不二vsリョーマ
さてゴネるリョーマを宥めすかしようやく試合へと漕ぎつけられる・・・筈だった。
「じゃあ、まずは俺と試合して3ゲーム取れたらプロと試合だ」
「はい?」
「え・・・?」
「おいおい・・・」
「せっかく越前の機嫌が直ったのに・・・・・・」
なぜか彼らを試すが如く障害は次から次へと訪れる。
今大会スポンサーの息子にして男子シングルスの優勝者―――というかそもそもこの大会が彼を優勝させるためにあったといっても過言ではないだろう男。それでありながら注目が自分ではなく解説員の不二に集まりいたく不機嫌そうだった。まあ当たり前だが。
「ズルい! そんなの言ってなかったじゃん!!」
「何アンタ勝手に乱入してんのよ!!」
「うっせえ! 俺にすら勝てねえ奴がプロと試合したって時間の無駄だろ!?」
客席からのブーイング。だがその中でも一角だけは静かだった。
本来なら最初に騒いでいたであろう一角・・・知り合い一同は。
「いや、多分泣くことになるから止めた方が・・・・・・」
「うわ。大石先輩、今の先輩の台詞が一番泣けますって」
「つまりこの試合、越前は問答無用で3ゲームハンデをもらう事になるな。
さて、どこまでリードを守りきれるか」
気の毒そうに言い放つ大石に痛そうな視線で見下ろす桃とごく普通に3−0からの試合を推測する乾。今までのそいつの退屈な試合を見ていれば、結果などやるまでもなくわかる。
男へ向けられる、2対の瞳。片や怒り満点で、片や笑みで。
―――実質共に『アンタぶっ潰す』と瞳に込めて。
「へえ、アンタがねえ。ま、一応在りえないだろうけどそれでも聞いておいてあげるけどさ、俺が3ゲーム取れなかったら?」
「ハッ! そんな事か!
その時はそうだな。俺がお前の代わりに試合してやるよ。大船に乗ったつもりで安心して負けな。お前みたいなド素人がボロクソに負かされる姿より、俺みたいなのが互角に試合してやる方が見栄えもすんだろ?」
ブーイングが何倍にも膨れ上がる。ついでにリョーマの味方となる存在もまた。
それらを完全に無視し、リョーマはいつも通り生意気に笑って見せた。
「ま、せいぜい頑張ってね。周助とやる前にウォーミングアップ位はしたいし?」
「ガキが・・・。舐めやがって・・・・・・!!」
「はいはいさっさと始めるよ」
「聞けよ人の話・・・・・・」
「時間のムダ」
「さりげに聞いてんじゃんかよ・・・・・・・・・・・・」
後ろで噴き出す不二は放っておいて、さっさと試合は始められたのだ! そして終わったのだった!!
今度はコート脇で懸命に笑いを堪える不二。サービスエースとリターンエースだけで試合終了。もちろん結果は3−0でリョーマの圧倒的リード。
「じゃあ、改めてよろしく。リョーマ君」
「アンタこんなザコ前座にして満足?」
「リョーマ君の圧倒的勝利には血湧き肉踊るものがあったけど?」
「どこが? めちゃくちゃ笑ってたじゃん」
「ふう。おかげで僕も体あたため[ウォーミングアップ]はばっちりだよ!」
「・・・アンタもさりげに俺の事バカにしてる?」
「まあまあ。じゃあ始めようか」
「アンタ絶対今日こそ潰す・・・!!」
× × × × ×
3−0のまま始められた2人の試合は―――
タイブレークをリョーマが制する事で終わりを告げた。
「・・・・・・」
「おめでとう、リョーマ君vv
―――あれ? 機嫌悪い?」
「別に!!」
試合は実質3−6。ハンデはあっさりひっくり返された。そして・・・
「周助、タイブレーク絶対手抜いたでしょ・・・・・・」
「僕が? まさか」
「ウソつけ」
「僕からの逆誕生日プレゼント?」
「やっぱウソだったじゃん」
「ふふ」
「何だよその笑い」
「いや、ただ―――
―――リョーマ君も強くなったなぁ、ってね」
「アンタは息子の成長見守る親父か?」
「リョーマ君のお父さん? いいね。ぜひとも見守りたいな」
「言ってれば?」
そっぽを向くかの少年へ向け、言った言葉は決してウソじゃない。本当に強くなった。タイブレークの手加減は認めるがあくまでそれは逃げ。
(もうすぐ僕も追い越すかな?)
