「サエ!」
「ん? 何? 周ちゃん」






Fantagic Factor
           
    −幸せの要因−




. 『同居人』  〜周助の 仕事場訪問記〜



佐伯の場合 −ファッションモデル−  <後>

 スタジオに入る。もちろん部外者は立ち入り禁止なのだが、そこは千石の知名度と話術で楽々突破した。
 中へ入る。今は丁度休憩中らしく、少ないスタッフがそれでもわいわいやっていた。
 その中で、最初にこちらに気付いたのは千石の言っていた彼だった。
 「あ、千石さ――――――って何でアンタがいるんスか跡部さん!!」
 「つーかそりゃ俺の台詞だろーが切原!!」
 駆け寄ってきた・・・そして跡部を前に後ずさったのは、彼らともとってもよく知り合いの切原赤也だった。
 「ああ跡部くん。彼が、『今俺が担当してる子の1人』で切原くん」
 「切原お前・・・・・・アイツの事何『憧れの虎鵜さんに逢えるvv』とか言っちまってんだ・・・? 頭大丈夫か・・・?」
 「言ってないっスよンな事!! 俺は『何でアノ人とわざわざ仕事でまで遭わなきゃなんねーんだか』としか言ってないっス!!」
 「あれ? そーだったっけ? なんっかぶつけられた熱〜い想いが告白ちっくだったような気がしたんだけどなあ・・・」
 「なんで俺があんな、世の中のヤツは全て自分に遊ばれるためにあるんだ的考えの人好きになんなきゃなんないんスか!!」
 「似た者同士で?」
 「断じて似てないっス!! 似てるのはアンタでしょ!?」
 「ああなるほど」
 「・・・・・・納得しないで下さいお願いですから」
 がっくり項垂れる切原。顔を上げ―――
 ―――周助と目が合った。
 「アンタ誰?」
 「え、僕・・・? 周助っていうんだけど・・・」
 いきなり問われ(しかもやったら失礼な眼差しで)、周助がしどろもどろに答えた。
 「ふーん」
 値踏みするようにじろじろ見てくる。俯き、もじもじする周助に、
 「けっこーカワイイじゃんアンタ」
 「え・・・?」
 にっと笑うや否や、切原は周助の顔へと自分の顔を近づけた。
 「テメ―――!!」
 「ぅおっとぉ!?」
 あわやキスか!? ―――といったところで、
 どがっ!!
 「痛てっ!!」
 「なーにやってんだ切原?」
 頭に硬そうな靴を乗せずりずり消えていく切原に代わり、そんな彼に背後から踵落としを叩き込んだ人物が現れた。
 「サエ!!」
 「やっ、周ちゃん。ごめんね馬鹿が迷惑かけて」
 ぽんぽんと頭を撫でてくる佐伯。その様はいつもと何ら変わりはなくて。
 「サエ!!」
 周助は、安心して佐伯の胸に飛び込んだ。佐伯も暫く周助のしたいままにさせ、
 「虎鵜くーん! そろそろ休憩終わりよー!」
 「あ、はーい!
  じゃあ周ちゃん、行ってくるね」
 「う・・・うん」
 ぱっと、あっさり体を離される。切原を引きずり2・3歩進み、
 「ああ周ちゃん、さっきも来てくれてありがとう」
 そう言い残し、今度こそ佐伯は去っていった。







ζ     ζ     ζ     ζ     ζ








 「ホラやっぱわかってて無視したんだよ!?」
 怒り再来の周助。どうどうと押さえ、
 「ま、丁度撮影だ。見てみようよ」
 千石にそう促されるまま、周助も2人のいる方に顔を向けた。
 「・・・・・・あれ?」
 「どうした?」
 「何かやっぱ・・・・・・違う感じ」
 先刻感じたあの感覚。佐伯は確かに佐伯だが、それでも伝わるものは何かが違った。夕方の、あの優しさともまた違う。
 悩み込む周助に、千石は肩を竦めた。
 「まあ、見ればわかるよ」





