もしも心が見せられたなら どんなにどんなにいいんだろう?
でも残念 心だけじゃ伝わらないんだ
だから俺は動くよ






Fantagic Factor
           
    −幸せの要因−




. 『同居人』  〜周助の 仕事場訪問記〜



千石の場合 −作詞兼作曲家−  <後>

 次の日・・・というか何というか3時間後。
 「やっほーみんな♪」
 「あ、来た来た!」
 「おっはよー清澄!」
 「遅せーぞ!!」
 「ははっ。メンゴメンゴ」
 何だかハイテンションなノリで集まった彼ら。“清澄[せいちょう]”こと千石と、彼より少し年下の女の子1人に男性2人。3人でバンドをやる彼らは、インディーズ時代から千石に気に入られ面倒を見てもらっている古株である。もちろんここに、ボーカルの少女が可愛く元気に溢れているという要素を抜いてはいけない。
 「出来た?」
 「出来た出来た! おかげで貫徹俺超元気☆」
 「・・・・・・落ち着け清澄」
 ・・・さすがに3人も引いた。
 「―――ところで清澄、その子どうしたんだ?」
 首振りで指されるのは、千石の後ろに隠れるようについてきていた周助。ハイテンションな4人についていけず、ずっとおどおどしていた。
 「ああこの子? 今俺が見てる新人さん」
 「え!? ちょっと―――」
 「へ〜。新人かあ!」
 「よろしくね。ウチは『スルム』。“
SRM”ね。後ろの2人がサラスとリセ、それにアタシが『舞う姫』で“舞姫[マキ]”。頭取ってこのチーム名。『サラミ』って読まないでね。
  ―――で、あなたは?」
 「えっと僕は・・・」
 「この子は『めぐる』くん。『周って流れる』で“周流[めぐる]”ね。ちょっと変わった雰囲気の子だけど、こっちも『シュール』って読まないでね」
 「清澄・・・。お前実は全部狙ってつけてないか・・・?」
 「こないだ念願の初テレビで『サラミの皆さんの登場です〜!』って紹介された時はどうしようかと思ったぜ」
 「あー観た観た。『は〜い皆さん、サラミで〜す☆ ・・・って違ーう! スルムですス・ル・ム!!』ってアレでしょ? いーじゃん。会話のきっかけにはなるよ?」
 「よくねーよ。しかも挙句に『するめ』とまで読まれたんだぞ!? ヤだよンな独特の味醸し出してそーなグループ」
 「ははははははは!! いーじゃん聴き堪えありそーで!
  んじゃ次からそれでいこ〜っと♪」
 「止めろ!」
 「お前がそーやって広げるからヘンな感じで憶えられるんだろーが!」
 「ダイジョブダイジョブ。インパクト勝負じゃ君らの勝ちだ!」
 「歌で勝負させろよ!!」
 などなど男3人がやっている間にも、最初に周助に話し掛けてきた少女マキは、彼へと近付き手を伸ばしていた。
 「よろしくね、周流君v」
 邪気のない、親しさを込めた笑み。感じ取り、周助もまた笑顔で手を伸ばした。
 「こちらこそよろしく、マキさん」
