今日は2月
29日。4年ぶりの彼の誕生日です。





あにばあさりいいべんとそのぜんご













 それは、4年前―――『4歳』の誕生日、正確にはその前日の事だった。



 「で、何かな? いきなりこんなところに呼び出して」
 ホテル最上階のレストランにて、不二は笑顔に僅かに怒りを滲ませ尋ねた。ここの予約者であり、自分以外の現在唯一の客である跡部へ。
 「別に? いーじゃねえか食事誘うくれえ」
 「よくないよ。なんか緊急事態っぽかったから『彼女』の誘いも断って飛んで来たんだよ?」
 飛んで―――文字通り、アメリカからここヨーロッパまで、今日いきなり移動してきたのだ。
 いくら小さい頃からアメリカに単身赴任している父親に会うため飛行機に乗り慣れていようがぼちぼち世界進出も始め必然的に飛行機に乗る機会が増えようが、準備一切無しにこれだけ吹っ飛ばされ、その挙句がただの食事とくればさすがに怒りたくもなる。
 それを鬱陶しげに払いながら、跡部がため息をついた。
 「緊急事態なんて一言も言ってねえだろ? 『今日こっちに来い』としか」
 「いきなり何の脈絡もなくそんなの告げられたら普通何かあったのかな? って思うもんだよ?」
 「うっせーな」
 適当にあしらい、多少ぎこちない雰囲気ながら一応食事が始まった・・・・・・。





 同ホテルに取っておいたスイートルーム、そのベッドに2人は座っていた。跡部の腕の中、胸に凭れしがみつく不二の頭を撫でる。全てはいつものこと。小さい頃から、これが2人の定位置で。
 「そろそろ・・・
12時だな」
 「ん〜・・・? それが何〜・・・・・・?」
 「って寝んじゃねえよ」
 「う〜・・・。眠い〜〜〜・・・・・・」
 「ほらあとちょっとだろ?」
 「だって〜・・・。疲れた〜・・・・・・」
 「ったく、仕方ねえなあ。
  ちょっと早ええが―――」
 「ん〜・・・?
  ―――ん・・・・・・」
 その先の台詞は、互いの口の中に消えた。眠気を振り払うような興奮と、眠気を導くような安心感。ただひたすら互いを求めるその耳に、携帯の音が届いた。
 「・・・・・・ん?」
 携帯を取ろうとする不二の手を掴み、再びキスをする。
 ベッドへと横たえ、その上に覆い被さり―――
 「何―――」
 跡部は彼の目をじっと見つめ、囁いた。


 「
Happy Birthday 周


 「え・・・・・・?」
 「誕生日だろ? 今日」
 言葉とともに指差された時計を見る。2月
29日午前0時0分。4年ぶりの、自分の誕生日。
 「あ・・・・・・」
 「本気で忘れてたのかよてめぇは」
 「だって・・・・・・」
 呆れ返る跡部に、罰が悪そうに不二は俯いた。
 「祝ってくれる人、誰もいないって思ってたんだもの・・・・・・」
 生まれた時は、いっぱいいた祝ってくれる人。4歳の時は父親が仕事で帰って来れなくて、
12歳の時佐伯はもう千葉に引っ越していて、彼は帰ってきてくれたけど、代わりにその頃からもう自分を嫌っていた裕太はその日も遠くのテニススクールに行っていた。
 そして
16歳。プロになってから日本には帰っていない。家族とも連絡を取っていない。自分の誕生日を―――自分が存在する事を、祝ってくれる人はいるのだろうか? ずっと、それが怖かった。
 「ありがとう、祝ってくれて・・・・・・」
 俯いたまま、礼を言う。零れる涙は、見られたくなかった。
 たったひとりでも、こんな自分を祝ってくれる。その事が、たまらなく嬉しい。
 (ねえ、僕はまだ、ここにいていいの・・・・・・?)
 自分勝手に動く自分を、彼はずっと見ていてくれる。ずっと見守っていて、疲れた時は休ませてくれる。甘やかしてくれる。
 この手に、この腕に、この胸に。ずっとすがりついていられたら楽なのだろう。彼は永遠に自分を守ってくれる。
 そして―――
 ―――自分は永遠に彼を縛り続ける。
 彼は自分のために全てを犠牲にする。何よりも、自分自身を。
 自分は・・・・・・そんな彼を、永遠に利用し続ける。
 (いつかは・・・・・・この手を離さないと、ね・・・・・・・・・・・・)
 俯く不二の頭を、
 「バーカ」
 跡部は手にしたもので軽く叩いた。先程鳴っていた、不二の携帯で。
 「祝ってんのは俺だけじゃねえよ」
 「え・・・?」
 携帯を見る。メール着信。それも―――
 「
53通・・・・・・?」
 ほとんど全てが0時丁度。タイトルの出るものに関しては全て『お誕生日おめでとう!』。
 内容と差出人を確認する。家族から。青学や氷帝・六角といった知り合いから、なんでこちらの誕生日を知ってるんだろうと首を傾げたい立海やら不動峰やら山吹やらルドルフやらのみんなから。
 「嘘でしょ・・・? だってそもそも時差あるんだよ・・・? なんで0時丁度・・・・・・?」
 「どーせそいつらが言いふらしたんだろ?」
 そう言い跡部が指差すは、今日の着信の中で最も古い―――今日最も早くメールを送ってきた2人。
 「サエ・・・? 千石君・・・?」
 メールを開く。