 撮影が始まった。セットはやはり公園といった感じだが、夕方やっていたような子どもの遊び場とはまた違うもの。アメリカ映画なんかでよく出てきそうな、若者がスケボやバスケなどをする感じの公園。日本ではあまり見かけなさそ〜な感じの空間だ。だからこそセットを作ったのだろう。
 1着目。2人が着ているのはそんな場所にふさわしいストリートカジュアル。
CDジャケット程度ならともかくこういった撮影は初めてだからかかなり不自然な切原に対し、さすがそれ(+各種バイト)で生計を立てている佐伯は随分リラックスしていた。リラックスして―――これまた頑張って作ったバスケットゴールにシュートを決めてみせる。
 にやりと笑う佐伯。ムカっときた切原もボールを手に取り・・・まあ緊張中につきごく普通に失敗した。
 指を差して佐伯が大笑いする。周りで見ていたスタッフらも笑った。顔を真っ赤にし、切原が佐伯に1
on1の勝負を申し込んだ。
 勝負開始。最初は佐伯がフットワークの良さと身長、あと切原の羞恥心を利用しばんばんゴールを決めていったが、途中からは切原もまた、優れた身体能力と集中力でひたすら攻めに攻めた。スタッフらもどっちが勝つかとはやし立てている。
 スコアとしては佐伯の圧勝だろうが、勝負としてはいいものを繰り広げた2人。拍手される中がっちり握手をし、
 ―――その服での撮影が終わった。
 「あれ・・・? いつ、撮ったの?」
 「アイツらが遊んでる間にな。3枚撮ってたぜ?」
 「え? でもポーズとか全然決めてないし・・・」
 「あの軽〜い恰好でポーズ決めって、逆にけっこーおかしくない? もちろん普通にあったりするけどそういうのも」
 「まあ、ねえ・・・」
 話している間に2着目。今度は同じ公園セットでも少し内容が違っていた。大きなコンクリートの壁があり、そこにはペンキやスプレーで落書きがされている。先程も述べたアメリカちっくなところのためそれも英語でしっかりデザインされたものだったが、革ジャンに金属アクセサリーをじゃらじゃら身につけた2人の後ろに立てるとしたらここはぜひ≪
俺達愚連隊参上!≫とでも書いて欲しかった。
 とりあえず、その壁に片手をついて立つ佐伯。落書きを挟みしゃがみ込む切原。今度はちゃんとポーズをつけるようだ。小道具としてスプレー缶などを渡されいよいよ撮影―――
 ―――のところで、佐伯の醸し出す雰囲気がまた変わった。先程の面白そうな様子ではなく、見た者にケンカを売りつけるような生意気さと自分に対する絶対的な自信。まさに服装どおりの雰囲気だった。
 それが伝わったのだろうか、切原の目つきもまた変わる。スタッフもまた、騒ぎ立てていたのから一転、微動だにしなくなった。
 ピン―――と張り詰めた空気。緊張の糸が極限まで引き伸ばされたところで、
 断ち切るように、フラッシュが焚かれシャッター音が響いた。
 ほう・・・とあちこちでため息が洩れる。明るいムードが戻り、
 「お疲れ様っしたー」
 「じゃあ切原、またな」
 「虎鵜さんも、まあ頑張ってくださいね」
 「言われなくてもな」
 切原の撮影は終わったらしい。着替えた2人の姿は全く違うものだった。更に大人びた服になる佐伯に対し、切原は最初に着たカジュアルウェアに近いものになっていた。
 「・・・切原の撮影がここで終わった理由がよくわかるな」
 「まあ、あれは切原くん絶対似合わないだろーね。つんつるてん、っていうか・・・」
 「無理やり頑張った七五三っつー感じになるんじゃねーか?」
 「ははっ。跡部くん上手いね〜」
 「―――って酷いっスよアンタら!!」
 怒りながら近付いてくる切原。何も気にせず千石は軽く流した。
 「やっ♪ お疲れ様切原くん。撮影どーだった?」
 「どーだったも何も・・・」
 「虎鵜に乗せられるだけだった、ってか?」
 「アンタもズバッと言うっスねー跡部さん」
 「『自己評価』に色眼鏡はいらねえだろ?」
 「まあ・・・・・・」