 握手をし―――ようとして。
 「あ〜も〜カワイイ〜vvv」
 抱きっ!
 「え・・・!? ちょっ・・・//!!」
 じたばたじたばた!!
 ぱっ。
 「あはははは!! うわ〜反応可愛い〜vv すっごいウブなのね〜vv」
 「あのねえマキさん//!!」
 「ごめんごめん! 可愛い男の子見るとついついからかいたくなってv」
 「うっわ〜マキちゃん。それおねーさまの台詞。てゆーかだったら次俺からかってよ」
 「ダメダメ。清澄反応つまんないもん」
 「ちえっ。ざ〜んねん」
 「へ!? 男!?」
 「ソイツ女の子じゃねえのか!?」
 「アンタたち目ぇ付いてる!? どう見たって男でしょ!? しかも年上よ!? 敬いなさいよしっかり!!」
 「・・・いやお前が一番失礼だろ」
 「つーか年上?」
 「ん〜? キミらはアタシの観察眼に文句アリかな〜?」
 マキが挑発的に笑った。ひっくり返した指で差され、メンバー2人が降参とばかりに手をあげた。
 「でしょ? 周流君?」
 再びくるりと向き直る。向き直られ、
 「あ、う、うん・・・」
 周助はそう、かなり曖昧に頷いた。確かに上だろう。昨日千石にも言ったように、
100年以上は生きているのだから。
 (でも僕って・・・何歳くらいになるんだろう?)
 この少女はともかく、他のメンバーは見たところ千石と大体同じくらい。彼らから見て自分は年下っぽいらしい。しかし少女は上だと言う。・・・さて自分はいくつでしょう?
 そんな謎かけをする間にも、マキは周助の懐に入り込んできた。
 後ろに下がろうとも思わなかった。なぜだろう。
 じっと見つめ合う。瞳を通して心まで覗き込まれているような錯覚に陥る。
 (何だろう・・・? 何か、ボーっとする・・・・・・)
 ふっ・・・と意識が遠のき―――
 「―――ちょっと周流くん!!」
 かくっと倒れた周助。慌てて押さえた千石に、
 「あっはっは〜♪ アタシ催眠術が得意〜♪」
 「ってマキちゃんあのねえ」
 「う、ん・・・」
 一瞬の事だったらしい。呻き声を上げ、周助は割合あっさりと目覚めた。
 「えっ、と・・・」
 「あ、周流くん大丈夫?」
 「うん大丈夫」
 「ごめんねえマキちゃんいたずらっ子で。
  ほらマキちゃんもちゃんと謝る」
 「は〜い。
  ごめんなさい、周流君。
  ちなみにあなたやっぱ年上でしょ? すっごい風格あるもの。まあ―――見た目とのバランスで清澄と同じ
19歳ってトコで」
 「そんな謝らなくていいよマキさん。でも凄いね。年齢ぴったりだ」
 「でしょ? あ、ちなみに後ろの2人が
17でアタシが15。まあ後輩だと思ってかる〜く接してくれると嬉しいな」
 「そんな。君達の方が先輩でしょ? 僕なんてまだまだ新人だし」
 「あはは。なるほどねえ。ま、
  ―――遅くなっちゃったけど、今度こそよろしくね」
 「うん。こっちこそ」