 <
不二くん、おったんじょ〜びお〜めでと〜♪
  ってところで跡部くん! ヨーロッパって遠いよ! 何不二くん独り占めしてんのさ! せ〜っかく誕生パーティーやろーっていろいろ企画してたこっちの立場は!?
  そんなワケで、不二くん帰っておいでよ! お祝いやろvv




 <
周ちゃん、4回目のお誕生日おめでとう―――ってやっぱメールだと味気ないね。パーティーの用意してるから、気が向いたら帰っておいで。その時ちゃんとおめでとうって言うよ。
  ま、それまではそこにいる跡部でも適当に使っててね。俺達からの誕生日プレゼントって事で




 「アイツらぜってー絞める・・・・・・」
 「あはははははは!! わ〜いわ〜い景がプレゼントだ〜!! 好きに使っちゃえ〜vv」
 「真に受けんじゃねえ!!」
 なおも暫し笑い転げる不二に呆れてから、
 「ま、そんだけ祝ってくれるやつがいりゃ十分だろ? ただし、1番は俺様が貰ったけどな」
 「ああ・・・、それでか」
 なぜ携帯が鳴った時跡部が取らせなかったのか。そう考えればとっても納得しやすい事だ。
 「そうだね・・・・・・」
 そういえば、なぜだかいつも『おめでとう』の言葉は跡部から最初に聞いているような気がする。さすがに知らないけれど、もしかしたら生まれた瞬間も医者よりも先に彼は言ったのかもしれない。
 「じゃあ、これからもずっと
Topに言ってもらわないとね!」
 「上等だ。やってやろーじゃねえか」







×     ×     ×     ×     ×







 あれから、4年が経ち―――
 「う〜ん。や〜っぱり不二くん来ないか〜」
 「残念。今年こそパーティーやりたかったんだけどね」
 「ま、仕方ないっしょ。類は友を呼ぶってやつ? 同じ事考えるヤツなんていっぱいいるんだし」
 「むしろ周ちゃんにそれだけ友達がいっぱいいることを喜ぶべきかな?
  ―――若干1名、喜びそうにない奴もいるけど」
 「ああ? うっせーな」
 跡部家にて、来る筈の無い主役のためにパーティーの準備をしていた跡部・佐伯・千石の3人は、やはり来ない主役をそれでも待ち続けていた。
 今日の主役は今頃仲間に、恋人に祝われているのだろう。彼は、そうされる場所を―――自らの居場所を手に入れた。
 ―――もう、彼のために居場所を作る必要はない。
 それでも、待ってしまうのは多分―――
 ・・・・・・・・・・・・自分達こそ、この場所を必要としているからだろう。
 「ところで跡部、お前振られたな」
 「あん?」
 「『これからもずっと
Topに言ってもらわないと』じゃなかったっけ? 1回目でもうダメじゃん」
 「本気でうっせーよてめぇは」
 コンコン
 「景吾ぼっちゃま、虎次郎様、清純様、お届け物でございます」
 ノックと共に、老年の執事が入ってくる。跡部の生まれるずっと以前からこの家に仕え、3人を、いや4人をまるで孫のように可愛がっている執事。彼が手に持つのは、ダンボールだった。
 「何だ?」
 「あれ?」
 「不二から、じゃねえか」
 差出人は、待っている彼で。しかもわざわざ日時指定で送られていて。
 「にしても何入ってんだ?」
 「やけに軽いね? 大きさのわりに」
 「開けよ開けよ」
 びりびりがさごそと開ける。中から―――むやみにいっぱいある衝撃吸収用であろう発泡スチロールから出てきたのは・・・・・・
 「不二ヒグマ・・・・・・?」
 「手作り・・・?」
 「いや普通売ってねえだろンなモン・・・・・・」
 それは、
30cm程度のぬいぐるみだった。それ以外は最初の佐伯の台詞によって全て説明されている、そんな感じの。
 「しかも首輪って・・・・・・」
 「飼いてえのか? アイツは・・・・・・」
 「あ、じゃないって。なんかプレートついてるよ?」
 「へえ・・・。どれどれ・・・・・・」