ついに半分取られるようになった。この様子では残り半分ももうすぐだろう。
(早くそうならないかなあ・・・・・・)
もちろん簡単に勝たせる気は微塵もないが。そして負けたならばそのままにするつもりはもっとないが。
思う、不二の頭に―――
今度は別の物がぶつかった。
ぼこっ。
「痛っ・・・!」
「わ〜いこれぞホントの羆落とし〜♪」
落ちてきた物を見やる。バルーンラッピングされた熊の巨大ぬいぐるみ。そういえば投げた本人の家にも同じようなぬいぐるみ・大五郎がいたか。
「ふ〜じ〜! はっぴーばーすでー!! でもってお祝い一番乗り〜!!」
「あズルいっスよ英二先輩! だったら俺だって!!」
などなどという声をかわきりに、まるでフィギュアスケートの演技直後のようにコートへぽんぽん物が投げ入れられる。
「英二達はまだしも、よくみんな今日が僕の誕生日だって知ってるなぁ・・・・・・」
「アンタ本気で言ってる・・・・・・?」
心底感心した不二へと、心底呆れ返ったリョーマの呟きが届いた。
Fanなら誕生日情報ぐらい常識だろう。しかもこんな特殊な日となれば、知らないヤツの方がむしろモグリといえる。
「何が?」
それを唯一理解していない本人へ。
リョーマはハーフパンツのポケットに入れておいたものを投げつけた。
剥き出しのままのそれ。一見金メダルのようでもある。
「5歳の誕生日おめでとう。5歳ならそろそろ時計位読めるようになりなよ?」
渡された、懐中時計。アンティークなものを好む自分にはぴったりな物件か。
「それと―――
―――今日の試合は貸しといてあげるよ」
にやりとリョーマが笑う。いずれ返せるかそれともこのまま借りっ放しとなるか。
(まあ、どっちにしろさ・・・)
「ありがとうリョーマ君!!」
不二はネット越しの彼を思い切り抱き締めた。
抱き締め―――もちろんそのまま抱え上げる。
「ってオイ! 何すんだよ!!」
「え? それはもちろんリョーマ君をお持ち帰りにv」
「だから! 俺はいいなんて言ってないだろ!?」
「だって打ち返してくれたじゃない」
「あれはただ見落としただけで・・・!!」
「駄目だよリョーマ君油断しちゃv」
「ウルサイ! 大体見ないだろンなトコ!! それにちゃんとプレゼントなら渡しただろ!?」
「うん。それはそれでもちろんありがたく貰っておくよv でもってこれはこれでありがたくvv」
「何だその理屈はぁぁぁぁぁ!!!」
わめくリョーマを軽くあしらい、その存在を確かめるようにぎゅっと抱き締めながら、不二は優しく微笑んだ。それこそ相手決めの前と同じ笑みで。
思う。
(そろそろ帰り時かな?)
リョーマが、みんながいるこの場所へ。あちこちふらふら彷徨っても、結局自分の居場所はここなのだろう。
―――vsリョーマ戦 Fin
× × × × ×
日付からしてわかりますとおり手塚戦をUpしてからこちらを上げました。なのでこちらのあとがきはむしろ短めにいき・・・たいなあ。
不二先輩の誕生日、なのになんだかこれがオマケっぽいです。おっかし〜な〜。リョーマの時計あげて「5歳なんだから」云々がメインじゃなかったのか? あと試合相手決め。なぜかメインが不二・リョーマ、さらに手塚・跡部の頂上争いとなってます。これの続きといいますかこのシリーズそのもののまともな時の流れもまたその内あげられる・・・・・・といいなあ。
では、ようやく1日遅れにして言う事が出来ます。
不二先輩はっぴーばーすでー♪
と!
2004.2.29〜3.1