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 『はい! 人込みごった返すここ××空港。それもそのはず、今やその活躍ぶりは日本のみならず世界に広く知れ渡るテニスプレイヤー、跡部景吾選手と不二周助選手が間もなく! 試合を終え帰国してきます!
  ―――あ! 来ました! 凄い人気です!! 耳が割れんばかりのFanたちの悲鳴に囲まれ、今、2人が日本へと帰ってきました!!
  ではさっそく今大会男子シングルス優勝及び準優勝されました両選手にお話を伺ってみましょう!
  ―――優勝、それに準優勝おめでとうございます!!』
 「ありがとうございます」
 「ふん―――」
 『ところで決勝戦、跡部選手は棄権をなされましたが―――』
 「体調不良だ」
 「そうだね。跡部君はその日ずっと僕のベッドで寝てたものね」
 「てめ不二―――!!!」
 『えええええええ!!!!???』
 さて・・・・・・・・・・・・

 

 

相部屋

 

 

         
 きっかけは、跡部(家)所有の別荘がその時たまたま上下水道の整備に勤しんでいたことだった。もちろんあの跡部の持つ別荘が水道も引いていなかったなどという悲しい理由ではない。その少し前に水源たるダムの事故により一切の使用が出来なくなっただけだ。
 そんなわけで、跡部はこの度行なわれた大会にて、初めて大会本部の手配していたホテルに泊まることとなった。
 が・・・・・・
 「え・・・!? 跡部選手が部屋を取る!?」
 「そんな!! 今まで一回もなかったじゃないか!!」
 「どーすんだよ部屋もーねえぞ!!」
 いきなりの話にうろたえたのは大会本部とホテルの役員だった。今回の大会で、大会本部側はホテルを借り切ってはいなかった。世界中から一流選手どころか世界トップレベルの選手たちを招く由緒ある大会だ。当然選手らの泊まる部屋もそれ相応のものにしなければ。が、豪華なホテルとは得てして規模も大きい。残念ながら選手やらその周りやらで全ての部屋を埋め尽くせるほどの人数はいなかった。そしてこの大会の特徴としては、一般の人にもスターらに直接触れ合う機会を設けようと、他の部屋には一般客を泊めるようにしている。今まではそれで問題なかったのだが、昨今の爆発的なテニスブームにより、そして何よりその原動力となり、現在も人気をニ分する跡部と不二が今回極めて珍しく同じ大会に参加するとくれば、Fanたちが目の色変えてここの宿泊権を欲しがっても無理はない。実のところ跡部が毎度毎度こういった施設を利用しないという事は有名である。が、それでももしかしたら―――!! と万に一つの奇蹟を信じ、特に2人が泊まる(かもしれない)と予想されるスイートルーム―――と同じ階の部屋は、裏では1泊数百万円レベルで取引されたらしい。
 その中、その『万に一つの奇跡』が起こった。Fanにしてみれば今すぐ首をくくって死んでも惜しくはない―――いや、正確には大会後だろうが―――ほどの感動。しかしうろたえた一同にとっては大問題だった。
 ここまでくればわかるだろうが、この大会、ホテル側からしてみれば格好の借り入れ時だ。なまじ高級なため普段そうそう混むなどという事がないこのホテル、しかし今回の事で満室どころか倍率は軽く100倍を越えた。しかも普段利用者など0に近いスイートルームまで!
 ならば1部屋でも多く解放したい。そう! 例えば予め『泊まらない』とわかっている選手の分の部屋を確保しなかったりなどして・・・!!
 つまり―――
 問題はこの一点に尽きた。
 そう・・・・・・


 ―――跡部のための部屋がない。

 

 

