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 『今回、ここ日本で行なわれた大会! わが日本勢3名、跡部景吾選手・不二周助選手・千石清純選手はいずれ劣らぬ実力者ぞろい。今回の大会でも優勝候補の筆頭に上げられ、地元で華々しく表彰される事を誰もが期待していました―――が!
  なんとアクシデント発生! 3選手とも大会の半分を終えないうちに敗退! しかも全員不戦敗!! 一体彼らの何があったのでしょう!!??
  ―――あ! ただいま大会を終え選手らが出てきました!! ではさっそく3選手にお話を伺ってみましょう!!』
 「あ〜面白かったな〜。今回の大会♪」
 「全っ然! 面白くねえ・・・・・・」
 「まあまあそう言わずにさ、跡部君v 君だって充分楽しんだじゃん♪」
 「ちっとも楽しんでねえ!!」
 さて・・・・・・・・・・・・

 

 

相部屋その2

 

 

         
 前回の反省により、大会運営側は『跡部と不二の部屋は絶対に別々に確保しよう!!』と心に固く誓った結果、今回の大会ではしっかりとそれが実現される事となった。
 ―――のだが、大会運営側はあまりにもそれに気を配りすぎた。おかげで日本人選手はこの2人のみだと勘違いをし、もう1人の部屋を確保するのを忘れたのだ。
 そう。今度は・・・・・・。

 

 ―――千石のための部屋がない。

     

 

 

 

 「アウト!!」
 「あれ・・・・・・」
 大会にて。審判の判定に不二は思わずそんな間の抜けた声を上げていた。
 『どうしたのでしょうか不二選手!! これでミスは4度目!! 普段の彼にしては珍しい―――どころかありえないと言い切れるほどの数字です!! リードは守っていると言うものの、また体調が悪いのかと心配されます!!』
 アナウンサーがそんな事をカメラに向かって叫ぶ。その声が直接本人に届くわけはないが、テレビの向こうで心配げに見守る視聴者らにはしっかりと届いていた。
 そして、いつもの喫茶店で不審げに眉を寄せる少年にもまた。
 「何やってんだよ、周助・・・・・・」
 あからさまにいつもと違う様に、焦燥感も露にして呟くリョーマ。だが今回、恐らくどころか完全に始めてのことなのだが―――彼の思いは不二には全く届かなかった。
 『ゲーム不二! 4−0!!』
 『このゲーム、何とか不二選手は先程のミス1回きりで乗り越えました! しかしまだ大会は全14日中5日目! 優勝有力候補の1人として上げられている彼がよもやこんなところで苦戦するなど一体誰が想像したでしょうか!?』
 『もしかしたら今もベンチで彼の試合を見ている跡部選手のプレッシャーが大きいのかもしれませんね』
 『え? ですが順調に行っても2人が当たるのは決勝でしょう?』
 『ですが敵の様子見といわんばかりにああもしっかり見られては・・・。しかも隣にいるのは今大会ダークホースの千石選手。彼もなかなかに食えない選手ですよ。あの2人を前にここで手の内を明かせば明らかに不二選手には不利となります』
 『となるとわざとミスをしている、と?』
 『その可能性もあるかもしれません』
 (ンなわけないじゃん・・・・・・)
 解説者の的外れの解説にリョーマの眉が更に寄る。跡部にしろ千石にしろお互いの実力などとっくに知っている。今更手の内を見せるだの何だのは意味がない。それに―――
 「兄貴のミスって、完っ璧『真面目に』やったよなあ・・・・・・」
 「先輩マジでどうしたんでしょうね・・・・・・」
 「うんにゃ。朝電話したけど別に不二普通ぽかったし〜・・・・・・」
 等々と、やはり同じ事を思う裕太・桃・英二。
 「おい越前。お前先輩となんかあったのか?」
 可能性として一番高いことを桃が尋ねた。リョーマ絡みの好不調ならいつものことだ。
 が―――
 「・・・・・・別になんも。てゆーか最近会ってないし」
 「「「はあ!!??」」」
 テレビを見たままのリョーマの発言に驚きの声が上がる。この大会が日本で行なわれている以上もちろん不二も日本にいる。ならば1分1秒無駄にはせずに―――どころか練習時間を削ってまで不二ならリョーマに会いに行くだろうに!!
 「な・・・! お前らどうしたんだよ!?」
 「ケンカしたのか!?」
 「え・・・? けど不二ほんっと普通だったよ? そんな様子全然なかったし」
 「してないっスよ別に。ただ『ホテルは混乱してるからちょっと今招けそうにないんだ。ごめんね。多分すぐ大丈夫になると思うけど・・・』って言われただけで。メールとか電話とかは普通に来ますし」
 「「「『混乱』・・・・・・?」」」
 リョーマの―――口を通して伝えられた不二の言葉に、3人も眉を寄せた。混『雑』ではなく混『乱』。一体何をやってるんだ・・・・・・?
 そんな事を思うリョーマら4人だったが、実は不二の言い分は全く以って間違いではなかったのだ・・・・・・。

