月を見上げ星を見上げて、聞かせる今夜のお話は何?





星座物語おとめ座
ver

この世にゃ四季も何もない







 これはまだ、人間と神々、その他不思議な生き物たちが同じ世界で共に生きる時代の事。農業の神、ひいては自然そのものの神である跡部には、手塩にかけて育てた子ども―――のような存在である不二がいた。
 ある日、不二が英二やリョーマなど仲良くしているみんなと共に野原でテニスをしていたところ、バーニング状態で河村がかっ飛ばしたボールがてんてんと転がっていってしまった。
 「いいよ。僕取ってくるよ」
 「ベリーサンキュー!! ふ〜じこちゃん!!」
 河村の言葉に軽く手を振り、丘を駆け下りたところで―――
 「―――あれ?」
 不二は極めて奇妙な花を見つけた。見た目だけは水仙。それもかなり綺麗な部類の。ただし、通常の水仙なら1本の茎から
100個もの花が生えるなどという珍妙な物件はない。奇形だとしてもここまでのはそうはないだろう。
 「・・・・・・・・・・・・」
 しばし悩み―――
 「・・・・・・え〜っと犬はー・・・」
 「―――ごめん。これ、マンドラゴラじゃないから」
 犬に引かせ、抜き取ろうとした不二に突っ込みが入る。
 静かな低い声(ついでにちょっとお疲れ気味)がどこからか聞こえると共に、
 ズボッ―――
 「落とし穴!?」
 「せめて『地下への案内』とか言ってくれない?」
 開いた穴から暗闇へと沈んでいった水仙。代わりといわんばかりに、銀髪の綺麗な男が現れた。
 「え・・・? 君、は・・・・・・?」
 いきなりの事態に呆然とする不二。かろうじて開いた唇が紡ぎだしたのは悲鳴でもなんでもなく、言った本人が『僕って馬鹿だ・・・』と反省したくなるほどの普通の質問だった。
 立ちすくむ不二を優しく抱きかかえつつ、男もまた小さく笑う
 不二の手を取り軽くキスして、
 「初めまして周ちゃん。俺は冥界の王の佐伯。今日は君を迎えに来たんだよ」
 「それって・・・・・・」
 一応質問には答えてくれたが全く疑問に答えてはくれないまま、彼―――佐伯は不二を引きつれ、地下へ、冥界へと帰っていった。



 「あれ? 不二遅いね」
 「ボール結構飛んだんじゃないっスか?」
 のんびり待ちわびる友人らとは離れた場所にて、冥界への入り口は静かに閉まっていったのだった。





・     ・     ・     ・     ・






 その夜。
 「おい! てめぇら周はどうした!?」
 不二と一緒に遊んでいたメンバーらの住む共同荘『青学』にずかずか土足で上がりこんだ跡部は、どばんと食堂の扉を開け放ち怒鳴りつけた。
 丁度夕食時だったため中で食事をしていた一同。物騒な乱入者―――ではなく知り合いの訪問に半分口を開けた状態で固まった。
 「え? 不二?」
 「知らないっスよ。帰ったんじゃないっスか?」
 「俺たち、一緒に遊んでたんだけどなかなか戻ってこないから・・・」
 「てっきり帰ったって思ったんスけど・・・・・・」
 「ふむ。その様子では帰っていない確率
100%か―――おい跡部」
 口々にそんな事を言う役立たずどもに背を向け、跡部は猛スピードで外へと飛び出した。
 神とかの設定無視で魔法の明かりを頭上に掲げ―――るのはもちろん無理なのでお供の樺地にたいまつを持たせ、辺りをぶんぶん見回す。
 「おい周! どこ行きやがった!?」
 血相を変え目を血走らせ、辺りに向かって呼びかける跡部。しかしながら、もちろんそれに答える者はどこにもいなかった。