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 「ほらだから言っただろうが!! ちゃんと部屋は取っとけって!!」
 「今更ンな過去の問題蒸し返したって仕方ねーだろ!? 問題はこれからだ!!」
 「どうするよ! 部屋ねえなんて言えねえし・・・!!」
 「あ! じゃあ改めて別のホテル予約するとか!!」
 「それじゃ部屋取ってなかったのバレバレじゃねーか!!」
 「いや大丈夫だって! 『跡部選手にはこちらの方が相応しいかと』とかいってもっと高級そうな場所にすれば―――」
 「だったら他の選手どーすんだよ!?」
 「そこはまあ跡部選手は優勝候補ということで・・・・・・!!!」
 「だったら不二選手も変えなきゃなんえーだろーが!!」
 「はっ!!」
 『あほかあああああ!!!!』
 「ンなことしてみろ!! 間違いなくFanが暴動起こすぞ!!」
 「8割はこの2人目当てで来てんだからな!?」
 ―――などなど、あまりの大混乱振りに人格を壊して喚くお偉い方。なんで素直に部屋がないと跡部に伝えないのか・・・・・・もちろん理由は相手が他の誰でもないあの跡部だからである。なにせ俺様至上主義の跡部。逆はともかく他の皆にあって自分にないなどという事態があればどうするか。
 ・・・間違いなく怒るだろう。最悪、大会出場を取り消すなどと言い出すかもしれない。
 困る。それはとってもとってもと〜〜〜〜〜っても困る!! なにせくどいようだが今大会の最大のウリは跡部対不二の頂上決戦。この2人の直接対決は(非公式はともかく)公式ではただの1度きり。しかも2人ともデビュー1年目。その試合により2人は世界トップレベルに加えられる存在となったのだが、そこから3年、ますます実力を上げた2人は現在甲乙つけがたい状態だ。
 「こーなったら最終手段!」
 「つまり?」
 「スイートは跡部選手に譲って不二選手の部屋を変えよう!」
 『え゙え゙!!??』
 「なるほど! 不二選手ならきっと笑って許してくれるさ!!」
 「それに相手が跡部選手ならいくらなんでも文句を言ったりは・・・・・・!!!」
 そんなワケで、
 さり気にボロクソに言われながらも反対0で結論は出た。

 

 

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 「あれ? 跡部。珍しいね。君がホテル泊まるなんて」
 「全くだ。この上なく屈辱的だな」
 「あっはっは。まあまあいいじゃない。きっと最高級のスイートルーム用意しててくれるよ」
 「当り前だろ。そうじゃなかったら即帰る」
 主催者側の懸念通り、そんな事を平気で言う跡部。たまたまそばで2人の会話を聞いていた大会役員がほっとしつつ顔をしかめるなどというかなり珍妙な表情をした。
 選手らに部屋が発表される。
 「あれ?」
 「どうした? 不二」
 「僕の名前がない・・・・・・」
 「ああ?」
 不二の呟きに、跡部もまた配られた冊子を見やる。上の―――高級な部屋から順に書かれたページ。確かに最初にあった名前は跡部のみ。てっきり同等の部屋に不二の名前もあると思ったのだが・・・・・・。
 ―――念の為言うが不二はナルシーではない。そして跡部もナルシーではあるが自己評価はともかく回りの評価を見誤るような真似はしない。
 スイートは全部で10室。内大会側が確保したのが5室。跡部の他に女子やダブルスなどで有名な選手がいるのだが―――
 「珍しいな・・・・・・」
 「俺様はともかくこのメンツでお前がいねーのか? お前主催者に嫌われるような事でもしたんじゃねーのか?」
 「そんな憶えはない、と思うけど・・・・・・」
 はっきり言う。跡部除く他の人と不二を比べると、人気・実力両面においてスイートに入るべきは不二の方である。もちろん4畳一間の部屋に入れられようがそれで不二の人気や実力が落ちるわけはない。だが、たかが部屋一つといってもそこには選手の『格』というものが現れる(跡部はともかく不二はこのような考え方は好きではないのだが)。それも『その選手がどうなのか』ではなく、『大会側がその選手をきちんと理解しているか』という意味での『格』が。跡部相手にならまだしも、はっきりとここで不二を『格下』に扱えばこの大会主催者らの評価はガタ落ちとなるであろう。
 「ん・・・・・・?」
 「どうした?」
 「スイートどころか、ホテルに僕の名前がないんだけど・・・・・・」
 「よっぽど嫌われたな」
 「仕方ないなあ。今からどっか取れるかな?」
 「そこらへんの安いホテルならいくらでも取れるんじゃね―のか?」
 くっくっく、と笑う跡部に肩を竦め、不二はもう一度確認するべく上から見直した。
 と―――
 「・・・・・・あった」
 「どこに?」
 「あった、けど―――別のホテル」
 「あん?」
 「ほら」
 と不二が指を指す先。確かに彼の名前の隣に別のホテル名が書かれていた。それも―――
 「ほお。お前にはぴったりじゃねえの。不二」
 跡部が鼻で笑うように、今回皆が泊まる(予定の)ホテルと比べると1ランク下がるホテル。同じスイートではあるが・・・・・・
 「まあ、僕は別にいいけどね・・・・・・」
 呟き、見ていた冊子で軽く尖らせた唇をなぞる。細く開けられた目が、こちらをちらちらと伺っている主催者らを捕らえた。恐らくこの事態をいつどうやって説明[イイワケ]すべきか悩んでいるのであろうが。
 不二の唇が笑みの形を取った。
 「ねえ跡部」
 「何だ?」
 「君、今回部屋取るの彼らにいつ言った?」
 「5日前、だな。別荘が使えねえってわかった時点ですぐ手配されたはずだ」
 自分でしないあたりがさすが跡部なのだが、それは気にせず「ふーん・・・・・・」と頷く不二。唇に続き、その目が笑みの形となった。
 ―――いつもの柔和な笑みではなく、冷笑へと。