 

 

 

         
 なんとかホテル側との話し合いの結果、彼ら日本人選手3人のために用意出来たのはシングル1部屋にダブル1部屋。つまるところ―――
 「2人が一緒の部屋ってのは決定、か・・・・・・」
 「問題はその2人が誰と誰かってことだよね・・・・・・」
 跡部の言葉に千石が続けた。
 「そりゃ俺が―――」
 「ダメだよ跡部君。それじゃせ〜っかく君たち誘った意味がないじゃないか」
 そんな千石の言葉通り、今回大会が行われたのは東京。3人は自宅から通ったところで全く問題のない距離だった。それでありながらなぜこんな不便な思いをしてまでホテルにいるのかというと―――
 『3人でお泊まりだよ!? それも2週間!! 楽しそうじゃん!!』
 ―――という彼の発言が元だった。
 もちろん前回の反省より猛反対する跡部。だが、
 『ああなるほど。確かに面白そうだね』
 悪ノリした不二に、さらに味方を得てパワーアップした千石に押し切られる形となった。
 『くそ・・・。何で俺がこんな目に・・・・・・』
 と呟いたのは誰だったか、とりあえずそんなこんなでホテル生活は強制的に可決された。
 そこで訪れたのがこの問題。これで2人をセットにしておけば勝手に潰し合う・・・!! と1人仄かに期待していた跡部であったが、
 ―――残念ながら世の中、というかこの2人はそこまで甘くはなかった。
 「じゃあ今回も勝負でもして決めようか」
 「あ、それいいね♪」
 「まあ・・・いいんじゃねーのか」
 今まで黙っていた不二の発言により、流されるまま部屋決めは天に託される事となった。

 

 

●     ●     ●     ●     ●

 

 

 勝負は(またしても)1回きりのポーカーにて。『ラッキー』千石の力か、前回よりグレードアップしてツーペアだのスリーカードだの出てくるようになった中・・・・・・。
 「なんで俺様ばっかり相部屋・・・・・・」
 「いや、跡部君が弱すぎるからじゃないかな・・・・・・?」
 「うん・・・。この間僕とやった時はまだワンペアくらいは出てたのにね・・・・・・」
 毎日ブタのカードを握り締め呻く跡部。コメントのし様のないそのカードに冷や汗を流す千石と不二。
 そんなこんなで毎日毎日千石か不二、どちらかと相部屋をさせられ―――そして毎日毎日何らかの肉体的・精神的苦痛を味合わされた跡部は、
 ―――大会4日目、というか5回目の勝負をやはり敗退した時点でようやく名案を思いついた。
 「勝負の方法を変えようぜ」

     

 

 

 

 2セット目を取り終え、残り1セットとなった不二。審判のコールを聞きながらなぜか顔を背け口を押さえる。その肩は小さく震えていた。
 『ああっと! 不二選手僅かですが痙攣しています! やはり体調が悪いのでしょうか!?』
 『疲労・・・にしてはおかしいですね。彼はこの程度でバテるスタミナの持ち主ではないでしょうに。それとも処置の仕方を間違えたか・・・・・・』
 『ああ。筋肉を直接冷やしたとか、ですか?』
 『ええ。ですがそんな基本的なミスを犯すとも考えにくいし―――』
 『でも今日の単純ミスを見れば、いつもと違うと考えた方が―――』
 などと好き勝手に言っている周りは放っておいて、不二は俯いたままコート脇に置かれたベンチへと戻っていった。件のベンチに。
 「や。不二君。お疲れ様v
 先程アナウンサーらが言っていたように、そこには千石と―――さらに跡部が座っていた。
 笑顔で手を振る千石。その隣で、なぜか不二のよく知る某友人を彷彿とさせる仏頂面で腕を組む跡部。
 2人を無視して不二はベンチへの端へと腰を下ろした。若干斜め気味に。
 そして背もたれに肘までついて、その上に頭を乗せて―――
 ブッ―――・・・・・・
 「あはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!!!!!!!!!!!」
 堪えきれずについに大爆笑した。
 「も〜千石君も跡部も止めてよ。向こうで笑わないようにするのすっごい大変だったんだからね!!」
 お腹を抱えて、涙を拭って。それでも収まらずに不二がそれこそ腹筋を痙攣させ笑い続ける。
 「え〜。俺達普通だったじゃん」
 「どこがだ!!」
 不満タラタラの千石に怒鳴りつける跡部。さて彼らが一体何をやっていたのかというと―――