・     ・     ・     ・     ・






 さて飲まず食わずで不二を探す事
10日。この日もアテもなく愛情根性気力だけでというかそれだけあればもう十分なような気もするが、とりあえずそれらとあともちろん樺地と共に彷徨い歩いていたところで、向かいから同じくたいまつをかざして誰かがやってきた。夜の神・観月が。
 「んふっ。おやおや跡部君。随分やつれた顔をなさってますね。どういたしました?」
 こちらを見て、嫌みったらしく話しかけてくる観月。コイツなら絶対事情を知っているだろう。しかもこっちが知る以上の情報を持っている。この
10日、頭に血が上り無目的に探し回っていたが、よくよく考えてみればもっと効率のいい捜索法などいくらでもある。観月なら確実にそちらを選んだ筈だ。その上で知らないフリをし、こちらをあざ笑う趣旨だろう。
 「不二、知らねえか?」
 わかっていて、それでも跡部は問うしかなかった。他にもう方法が思いつかない。こんなヤツに頼りたくはないが、それでもそれで不二が見つかるのなら土下座だってなんだってしてやる。
 「あ、跡部君・・・・・・。言います・・・。言いますから・・・・・・苦悶の表情を浮かべつつ全力で首絞めるの止めていただけませんか・・・・・・? 苦しいのは僕のほうです・・・・・・」
 意外と物分りのいい観月に感謝の辞を表し、手を首から肩へと下げる。
 そのままぎりぎりと力を込める。夜の神に合わせてだろう、紫色ちっくだった観月の顔色がなぜか赤く染まっていく。
 「と、とりあえず不二君についてですが、いつも彼らの遊ぶ野にやはりあの日もいたようですね。ところが私が目を少し離した隙に―――」
 「いなくなった、ってか?」
 跡部の言葉に、観月が神妙に頷く。
 「ええ・・・。しかし不二君、いくら目を離していたとはいえ、僕の裏を掻いていなくなるとはやりますね。さすが・・・。
  ですがまだですよ。必ずあなたを見つけ出し今日の分は3倍以上にして返してあげ―――
  ―――ところで跡部君。つかぬ事をお伺いしますがなぜあなたはトゲ付きハンマーなどを受け取っているのですか?」
 どがん!!
 振り下ろしたハンマーの下で昏倒する観月。その辺に埋めとけと樺地に命じ、さくさく鳴る音を
BGMに跡部は顎に手を当て考え込んだ。
 (観月で見逃したとなると、後は・・・・・・)
 思いつくのは1人。太陽の神でもって趣味:可愛い子ウォッチングの軟派男。日々不二を狙う害獣その1たる彼ならば、不二の行動は一挙動一投足どころか僅かな筋肉の動き、視線すらも見逃さないだろう(太陽の馬車を乗り回し空を駆け抜けるアイツがなぜ地上の、それもただ1人をそこまで観察できるのか不思議でたまらないが)。
 「よし樺地、行くぞ」
 「ウス」
 そして2人は、掘った痕跡すら全く残さない草むらを後にしたのだった。





