ここで誓う。
―――俺はぜってー、お前を幸せにする―――
Fantagic Factor
−幸せの要因−
3. 周助についての物語 <エピローグ>
「あ、景。おかえり〜」
家に帰る。最初に出迎えてくれたのは周助だった。喫茶店で全てを発散したか、いつも通りの嬉しそうな笑顔で。
ぱたぱたスリッパを鳴らし駆け寄ってくる周助を、
跡部はそのまま抱き締めた。
「え・・・っと・・・。
どうしたの? 景・・・・・・」
訊いてくる周助にも構わず、手に力を込め、きつく、きつく。
震えるほどの力で抱き締め、
囁く。
「ここで誓う。
俺はぜってー、お前を幸せにする」
それは、誰もが願った事。
きっと手塚だけではない。今まで彼と触れ合った人皆が一度は思っただろう。
この笑顔を、永遠のものにしたい。
永遠に、彼を幸せにしてあげたい・・・と。
誰もが願い、なのに誰もが叶える事が出来なかった。
そんな願いを背負い、今ここにいるのは自分。
そして自分もまた願う。彼に幸せを・・・・・・。
だからここで誓おう。周助に関わった全ての人に、天仕に。何より自分自身に。
―――周助は、俺が絶対に幸せにしてみせる、と・・・・・・―――
「そーかそーかお前が周ちゃんを幸せに、かあ」
「いっや〜跡部くんってば帰ってくるなり決めてくれるね〜」
「―――っ!!??」
前から放たれる強烈な殺気。慌てて見やれば、リビングに繋がる廊下の暗がりに彼らがいた。
壁に凭れ腕を組み肯く佐伯。
ぱちぱち手を叩き笑う千石。
――――――共に放つ殺気は同程度だった。
「て・・・めぇ、ら・・・・・・」
悲鳴は喉の奥に消え、跡部は洩れ出る息で呻き声を上げるしかなかった。
誰もが願う、周助の幸せ。
・・・・・・もちろん目の前の2人も願うものだ。あわよくばそれは自分の手で、と。
さすがに今回はヤバいかもしれない。
一見3人で協力して周助の面倒を見ている(ようにも見える)のは決して気のせいではなく、誰もそれ以上はしないという暗黙の了解、不可侵条約最早意味不明によりだ。
出る杭は打つ。もちろん誰かが抜け駆けでもしようものなら討つというか撃つ!! ここには当然のように銃のライセンスを持つ跡部がいて、従って普通に銃は置かれている。
(つーか、コイツらなら素手でも殺せるしな・・・・・・)
佐伯はもちろんの事、千石だって渾身の力を込め正面からパンチの一発でも打てば首の骨は充分折れる。
実に珍しく、本気で死を覚悟する跡部。張り詰めた空気は周助にも伝わったか、腕の中で心配げに向こうとこちらを見やっている。
2人が身を起こし明かりの下へと出てきた。それでも暗く見えるのは、多分ブラックフィルターのかかった心の目で彼らを見ているからだろう。
歩み寄ってきて・・・
ぽん。ぽん。
瞳孔をカタカタ震わせる跡部の肩を、2人は軽く叩いた。
「・・・・・・あ?」
「おかえり、跡部」
「晩御飯出来てるよ。食べてきてないっしょ?」
2人は、笑顔だった。とても、フレンドリーな様子だった。
―――もちろん常にはない様子に、さすがの跡部も周助から離れずざざざざと下がっていった。
「・・・って酷いなー。そ〜んなに意外?」
「ああ」
「うわ即答だし」
「そうそう邪推すんなよ跡部。俺たちだってそりゃ殴ったり蹴ったり暴言吐いたりいろいろしたい気分だけど、最近どうもそういう展開でマンネリ化してるんじゃないかと思ってさ。
このままだと芸無し人間扱いされそうだから、今日は一味捻ってみたんだ」
「それが・・・、この『優しさ』だ、ってか?」
「ああ」
「即答かよ」
つまりこの優しさとやらは、結局のところ殴ったり蹴ったり暴言吐いたりするのと何ら変わりない喧嘩の手段だそうだ。
確かに嫌がらせとしてはこの上ない上策だと思うが・・・・・・
(まあ、死ぬよりゃマシか・・・・・・)
そう思い、ひいていた体を戻した跡部。彼は、
――――――この選択を、後恐ろしく後悔するハメとなった。
ζ ζ ζ ζ ζ
夕飯を貰った。3人はもう食べたという事で、見守られるまま食卓につく。
「そうそう跡部、今日の夕食は初☆周ちゃんの手作りだぞv」
「そうなのか?」
「え・・・? う、うん・・・。ホラ、僕もお世話になりっ放しじゃなくって少しでも何か出来ないかな〜っと・・・・・・。
あ、あのだからあんまり美味しくないかもしんないけど・・・・・・。まだ練習中で・・・・・・他の人のところでもなかなか作る機会なくって・・・・・・・・・・・・」
「周・・・・・・」
真っ赤な顔でもじもじする周助は本当に可愛かった。自分の―――もとい自分たちのためにここまで頑張ってくれるとは・・・・・・。
「ありがとな。んじゃ、貰うぜ」
「うん!!」
小さく、だが嬉しそうに笑い。
跡部はまずは味噌汁を口に含み―――
ぶはっ!!