 

 

 

         
 跡部の提案する『勝負』とやら。それは(今度こそ)彼らプロテニスプレイヤーに相応しいものだった。
 <明日行なわれる試合で、1ゲーム終えるのに時間のかかった2人が負け>
 そんな『勝負』。
 「1ゲーム? 1セットじゃなくって?」
 「1セットじゃ長すぎだろ? お互いどれだけ休むかわかんねーし。 1ゲームならほとんどプレイ中だけがカウントされる」
 「ふ〜ん。面白そうだね。
  ―――じゃあ最初の審判の合図からやっぱり最後の審判のコールまで、その間の時間でいいかな?」
 「ふんふん。で、勝負に使うのは? 一番短かったの? それとも一番長かったの?」
 「長かったのだろ? 短いのじゃさして差がつかねえよ」
 1ゲーム。短ければ1分以内に終わってしまう。確かにそれでは差がつきにくいだろう。
 「そうだね」
 「うんうん。じゃ、明日はそれで決定。と・・・。
  ―――ゆーわけで、さ〜跡部君。今日は言い逃れ出来ないよ。俺と一緒に寝よ〜かvvv」
 「お休み。跡部。千石君」

 「明日はぜってえ勝つからなーーー!!!」
 跡部の決意をBGMに、その日2ペアにて1人部屋を確保した不二はぐっすりと寝たのだった。
     

 

 

 

 素なのか妨害作戦なのかそれともただの見せつけなのか、ベンチで隣に座った千石はさっそく跡部に絡みだした。笑顔で腕を組み首を持たれかけさせ、さらにペットボトルを差し出したり汗を吹いてやったり。
 本来の跡部ならそんな事は気にしない―――というかそうされてむしろ当然であろうが、千石相手にそれをさせるとその後どうなるか分からない。
 そんなワケで必死に断る跡部共々、どう見てもショートコントと化したそれ。いくら見ないようにしようと努力しても、ボールの飛んでいく方向によってはどうやっても見ざるを得なくなる。
 その度笑いを必死で堪え、ミスを連発させていた不二なのだが・・・・・・。
 「なんで嫌がるのさ跡部君!! 俺達あんな事やこんな事までした仲じゃん!!」
 「どんな事した仲だ!!??」
 「うっうっ。跡部君ってば昨日あれだけ俺に激しくしてくれたってのにもう忘れちゃったワケ? キヨは悲しいよ・・・・・・」
 「てめえが安眠妨害したからぶん殴っただけだろーが!! ワケわかんねえ理屈つけて嘘泣きしてんじゃねえ!!」
 「まあまあ跡部君。そんな照れないでvv
 「どこをどう解釈したらそう見える!!」
 「そうだよ跡部。僕(達)に遠慮せず仲良くやりなv 温かく見守っててあげるからvv
 「さっきと言ってる事逆じゃねーか不二!!」
 「大丈夫。僕は君たちの味方だから。たとえ一昨日あんなに激しく求めてくれたのにもう僕のことは飽きちゃったのかなんて思っても―――ってああ、これは言っちゃいけなかったね」
 「てめえは求めてねえ!! 風呂場で3時間も寝こけやがったからさっさと出ろっつっただけだろーが!!」
 「跡部君! もう浮気なわけ!? しかもお風呂!? 「早く出ろ」って、そんなに早くヤりたかったの!!??」
 「だからてめーら俺の話を聞けーーーーーー!!!!!!!」

 

 

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 そんな感じで続いたコント―――もとい試合。とりあえず不二・千石の試合を終え―――
 「よ〜っしラッキー♪ 俺の勝ちv
 「う〜ん。やっぱりミスが痛かったなぁ・・・」
 「だな。ミスしてねえゲームは全部1分台だしな」
 クリップボードを囲んで話す3人。千石の試合中もやはり不二が跡部にちょっかいをかけまくっていたのだが、それにもくじけず―――どころか逆に燃えた千石が(おおむね)短時間で勝負を決めた。
 ―――ちなみに短時間で決まらなかったのは最初のゲーム。試合を無視して燃えたおかげで相手の球をモロに顔面に受けたのだが・・・・・・。
 「じゃあラストは跡部だね」
 「行ってらっしゃ〜い」

 

 