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 来ましたのはもちろんここ、太陽の神殿。
 「よお千石v」
 軽く手を上げ挨拶する跡部(笑顔を振りまき、語尾にはハートマーク付き)に、迎え入れようとした千石もまた笑顔で手を肩まで上げ、
 「不二くんだったらサエくんが連れてったよ」
 あっさり友人を売った。
 千石は太陽の神として昼を司っているのだが、なぜか昨日は自分と交代で働くはずの観月が来なかったのだ。おかげで夜に代われず1日中働くハメになったのだが(なので昨日は白夜だった)、その間自分の代わりに観月を探しに行ってくれた室町の話によると、明け方堅く踏み固めた土から顔のみ出して残り埋まっている観月を発見したらしい。農業の神にあるまじきめちゃくちゃな植え方だが、さりとて土に埋まって瞑想するネイチャーゲームでもあるまい。
 「ああ? 佐伯だと?」
 笑顔を一瞬で消し怪訝な顔をする跡部に、千石がこちらは笑顔のまま頷いてみせた。
 「なんか不二くん気に入ったっぽくって。お嫁さんにするんだって」
 「よりによってアイツがか!!??」
 端正な顔の造作を崩し、跡部が大口を開けて悲鳴を上げた。
 「『よりによって』って・・・?」
 「アイツとてめぇだけにゃ嫁に出したかねえんだよ!!」
 「俺まで・・・?
  ・・・・・・ちなみに不二くんをお嫁に出していい人って?」
 「ンなモン俺の身の回りにゃいねーよ!!」
 「うわあ・・・・・・」
 嗚呼素晴らしきかな親馬鹿の愛情。この様子では不二が嫁に行くのは永遠に無理なようだ。
 「大体手塚はどうした! そういう馬鹿の馬鹿行動を止めんのがアイツの役目だろーが!!」
 手塚は彼ら含め神々の頂点に立つ大神である。佐伯がンな犯罪行為(いやこの時代この世界に法律などというものはないだろうが)に及び、なおかつ成功した上お咎めなしとなれば間違いなく手塚がそれを許したという事になる。確かに不老不死だろうが万が一の事態を考え跡継ぎを作る事は推奨している以上、嫁にするという理由での行動なら許されたとしても不思議ではない。だが・・・・・・
 「何アイツ俺の子ども誘拐なんてさせてやがる・・・!!」
 「いや正確には跡部くんの子どもじゃないっしょ・・・。しかも『お前がここで首縦に振らないと、冥界に閉じ込めた前時代の怪物どもが地上に脱走しそうだけど―――もちろん首は縦に振るよなあ、手塚』とかすっごい公私混同振りでサエくんが計画実行前日手塚くんの事脅してたけど・・・・・・おーい聞いてる?」
 千石の声を聞くまでもなく、跡部はふらふらと神殿から出て行った。





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 (周・・・・・・)
 泉のほとりに座り込み、跡部は心の中で愛しい存在へと呼びかけてた。決して口に出しはしない。答えてくれる存在はいないのだから。
 (周・・・・・・)
 もう全てが疲れた。冥界へ行くにはそれこそ佐伯が導くか、さもなければ手塚に許されない限り無理である以上、これ以上何をしても無駄だ。
 樺地も家に帰した。いつまでもつき合わせても、向こうに迷惑だろう。それに、1人になりたかった。そういう理由で、若干渋るのを無視して無理やり帰ってもらった。ここにはもう、自分1人しかいない。
 1人きりで湖面を見つめ、さらに気分が沈んでいく。
 (見損なったぜ、手塚の野郎・・・・・・)
 神としての実力―――人望や統率力、指導力などに関しては、跡部と手塚は互角だった。どちらが全てを統べる大神となっても不思議ではない、誰もがこのように考えていた。実際大神を決める際、互いの支持派で意見は真っ二つに分かれた。それを最終的に決定させたのは他の誰でもない跡部自身。時に感情的になりやすい自分より、より冷静に全てを見渡し公平な判断を下せる手塚のほうが大神としてふさわしい、そう判断して、自ら大神の座を辞退した。跡部としては常々その事に関して手塚を高く評価していたし、丁度不二と共に暮らすようになり、いささか指導者としての適正を欠いていた跡部を見て彼の支持者たちもその意見を取り入れることになった。かくて、手塚は大神の座についた。『より冷静に全てを見渡し公平な判断を下せる』存在として。
 それこそ冷静に考えれば手塚の判断の方が正しい。自分と不二はただ親子のような関係、対して佐伯と不二はいつ一緒になっても構わない関係。動き出した佐伯を止める権限も理由も誰にも存在しない。大地の支配者である佐伯と、農業の神である自分の子どもの不二の結婚。互いに相手としては申し分ない。
 だが、そう頭でわかっていたとしても・・・・・・
 (周・・・。お前がいねえと、俺は・・・・・・)
 こうして、ますます跡部はうつ状態に入りこんでいく・・・・・・。





