スチャラカ勇者奇行






 今日も今日とて旅する千石・太一・室町の3人。本日立ち寄ったとある村は現在盗賊にたかられているらしい。
 「お願いします! 勇者様!! 助けてください!!」
 そう懇願する村1番の可愛い子の依頼に―――
 「お〜っしじゃあ俺達が倒してあげるからね〜〜〜♪」
 大興奮でで千石が首を縦に振ったのは言うまでもないだろう。





 かくて今、3人は村の入り口にて盗賊が来るのを待っていたりする。





 「―――さて、今回千石さんが勢いだけで受けた依頼についてだけど」
 「ってちょっと室町くん。その言い方はヒドいんじゃないかな? みんな困ってたんだし」
 「じゃあ言い方変えます。『さて、今回千石さんが勢いだけで受けた依頼、まあみんなも困ってるらしいその依頼についてだけど』」
 「変わってたですか?」
 「付け加えるとむしろ千石さんが如何に自分勝手な理由で引き受けたか如実に現れたな」
 「だ〜か〜ら〜さ〜〜〜〜〜・・・・・・」
 「静かに。来たっスよ」
 千石の言葉を遮って室町が呟いた。確かに村の外には土ぼこりが。盗賊らが馬でここまで来たのだろう。
 「千石さん」
 「ん〜・・・。見たところ・・・・・・
13人くらいかな? 2人乗りか荷物積んでるだけかわからないのが幾つかあるけど、馬だけなら13頭」
 村を囲む城壁、その見張り台から外を覗く千石。動体視力、というより単純に視力のよさで敵を当てていく。双眼鏡などでちまちまやるより効果的な戦法で、敵の情報をいち早くキャッチした3人はさっそく迎撃の準備にかかった。
 「まず馬が邪魔っスね」
 「さすがに馬に乗られてると俺らが不利だし」
 「というかまず届かないです」
 確かに身長も低く、体格と筋力に合わせまだ持ってる武器も小さめの太一はとことん不利だろう。
 「じゃあ馬追い払いますか」
 と1人で結論づけて、室町がぶつぶつと呪文を唱え始めた。それに伴って杖の先に『何か』が収束していく。
 徐々に大きくなっていくそれ。呟き(というか呪文)が終わる頃には、それは丁度テニスボール大になっていた。
 鮮紅のその球体を手にとり、城壁に取り付けられていた小窓―――緊急時そこから弓などを撃つため―――からぽいと放り投げる。
 「え・・・・・・?」
 それが、盗賊その1の第一声―――にして最期の一言だった。
 轟音と、衝撃。
 城壁の内側でもそれは伝わり、何事かと見上げる村人が見たものは、城壁よりも高く立ち上る火柱だった。
 驚いて身を竦める太一。しっかり対衝撃姿勢の室町。そして城壁にもたれ外を窺う千石。
 そして全てが終わり―――
 「片付きました」
 「馬どころか人ごとじゃん」
 「そんな事ないっスよ。馬は驚いて逃げただけです。人はそのまま連れて行かれたか自分の意志で帰ったか知りませんけど」
 「室町先輩・・・・・・何か焦げ臭いですけど・・・」
 「まあ先頭にいた1人2人は焼いたかもな」
 「そ〜いうことしれっと無表情で言うのやめようよ・・・。ていうか焼いたって・・・・・・」
 「これからお肉食べるたんびに思い出しちゃうじゃないですか!!」
 「ああ、そういえばそうか。悪かったな」
 「全くです!!」
 「・・・・・・・・・・・・」
 とりわけ何も言う事が思いつけなかったので、千石は黙っている事にした。
 まだ文句を言う太一。軽く聞き流す室町。それはいつもの光景だった。
 違う点はただ1つ。
 「ねえ・・・・・・」
 「何スか?」
 「何ですか?」
 「違ってたらいいんだけどさ・・・・・・。何か、村の外から変な音してない?」
 その言葉に、さすがに言い争いを止めて2人もその『音』を探った。
 「確かに・・・・・・ズシーン、ズシーンってしてますです!」
 「というか、振動してないっスか? 地面」
 「あれ? ホントだ。な〜んだまだ室町くん何かやってんのかと思ったら違うのか〜」
 「俺は力の無駄使いはしませんから」
 答える室町に村人全員が首を傾げた。さっきの、どう見ても『必要最低限』には見えなかったが・・・・・・。
 3人で見張り台から外を覗き―――
 『―――!!!』
 さすがに硬直する。程度は3者3様だが。
 大きな物音に振動。あって当然だ。なにせあの巨体なのだから。
 こちらへ向かってきていたもの―――それは、1匹のドラゴンだった。
 「ど、ドラゴン・・・ですか・・・・・・?」
 「だろうな。誰がどう見ても」