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 (不二の記録が4分23秒、千石の記録が4分12秒。
  ―――楽勝だな)
 が―――
 「―――でも千石君、昨日跡部と2人でした『あんな事とかこんな事とか』って、なんだったの?」
 「あ、気になる? あのね、跡部君ってば自分のベッドに俺を引き込んでさ、押し倒されちゃったよ。しかも口まで塞がれてvvv
 「へえ・・・。跡部ってば大胆だな〜・・・」
 「でもその強引さが跡部君、って感じで」
 「ちょっと待て! それはてめえが勝手に俺のベッドに潜り込んで騒ぎ立てたから猿轡かませて転がしただけだろーが!!」
 ギュルルルル―――!!
 「ポイント―――」
 「はっ!!」
 つい2人の会話に突っ込みをいれてしまったが、よくよく考えずとも今は試合の魔最中だった。
 「惜しい跡部君!!」
 「試合までそっちのけで千石君見てんだ。かなり脈ありだね」
 「あっはっは。照れるなあ不二君v
 「違―――!!!」
 とりあえず最初のゲームは(もちろん)取ったが、タイムは4分9秒。内3分は2人に突っ込みを入れていたような・・・・・・。
 (やべえな・・・・・・)
 あと3秒で千石のタイムに並んでしまう。しかもこのままではそれも時間の―――ゲーム数の問題。どんどんヒートアップしていく(としか思えない)2人の会話をとめるのは無理。ならば―――
 (さっさと終わらせる・・・・・・)
 ―――標的を変更すればいい。これが跡部の出した結論だった。
 かくて・・・・・・

 

 

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 「相手選手の棄権により、この試合、跡部選手の勝利!!」
 破滅への輪舞曲をラケットではなく体にモロに食らい退場となった選手を見送り、跡部は人知れずほっとため息をついた。これでカウントされたのはさっきのゲームのみ。4分9秒なら自分の勝利。
 (ようやくこれで1人部屋か・・・・・・)
 そんな感慨を胸に抱くが・・・・・・
 ベンチに戻った跡部への判定は、なぜか全く違うものだった。

 

 

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 「と、いうわけで! 相部屋は不二君と跡部君で決定!!」
 「よろしくね。跡部」
 「ああ!?」
 千石のコールに不満の声が上がる。もちろん飛ばしたのはこの人跡部。
 「何でだよ!? 俺様は4分9秒でトップだったじゃねえか!!」
 ちっちっち
 跡部のクレームに千石と不二、2人揃って指を振った。
 「1239秒」
 「問答無用で跡部君がビリだよ」
 ストップウォッチとクリップボードを見せる2人。その手からそれぞれを引ったくって見比べる。
 と―――
 「第2ゲーム・・・・・・?」
 「そう」
 「何でだ・・・? 相手が棄権負けしたんだからノーカウントだろーが・・・・・・」
 信じられない事態に呆然と呟く跡部。確かに第2ゲームは1ポイント目で破滅への輪舞曲が決まったため行なわれて―――少なくとも終えてはいない。
 そんな彼に、不二がにっこりと微笑んで見せた。
 「僕、昨日言ったよね?
  『最初の審判の合図からやっぱり最後の審判のコールまで、その間の時間』だって」
 それは聞いた。
 渋々頷く跡部に、さらにやはり笑顔の千石が付け足す。
 「相手が運ばれるまで審判が何も言わなかったんだよね。となると『最後の審判のコール』は跡部君の勝ちっていってたアレ。
  で―――」
 わなわなと全身を震わせる跡部へ、2人がハモって宣告した。
 「「それまでのタイムが1239秒」」
 「と、いうわけで! 相部屋は不二君と跡部君で決定!!」
 「よろしくね。跡部」
 最初に戻る会話に、跡部は完全に灰と化したのだった・・・・・・・・・・・・。

 

 