 これが、ただの親馬鹿ならいいのだ。泉のほとりでひたすら落ち込む親馬鹿その1。「ウザッ!」と石を投げられ終わる程度だ。
 だが、跡部はただの親馬鹿その1ではない。そう。彼は自然を支配する農業の神だ。そんな彼が落ち込み職務を放棄すると、このような事が起こる。





 「大変だ! 小麦が全部枯れた!!」
 「こっちも作物全滅だ!! 雑草まで残らず枯れたぞ!?」
 「一体何が起こってる!!!」
 「これは神がお怒りなのです!! 生贄を出し、神の怒りを静める儀式を!!」
 そんなこんなで、世界中で儀式が行われ、生贄に出される人間が
100人を突破した頃・・・・・・





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 「なあ、手塚・・・・・・」
 「何も言うな、大石・・・・・・」
 再び神々の住む山・オリンポス、その神殿にて。
 「でもな、このままだと本気でマズいぞ・・・? 怪物に滅ぼされる前に飢饉と虐殺でみんな死ぬ・・・」
 「ああ、わかっている・・・。全く、跡部も佐伯もなぜこうも問題行動ばかりを起こす・・・?」
 大石の持ってきたひたすら悪い知らせばかりに、事務用机に肘を付き手塚は項垂れるしかなかった。
 「跡部の親馬鹿ぶりについては話は聞いていたが、ここまで激しいものなのか・・・?」
 「まあとりあえず、不二を狙う観月や千石を日々九分殺しにしてる程度には・・・」
 ははは・・・と乾いた笑いを浮かべ、大石が呟いた。まがりなりにも不老不死の神。同じ神とはいえ傷つける事すら難しいはず。それを死まで後一歩の状況下にまで陥れるとは。それも毎日。どうりで1日を管理するのに千石と観月2人が必要なわけだ。回復するのに半日かかるようだ。
 ・・・・・・話題は逸れたが、不二への愛情はそれだけ深いらしい。
 「なら跡部に仕事に戻るよう頼むのは・・・」
 「無理だからな」
 明るく即答する。このような案が出た時、現地へ向かわせられるのは間違いなく補佐役もといこれでも伝令の神たる自分だ。しかしながら、いくらみんなのためとはいえ冒さなくてもいい冒険をし自分の危険度を跳ね上げるのはさすがに御免だった。
 「では佐伯に不二を跡部の元へと帰すよう説得するか?」
 「そ、そりゃまあ確かにかなり無謀だと思うけど、その方がまだ安全―――じゃなくて可能性としてはまだ高いだろ?」
 「・・・・・・・・・・・・そうだな」
 「じゃあ、俺は行って来るから・・・・・・」
 「ああ、頼んだ」
 後ろ向きな気分で旅支度をする大石を、やはり後ろ向きな気分で手塚が送り出した。