 「な・・・なんで・・・・・・?」
 「恐らく盗賊が飼い慣らしたんだろう。やっぱりさっき手加減せずに殲滅するべきだったか」
 「ドラゴンより室町先輩の発言の方がコワいです・・・・・・」
 呆然とする太一に冷静な室町が解説を入れる。
 と、
 「室町くん冷めすぎ!!」
 即座に千石からの突っ込みが入った。
 「・・・・・・。別にいいじゃないっスか。むやみやたらに怯えるよりは」
 「けどドラゴンだよ!? だったら握り拳でドキドキしながら見るのがお約束じゃん!!」
 「サスペンスドラマじゃないんスから。全員がそんなことやってたら1発で全滅しますよ?」
 「でもそうしなきゃ盛り上がんないでしょ!?」
 「盛り上げる必要あるんスか?」
 「わかってないなあ室町くんは。ドラゴン退治なんて言ったら勇者のやること
No.1じゃないか!! だったら周りはそれのサポートという事でひたすらに盛り上げなきゃ!!」
 相も変わらずワケのわからない千石の理論に、室町はため息をついて―――手を肩の高さまで持ち上げグーにした。
 「あー怖い怖い(完全棒読み)」
 「よっしよっし! それでこそ勇者の活躍しがいがあるってもんでしょ!!」
 「・・・・・・・・・・・・」
 とりあえず千石はそれで満足したようだ。要はそんな感じの雰囲気が出ればどうでもいいらしい。
 (相変わらず単純な人だなあ・・・・・・)
 もちろんそれだけではないのだが。というかそれだけだったら室町がくっついて―――どころかあまつさえ付き従って(大幅な語弊有)などいるわけがない。
 「じゃあ室町くん! 行ってらっしゃ〜い♪」
 ひらひらと手を振る『勇者』をサングラス越しで見やり、室町はもう一度ため息をついた。
 「どうせそんな事だと思いましたよ」
 「なら話は早いv」
 つまりドラゴンなどという物騒なものを退治するのは危険なので人に任せたいらしい。たとえ室町がやったところで『勇者一行がドラゴンを倒した』という事になり、となると自然と『倒したのは勇者だ』と思われるようになる。大事なのは事実ではなく周りの認識―――つまりは思い込みだ。
 (また千石さんも上手い手を・・・・・・)
 自分の手は一切汚さず―――どころか自分は完全安全地域にいて名声だけを上げる。『勇者』として有るまじき行為のように感じられるが、異千石の場合はこれが普通だった。
 が、残念ながら他人ならともかく室町はタダでそれに荷担するほど甘くはなかった。
 外をもう一度見やり、
 「―――けど千石さん、いいんスか?」
 「ん? 何が?」
 「俺がやるとあの人まで一緒に殺しますけど?」
 如何にも意味深な一言。さすがに気になって千石も外を見る。
 「な・・・・・・!?」
 「どうやら、人質みたいっスね」
 2足歩行するドラゴンの、余った手に握られたもの―――紛れもなくそれは千石(ら)に盗賊退治を依頼した少女だった。大きな手に抱えられ、ぐったりと力を抜くその姿からは生死すら判別できない。
 「って思いっきりマズいじゃん!!」
 言って、千石は地面に剣を突き立て鍔部分に足を掛けると一気に城壁を乗り越えた。
 「めちゃくちゃな運動神経だなあ。あの人は」
 それを見送り、室町が地面に突き刺さったままの剣を軽く引き抜く。同時に宙を舞う剣。予め千石がワイヤーを仕込んでいたらしい。
 「投げる手間が省けた」
 「あの〜、室町先輩・・・・・・」
 呟く室町に新たな声がかかった。
 「どうした? 太一」
 「さっきの女の人ですけど・・・・・・」
 疑わしげに言いつつ、後ろを指差す太一。そこに視線を向けると、心配そうな中で小窓からでも外を見ていたのだろう、件の少女が太一以上の疑わしげな目で室町を見ていた。
 「ここにいるですよ」
 続く太一の言葉。それに全く動じず室町は肩を竦めた。
 「だろうな」
 「え? それって・・・・・・」
 が、太一やその少女らが質問する前、一言言ったきり室町は呪文を唱え初めていてしまっていた。こうなれば途中で邪魔するワケには行かない。
 「千石さんもいろいろ考えるけど肝心なところで抜けてる人だから」
 呪文が完成したのだろう。先ほどより遥かに強い光を宿した杖を再び小窓から出し、
 「まあおかげで助かるけどな」
 その呟きと共に放たれた術。それは『ドラゴン』を―――そしてそれと対戦中の千石を飲み込んで、やはり先ほどとは比べものにならない轟音と衝撃をこちらへ伝えてきた。