 ≪お腹のあたりを
ぽちっと押してね≫


 「ほお・・・・・・」
 ぶすっ。
 「うわ痛そ〜・・・!!」
 「お前いくら本人じゃないからってそんな腹膜えぐる押し方止めろよ!」
 「本人じゃねえからいいんだろーが! 大体この位置じゃ肋骨下から肺に差し入れたんだろうが」
 「・・・ねえ、2人ともそういうエグい話止めようよ・・・・・・」
 千石の言葉と共に、キューっと何かが高速回転を始める。
 とりあえず腹膜をえぐったのか肺に差し入れたんだかした結果、ぽちっと押す事には成功したらしい。回転が一応収まり、次いでぬいぐるみから声が出た。
 『後でちゃんと行くから、パーティーの準備しっかりしといてよ!? 今回こそは約束どおり祝ってもらうんだからね!?』
  「「「・・・・・・・・・・・・」」」
 「壊していいか?」
 「何か止めにく―――」
 「ダメだからな」
 呻く千石をぴしゃりと断ち切り、佐伯が『不二ヒグマ』を抱きかかえた。
 主催者席―――いわゆるお誕生日席に座らせ(普通に座らせるともちろん低すぎるため、ソファから適当にクッションをかっぱらってその上に乗せた)、ぽんぽんと、まるで本人にそうするように頭を撫でる。
 「言っただろ? 『パーティーの用意してる』って。いつでも準備
OKだよ」





 「さ〜って現在午後
1155分」
 「あー・・・、だんっだんこのカラクリ読めてきたな・・・・・・」
 「ははっ。確かに『
Top』だな。ただし逆トップ」
 「そりゃ『ビリ』っつーんだ」
 「い〜じゃん。跡部くん1番好きっしょ?」
 「一番遅くてどーすんだよ」
 「まあまあ」
 ボヤく間にも、時は経過していく。2月
29日。4年に1度の彼の誕生日が。





 「いよいよ残り1分!」
 「カウントダウンでもしよっか?」
 「してどーすんだよ・・・・・・?」
 ピンポーン
 「あ、来た!」
 「遅せえ!」
 「準備準備♪」





 「残り
10秒!!」
 「9・・・、8・・・!」
 コンコン
 「お3方、お客様で―――」
 がちゃ!


 「
Happy MY Birthday!!


 「てめぇが言うんじゃねえ!!」
 「馬鹿跡部!!」
 キーン・・・、コーン・・・、カーン・・・、コーン・・・・・・・
 『・・・・・・っあああああああああああああ!!!!!!!!!!!』



―――は〜いタイムアウト!











×     ×     ×     ×     ×

 今年は祝い損ねたみたいです跡部様。本気で1回目からダメでした。
 そんなワケで【あにばあさりいいべんと】の前後辺・・・いやこの漢字でも合ってるけどさ・・・・・・前後編。確かに前回の不二の誕生日を直接祝ったのは跡部だけだったみたいですね。
 いくつかの話で出たように不二先輩プロデビュー後リョーマに会うまでの3年間はまとめて『暗黒期』といったところですが、それでもちゃんと周りはずっと一緒にいたんだよというところで。ちなみにメール
53人はかなり適当な数値です。よくよく考えずとも・・・・・・このシリーズ、誰の年齢を上げ誰がそのままなのか正式に決めていませんでした! おかげで人数がカウント出来ない! とりあえず太一はリョーマと同じ123歳のままがいいな〜とささいな希望ですね。あ、そしてメールの届いた『家族』。不二家のみではなく家族ぐるみで付き合いしている跡部家や佐伯家からも来ると大爆笑ですね。
 では、よーやっと不二先輩バースデー話一段落です。さ〜ってや〜っと記念ミニアルバム聴ける〜〜〜〜〜!!!!!!

2004.3.1

そういえば・・・
 誕生日のお祝いを
1159分に言うのは私の常套手段です。0時狙いの人は多いですが意外と少ないんですね、ラスト狙いって。意表つくにはぴったりですよ。なんていって・・・
 ―――メチャバト自分用祝いでは確か烈兄貴が同じ手段使ってましたね。