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 そして来たのは佐伯と不二の新居・地下宮殿。決意を固め入り口から入ろうとしたところ、なぜか扉を開けた目の前に問題の2人は立っていた。
 「あれ? 大石、どうした?」
 「やあ、大石。久しぶり」
 「って、佐伯、不二・・・・・・」
 固めた決意がへなへなと抜けていく。肩を落とす大石を、2人できょとんと見やった。
 「で? どうしたんだ今日は。俺たちの新婚生活でも見に来た?」
 「じゃなくて!」
 佐伯のからかいでようやく立ち直った大石。2人に交互に目をやり、結局直談判の相手である佐伯のところで止めた。
 「佐伯。いきなりの事なんだけど、不二を跡部の元へ帰してやってくれないか? 跡部が完全に落ち込んでるんだ」
 「景が・・・?」
 不二が息を呑む音が広がる。こちらで生活する中で唯一不安だったこと。確かに佐伯は優しくしてくれるし、地下だからといって陰気なこともないし、暮らしていく上で不便な事は何もない。だが残してきてしまった跡部は?
 自分の事を可愛がってくれた跡部。なのに何も言わず残してきてしまった。自分がいなくても元気でやっているか、それが心配だったというのに・・・・・・。
 彷徨う不二の瞳を見て、佐伯は大石に視線を戻した。あくまでからかう口ぶりで。
 「で? グレて他人にまで迷惑かけて? 本気でガキだな、アイツも」
 「佐伯! 笑い事じゃないんだ!! お前だって知ってるだろ!? 跡部は農業の神だ!! おかげで今全世界の植物は枯れ、みんな飢餓状態になってるんだぞ!? このままお前が不二を帰さないと、近い将来生物は全滅するぞ!!」
 「ふーん。世界平和のため、ね・・・・・・」
 一瞬だけ、佐伯が冷たく哂った。誰にも悟られない内にそれを消し、
 「周ちゃん、跡部の所、帰る?」
 「いいの・・・?」
 オズオズと問う不二ににっこりと笑いかける。
 「そりゃそういう事情聞いたら拒否もできないだろ? 惜しいけどね。仕方ないさ。それに―――」
 「それに?」
 聞き返してくる不二ではなく、ほっと一息ついた大石の方になぜか視線を動かし、
 「手塚やら跡部やらはともかく、ここで俺が拒否すると大石の胃に穴が開きそうだ」
 「わかってくれるかい? 佐伯・・・・・・」
 「大変だな、大石。周りが問題児ばっかりで」
 「そうだな・・・。とりあえず本当の問題児ほどそれを理解してないように思えるんだけど・・・・・・」
 「さてやっぱ周ちゃん、ずっとここにいる?」
 「あ、いや、ウソだから。そんな事思ってないぞ、うん」
 「大変だな、大石。周りが問題児ばっかりで」
 「本気でそう思うよ・・・・・・・・・・・・(泣)」





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 佐伯の説得も終え、大石と不二の2人は地上へと帰ることになった。大石1人だと風を切りひとっ飛びでどこへでもいけるのだが、さすがに不二を連れてはそれは出来ない。
 佐伯に用意してもらった馬車。地道にこれで地上へ帰るのだ。
 大石が綱を手に乗り込み、次いで不二が乗ろうとし―――佐伯に呼び止められた。
 「ああ周ちゃん、コレ」
 「何? これ」
 「冥界名物ザクロの実。地上までは長いからね。喉渇いたら食べるといいよ。
  ―――でもって大石、今何かコメントするつもりだったら口は閉じた方がいいぞ。胃は内側だけじゃなくって外側からも穴開けられるからな」
 「ああ。もう何も言うつもりはないよ」
 そんなやり取りの後、馬車は地上へ向け出発した・・・・・・。





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 (周・・・・・・)
 相も変わらず泉のほとりで落ち込みまくる跡部。
 (周・・・・・・・・・・・・)
 答えの返ってくるはずのない呼びかけを今日も重ね・・・、
 「景〜〜〜!!!」
 「ああ!?」
 後ろから返ってきた答えに、勢いよく後ろを振り向いた。
 向こうから駆け寄ってくるのは、もう2度と戻ってくることはないと思っていた最愛の我が子。跡部は信じられない思いで振り向いたまま硬直した。
 その間に距離を縮めた不二が、そのままの勢いで跡部に抱きついた。
 「ただいま! 景!」
 抱きつかれ、後ろに倒れる。
 地面に横たわった状態で、今だ状況の飲み込めない跡部は目を見開いて確認をする。
 「周・・・。お前、本当に周なのか・・・・・・?」
 「当たり前じゃない。他に誰がいるのさ?」
 胸の中で笑う不二。確かな重みを感じ・・・
 ようやく跡部の中で、止まっていた時間が流れ出した。
 「周・・・!!」
 「わっ・・・!!」
 ぎゅっと抱きしめる跡部。そこを中心に、草木が息吹を吹き返す。世界中の生物が、待ちに待った瞬間の到来。
 吹く風に、煽られた草に、頬を撫でられ不二がくすぐったそうに身を竦める。栗色の髪を掻き上げ、跡部は精一杯の愛しさを込め、優しく不二を抱きしめた。
 「よく帰ってきたな、周」
 「ただいま、景」





