―――あの日偶然 聴こえた声に 心奪われてしまったんだ―――





ラジオに夢を見て








〜 ♪ 〜






 それはどうということのない日。たまたま部活が休みで、何をしようかヒマを持て余していたら「たまには思い切り遊んできなさい」と母さんに追い出されて。
 町に出て、だからどうするわけでもないけれど。
 それでも何か起こらないかなとかちょっと思ってたりした。







〜 ♪ 〜






 たまたま通りかかった街角で、
 「何だ・・・?」
 何人かの女の人がそこにばらばら集まっていて。
 全員で見ていたのはガラスに覆われていたその中。
 てっきり商品でも見ているのかと無視して先に行こうとしたけど・・・
 「はい。リスナーの皆様こんばんは。今夜も始まりました、『不二周助のラジオを聴きながら』。今日はゲストとして、なんと現在作詞に作曲と大活躍中の千石清純君が来てくれました」
 「やぁやぁみんな、こんばんは。でもって不二くん、久しぶり☆」
 「うん。久しぶり。
  なので今日は、作詞や作曲時のポイントや普段の生活などについて、彼直々に語ってもらいましょう。
  ―――今日はよろしくね、千石君」
 「不二くんの頼みならお安い御用♪ んで全国のリスナー特にカワイイ子、今日は思いっきり語っちゃうよ! 楽しみに待っててね!」







〜 ♪ 〜






 ガラスの端に掛けられていたボードを見る。
 <ラジオ×× 「不二周助のラジオを聴きながら」 パーソナリティ:不二周助 ゲスト:千石清純様>
 それはどうやら公開録音の場面らしかった。集まっているのはそれの見物だろう。
 それ自体はどうでもよくて。
 ただ・・・・・・
 「・・・・・・」
 パーソナリティとして話している人を見る。にこやかな笑顔で、マイクと相手に向かってずっと話している人。時々落ちてきた髪を耳へと掻き上げて。
 はっきり現れた唇が小さく動く。その度に空気を震わせ声が流れて。
 静かな声。なのに心も体も震わせて。
 呆然とそれを聴き続けてて、
 気が付いたら録音も終わっていて。
 立ち上がりかけていた2人を見て、俺は慌てて来た道を引き返した。
 その前の一瞬、あのパーソナリティ―――『不二周助』と目が合ったような気がするのは、
 俺の気のせいかな?







〜 ♪ 〜










♪     ♪     ♪     ♪     ♪










〜 ♪ 〜






 走って家に帰る。靴を脱ぐのももどかしくばたばた駆け上がって。
 「よおリョーマ。早ええじゃねえの。お前も大概遊びベタだなあ」
 新聞を持ってリビングから顔だけ出してきた親父に遭遇。無視して2階に上ろうとして。
 「親父! 新聞貸して!!」
 「ああ? なんだあ?」
 言い終わる頃には親父から無理矢理新聞を奪っていた。
 見るのはもちろんラジオ欄。ばらばらめくってそういえば一面にページ案内が出ていたような気がしたと気付いた時にはもうそこを開いていて。
 かろうじて覚えてたのは番組名だけ。放送曲も時間も、第一問題で今日あるかもわからない。
 それでもしらみ潰しに探してみて。
 「あった・・・!!」
 放送まで―――あと
15分。







〜 ♪ 〜






 どたばた階段を上って。
 勢いそのままに奥の部屋の扉を叩く。
 「菜々姉菜々姉!!」
 「・・・・・・どうしたんですか? リョーマさん」
 がちゃりと開いた扉。従姉の菜々姉がきょとんとこっちを見ていて。
 構わず俺は前に乗り出して叫んだ。
 「何かラジオ聴けんの貸して!!」
 「え・・・・・・?」







〜 ♪ 〜






 説明もそこそこに部屋に戻って。
 説明書片手に電源をつけ放送局をセット。
 アンテナを伸ばして―――
 「―――あれ?」
 何にも流れてこない。
 放送時間外―――なワケもないだろう。
 うんともすんとも言わないラジオをじっと見て。
 「なんでなんでなんで?」
 アンテナを掴んであちこちに振り回す。終いにはラジカセごと部屋中うろついて。
 それでも何にも聴こえてこない。
 「なんで〜〜〜〜〜〜!!!???」





