case5.跡部
跡部の試合―――といえば当然の事ながらどハデな応援から始まるわけで。
跡部! 跡部!
勝者は跡部!!
勝者は跡部!!
激しい応援に耳を押さえ顔をしかめるリョーマ。慣れない彼には無理もないかもしれない。
「何コレ・・・」
「ああ、跡部の応援だよ」
誰でもわかりそうな事をにっこりと返す不二。完全に慣れた彼は、この異様な雰囲気の中でもただにっこりと笑うだけだった。
「すごいよね。跡部っていっつも」
隣でかろうじて聞こえていた千石もまた、慣れた様子で跡部を指差して笑う。
「せやなあ。周りも練習もしとらんとどーやってあんな合わせとるんか・・・・・・」
心底感心した感じで忍足も会話に参加する。このメンツの中では向日に並んで最もよくコレを聞いてきた男。慣れに関して言えば彼の右に立つものはそういないであろう(ヤな自慢だ・・・)。
「あれ? 練習してないの?」
「しとらへんやろ。部活やあらへんのやから」
「え!? じゃあ実はあの応援団全部跡部くんのサクラっていう噂は嘘だったの・・・!?」
「どっから流れとるん、その噂・・・? っちゅーか何残念そーな顔しとるんや、お前ら全員・・・・・・」
「ところで、って事は何? 逆に言えば部活ではみんな練習してたわけ?」
「しとったで。新入部員の最初のメニューがあれのマスターやったからなあ」
「それでいいワケ・・・? 氷帝学園・・・・・・」
「今から思うと不思議やなあ。あれでよう関東の強豪になれたなあ・・・・・・」
全員が半眼で見守る中、うんうんと頷く忍足と向日。
そこへ―――
恐るべき順応能力の高さで(笑)早くもその状況に慣れてきたリョーマが耳から手を離し、会話に加わってきた。
「けどあの人ってさあ・・・・・・」
続くリョーマの言葉に、聞いていた全員が口を押さえて笑いを堪える。
「ああ、じゃあさあ―――」
・ ・ ・ ・ ・
応援もクライマックスに差し掛かり―――
悦に入ったまま、跡部が手を高く上げた。
勝者は―――
ぱちん!
ばっ!
着ていたジャージを脱ぎ去り、不敵な笑みを浮かべる跡部。
締めを言おうと口を開きかけ、
『5レンジャーリーダーの人頑張ってーーー!!!』
ごす・・・。
ベンチから同時にかけられた声に、思いっきり地面に突っ伏した,
『・・・・・・・・・・・・』
客席中を沈黙が包む。
そして―――
ぶわぁ〜っはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは!!!!!
やはり客席中に響く笑い。なまじ応援が綺麗に揃っていたせいだろうか。笑いもまた、綺麗に揃っていた。
「このヤロ・・・・・・・・・・・・」
のろのろと立ち上がり、殺気の篭った眼差しでベンチを見る跡部。その中心では、かの人物がこちらは対照的ににこやかに手をふっていた。
「てめぇ・・・・・・」
「ん? 何かな? 僕らは間違った応援はしてないよ?」
『東京強豪5校レンジャーズ』の『部長』。確かに略せば今ベンチから上がった通りのものとなる。ただしさらにイメージとセンスが悪くなったような気もするが。
「く・・・・・・・・・・・・!!!」
こんな事で屈服はしたくないが、残念ながら彼の言葉は正しい。反論して勝てる見込みは0だった。
「・・・・・・・・・・・・」
全てを聞かなかった事にして、頭の中から雑念を追い払い、跡部は試合に集中する事にした。
・ ・ ・ ・ ・
「ゲームセット! ウォンバイ日本! 跡部!」
むやみやたらと危険な綱渡り状態だった試合を制し、跡部が額の汗を拭う。
疲れた。本当に疲れた。ここまで疲れた試合は、中学のころ関東大会で手塚と戦って以来のような気がする。
そして会場中を敵に回した試合は本当に初めてだった。
―――ヘンな応援のせいで集中を乱してピンチになればまたヘンな応援がかかる。素敵な悪循環。最初はまだベンチにいた知り合いのみだったはずのものが、試合が終わる頃には会場中のものとなっていた。
会場中から揃って言われる『5レンジャーリーダーの人』。ここまで侮辱されたのはほんっと〜〜〜〜〜〜に人生で初めてだった。
ふらふらと戻る跡部に、ベンチから声がかかる。
「『この程度で崩れるようじゃ大した事ない』んじゃなかったっけ?」
「〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!」
まるで雨の降り始めに気付いたかのようなさりげなさで言う不二に、
無言で跡部は全員の座っていたベンチの下に手を差し入れた・・・・・・・・・・・・。
―――お疲れ様でした。5レンジャーリーダーの人(大笑い)
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
このあと跡部が何をしたのかは皆さんのご想像にお任せします。書くとほんっと〜に彼のイメージ崩しそうですので(既に崩れまくっているという指摘は黙殺)。
しかしこの乱闘戦シリーズ。書いてるとなぜかランダムで聴いている筈のMDからその人の曲がよく流れます。
流れる度に思います。皆さん本当にごめんなさい、と。2003.5.11