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 暫く抱き合いお互いの存在を確認し、
 跡部はふいに気になった事を尋ねた。
 「なあ不二・・・。まさかたあ思うが、お前、帰ってくる時佐伯に何か渡されなかったか・・・・・・?」
 頬を引きつらせ、問う。出来れば否定して欲しい。だが、
 「渡されたよ? ザクロの実。喉乾いたら食べてね、って」
 「佐伯の野郎・・・・・・!!」
 返ってくるのは、無常にも最悪の答え。
 引きつりがさらに激しくなる。体中が怒りで震えていた。
 もちろん抱きしめられたままの不二もそれは気付いたのだろう。不安げに上目遣いを向けてくる。
 いつもなら可愛くて可愛くてしかたない仕草だが、今回ばかりは純粋無垢な様に殺意すら覚える。どちらかというと、そんな彼が可愛くて世の真実というものを教えなかった自分にか。
 「ちなみに、何粒・・・・・・?」
 「えっと、1つ丸ごと食べたから・・・・・・
  ―――
32粒?」
 「食い過ぎだお前は!!!」
 ごん!!
 「痛っ!」
 「いいか周! 冥界のザクロってのは意味があって―――!!」
 「―――1粒食べるごとに1年のうち1月、冥界にいなきゃなんない」
 乱入する、3つ目の声。
 「佐伯・・・!!」
 「やあ跡部。久しぶり。周ちゃん、随分可愛らしく育てたね。まさか俺のことすら教えずに育ててたとは思ってなかったよ」
 「情操(情報操作)教育は大事だろうが。てめぇだのそこらへん教えるとぜってー性格曲がる」
 断言する跡部に、ははっと笑いつつ姿を見せた佐伯が近付いた。2度と離すまいと不二を抱きしめたままこちらを威嚇する跡部を無視し、不二の手を取り最初の時と同様キスを送った。
 「というわけで、
12粒以上食べた周ちゃんはこれから永遠に冥界にいなければならない」
 「え・・・・・・?」
 「ンな勝手な事やらせねーからな!!」
 「勝手? どこが? 冥界のザクロの決まりはお前も知ってるとおり絶対だ」
 「知らせずに食わせりゃ立派な詐欺だろ!?」
 「惜しかったなあ跡部。だから俺のこともちゃんと教えて育てればよかったのにお前の育成方が悪いばっかりに・・・・・・」
 「うっせえ!!
  大体周が食ったのは1個だろーが!! つまりは1月でオッケーって事だろ!!」
 「あのなあ。どこの子どものイイワケだよ。俺はしっかり1『粒』って言っただろうが。丸ごと食べたらどんなに実の付きの悪いやつだろうと
12粒は軽く越えるんだよ。実際周ちゃんだって32粒って言っただろ?」
 「周は子どもだ! というわけだから5以上の数は数えらんねえ!!」
 「いやお前の子どもって意味じゃその理屈は認めるけどな・・・・・・今周ちゃんいくつだよ。5以上数えられない、って、それ相当の恥だぞ?」
 「てめぇの今の台詞は実際数えらんねえヤツどもに対する差別だろーが!!」
 「はいはいすいませんねえ差別で。でもそういうのを『ども』とか言ってる時点で素敵にお前も差別してるぞ?」
 「ンなモン今は関係ねえ!!」
 「ってそこで暴れんなよ!!」