 

 

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 「すみません。部屋の事ですけれど、
  ―――実は跡部君の部屋、取ってませんでした?」
 『な・・・・・・!!??』
 くすりと笑う不二に小声で告げられた事に、役員らは一斉に顔色を変えた。知らないはずだ、彼は、この事実を。だからこそこれから納得できる理由を言おうとしていたのに・・・・・・!!
 たじろぐ役員たちに推測を確信へと変え(まあ他に考え様はなかったが)、不二がにっこりと笑った。
 『え・・・・・・?』
 驚く役員らは無視して、くるりと逆方向を向く。
 逆方向―――跡部のいる方を。
 「ねー跡部―! 僕の部屋がないんだって!! 君の部屋に泊めてくれないかな!?」
 大声で、それ故に周りによく聞こえる声で呼びかける不二。その言葉に、周りにいた選手らその関係者らがざわめいた。あの不二の部屋を取っていない。大丈夫なのか? この大会・・・・・・。
 大会主催者らにやみやたらに降り注ぐ不信感たっぷりの目。
 そんな中―――
 (なるほどな・・・・・・)
 話し掛けられた当の本人、跡部は口の中でちいさくそう呟いた。不二の囁きが聞こえたわけはないのだが、彼も頭の回転では不二と互角である。大体の事情は察した。そして不二が、今の言葉で自分がそれを理解したのだとわかっている事も。
 ふっと笑って、跡部が答えた。
 「仕方ねえなあ。泊めてやるよ。ありがたく思いな」
 「うん。ありがとう」
 もちろんこの台詞、聞いた通りの意味ではない。跡部の言葉は不二にではなくその後ろで真っ青になっていた役員らに向けて。そして不二の言葉は―――
 『付き合ってくれてありがとう』
 そう判断し、跡部が鷹揚に頷く。
 が、残念ながら彼の眼力[インサイト]をもってしても不二の全てを暴き出す事はできなかった。
 そう―――
 ―――不二のこの、『跡部以下に見られた仕返し』という名目でのイタズラ。その矛先、対象者は何も大会主催者側のみではない、という事を・・・・・・。

     

 

