Unhappy Life
Target4.跡部
今度行われる氷帝との練習試合に先駆け、佐伯は副部長の任を全うすべく(部長はどうしたという意見は黙殺)1人東京へと向っていた。1人と・・・1匹で。
肩に担いでいたシューゴ。さすがに職員室に入る時は荷物を下ろすのが原則なのでテニスバッグともども手に持つ。部屋にいた教職員らに驚かれた。
その中でも眉一つ動かさない榊監督に心の中で拍手を送り、退室。バッグとシューゴを再び肩に担ぎ上げ・・・
・・・たところで前から来た跡部と目が合った。
「よお佐伯」
「ああ跡部」
「じゃあな」
「そーさっさと逃げんなよ」
手を上げ挨拶。そのまま足早に去ろうとした跡部の腕を掴み無理やり留める。振り向いた跡部は、今までのそっけなさとは一転、非常〜〜〜に嫌そうな顔を向けてきた。
「何なんだよ止めんな俺は忙しいんだよお前らに構ってるヒマなんてねえ位な」
「言ってる事とやってる事がぴったり一致してるぞ」
「だからどうした!! むしろ当たり前だろーがそれが!! 俺はお前らみてーに言動とその理屈をめちゃくちゃにはしてねえんだよ!!」
肩ではーはー息する。そんな彼は、
≪何か・・・彼1人で不幸になってるね≫
≪おかげで俺が幸せだv≫
≪性根サイアク・・・・・・≫
・・・もちろん目の前の1人と1匹にこんな『会話』をなされている事など知る由もなかった。
改めて顔を上げ。
「んで、お前そのぬいぐるみどーしたよ? ついにそういう趣味に走ったか?」
「残念。実は違うんだ。
まあよく見てくれよ。可愛いだろ? 周ちゃんに似てvv」
「・・・・・・てめぇの口から他の台詞は出ねえのか?」
げんなりと呟き、跡部は差し出されたそれを言われた通りよく見てみた。オプションは何か悪意を帯びたものに感じるがそれは無視し。
つぶらな瞳。愛くるしい顔。ああ確かに不二に良く似ている。不二からあの・・・『不条理さ』とか『不可解さ』とか『摩訶不思議さ』とかその辺りを抜き、純然培養された可愛らしさのみを引き出したようなそんな愛の結晶だった。
見た目に反し可愛いモノ大好きの跡部はあっさり陥落した。
ふっと目を細める。頭をぽんぽんと撫で、
「お前何て言うんだ?」
優しい笑顔。伝わるのは確かなぬくもり。なぜだろう? その目に見つめられると全てを奪われるような、全てを包まれるような、そんな錯覚に陥る。例えるなら上級の精神支配。なのにそれに反発したいとは思わない。このまま全てを任せ委ねたいと心の底から願ってしまう。
跡部お得意の他者の支配。こちらもあっさり陥落したシューゴが、気持ち良さそうに目を細めながら口を開いた。
「僕はシュー・・・」
びしり。
跡部の周りの空気が凍った。優しい顔のまま、そそそそそ・・・と後ろに下がり。
「じゃあな」
「って逃げるなあああああああああ!!!!!!!!!!」
ばしびしびぎっ!!
「うおっ・・・!」
シューゴの声に合わせ、廊下の窓ガラスが砕け散った。振り来る破片から腕で顔を守る―――ような愚行は冒さず(テニスプレイヤーならその腕もまた大事なものだ)、跡部は広い廊下を逆側へと跳んで逃げた。
と、今度はそこにあったドアが外れる。倒れてきたドアを、前へ身を投げ出してかわし―――
「ちっ・・・!」
下にばら撒かれたガラス片。どこをついても怪我は間違いないし。
背負っていたテニスバッグを下に下ろし、その上に手を付き倒立。そのまま前に回った。テニスでは見せないが、跡部はこの程度のアクロバティック行為は普通に出来る。
立ち上がった時、跡部は佐伯とシューゴの目の前まで戻ってきていた。佐伯が目を細める。いい判断だ。事情は何も説明していないが、まさか今のが全て事故だとは思わなかっただろう。タイミングからしてこの『ぬいぐるみ』の仕業だと気付いたハズだ。跡部はこれで頭が切れる。
だとすればどこが一番安全か。もちろんそれのすぐそばだ。手の内が全てさらされていない以上もしかしたら別の手を使われるかもしれないが、それでもこのような攻撃は避けられる。ヘタに使えば自らを巻き込みかねない。現にそれの一番そばにいる佐伯は全く避けていないにも関わらず完璧無傷だ。
目の前で、跡部が問う。佐伯とシューゴ、両方を見たまま。
「で?」
「何でもコレ―――シューゴは悪魔なんだそうだ。俺を不幸にしたいらしい」
「ほお・・・」
「・・・信じんのか?」
「そりゃな。今の攻撃、てめぇのイタズラにしちゃあからさま過ぎる上に何の捻りもなかった。ソイツの仕業だろ?」
「そういう信頼なワケ? お前たち」
『ああ』
ためらい0で頷く2人。跡部は半眼で佐伯を睨み、
シューゴの頭をもう一度ぽんと叩いた。
「頑張れよ。俺も全力で応援するからな」
「・・・・・・何で?」
「そりゃコイツが単体で動くよりお前が動いた方が被害が小せえからだ。今ので証明された。その調子でコイツを真人間にしてやってくれ。その上コイツが不幸になるとなりゃ万々歳だ」
「あの僕・・・」
「やるよなもちろん?」
再び謎の精神支配発動。見据えられ、シューゴはこくりと頷く事しか出来なかった。
「よし」
こちらも頷き、跡部は悠々と去っていった。鼻歌など歌いつつ。
「―――なんだよ。跡部幸せにしてどーすんだよ?」
「あ、ホントに不幸になった」
「・・・・・・」
その後、シューゴは『偶然バッグに紐が引っかかったぬいぐるみ』という設定で尻尾をファスナーに噛まされ、ずりずり引きずられて帰っていった。
―――Target5.リョーガ
をを? なぜだか跡部が幸せそうだ! そしてどんどんサエが不幸になってるぞ! さあ果たして彼は次のリョーガでその恨みを晴らす事が出来るのか!? てゆーか何か目的違うぞ!?
2005.5.7