 一方受け取るだけ受け取って慌てて出て行ったリョーマを見送った菜々子。
 珍しい様に笑みを浮かべて扉を閉め、
 「・・・・・・あら?」
 ふと気付いた。棚に置かれたままの
AM用アンテナを見て。
 自分が普段聴いているのが
FMばかりであったため渡し損ねていた。
 「そういえばリョーマさん、何を聴きたかったのかしら・・・・・・?」
 首を傾げる菜々子の耳に、
 『なんで〜〜〜〜〜〜〜!!!???』
 隣の部屋から、実に珍しい従弟の悲鳴が聴こえてきた。





 コンコン。
 「リョーマさん? どうしたの? ラジオ聴けました?」
 がちゃりと開いた扉から現れた菜々子を、泣きそうな顔で見上げる。
 放送まで残り1分。
 「菜々姉〜・・・・・・」
 絶望的な数字にもう呻くしかない俺を見て何に気付いたのか、菜々姉が部屋に入って来た。
 ラジカセの後ろにヘンな紐をつけて、
 「多分これで聴けると思いますから」
 優しく笑ってくる。同時に。
 今まで何も言ってくれなかったラジカセから明るめの曲が流れ出した。
 でもって―――
 『はい。リスナーの皆様こんばんは。今夜も始まりました、「不二周助のラジオを聴きながら」。今日は―――』
 ラジカセの向こうから聴こえてくる、さっき街角で聴いたあの声。
 聴きたくてたまらなかったそれに、
 「菜々姉ありがとう!!」
 俺は嬉しくて菜々姉に抱きついた。
 ふわっと髪を撫でられる。見上げると、やっぱり優しい笑顔で。
 「よかったわね。リョーマさん」
 「うん!!」







〜 ♪ 〜










♪     ♪     ♪     ♪     ♪










「君と出〜会〜った あ〜の日か〜ら〜
歩き出したこの道を〜
いつか振り返〜るそん〜な日が〜
僕にも来るだろう〜か〜♪」






 ラジカセにつけたマイクに向かって歌うは先輩たちに手伝ってもらって作った歌。流れる曲と一緒に中でクルクル回っているテープに録音されていく。
 これで何をどうしようっていう具体的な考えはないけど。
 それでも知って欲しくって。
 自分の存在を。
 ―――この気持ちを。
 精一杯篭めて、歌にして送る。







〜 ♪ 〜






 「リョーマさん? どうです?」
 「うわわわわわわ!!!」
 いきなり開けられた扉に思い切り慌てふためいて。
 封筒の中に必死に押し込んだテープを見て、菜々姉がくすくす笑ってた。
 「その様子なら大丈夫みたいね」
 何がどう大丈夫なのかはわからないけど、
 わからないままの俺を残して菜々姉は部屋から出て行った。







〜 ♪ 〜






 封筒に封をする。宛名確認。よし。間違っていない。
 ラジオをテープに録音して何回も確認した。
 封筒片手にパーカー着込んで帽子を被って。
 「行ってきまーす!!」
 靴を履くのも適当に、俺は外へと飛び出した。
 向かうはもちろんポストのある場所。
 そんなに距離があるわけじゃないのに、それでも俺は息を弾ませて。
 ようやっと辿り着いたポストへ、封筒を丁寧に放り込む。
 らしくもなくポストの前で手なんか合わせて。
 「ちゃんとあの人に届きますように」







〜 ♪ 〜





君に恋してんだ
DJ
時に 
High & Low になって
こんな張り裂けそうな想いごと
君に届け
今日のリクエスト












































 「はい。リスナーの皆様こんばんは。今夜も始まりました、『不二周助のラジオを聴きながら』。今日はまず、面白いお便りが来たので紹介します」
 マイクに向かって―――その向こうで今回も聴いているかもしれない『誰か』に向かって囁きかける不二。収録前のお便りチェックは大抵スタッフの仕事だが、不二は自らそれをしていた。葉書を、メールを、その中に篭められた感想や意見・要望などを読むのは、収録の次に大好きな作業だ。
 今回目についたのは1枚の封筒だった。こういったもののお便りは大抵葉書だ。たまに葉書に収まりきらなくて封筒にして来る人もいるが、それらとも少し違うような気がする。多分中身の厚さと感触の違いだろう。
 手に取る。紙ではない堅いが軽い感触。さして大きなものではないらしく、飾り気の全くない茶封筒の中を簡単に移動する。
 明かりに透かして見やる。シルエットはテープらしかった。
 前回の好評につき今回もゲストに来てくれた千石に、事前にその事を言ったところ、彼もまたおもしろそうだから流してみようよと言ってくれた。
 何が面白いのか。
 実はこの封筒。中を開けたところテープ1本とメモ1枚しか入っていなかったのだ。
 メモにはただ一言。