 「あれ? 何かな? 僕は嘘は一切言ってないよ?
  だってあの部屋、元は僕の為に取ってあったんだからもちろんあのベッドも僕のものなんだし」
 「問題はそこじゃねえ!!」
 「・・・・・・違うんだ」
 「なんでてめえはそういう紛らわしい言い方する!?」
 「え? やだなあ。『体調不良』なんてもっともらしい言い訳最初にしたのは君でしょ?」
 「間違ってねえだろうが」
 「そうだねえ。君がまさかこんなにデリケートだったなんて思ってもみなかったよ」
 「・・・・・・てめーは俺をどういう目で見てた・・・?」
 「ん? 君ならあの程度で倒れるほどヤワじゃないと思ってたんだけど―――」
 「あれで意識保てるヤツなんててめえくらいだろ・・・?」
 「でも、気を失う君は可愛かったなあ」
 「誰のせいだと思ってやがる・・・!!」
 「う〜ん。誰のせいだろ?」
 「てめえのせいだ!!」
 「君のせいでしょ(さらりと)。
  ―――ところで、インタビューされてる方がなんだか悶絶しかけてるみたいだけど?」
 「いいんじゃねえのか? 放っといて」
 「それもそうだね」

 

         
 そんなワケで決まった不二と跡部の相部屋。ぺこぺこぺこぺこ頭を下げつつ、穏便に事態が進んだ事に心底安堵する役員らに腹の底で大笑いしつつもそれを決して表には出さず、2人はさっさと彼らを部屋から追い出した。
 「―――で? これからどうするつもりだ?」
 2人っきりになった部屋にて、尋ねる跡部。
 「ん? 何が?」
 「どうせてめえの事だ。このままほいほい引きさがりゃしねーんだろ?」
 的確なその推測に、不二が笑顔で賞賛を送った。
 「さすが跡部」
 「てめえの考えくらいお見通しだ」
 「でも・・・わかってて乗ったんだね」
 「そりゃ俺様の部屋取ってねえなんていうやつらに味方する筋合いはねえな」
 「そんな君のせいで僕が追い出されたんだけどね」
 「ああん? てめえ俺に文句言おうってか?」
 「まさか。君にケンカをふっかけるほど向こう見ずじゃないよ、僕は。
  まあ、どうするかは後で決めるとして―――
  とりあえず今日はもう寝ない? 夜も遅いし」
 「まあ、な」
 かくて、不二の企みは分からないままに1日が終わろうとしていた。
 が、
 スイートでも複数人用の部屋もあるにはあるが、最初は不二1人が泊まる予定だった部屋、もちろんシングルである。当然ベッドも1つしかない。
 「で? どっちがベッドで寝る?」
 「そりゃ俺だろ?」
 「僕だって寝たいよ」
 「てめーはそこらのソファででも寝てろ」
 「え〜。せっかくこんな広いベッドなんだよ?」
 「俺はてめえと一緒のベッドで仲良く寝るつもりはねえ」
 「奇遇だね。僕も全然ないよ」
 さすがスイート、たとえ1人用のベッドだろうと下手なダブルベッドよりもずっと大きいそれ。細身の人なら余裕で5人くらいは寝られる。
 ―――のだが、もちろんこの2人が『2人で仲良くお泊まり会v』的な展開を受け入れるわけはない。
 かくて、無意味な時の消耗が1時間ほど続いた後、
 「じゃあ勝負でもして決めようか」
 「そうだな」
 ようやくその不毛さを悟り、2人は無難な方向ではなしをまとめたのだった。

 

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 勝負は1回きりのポーカーにて。ブタ対1ペアというとても世界トップレベルで争う2人とは思えない低レベルな勝負を制し、ベッドを確保した跡部は―――
 珍しく、悪夢にうなされていた。
 (う・・・く・・・・・・!!)
 場所はどこだか、ただひたすらな暗闇の中で、ヘドロに飲み込まれていく自分。
 引きずられ、沈む中で伸ばした手はどこにも届かない。
 周りには、自分を見下ろし佇む人、人、人。全て自分が負かしたヤツら。
 そいつらが、自分を見下ろし嘲り笑っている。
 (く、そ・・・・・・!!)
 伸ばした手を引っ込める。誰がこんなやつらに助けなど求めるものか。
 「ふ・・・ざ・・・・・・―――けるなあ!!!」

 

 

●     ●     ●     ●     ●

 

 