 頭を掻き、丁度ここまで到達した切原は体の向きをくるりと変えた。今度は違うセットで佐伯が撮影を行っている。張り詰めた緊迫感はないが、実に落ち着いた雰囲気だった。
 「あの人やっぱ凄いっスねー。なんで1つ1つあそこまで変えられるんだか」
 「虎鵜くんならではだね。跡部くんなら何着ても跡部くんだし」
 「ははははは! そりゃ言えてる」
 「オイ・・・」
 「だ〜ってそーじゃん。ジャージ投げて『きゃ〜vv』とか喜ばれんの跡部くんだけっしょ。俺がやっても絶対笑いしか誘えないよ?」
 「俺がやったら『ストレス溜まってんのか?』とか言われたし幸村部長に」
 「うわ・・・。痛いね幸村くん」
 様々な意味を込め厳しすぎる元立海部長に苦笑いする千石。切原はは〜っとため息をつき、
 「でもあの人もヘンな人っスねー。これだけ出来んだからもっと大きいトコ行きゃいいのに」
 「ああ、やっぱ誘われてんだ」
 「そんなモンどころじゃないっスよ? 俺今月限定だから一緒になってまだ短いけど、その間も他の雑誌社からはもちろん歌やらないかテレビに出ないか劇団入らないかしょっちゅう話持ちかけられてますよ。どれか受ければ絶対もっと有名になるってのに、なのに全部断ってここで燻ってるだけで。もったいねーとしか思いませんね」
 「ははっ。なるほどね。でも、
  ―――モデルも元々渋々だしね」
 「そーなんスか?」
 目をぱちくりさせる切原―――と周助。
 「何かな? 周くん」
 「やっぱわかんないんだけど」
 瞳を大きく開いて、周助が尋ねてきた。これ以上はぐらかしても可哀想だ。
 佐伯を真似るよう、千石も頭をぽんぽんと撫で、
 「サエくんはね、元々モデルというより役者に向いてるんだよ。場面場面での自分の使い分けが上手い。周くんは家の中でのサエくんしかあんまり会わないからわかりづらいだろうけど、家の中のサエくん、外で知り合いに会った時のサエくん、もうちょっと近い人―――友達なんかに会った時のサエくん、それに・・・こんな感じで仕事してる時のサエくん。
  よくよく見ると全部違うんだよ。もっと細かく分類すれば、“サエくん”っていうのは無限通り存在する人格の集合体だ」
 「多重人格・・・?」
 「いやそこまではっきりした区分けじゃないよ。あれもサエくん、これもサエくん。
  君も今まで出会った人たちの中でいなかった? こんな時とこんな時は性格が全然違うって人。代表的なのが『車を運転すると性格が変わる』ってヤツ。そんなにはっきりじゃなくていいけど、例えば跡部くんだって、周くんと接する時と俺たちと接する時で全然態度が違う」
 「確かに・・・」
 「そりゃそーだろうよ」
 「さっきサエくんは無限人格の集合体って言ったけど、本当はちゃんと核みたいなのが存在するんだろうね。ただしそれがどれなのかは、ずっと一緒にいた俺達でもよくわからない」
 「え? いつものサエがそうなんじゃないの?」
 「そうかもしれないし、違うかもしれない。現に君の指す『いつものサエ』くんってどれ?」
 「だから、僕に優しくて君たちとよくケンカしてて・・・」
 「ほら、この時点でもうズレが出てるでしょ? 周くんには優しいっていうのはつまり、周くんが来てから新しく現れたものさ」
 「じゃあ僕に接するサエはわざわざ造られたものだっていうの?」
 「そうじゃない。周りの環境が変わって自分も変わる、新たな一面が出来るっていうのはごく普通の事さ。今まで友達だった子を好きになったから優しくしたいって思うのは自然な流れでだ。好きになるのも優しくしようとするのも自分でそうだって決めてなるものじゃない。人は外の変化で中が『変わる』事はあっても中を『変える』事はないんだよ。そうそうね
 言われた事を頭の中で繰り返す。では、今の佐伯はどうなのだろう。
 今まで感じていた違和感がようやくはっきりした。服装が変わっただけで、まるで人が変わったようになるのだ。服装に、または周りに合わせ、自分自身を変えていたのだ。『心』の面から。
 普通の人間なら、それが感染していくから何も不自然に思わない。自分は天仕としてなまじ深く感じてしまうから遮断しようとし、その間で摩擦が起こっているのだろう。