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 結局暴れた時点で跡部の敗北は決定だった。不二は以降永遠に冥界で暮らすようになり―――なぜかそれを追って跡部もまた冥界でその一生を終える事になった(不老不死な時点で終わることはないが)。
 「って、なんでお前まで?」
 「いーじゃねえか。別に俺は来てはいけないなんて言われてねえしな。それに夫婦が舅と同居することなんて珍しかねえだろ?」
 「また苦しい子どものイイワケを・・・・・・」
 にやりと笑う跡部に呻く佐伯。間に挟まれ、不二が会話の流れ無視で関係のない事を尋ねた。
 「でも景、地上の方はいいの?」
 「あん? 何がだ?」
 「だから、確かこの間は跡部が落ち込むと世界が滅びるって大石が相談持ちかけてきてたけど・・・」
 「そういやそうだよな」
 不二の素朴な疑問に、佐伯も賛同した。これで跡部が追い返せる―――かもしれない。
 後半弱気になったとおり、その程度で挫けるほど跡部の親馬鹿は生易しくはなかった。
 にっこりと笑い、
 「だからどうした?」
 「えっと・・・・・・」
 「つまりお前は自分のせいで世界が滅びようが―――」
 「ンなモン俺の知ったこっちゃねえ」
 あまりの素敵な言いっぷりに、さすがに2人も絶句するしかなかった。
 「うわ〜・・・」
 「誰だよこんなの神につけたヤツ・・・・・・」

















































「――――――というわけで、以降全ての植物は枯れ、人々はそれに対抗するためにバイオテクノロジーを発達させていったんだよ」
『へ〜・・・・・・』
「・・・ってそりゃおかしいだろいくらなんでも話として」
「どうせおとぎ話なんてそんなもんだろ?」
「それはそれでどうよ? 一気に夢のなくなる結論だな」


人差し指を立てて話を結論付ける佐伯。星に負けずきらきらと瞳を輝かせ聞き惚れる不二兄弟に、冷静に突っ込みを入れる跡部。



以上、天体観測をしながらの一場面であった。






Fin








☆     ☆     ☆     ☆     ☆

 はい。実際にある星座物語のパロディです。中間の跡部子育てシーンは飛ばしましたが(やると長すぎるので。なおやっていたなら子ども=ジロー、親とか兄弟とかは氷帝メンバーで、面白がった跡部が神の食べ物とか勝手に与えて育成実験。心配して様子を見に来た氷帝メンバーに発見され、怒られて逆切れ)、流れそのものは間違ってはいません。根本的間違いとして農業の神およびその子ども、さらに夜の神はすべて女性ですが。ちなみに本来ならラストは娘の食べたザクロの実は4粒。以降年4回冥界に行く娘。農業の女神は娘がいない間悲しみにふけり、植物の枯れるその間が『冬』となるという話です。間違っても昔話にバイオテクノロジーは出てきません。というかどんなにバイオテクノロジー発達させたところで植物が植物であり続ける限り枯れますし。
 そして思うこと。この話、もし跡部が手塚に直談判を申し込んだとしたら塚跡になりそうでした。手塚に猛反発する跡部。しかし譲らない手塚の前で、今までの疲れと重なってついに泣きつく。「周は俺がいないとダメなんだ・・・!!」とむしろ自分のほうが不二がいないとダメっぽい台詞を吐く跡部に手塚ノックダウン。不二を返してもらおうと必死に頑張る手塚にいつしか跡部も心を開き・・・・・・。なお最初から塚跡だと考えると、跡部が手塚に大神の座を譲ったのは、手塚は自分が見下ろされる事を好いていないから。サエが不二をさらったのは跡部が手塚と接触するきっかけ作り。つまり結論は手塚←跡部←佐伯・不二ですか!? 最早ここまで来るとどうでもよくなりますが、どこどこすさまじい勢いで元の話から離れていってます。なので戻してああもう終わり!?

2004.6.67