 ベッドからがばりと身を起こした跡部。起きた先、そこは―――やはり地獄だった。
 「(何・・・・・・?)」
 呟く声が、手に阻まれてくぐもる。しかし自分の鼻と口を覆う手は外せなかった。
 「―――ああ、跡部。おはよう」
 整った顔を歪める跡部の耳に、全てを吹き飛ばす爽やかな声が聞こえてきた。
 「(不二・・・・・・)」
 やはりくぐもった声で、跡部が諸事情によりルームメイトとなったかの男の名を呼ぶ。爽やかな笑み。大きめのパジャマ姿で朝の光をその身に浴びる彼は、気だるげにベッドで上半身を起こす自分と合わせるとまるで情事の後のようだ。
 ただし、その手に持たれた地獄の元凶がなければ。
 「(何だ、それ・・・?)」
 口と鼻を片手で覆ったまま、もう片方の手でそれを指差し尋ねる。先ほどまでの夢に出ていたヘドロによく似たそれ。そこから発せられていると思われる異臭。片手を離したおかげで一瞬嗅いでしまったような気がして、跡部がさらに顔をしかめた。
 「ああ、これ?」
 そんなものを持っているとはとても信じられない爽やかさで不二が手に持ったものを軽く振った。ガラスコップに入った謎の液体がぴちゃぴちゃと音を立てて揺れた。
 「新作乾汁。出来たばっかだからまだ名称は未定だそうだけど」
 そう言い、おいしそうにそれを飲み干す。
 は〜っと息をついて、
 「うん。やっぱ朝はこれがないとね」
 「いつも・・・・・・それ、飲んでんのか・・・・・・・・・・・・?」
 「ある時はいつも」
 「乾は日本だろ・・・・・・?」
 「昨日送ってくれたんだよねv ちゃんと大会終わるまで2週間分v
 「マジかよ・・・・・・・・・・・・」
 心底嫌な予感に跡部が呻く。そんな彼の予感を100%裏切らず―――

     

 

 

 「あんな臭い毎日かがされてたら倒れるに決まってんだろ!!??」
 「そうかなあ? そんなにおかしい臭いでも―――」
 「おかしいに決まってんだろうが!! なんで飲物からヘドロと同じ臭いが出てんだ!! しかも換気しても取れねえし!!」
 「あれ? でもほら、くさやとか、ブルーチーズとかそういう発酵食品には珍しくないでしょ?」
 「あれはそれ以上だっただろうが!!」
 「そうかなあ・・・・・・?」
 「なんでそれを普通に飲みやがるんだてめえは!?」
 「おいしいから」
 即答する不二。
 こんなノリで毎朝行なわれたこの地獄絵図。例え直接飲んでいなかろうがその臭いに2週間さらされつづければ跡部が倒れたところで無理もないだろう。おかげで話題独占のはずの決勝戦。冒頭で記者が言ったように跡部は棄権、不二の不戦勝というこの上なくつまらない終わりを迎えたのだった。わんさと送られる苦情に大会主催側が大慌てで対応する中―――
 「てめえの『仕返し』ってのもこの程度か。意外とつまんねえヤツだな」
 「そうかな? でもね―――」
 「あん?」
 「―――面白くなるのはこれからだよ」
 にっこりと笑う不二に、跡部の眉が寄る。それを無視して手続きすべくさっさとカウンターへ歩いていく不二。
 その口元が、面白そうに吊りあがった。
 「僕はね、跡部。人より下に扱われるのは嫌いなんだ。
  ―――『仕返し』、主催者たちだけなんて誰が言った・・・・・・?」
 そんな不穏な言葉が聞こえなくもなかったその頃―――

 

 