 「サエくんは、天性の才能っていうのか、それともサエくん流世渡り術っていうのか、とにかく周りに合わせるのが上手いんだ。
  自慢としてこれは俺も上手い方なんだけど、俺はそういう事をやってるって理解してるし割り切ってる。でもサエくんはほとんど無意識でやるから全部受け入れてる。
  ―――普段生活する分なら、それぞれの『人格』の間にそこまで大きな矛盾とかがないからちゃんとまとまってる。でもここに、全く違う『人格』が割り込んできたら?」
 「サエが、壊れる・・・・・・?」
 「周くん正解。もしもサエくんが芝居なんてやろうとしたら、その『人格』も全部受け入れて大変な事になるだろうね。サエくんは小さい頃から演技が上手いって誉められるけど、サエくんにとって『演技』じゃないから上手いんだろうね。どんな役でも凄く自然にこなす。周りがどうしても不自然になる中で、サエくんって実はこういう人だったんじゃないかってみんなに思わせるほど普通なんだよ。
  怖いよ見てると。だんだん“サエくん”っていう人のイメージがぼやけていく」
 「・・・・・・」
 考える。もし自分が天仕ではなく人間だったとしたら。
 自分は何も不自然さを覚えず彼を見ていたかもしれない。そしてあの少女のように言うのだろう。「どんな服でも似合う」「服は人を選ぶ」と。
 ―――ぞっとする。あの少女は言っていただろうか? 『佐伯はどんな人間か』を。見た目だけしか出なかったのは写真でしか見ていないからか?
 「“虎鵜くん”っていうのは、サエくんが唯一意識して造った『人格』だ。もちろん、だからニセモノってワケじゃない。ただ“虎鵜くん”の時は、『自分は演技をしている』って意識するようにしてるんだ。意識してるからいろいろ自由に変えられるし、それが“サエくん”の方に影響は行かない。
  ・・・ただし同じ役が長時間になったらどうなるかわからないけどね」
 「んじゃああの人がモデル以外やらないのって・・・」
 「カメラで撮るだけなら一瞬で終わる。それ以上になるとどこまで『演技』でいけるかわからない。
  でもって、ここのモデルしかやらないのは、その辺りよく知ってるカメラマンにしか撮って欲しくないからだろうね」
 「そういや、モデルも渋々って言ってたっスよね?」
 「渋々だね。ただの小遣い稼ぎのバイトだ」
 「・・・・・・すっげー納得」
 「けど、そのカメラマンに会ったからサエくんは本格的にモデルになろうって決めたんだって。
  元々サエくんは写真撮られんの嫌いだったんだよ。特に『演技』中はね。周くんには後で写真見せてあげるけど、虎鵜くんの―――いや、サエくんの凄さっていうのは、あの雰囲気を直接見る人だけじゃくって写真越しにも表現出来る事だよ。当たり前だけどね。じゃなかったら『モデル』としてここまで人気にはならない。
  ・・・だからそれが残るのを嫌がる。真正面から見せ付けられて、今いる自分の方がニセモノなんじゃないかって考えちゃうから」
 「ならモデルなんて余計に嫌がったんじゃないの?」
 口を挟む周助に、うんうん頷く切原。普通ならそう考えるだろう。
 タネを知っている者として、千石は面白がるように笑った。
 「ところがそれがそうじゃない。俺もサエくんから1回見せてもらっただけだけど、そのカメラマンが撮った“サエくん”の写真がある。他の何かじゃなくって、サエくん自身が主役の写真。
  見て俺もびっくりだったよ。確かに“サエくん”だった。
  俺達ですらわかんなくなってたサエくん。ちゃんといたんだよ、その写真の中に。
  “虎鵜くん”のアイディア出したのもその人だ。おかげでサエくんはこうやって普通にモデルの仕事する事が出来る。サエくんがもし自分見失ったとしても、ちゃんとその人が教えてくれる。だからいつも一緒にやってるんだ。
  ――――――だからね、周くん」
 「僕?」
 自分を指差す周助。肩に手を置き正面から見つめ、
 千石は薄く微笑んだ。