 「と、いう訳であっさりと依頼は解決した」
 「えええ? 全然わからないです」
 「つまり、たかが盗賊程度がドラゴンなんて飼い慣らせるわけがない。あたりまえだ」
 「え〜っと、じゃあさっきのは・・・・・・」
 「相手にも魔法使いがいたんだろ? 幻影[ホログラフ]だ」
 「で、でも! それならあの人質も幻影だったんですか!?」
 「そうだ。ただし盗賊側が造ったわけじゃないけどな」
 「え? えっとそれって・・・・・・」
 「俺が干渉して造った。相手の術が甘かったから割り込むのは簡単だった」
 しれっと言ってくる室町。つまり室町は最初からあれがニセモノだと気付いていた、どころかわざわざ作ったワケで、その目的は・・・・・・。
 「けどよかった。千石さんが全力で食い止めててくれたおかげで呪文が間に合った」
 と続ける。そう言う片手にはいつもの杖。そしてもう片方の手には焦げてぴすぴすいってる千石を引きずっていたりする。
 「まあ! さすが勇者様!」
 「普通の人にはとても真似できませんわ!!」
 「貴方様の勇姿は永遠に忘れません!!」
 「そうだわ! ここに彼の銅像を立てましょう!」
 「いいわね! 『偉大なる勇者様ここに眠る』って石碑もつけて!!」
 感激した村中の女性が千石を囲んでいろいろ言う。
 今だ千石を引きずり―――おかげで千石に群がる女性達が金魚のフンのように見えるが―――村へ戻る室町。横に回りこんで、太一が尋ねた。
 「千石先輩、死んだんですか?」
 「治癒の術をかければ生きかえるかもな。運は人一倍いい人だから」
 「『人一倍』だけですか? もっとあるって思うですけど」
 「確かにな。まあどっちにしても―――」
 肩越しにちらりと千石を見下ろす。焦げた彼の周りには今だ村中の女性達が集まっている。
 「大勢の女性にモテてよかったっスね。千石さん」



―――続く・・・・・・のか? この話・・・














☆     ☆     ☆     ☆     ☆     ☆     ☆     ☆     ☆

哀里: 「いや〜。終わった終わった」
千石: 「って、今回本気でやる気なかったでしょ?」
哀里: 「ぎく・・・・・・」
太一: 「同感です!!」
哀里: 「ど、どこが・・・・・・(声裏返り)?」
室町: 「まずタイトルから。しかも最初の5行。いかにも思いついたものそのまま書きました、と言わんばかりの文章に見えるっス」
哀里: 「あっはっは、『と見える』どころか事実その通りだから。しかもタイトル思いつかないんでそのまんまだし」
千石: 「あっさり認めんの? 手抜き」
哀里: 「手抜き・・・って失礼な! 設定は浮かぶけど肝心の話が出てこないってだけじゃん!!
 ちなみにおかげで初っ端5行は本気で室町君の指摘どおりです。最早そこだけでギャグになれるくらいの手抜きっぷりです。あえて言い訳するならそこから始めるとま〜た無意味に長くなるもので」
室町: 「本気でただの言い訳っスね」
太一: 「てゆうか反省してください!!」
哀里: 「むう。反省はする。千石さんの凄さをイマイチかけなかった点について。ちょぼちょぼ出しはしたけどね。全て室町君に食われてます」
千石: 「俺が主役なのに〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!」
哀里: 「では次回、こんな千石さんに活躍の場は来るのか!? ってかそれ以前に『次回』はあるのか!? あったとしても青悪[せいあく]登場したら絶対今以上に千石さんの活躍はなくなると思うけど!!」
千石: 「俺の活躍絶対なし!!!? そりゃないよ〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!」


2003.4.8