case2.千石
「ねえ」
「ん?」
「千石さんって強いの?」
選手の休憩用ベンチ―――を占領して応援(?)する一同の中で、リョーマが隣にいた不二のジャージをちょいちょいと引っ張って質問した。正月の大会で一度対戦したし、さらに彼の他の試合も見はしたのだが・・・・・・。
自分との対戦では確かに強いとは思った。が、他の対戦での彼の実力はイマイチよくわからなかった。―――誰の責任とはあえて言わないが。
「う〜ん。千石君ねえ・・・・・・」
何の意味を込めてか、くすりと笑う不二。
「強いよ。普通の実力ももちろんだけど、やっぱ一番の特徴は強運かなあ」
「ああ、『ラッキー』千石だし」
「そうそう。彼の強運はすごいよ。なにせ現実を全て無視するから」
「はあ・・・・・・?」
眉を潜めるリョーマの前で、試合が始まった・・・・・・。
・ ・ ・ ・ ・
当然の如く千石のサーブにより始まる試合。
前に出た千石に対し、相手はロブを打ってきた。
「へえ。上手いじゃん」
千石の身長ではまず届かない高さ。そしてコートギリギリに着くであろうコントロールの良さ。
が、
無駄とわかっているからなのか、ジャンプをする事も後ろへ走ることもせず、ただ千石は鳥でも見ているかのようなノリで目の上に手を当てるだけだった。
「あの人ホントに強いわけ?」
「まあ見ててごらん」
さらに眉を寄せるリョーマに、笑って不二が指を指す。
その先ではやはり千石がボールを見上げているだけで。
―――いや。
「う〜ん。アウトかな?」
(バカ・・・・・・?)
どう見てもインの球。それにそんな判定を下す千石にリョーマがため息をつく。のだが、
「アウト!」
「はあ!?」
審判の判定にリョーマが大口を開けて叫んだ。確かにボールのバウンドした位置は惜しくもライン僅かに外だった。なぜか。
(ンなバカな・・・・・・)
慄くリョーマを他所に、
「おっしラッキー♪」
千石が指を鳴らしてそんな事を言っていた。
・ ・ ・ ・ ・
今度は千石のロブ。球はやはり相手の頭上を越え・・・・・・
「アウト・・・」
リョーマが呟く通り、ライン僅かに外を目指して下降していた。
が、
「ギリギリセーフ?」
やはり鳥でも見ているかのようなノリで目の上に手を当てた千石がそんな事を呟く。
(やっぱバカ・・・?)
千石の判定に対しやはりリョーマがため息をついた。のだが、
「イン!」
「はあぁ!?」
これまた審判の判定に大口を開けて叫ぶリョーマ。確かにボールのバウンドした位置はライン僅かに内だった。くどいがなぜか。
(ウソだろ・・・・・・?)
呆然とするリョーマを他所に、
「またまたラッキ〜♪」
千石が指を鳴らしてそんな事を言う。
・ ・ ・ ・ ・
「ねえ」
「ん?」
「千石さんって・・・・・・何?」
応援席(誤)にてリョーマが隣にいた不二のジャージをちょいちょいと引っ張って質問した。
「う〜ん。千石君ねえ・・・・・・」
何の意味を込めてか、くすりと笑う不二。
「本人の言ってる通り『ラッキー男』じゃないかな」
「それだけ・・・・・・?」
「さっきの技、『ラッキーウォッチ』と『ラッキーショット』って言うんだけど、すごいでしょ。本当に千石君が言った通りになるんだよね」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
それは本当に『ラッキー』だけの問題なのか・・・?
聞こうとして―――
「―――いいけどさ」
結局リョーマは思い切り目を逸らしてそう答えた。
―――千石さんならこんな事は朝メシ前さ☆(爽やかに断言)
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
冗談抜きで『ラッキーウォッチ』はGBAソフト2003シリーズに実在します。伊武さんの『ぼやき』と並んで恐ろしい技です。なにせ相手の実力に関係なく確実に決まりますから。
2003.5.11