちたんじゃねーのか? アーン?』だと思うよ」
「『だと思う』って・・・・・・」
「ロシア語は日常会話くらいなら出来るけどさすがにそこまでいろいろは知らないからね。とりあえず雰囲気、というか慣れ、かな?」
―――当り前だが不二に限らず本人除けば誰も日常的にンな台詞は使わない。
「ちなみにじゃあ・・・・・・」
頬を引きつらせてリョーマが観客席と、そして日本チームの他の選手を指差した。
それの意味を正確に理解し、不二が苦笑する。
「多分みんな意味わかってないと思うよ。かろうじて解るのは忍足君くらいかな? 後はノリで相槌打ってるだけで」
「・・・・・・・・・・・・」
不二から視線を離し、再びコートと応援席を見やる。タイミング良く出る謎の言葉(つまりロシア語)。それに上がる歓声。
「『慣れ』って恐ろしいよね。全然違和感ないもの」
白熱した会場を、何かを悟った不二の声が涼しく駆け抜けていった・・・・・・。
・ ・ ・ ・ ・
ちなみに―――
大会期間跡部が対戦したのはロシア・ドイツ・スペイン・イギリス代表の4名。英語のみはもちろん出来るリョーマがよくよく聞いてみると・・・・・・
「ホントに言ってるし・・・・・・・・・・・・」
「ね?」
―――跡部様はキメ台詞のみなら何ヶ国語でも話せそうだ・・・・・・
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ちなみに私的設定で、このシリーズでは不二は日本語・英語は現地でいきなり生活できる程。記者のインタビューに即座に答えられるくらいなのがドイツ語・フランス語・イタリア語。さらに短期滞在程度(試合前後程度)ならできそうなのが中国・ロシア・スペイン、それにあと2カ国語圏くらいかな、と。なお跡部様は得意教科にドイツ語・ギリシャ語が入ってるし(公式設定より)、なんっだか何語話しても不思議じゃなさそうな・・・・・・。ただし英語は除外。日々馬鹿にしてる分そう得意でもなさそうだ(出来ないワケではないだろうが、というかあれだけマニアックな見下しが出来る以上相当に出来るのだろう)・・・。
2003.8.26