case1.深司&神尾




 第1打は神尾のサーブ。まずは様子見、と普通に打ったサーブを、相手も難なく返してくる。
 やはり向こうも様子見か。前衛の深司の横を狙ってきた。
 「深司!!」
 わざわざ呼びかける必要もないかもしれないが、一応呼びかけた神尾がフォーメーションを崩さないよう逆側のポジションへと―――
 ―――走りかけ、そして自分の呼びかけた相手がいつもどおりの冷め切った目でボールではなく自分を見ているのを見て硬直した。
 「―――ってオイ!!」
 「何? 神尾」
 試合中なのも忘れ思いっきり突っ込む神尾。振り向いて問う深司。
 ・・・・・・当然のことながら、ボールは振り向いた彼の横をかすめ、あっさり抜けていった。
 リターンエースよりも、深司の予想外―――というか常識外れすぎる態度に相手2人も硬直する。
 その中で、神尾ただ一人が動いていた。
 「リズムに乗るぜ♪!!」
 毎度恒例のこの台詞と共に加速し、バウンドしたボールに追いつく。
 パァ―――ン!!
 ラケットのスイートスポットに当たる気持ちのいい音を響かせ、ボールは相手コートへと決まった。
 ・・・・・・神尾の奇行―――もといリズムの乗りっぷりに絶句した2人を余裕でかわして。
 「フィ・・・
15−0・・・・・・」
 審判もどこかへ行っていたらしい。何とか戻ってきたと言わんばかりに震える声で呟く。
 やはりその中で、変わらないこの人たち。
 「相変わらず神尾はリズムに乗ってるね」
 「お前が取らねーからだろーが!!!」
 静かに言う深司に、すかさず突っ込む神尾。が、もちろんこの程度で深司が自分の行いを改めるわけもなく。
 「だって神尾が追いつくんなら俺が行ったって二度手間じゃん」
 「てめーがちゃんと取ってたら俺が走ることもないんだよ!!」
 「けどどうせ神尾が走るんだし」
 「うがあああああああ!!!!!!!」
 永遠に終わりそうにない会話に、神尾が頭を抱えて地団太を踏んだ。それを見てさらに呆気に取られる相手2人、というか会場全体。
 その中で、





 「なるほどね。こうやって相手のペースを崩すのか。上手いなあ」
 「嫌味・・・・・・?」
 顎に手を当て頷く不二に、リョーマもまた半眼で突っ込み、





 「ふっ。この程度で崩れるようじゃ大した事ねーな」
 「いや・・・、崩れるやろ、アレは・・・・・・」
 鼻で笑う跡部に、忍足が手と首をぱたぱたと振った。





 そして・・・・・・







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 「―――ゲームセット!! ウォンバイ日本! 伊武・神尾ペア!!」
 「お・・・終わった・・・・・・」
 ぜ〜は〜と荒い息をついて神尾が呟いた。かつて海堂に負けて以来持久力を養うべくトレーニングに励んだ。その成果としてかなりの持久力も身についた。実際、普通にやったならこの程度ではここまで疲れない。ああそりゃもう絶対に!!!
 膝に手をつき必死に息を整える神尾に、こちらは息1つ乱していない『相棒』が声をかける。
 「やっぱり相変わらず体力ないね、神尾」
 「てめーに怒鳴り続けたせいだろ!!!?」
 この上なく不名誉な物言いに、やはりラストまで神尾は怒鳴り続けた。
 カラカラの喉で、掠れた声で怒鳴る彼に、会場中から同情の眼差しが集まった・・・・・・。



―――一番難儀だったのはやはり対戦相手2人か・・・?








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 深司と神尾。この2人、気が合うのか合わないのか本当に疑問です。

2003.5.911