 「あ、あ、あ、跡部様と不二様があああ!!!???」
 「同じ部屋で!! 同じベッドで!!」
 「あんな事やそんな事を!!??」
 「嘘!! 嘘よ!! いやああああああああ!!!!!!!」
 「しかも!! 跡部様が受けえええ!!???」
 「止めてえええええ!!!! イメージ崩れるううううう!!!!」
 「それに! 不二君って恋人いるんでしょ!!??」
 「じゃあ・・・・・・二股!!!!???」
 「え!? お互い知らず!!??」
 「知らないわけないでしょ!! あんな大々的に言ってるんだから!!」
 「それじゃ・・・・・・・・・・・・!!!」
 「本命が越前君、で、跡部様が愛人・・・・・・!!??」
 「いいえ、あくまで越前君との事は跡部様との付き合いを隠すカモフラージュかも・・・!!!」
 「それとも・・・3人で付き合ってんの!!??」
 「じゃあ―――不二様が跡部様と越前君を・・・・・・!!!」
 「だとすると―――!!!」
 「きっと―――!!!」
 ―――インタビュアー同様途中で悶絶しラストまできっちり会話を聞いていなかったFan一同。事実からずれているどころかねじくり曲がって螺旋でも描けそうな方向へと話題を発展させていく彼ら彼女ら。
 さらに悪いことにカメラスタッフまで悶絶してたか2人の会話は聞かず大興奮のFanの反応ばかりテレビ等で流したおかげで・・・・・・

 

 

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 プロテニスプレイヤー不二選手×跡部選手デキてる!?

 「―――なワケねえだろうが!!!」
 「まあまあ跡部君v
 「てめえもちゃんと否定しろ!!!」
 「え? だってホラ、僕たち、同じ部屋で寝た仲だしvv
 「同じベッドじゃ寝てねえ!!!」
 こんな見出しを付けるスポーツ紙をぐしゃりっと潰し投げ捨てる跡部。が、この上なく不幸な事に、その相手にしてとっくに本命の彼には事実を話し終え(そして同じモノの経験者別名犠牲者としてあっさり納得され)た不二は、無責任にのらりくらりと返事をして疑惑をさらに深めていくばかりだった。
 実のところ今回部屋決めに一切関与していない跡部は完全被害者である。のだが、どうも『跡部に比べて格下』に扱われた時点で不二の怒りの矛先は跡部にも向いていたらしい。
 なまじ色恋関係の噂が全くといっていい程なかった分跡部への攻撃は凄まじいもので―――
 そして何より普段人目など全く気にしない跡部にここまで他者からの風評を意識させるほどの不二の煽り振りは凄まじいもので。
 表面上、騒ぎの的が変わったのはそれから1ヵ月後、跡部が生まれて初めて神経性胃炎にて病院に運ばれたことによりだった。
 ―――そこに完全嫌がらせで不二が見舞いに行き、よりいっそうその後話題を広めたのだが、それは別の話。
 そして、不二のもう一つの『仕返し』対象に選ばれていた大会主催者側は・・・・・・

 

 

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 『なんであの2人を同じ部屋にしたんですか!!』
 『ありがとうございますあのお2方を同じ部屋に泊めてくださいまして!!』
 跡部欠場への苦情が一段落―――全くしていない中今度は同じ内容で抗議と感謝の嵐に見舞われる大会関係者ら。
 どーやって対応すりゃいいんだよ!!?? と泣き喚く彼らに合掌を送りつつ、
 世界各国のテニス界(それも選手らではなく運営する側)ではひとつのお約束が生まれた。
 即ち―――
 『跡部と不二、2人の部屋は絶対に別々に取ろう』
 と・・・・・・・・・・・・。

―――終わりっぽい

 

 

 

 

 

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 なんっだかすっさまじい話でしたね。さて跡部と不二。どうも最近この2人の絡み(CPに限らず)はいいなあ、と思って出来ました。なお2人はこのシリーズではありませんが 〜跡部様の下克上大作戦(どんな話だよ・・・)!〜 で触れました通り偶然ばったり会っては何となく一緒にいたりもする曰く『茶飲み友達』的な関係です。不二先輩が跡部様の事を本人の目の前で呼び捨てしているのはこのため。
 さって、実のところ全くつけるつもりのなかった大会主催者側の設定などつけたがためにむやみやたらと長くなってしまったこの話。実は続く気満々だったり。次はこのシリーズで男子シングルスのプロテニスプレーヤーとして思い浮かべやすい人にして跡部様といえばやはりこの人! 最近お気に入りの彼が出てきます。お楽しみに―――される方はいないでしょうに。

2003.8.9

 ・・・・・・あ、こんな事書いてたらタイミング良くその人のキャラソンが・・・。腰の抜けそな曲を聴きつつさよ〜な〜ら〜・・・・・・。