<あの日偶然 聴こえた声に 心奪われてしまったんだ>






 とだけ。
 総じて問題として―――
 ――――――送り手の名前がない。
 一応確認のためもう一度封筒の裏を見る。表はきちんと書かれていた封筒。裏は完全に真っ白だった。
 中のテープを見る。ラベルに書かれていたのは『
Dreaming on the radio』。とりあえずここに届くべきものだったのであろう事は間違いないと思わせる一文のみ。
 先に一度テープを聴くべきかと思い―――止める。
 わざわざ手紙ではなくテープに入れてきたのだ。恐らく内容もそれらしいものだろう。
 (それに・・・)
 思う。ひとつの予感。
 以前とある街角で公開録音をしていた時の事。あの時遠巻きからこちらを見ていた少年。彼が送り主なのではないだろうか。そんな漠然とした、根拠のない予感。
 だが、予感ではあっても感じるのだ。胸の奥で。あれきりではないと。
 録音が終わって、話し掛けようとそちらを向いたら彼はもう立ち去ろうとしていて。
 それでも一瞬だけ目が合った。自分だけをそこに納める大きな瞳。
 もう一度、その目に収まりたい。
 彼の名前が知りたい。
 彼の声が聴きたい。
 彼の事を・・・もっと知りたい。
 さしずめこのメッセージになぞらえるなら、
 (『あの日偶然 見えた姿に 心奪われてしまったんだ』、か・・・・・・)
 日に日に大きくなる渇望。それでもこちらから彼に接触する術はない。頼るはラジオだけだった。もしも聴いていてくれたら、彼の方から何かアクセスしてくれないだろうかと。
 そして今日―――
 ついにそれが叶った・・・・・・かもしれない。
 期待を乗せ、テープをかける。
 再生ボタンを押す。数秒のノイズが長くてたまらない。
 ノイズから繋がるように、流れ出したもの。それは曲だった。軽いテンポの曲。
 目線だけで千石に合図を送る。軽く首を振るところからすると、彼も知らない曲らしい。オリジナルの曲のようだ。
 曲に次いで、歌が流れ出す。恐らくまだ声変わり前の少年の声。
 予感が確信に変わる。
 流れる歌。机に頬杖を付いて聴く。どうやら自分をテーマに曲を作ってくれたようで。





Dreaming on the radio  今夜 君の 声が聴きたいんだ>






 不思議なものだ。そう願う彼の声を今宵自分はラジオで聴いている。
 (僕も・・・君の声が聴きたいよ)





<君に恋したんだDJ






 くすりと笑う。全国(ではないが)放送に告白を流してしまった。





 <こんな張り裂けそうな想いごと  君に届け  今日のリクエスト>






 (うん。届いてるよ)
 心で返し、頷く。
 曲が終わって、最初に感想を言ってきたのは千石の方だった。曲の―――ではなく、自分の。
 「嬉しそうだね、不二くん」
 笑って言う千石に、
 「うん。嬉しいよ」
 笑って不二もまた返した。
 取り出したテープに軽くキスをして、





 「このテープを送ってくれた名無しの君。











































――――――今度一緒に歌いたいな」












































 菜々子と共にラジオを聴きながら。
 不二からのメッセージに呆然とするリョーマの隣で、菜々子が静かに呟いた。
 「リョーマさん・・・・・・。
  郵便番号、住所、氏名に年齢、電話番号は・・・・・・」
 「書き忘れたああああああああ!!!!!!!」













































