case8.不二&千石+・・・




 不二と千石のダブルス。これは意外と相性がよかった。というか思った以上の成果を見せた。
 なにせゲームメイクの上手さでは世界で指折りの2人。特に『からかう事』に関しては文句無しにトップクラス。試合も真面目にやってるんだか遊んでるんだか紙一重―――で遊んでたりして。おかげで対戦相手の2人は実に悔しそうな表情をしていたが、この2人に逆らうと、というか関わるとロクな事になりそうにないと判断したらしく何も言ってはこなかった。
 さて試合終了後のベンチにて―――







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 「はい不二くん、飲む?」
 「あ、ありがとう」
 礼を言い、飲物を受け取る。ストローのついた、ボトルを。
 中で軽く揺れる液体の音と感触。どうやら千石は
1/3も飲まなかったようだ。
 軽く息をつき、不二はストローをく口に入れ―――
 「あーーーーーーーーーーー!!!」
 「え!? な!! 何!? リョーマ君!!」
 突如上げられた悲鳴に、まだ吸い途中でよかったとしみじみ思いつつ、顔を上げる不二。
 その前で、リョーマが彼を指差し怒りのオーラを爆発させていた。
 「周助何浮気してんだよ!!??」
 「え・・・・・・?」
 「うわ・・・き・・・・・・・・・・・・?」
 謎の発言に、不二だけでなく隣で汗を拭いていた千石も目を点にした。今のリョーマの声をかけるタイミングを考えると、かなりの確率でその『浮気』とやらの相手が自分という事になるが、はて・・・・・・?
 「俺、何かやったかなあ・・・・・・?」
 「う〜ん。浮気、に、なりそうなことはしてないと思うけど・・・・・・」
 天を見て首を傾げる千石。覚えのない事態に不二もまた眉を寄せた。浮気などするわけがない。それは自信を持っていえる。というかリョーマ以外はっきりきっぱりどうでもいいのだ。浮気相手がそもそもいるわけがない。
 が、世の中いくら自分がどうであろうとどうし様のない場合というのがある。1つは無意識の内。これは絶対ない。潜在意識下でも常に
No.1もOnly1もリョーマだ(断言)。おかげで『無意識の内』にいろいろやって殴られた経験なら豊富。
 2つ目は相手にやられた場合。これも却下。やったとした場合相手は千石という事になるが、千石はこちらの事をもちろん知っている。確かにかつて恋愛対象として見られた事もあるが、自分に手を出す事のデメリットは彼もよくわかっている。それに彼は今別のコトに夢中だ。『浮気』などという危険すぎる真似は絶対やるまい。自尊心[プライド]の高すぎるかの想い人にバレれば間違いなく捨てられる。
 となると3つ目。リョーマが勘違いをしている場合。
 「ねえリョーマ君。浮気っていうのは僕と千石君が?」
 「当り前でしょ!? 何!? しらばっくれるつもり!?」
 「で、その『浮気』内容についてだけど―――」
 「あー! ホラやっぱ浮気だって認めてんじゃん!!」
 「・・・・・・ごめん。言い直すよ。
  で、その君が言うところの『浮気』の内容についてだけど、それは僕と彼がダブルスをしたから?」
 「ンなわけないでしょ。それじゃ浮気しまくりじゃん」
 「じゃあ話したから?」
 「・・・。それだけで浮気になったら今日1日で何回したことになんのさ」
 「そうかな? 僕は君が他人と半径
20m以内に接してるだけで浮気してないかって心配になるけど」
 「・・・・・・。だからそれじゃテニス出来ないじゃん。
  じゃなくて!! 他にあんでしょ!?」
 「後は・・・・・・飲物の回し飲み?」
 「そう!! 間接キス!! しかもなんでアンタ自分からやってるんだよ!!」
 「え、と・・・。それは・・・・・・」
 呟きつつ、思い出す。確か自分は千石に薦められるままに飲物を飲んだ。彼が口を付けた飲物をその後自分が飲んだわけで、それは言い換えれば自ら口を付けたと言えなくもなくて・・・・・・・・・・・・
 極めて珍しく脳内パニックを起こしている不二の代わりに、英二がふと尋ねた。
 「あれ? でもおチビちゃん、青学じゃンなの当り前っしょ? てことはおチビちゃんも浮気してるって事になんじゃん?」
 いくら青学テニス部が関東の強豪でありそのため予算を多めに回してもらえようが、部員全員分のボトルが用意されているわけはない。事実自分達の事回し飲みは当り前だった。今教えに行ってみてもそれは変わっていなかったのだが・・・・・・。
 「俺が? してるわけないじゃん。自分でジュース買って飲んでるし」
 『ああ!』
 ぽん! と手を叩く黄金ペア。リョーマがしょっちゅうファンタを買っているのはてっきりただ好きだからだと思っていたら!
 「だから!! 周助みたいにへーきで浮気するヤツは許せない!!」
 「ってオイ越前!!」
 「おチビちゃん!!」
 それだけ言い残し、ベンチを去るリョーマ。
 間の悪いことに―――
 ―――次は彼の試合だった。







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 『うぎゃあああああぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・・!!!』
 ドゴッ!!
 ズゴッ!!
 バゴッ!!
 怒りに燃えるリョーマの集中砲火に遭い、そんな感じの悲鳴を上げる名目上対戦相手実質哀れ被害者。
 そして―――
 「リョーマ君ってばこんなことでヤキモチ妬いてくれるんだ〜vv 可愛いなあvvvvvv」
 ベンチではそんな彼を見て花を飛び散らせノロケる恋愛バカが1人。
 何とも妙な雰囲気の流れる試合は、何とも妙な雰囲気の流れるまま相手の棄権で幕を閉じたのだった。







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 「ごめんねえ。リョーマ君vvv」
 「もー周助なんて知らない!!」
 試合後いちゃつくバカップルに、
  「「もー勝手にやっててくれ・・・・・・・・・・・・」」
  誰もがそんな突っ込みを入れたという。



―――2人の浮気基準点はどこだ!?








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 え〜。めちゃくちゃしょーもない話にしたかったのですが、やっぱ間接キスで浮気はベタだったか・・・・・・。むしろ2人の会話中の『浮気説』の方がそれっぽいかもしれません。不二様『半径20m』って・・・・・・。
 余談ですが、リョーマがボトルを飲んだのはコミックスでは1回。地区大会決勝不動峰戦でリョーマが1ゲーム取った時のみ―――のはずです。本気で余談ですが。
 そして余談その2。この話は一応千石→跡部で千石は跡部様攻略中です。跡部は浮気なんぞしようものなら問答無用で切り捨てられそうな・・・・・・。

2003.9.8