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 そして次の日。
 「―――あれ? 不二君は?」
 試合時間になっても現れず、不戦敗との判定に見物人がブーイングを飛ばす中、千石が跡部に尋ねた。
 「ああ、あいつか? 何し出すかわかんねーから昨日の晩飯んとき超強力睡眠薬飲ませてベッドに縛り付けといた。多分まだ寝てんじゃねーのか?」
 「へえ」
 とりあえず謎は解けた。
 「んじゃあ後で俺も部屋行っていい?」
 「別に構わねーが、見てもあんま面白いもんねーぞ。縛られてるだけだしな」
 「それでも見たいv
 と、試合後大喜びで部屋に向かう千石。後についていく跡部。
 千石が開け放った扉の向こう、部屋の中には縛られてベッドに横たわる不二が―――
 ―――いなかった。
 「やあお帰り2人とも。試合見てたよ。ベスト32おめでとう」
 「なっ・・・・・・!!」
 「えええええええ!!!???」
 ベッドに腰掛け、どこから調達してきたかワインとチョコ(ちなみに実はどちらも跡部の私物。キー付きのワインセラーに入れておいたはずがどうやって取り出したのか・・・・・・)をサイドテーブルに置いてくつろぐ不二に、2人が驚きの声を上げた。
 「なんでてめえ普通に・・・!!」
 「ああ。少し体捻ったら簡単に取れたよ」
 「馬鹿な・・・!! 縄抜けだって出来ねえように縛ったはずだぞ・・・!!」
 「てゆーか、縄抜けとかそーゆう問題じゃないんじゃ・・・・・・」
 慄く跡部の隣で千石が青褪めた顔で呟いた。不二のそばに転がるもの。恐らくそれで縛られていたのだろうが―――
 縄にタオル、バスローブの帯なんかはかわいいもの。鎖に手錠、挙句首輪なんて本気でどこから持ってきたのか。しかもそれが山積み・・・・・・。
 「跡部君・・・。君どこまで縛ったのさ・・・・・・」
 「徹底的にだ!!」
 それはもう縛った。3時間かけてじっくりと。世界最高の奇術師だろうが脱獄常連犯だろうが解けないよう。全身のどこの骨を外そうが抜けないように!! が!!
 「じゃあ今日の部屋はどうしようか。僕の分はカウントし様が無いし・・・・・・」
 何事もなかったかのようにあっけらかんと言ってくる不二に、
 「・・・・・・やっぱ今まで通りか」
 それ以上突っ込むような無謀なマネはせず、ため息をついて跡部はそう言った。

 

 

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 さてさらに次の日。
 『なんと昨日の予想外の不二選手の棄権負けに続き、今日は跡部選手と千石選手が不戦敗してしまいました!! 何が起こったのでしょう今回の大会は!! 地元にて優勝有力候補の日本勢が半分も終えないうちにリタイア!! 総合32位前後で終えてしまいました!!』
 昨日よりもさらに激しくなるブーイングの中・・・・・・
 「へえ・・・・・・。そんな事あったんだ・・・・・・」
 いつもの喫茶店で久し振りにあった不二に事情を聞き、リョーマは半端な笑みで気の抜けた返事をした。さらにはそばで話を聞いていた裕太・英二・桃もあさってのほうを向いて冷や汗を垂らしている。
 「それは・・・・・・確かに混『乱』だな・・・・・・」
 「てゆーか、ふつーに泊まろうよ・・・・・・」
 「そんな事情で棄権負けって・・・いいんスか・・・・・・?」
 各自突っ込む3人。そして、
 「で、後の2人は・・・・・・?」
 テレビを指差しリョーマが尋ねる。
 「ああ、あの2人? 仲良く今日は相部屋で寝てるよ」
 そう答える不二。もちろんこの場にいる全員が知らないことだが、その顔には一昨日と同じ笑みが浮かべられていた。そう―――跡部へと最終宣告をした、あの笑みが・・・・・・。

 

 

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 同時刻。
 「くっそ〜・・・・・・!!!」
 「不二君、なんで俺まで・・・・・・?」
 ダブルの部屋のベッドにて転がされた跡部と千石。昨日の不二のようにめったやたらと縛られている訳ではないが実に効率よく、それこそ世界最高の奇術師だろうが脱獄常連犯だろうが解けないよう。全身のどこの骨を外そうが抜けないように縛られている。
 だばだば涙を流す千石の隣で―――
 「もうぜってえホテルには泊まらねえ・・・・・・!!!」
 跡部は1人、それはそれは固い決意を胸に抱いていた・・・・・・。

―――終わりらしい

 

 

 

 

 

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 さて予告通りの相部屋その2。千石さんも絡んでますます跡部様が被害者と化しております。いっや〜。ほんっとこの3人の絡みっておっもしろいなあ〜。跡部様ここまで振り回せるのなんてきっとこの2人だけさ。
 しかし結局この話、どこが山だったんだろう・・・・・・(身も蓋もない発言)?

2003.8.26

 

 そういやこのシリーズ(?)。もとはニュースにて、大リーガーの某有名日本人選手が(って今こう言って当てはまる選手ってめちゃくちゃ限定されるような・・・)とんでもないミスをやったという話題より(ちなみに確かシーズン中のエラー8つめの話)。さあさっそくやらせてみよう! と考えできたものです。なので実はメインはこっちで一番やりたかったのは不二のミスの嵐。
 ・・・・・・全っ然! 違う方向に話吹っ飛んでます・・・・・・。