ζ     ζ     ζ     ζ     ζ








 デモテープ作成が間に合わなかったため、スタジオ中央にあるグランドピアノで生演奏をする事になった。ピアノはもちろん千石、そして―――
 「僕が歌うの?」
 「いいっしょ? 歌声初披露〜☆」
 「でも僕・・・」
 『新人歌手』がウソなのは確認するまでもないが、そもそも周助は歌を歌った事などない。人生(天生)の全てを、人を幸せにするために費やしている彼にとって、己の娯楽である歌は縁がないものだった。
 ためらう周助。その耳に、囁きかける。
 「ダイジョブダイジョブ。俺と君で作った歌でしょ? それに―――
  ―――俺は君の声に惚れたんだから」
 ね?と笑みを向けられ、周助は一息ついた。
 顔を上げる。準備は出来たようだ。
 前奏が始まり、周助が歌い出し・・・
 『―――っ』
 千石含め4人は、驚きを乗せ息を呑んだ。上手い下手で言えば上手い方だ。だがそれだけではない。彼の声には、聴く者を惹きつける何かがあった。
 始めてその声を聞いた時千石が感じたそれ。今回わざと『新人歌手』などと偽ったのは、それを歌声として聴きたかったからだ。
 弾きながら聞き惚れ・・・
 (・・・・・・・・・・・・あれ?)
 千石の頭に何かがよぎった。違和感―――というのではない。むしろぴったり合う感じ。
 (けど誰に?)
 周助ではない。歌わせておいてなんだが、この歌は周助には合わない。そりゃそうだ。彼とは全く違う存在―――自分をテーマに作ったのだから。
 (けど・・・)
 自分・・・もまた違う。確かに合ってはいるのだが、もっとしっくりくる何か、誰かがいる。誰が・・・・・・・・・・・・
 考えている間に一通り演奏し終わった。
 余韻0で結ばれるラスト。ジャン!と音を出した後手を跳ね上げ、
 「っああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!」
 千石は、自分もまた跳ね上がった。周りみんながびくりとする。
 それらを無視し―――いやそれらに気付かず、ばんと譜面台に置いていた楽譜を叩き、
 「わかったあ!!」
 思いっきりそう叫んでいた。
 「な、何が!?」
 立ち直りは最初だったマキが尋ねてくる。それにも答えず、千石は周助の腕を引っ張り扉へと向かっていった。
 「ちょっと清澄!!」
 呼び止められ、ぴたりと振り向く。楽譜を持った手を上に上げ、
 「メンゴ☆ もっかい曲作り直してくるから明日まで待ってくんない?」
 「え・・・? なんで・・・」
 「それ出来てんじゃねーか・・・・・・」
 もちろんワケがわからず首を傾げる2人。マキは千石をじっと見つめ、
 「まさか清澄、アタシたちよりその子優先するワケ?」
 「まさか。周流くんにこの曲全然合ってないじゃん」
 「ならいいよ。アンタ壊れたのかと思った」
 ふっと笑う。えこひいきで怒っていたのではないらしい。プロとしての質を問われていたようだ。
 他の2人も悟ったらしく、こちらも肩を竦め苦笑いした。
 「代わりに明日にはちゃんと持って来いよ?」
 「今度遅れたらお前の奢りでメシな」
 「オッケー。するめパーティーね」
 『やんな!』
 「んじゃそーいう事で」
 「―――ああ清澄!」
 走り出ようとする千石(+周助)を、またもマキが呼び止めた。
 再び振り向く千石に、
 「アンタはともかく・・・周流君、ちゃんと寝かせてあげなよ?」
 「へ・・・?」
 ぱちくりと瞬きをし周助を見る。周助もまた、きょとんとマキを眺めていた。
 見つめられ、マキは口に手を当てふふ〜んと下世話に笑った。
 「いや〜アンタの趣味は特に何も言わないけど? 無理させちゃダメよ?」
 「・・・ってちょ〜っとマキちゃん? 君すっげー何か誤解してない? てゆーか俺と周流くん見て何でみんな誤解すんの?
  とりあえず昨日は俺徹夜で歌作ってたって言ったじゃん!」
 「ほうほう徹夜でねえ。周流君も大変だったでしょーねえ。ベッドで啼いて謳って」
 「違うから! 普通にピアノ弾きながらだったし」
 「は〜! つまり立ちながらとか座りながらとか!? もしくは床!? しかも防音完璧!?」
 「違う! それに周流くんは途中で寝たし!」
 「あ〜やっぱラストまでは持たなかったのよ疲れちゃって。てことはアンタその後一晩中1人で―――!!」
 「誤解招く言い方しないでくれないかなあ!? っていうか周流くんも!! 顔赤くしない! よけーに誤解するでしょ!?」
 「え・・・!? だ、だって僕と君がそんななんて事・・・//!!」
 「ひゅーひゅー熱いゾこの野郎!」
 「あーもー好きなだけやってけ俺らが許す!」
 「だからみんなねえ!!」
 「は〜いお二人様ご帰宅〜♪」
 「待っ―――!!」
 ばたん。







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 締め出され・・・・・・
 「はぁ・・・。明日何訊かれるんだか」
 ため息をつく千石に、(照れは押さえた)周助が質問した。
 「ねえキヨ、なんでそれ渡さなかったの?」
 「ああコレ?」
 掲げる。散々悩み込んで作った成果を。
 「俺はね、わりかし人見る目には自信あるんだよ。歌う人がどんなか。どんなのが似合うか。見極めて、出来るだけそれに合うように作ってる。
  今回俺自身をテーマに作ってみようって思ったのは、あの子―――マキちゃんが俺とけっこー似た感じだから。会ってたらわかったっしょ? あのグループ根っから明るいし、だからこんな感じの歌でもオッケーかな? って思って。もちろん意外性狙うのもあるけど、それはそれで『意外』ではあっても『変』じゃあないようにしてる」
 「じゃあこの曲だってよかったんじゃないの?」
 「よかったかもね。けど―――」
 「けど?」
 「もっとぴったりの人見つけちゃった」
 「誰?」
 訊いてくる周助に、
 千石はにやっと笑った。意地の悪い笑みで言う。