 「“虎鵜くん”の時は、“虎鵜くん”って呼んであげてくれないかな。
  確かに“サエくん”ではあるんだけど違うんだ。同じにしちゃいけないんだ」





 「あ・・・・・・」
 夕方の事を思い出す。自分は確かに彼を「サエ」と呼びかけた。「虎鵜」と呼びかける周りには、佐伯は普通に応えていた。だから自分だけ無視されたのだと思ったのだが・・・。
 先程―――いや今もだ。ここにいる彼を「佐伯」と呼ぶのは自分だけ。他はみんな「虎鵜」と呼んでいるし、彼もそれに応えている。先程自分に応えてくれたのは、休み時間だからと一時的に“佐伯虎次郎”に戻ってだろう。
 自分が彼を混乱させている。自分の呼びかけに対する彼の揺らぎは、応えるか否かの迷いだろう。他の者なら無視できても、自分にはいつも応えていた。自分が呼びかけ彼が応える。それは絶対に変わらない習慣。だからどうしようと悩んだのだろう。あえて無視で通したのは、両方を現し続ければやがて“佐伯虎次郎”と“虎鵜”が混ざる恐れがあったからだ。
 周助が、見た目にも大きくわかるほど落ち込んだ。自分は彼について全然理解できていなかった。幸せにする筈だったのに、指摘されないままだったら不幸にするところだった。
 (僕、やっぱやってけないかも・・・・・・)
 今回の仕事に就いて、こんな事を考えるのはもう何度目か。
 「え・・・? あのアンタ、周助さんちょっと・・・」
 完全に自信喪失した周助に焦る切原。ここが乗り越えられなければ仕方ないと、軽く肩を竦めるだけの千石。そして―――
 「ンなモンわざわざ難しく考えんな。名前の呼ばれ方なんてどーでもいいんだよ。自分が呼ばれてるってわかりゃな」
 再びにやりと笑い、
 跡部はどこに持っていたか(というかなぜ持っているのか)取り出したテニスボールを思い切り打った。
 打ちながら、呼ぶ。
 「オイ虎鵜!!」
 「―――っ!?」
 ばしっ!!
 驚きながら、何とか佐伯はそれを片手で受け止めた。丁度シャッターが切られる。カメラを持った男が、口を尖らせ跡部を睨みつけていた。
 どちらに対してかはわからないが、撮影を邪魔した当人はへっと笑っていた。
 「俺様が呼んでんだからちゃんと振り向けよ」
 「お前なあ、呼ぶんならタイミング選べよ。っていうか呼ぶんだったら口で十分だろーが」
 びりびり痺れた手を振りながらぶつくさ言う佐伯。
 「で? 何の用だ?」
 言葉と共に軽く投げ返されたボールを受け取り、
 「もうすぐ撮影終わりだろ? 終わったらメシ食って帰ろうぜ。腹減った」
 「んじゃ邪魔した罰でお前の奢りな」
 「わ〜い跡部くんありがと〜vv」
 「ゴチになりま〜す」
 「いや〜俺まで悪いねー跡部クン」
 「お前らもかよ!?
  ったくしゃーねえなあ」
 『わ〜いvv』
 「代わりに1人
2000円までな」
 「くっ・・・!! これを機に今まで食った事もないような高級フランス料理フルコースとか狙ってたのに・・・!!」
 「どーします? やっぱ格安回転寿司?」
 「いやいっそバイキング? 
1980円辺りの狙えばけっこー良さげなのが腹いっぱい食えるっしょ!」
 「よっしそれで決定!! んじゃは急げだ。さっさと終わらせるぞ! おー!!
  ―――ほらそーと決まったらさっさと撮れよ! おっそいなー」
 「お前鬼か虎鵜!? 目ぇギラギラ光らせて何撮らせんだよ!! ちったあ落ち着け!!」
 何だか混乱に包まれるスタジオ。みんなの中心で、思いは既に晩飯奢りに向かっている佐伯に、
 周助もまた、笑顔で呼びかけた。
 「虎鵜!」
 「ん? 何? 周ちゃん」
 (応えてくれた・・・)
 いつもどおり振り向いてくれる佐伯。ぐっと拳を作って、
 「頑張って!」
 「サンキュー」
 Vサインが返ってくる。
 「・・・・・・虎鵜くんの負け?」
 「珍しいっスねーアンタが負けんの」
 「やっぱ周には甘めえからなあお前」
 「うるさいよ3人とも//」
 ・・・結局何だかわからない事になってしまった。それでも1つだけ言える。いつもと何も変わらない、と。
 (どんな君でも大好きだよ、サエ)
 心の中で囁き、
 周助もまた楽しそうに笑った。









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 ―――秋の夕方まで洗濯物を出しておくと湿気るような気がします。はっ! サンルーフか!?
 そんな自爆はさておいてサエの話。跡部に比べて短い予定でした。盛り上がりはホントにありません! なのでおまけがついているのですが、そのおまけ編はサエ中心につきほとんど周助が活躍しないという、なんだかなあ・・・という内容です。なので『おまけ』扱いで。ちなみに問題の『カメラマン』の正体は、そちらで明らかになります。さらに切原は・・・・・・たまにはちゃんとテニプリキャラを使おうと決意した結果出てきました。さって彼はこの後どうなる(というか出てくる)のやら・・・。
 なお佐伯の名『コウ』というのは跡虎話の【同じドアの前で】で出てきたヤツですね。そのときはカタカナでしたが、今回は漢字になりました。そして『こうさん』と呼ばせるとなんか『降参』が出てくる!? 呼んだ時点で負けてますか相手!?

2005.5.23