「辛れえ!!」
「景!!??」
むせ返りげほげほがはがは吐き出す。ロープを求めるかのようにテーブルをばんばん叩いていると、横から濡らしたお絞りが渡された。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
アフターケアは完璧にやってくれるらしい。差し出してくれたのは佐伯だった。
向こうでは突然のむせ返りに周助が慌てふためいている。
「あああああ景ごめん〜!! お味噌がどれかわかんなくって、確か黄土色で練られてるヤツだったな〜って探して入れたんだけど、やっぱ違ったのかなあ・・・? なかなか色つかなくってチューブ3つくらい空にしたんだけど、後で味見たら確かにちょっと辛かったよね・・・!?」
「(教えてやれよそりゃ芥子だって!!)」
「(いやいやでも頑張る子に手取り足取り教えるのが必ずしも正しい教育じゃないだろ? 時に自主的に自由にやらせてあげる事で独創性が身につくんだ)」
「(だからって芥子余計に買って来んじゃねえ!! 3つもストックなんてなかっただろ!?)」
「(俺らは周ちゃんの忠実なる手足だから。
それに正しい道に導きたいんならお前が示してやればいいじゃん。こんな小声で俺に文句言ってないで)」
「(ぐっ・・・・・・)」
呻き、口直しにご飯をかっ込み・・・
「ぐ!?」
跡部は再び、今度はしっかり声に出して呻くハメとなった。
味噌汁でこれだけの失敗をした周助だ。どうせご飯だって芯が残りまくっていたり洗剤で洗っていたりするのだろうと、その程度は予想していた。だが、
「俺を殺す気か!? 絵の具で色つけしてんじゃねえ!!」
さすがにコレは叫ぶしかなかった。芥子はまだ辛いだけで済む。洗剤もその後すすぐからあまり大量にはならないだろう。だが絵の具を大量に食わされるとなれば、跡部が叫んだのも致し方ないだろう。
「だだだだだだって!! 『白飯』っていうから白いのかと思ったら汚れて茶色いし!!
最初はちゃんと落とそうと思ったんだよ!? 頑張って洗ったんだけどなかなか落ちなくって、もしかしたら炊いたら白くなるのかな〜って思ったらならないし・・・。捨ててやり直そうかなって思ったけど、やっぱ食べ物捨てちゃダメだよね・・・?
それで、何とか白くしようと思って・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
なお、この家で食べているのは玄米だ。確かに茶色いし、よっぽど頑張らない限り白くするのは無理だろう。
周助もそれをいつも食べているはずなのだが・・・・・・どうやら玄米は彼曰くの『白飯』、イコールご飯とは認識されなかったらしい。
だんだん俯いていく周助。もじもじさせる手は、その努力を表し真っ赤になっていた。ところどころ皮まで剥けている。
「うああ悪かった周言い過ぎた!! お前の気持ちは痛てえほどよ〜くわかった大丈夫だ!!」
手を握り締めぶんぶん振る。「ホント・・・?」と涙目で見上げる周助に肯いてやれば、ぱああ・・・と花が咲いたように明るくなった。
反対にどんどん青く萎れていきながら、跡部はアフターケア第2弾としてエチケット袋を用意してくれていた千石にそっと問い掛けた。
「(なあ・・・。もしかして、
―――全部、このノリなのか・・・?)」
答えは―――
やはり笑みだった。
「周くんの事、幸せにしてあげるんだよね?」
「残さず食えよ跡部? 周ちゃんの幸せのために」
ようやくわかる、2人の笑顔の意味。だが、わかった時はもう既に遅かった・・・・・・。
いっそあのまま血みどろの闘いをしていればどれだけ良かっただろうか。まだそちらの方が生存確率は高かったように思える。
諦めの境地にて跡部は湯飲みに手を伸ばし、
「ぐおえげふぅっ!!」
「ああもー景ホントにごめん!!!」
ζ ζ ζ ζ ζ ζ ζ ζ ζ
否塚跡塚(むしろ跡塚)。この話はちゃんと跡不二ですよ〜!! ただ手塚と跡部の2人は普通にいても何か妖しく見えるだけで!!
そして同時に否塚不二。『愛』というより、幅広く『情』といった方が正しそうな関係希望。多分手塚の中で、この域(最上級)まで到達したのは現時点で周助と跡部だけでしょう。
まるでCPに喧嘩を売るような発言ですが、人と人(天仕もいるけど)の付き合いは何もホレたハレただけでもないんじゃないかなあ・・・というのを出したかったのがこの回です。
―――さてではそんな手塚のお相手は・・・・・・。
などという、リョーガに続いて第2の伏線張りはまあいいとして、今回楽しかったのがコーヒーと料理。喫茶店なんてまず愛用しないので調べましたが、いつもは見た目で適当に選んでいる種類がこう違うのかと勉強になりました。そして料理(エセ)。
・・・考えてて楽しかった・・・vv やっぱりいくら人間外だろうと『不二=料理でおかしな才能を発揮する』は外せませんね。いや味覚がおかしいだけで作るのは上手いはずだったんですがね・・・・・・。
ちなみに最後のは皆様ご自由にお考え下さい。小さな(?)間違いとしては、
1.お茶のパックかと思ったらダシだった。ダシは塩入れないと結構飲むのキツいです。
2.緑茶を溶いたつもりで今度はワサビ。温まったそれは余計にツンとくるでしょう。
3.温かい葛湯を目指して糊投入。もちろんでんぷん糊などではなく最近の化学合成品で。
4.いっそ酒。しかも徹底して100%アルコール。多分薬品の関連する人についた時パクったというか貰ったのでしょう。
・・・・・・こんなところですかね。意外と食えるものばっかなのが残念だ・・・・・・。
2005.5.29〜2006.1.6