 「――――――っていうのはどう?」
 「ボツ」
 にっこり笑って指を立てた不二の説明を、リョーマが即座に却下した。他の聞き手は不二の摩訶不思議ワールドに全員硬直している。
 青学・不動峰・聖ルドルフ・山吹・氷帝・六角・立海の計7校生で作ることになったこの・・・・・・分類不能の一応音楽集。それの中心となるのがもちろん歌の部分。『ホームビデオの延長』がテーマであるためプロは一切雇わず(身内でプロになったものはもちろん参加している)自分達で作っており、おかげで何をするにも自由であるのはいいのだが、デメリットとして暴走するヤツはとことん暴走する。現在の不二が典型例。
 歌うのが1曲2曲程度なら普通に歌う様をプロモーションビデオとして納めて充分大丈夫だろう。中にはその1曲2曲で思い切り遊ぶものもいるがそれもまたよし。が、収録曲が多くなればそれだけではつまらない。そこでちょっとミニドラマ風に展開のあるものにしてみようか―――と不二が考えたのが先ほどの内容だった。
 「ええ!? なんでダメなのリョーマ君!! こんなにいい内容なのに!!」
 「ダメに決まってんだろ!? なんだよその展開!! 完璧アホ扱いだったじゃん今の俺が!!」
 「そんなリョーマ君も充分可愛いよvv」
 「余計にヤだ」
 「ああっ! リョーマ君そんな即答しなくても!!」
 縋り付く不二を引きずり出て行こうとするリョーマ。ちなみにそんな様も特典映像『乾のマル秘データ集 −制作編−』として載せるため撮られていたりする。
 ようやく立ち直ってきた周りがぼそぼそと呟き始める。
 「てゆーか『不二周助のラジオを聴きながら』って・・・。一体何放送してる番組・・・?」
 「千石がゲストならテニス関連じゃないか・・・?」
 「違うっスよ大石先輩。千石さんの紹介が『現在作詞に作曲と大活躍中の』なんてなってましたし、職業からして完全に変えられてるみたいっスよ・・・」
 「それにテニス関連ならお便りはまだしも曲は送らないし・・・・・・」
 今日ここに集まっていたのはもちろん不二にリョーマ、さらに青学一同。そしてこの歌の作曲を担当して、おかげで映像に友情出演出来そうな千石。
 そんな彼に反対する理由など当然の如くない。
 「いーじゃんいーじゃん。やろやろ?」
 「ほら、反対0に対して賛成が出たよ」
 「アンタが怖くて出せないだけだろ!?」
 「じゃあそれで決定だね」
 「人の話聞けよ!! 俺は反対してるだろ!!」
 「わ〜いじゃあさっそくリョーマ君の家に行って―――」
 「だ〜か〜ら〜!!!!!!」
 今度は一転。ノリ気の2人にずるずる引っ張られ部屋を出て行くリョーマ。
 静かになった部屋で全員で黙祷を捧げる。
 「頑張れよおチビ・・・・・・」
 代表して英二の呟いた言葉は、一体どういう意味で向けられたものなのだろうか。
 何にしろ―――
 ――――――魔の撮影が、始まる・・・・・・。







♪     ♪     ♪     ♪     ♪








 結局逃げられなかったリョーマ。3時間にわたる言い争いは、全員の説得と河村寿司での食べ放題と引き換えにリョーマの敗退で終わった。
 本人にとって恥でしかない演技を、河村寿司食べ放題のため頑張るリョーマは涙なしでは観られないものだったらしい。
 ちなみに実際出来上がったビデオは、



 ―――タイトルなど紹介される前奏部分に、『
注:河村寿司食べ放題につられ今回越前リョーマが壊れました』と赤字で思い切り記された・・・・・・。



―――Fin













♪     ♪     ♪     ♪     ♪

 樹っちゃん!? 樹っちゃんがなんかいたような!?
 そんなこんなで久々の『天才〜』。原点に返ってモロに不二リョ話でした。元は前々からやりたいと思っていながらなかなか出来なかったリョ−マの曲《
Dreaming on the radio》より。〜♪〜の部分にそれぞれ1フレーズずつ流していって、その間下の部分の事をやっているような感じで。サビは2人で歌っているシーンかな?
 あ〜も〜不二先輩がパーソナリティの月にこんな曲流すなんてリョーマってば!! と盛り上がったラジプリ1月の
OPですな。ネタ自体は前からあったのに書いていなかったら何だかリョーマのアルバム<SR>の《飛んで! 回って! また来週v −リョーマがいっぱい−》と展開が被ってしまった・・・・・・。結局変えずにやりましたが。

2004.8.14