 「跡部くん」





 「景が?」
 「今まで最初っから最後まで通して聴いてみた事なかったから気付かなかったけど、さっき周くんが歌ってるの聴いてやっとわかった。
  コレ、俺がテーマで作るようにしようとしてたけど、昨日言った通り俺って恋愛した事ないんだよね。なのに何でこんな歌になったのか不思議だったんだ」
 「じゃあ・・・・・・」
 「跡部くん見て作ってたんだ。ずっと一緒にいたし、跡部くんにしてはらしくなさ過ぎるから自分の歌だって思ってたんだ」
 「でも、景がこの歌の主人公・・・?」
 眉を顰める周助。きっと今彼は、『景がこんな恋愛なんてするの・・・?』と必死に考えているのだろう。
 ――――――まさか自分が当の相手だなどとは気付く由もなく。
 (やれやれ。ホンット可哀想だねえ跡部くん)
 心が詠める天仕同士の恋愛はないそうだが、そんな天仕と人間の恋愛はあるようだ。とりあえず目の前に1つ。それも・・・
 (人間じゃなくて天仕の方が気付かないんだ・・・。ダメじゃん天仕・・・・・・)
 彼には悪いが思ってしまう。実は天仕同士の恋愛も可能なんじゃないか、と。
 ・・・・・・・・・・・・彼のような鈍感同士なら。
 「でもよかった」
 「何が?」
 隣を歩いていた周助が、ほっと一息ついていた。
 「だって―――。
  せっかく昨日キヨと頑張って作った歌だもの。歌ってて、凄く嬉しかった。凄く楽しかった。
  仕事だってわかっててもね、
  ――――――他の人には歌ってほしくなかった」
 周助の顔を見る。困ったような笑い顔。自分の望んだ通りになったことは嬉しくて、でもそれはこちらの仕事の失敗を意味していて。
 (ホント、困ったちゃんだねえ周くんは)
 そうなるよう選んだのは自分なのに。彼のせいではないのに。なのに彼は、それに罪悪感を抱いている。
 素直に喜んでいいのに。なのに哀しむのは――――――自分を気遣って? それとも天仕としての役目に反してしまったから?
 (俺も、やっぱ君の気持ちはわからないよ)
 実は天仕もそうなのかもしれない。言葉を聞く。心を詠む。それが相手の本当の気持ちだと誰が証明できる
 たとえ怯えていたとしても、それでも愛する事を続けるつもりならその人にとって『愛する事』が本当の気持ちだろう?
 (≪だから俺は動くよ≫か・・・)
 千石はぽんと周助の頭を叩いた。
 「今夜は跡部くんもヒマだし、サエくんも誘ってみんなで歌おっか?」
 「うん!」
 にっこり笑う千石に、
 周助もまた嬉しそうに幸せそうに笑った。









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 どうしよう・・・。『さくし』で変換すると『策士』が、『かんけい』で変換すると『奸計』が出る。パソコンまで私に対応!?
 そして漢字といえば、まずは出ました謎のチーム(爆)。周助への話し掛け方が思いつかずとりあえず自己紹介させたら面白いなあこのチーム。固有名詞考えるの苦手なんですけど、最近いろいろやってて好きになってきたかも。使い捨ての適当に考えるのは(再爆)。裏話としてマキだけ漢字なのは、実際彼女は踊るのが上手いから・・・でもありますが、それだけではありません。雰囲気や話術、それにもちろん歌で人を舞わせる―――人を乗せ盛り上げるのも上手いからです。千石は、ならそれに相応しい歌を作りましょう!という事で面倒見てるようです。
 そんな彼らを踏まえ、虎鵜に続いて出てきた清澄と周流。なお清澄は訓読みするとまんま『きよすみ』なのですが、今回『せいちょう』に更に別の漢字を当てはめると『清聴(敬語)』あるいは『静聴(命令)』。どちらと捉えるかは相手次第です。周流は千石の説明まんまです。ちなみに『流』が付くと『めぐる』、付かないと『しゅう』と読んでください。なので跡部編で女装した際は、ずっと『しゅう』と呼ばれていました。深い意味はないんですが、『しゅうさん』という呼ばれ方が好きなんです『シュウ酸』っぽくって(さらに爆)。
 ・・・後は跡部か〜。これもありはするんだが、このシリーズじゃ出す機会ないしな・・・・・・。普通の会社社長が芸名持ってたら大爆笑―――ああそうだ! ホストの時出せばいいのか!! という事で、跡部はそちらで出てきそうです? そしてこれだけ出して、なぜか普通に歌手だったりした切原は何も出ないのですが・・・。

2004.3.62005.5.24