あるところに、力は強大ですが反比例して頭の中身は足りない姫もとい王子と、それを世話する苦労人の騎士がいました。
WHITE & WHITE
「そんなワケで、私たちは困っているのですよ」
「あの王さえいなければ・・・」
街外れのとある喫茶店にて。佐伯と不二―――いや佐伯1人か―――はマスター夫妻の長きに渡る話を辛抱強く聞いていた。不二は出された飲み物にストローを突き立てくるくる回しちゅ〜と吸っている。ほのぼのする光景に全員で見惚れ・・・
「・・・というワケで、どうにかしていただけないでしょうか旅のお方」
「どうにか、と仰られましても・・・
・・・・・・不満があるのなら直訴をしてみればいかがでしょう?」
「そうはいかないんですよ。王はあの城の中にいますが―――」
指差されたのは街の中心にそびえ立つ城。ここが草原広がる外れの丘だからこそ一面がよく見渡せたが、中心の方にいたらきっとちょっとしか見えなかっただろう。その位大きい。
視線を戻す。奥さんの方が話を続けてきた。
「一切外へと出てこないんですよ。来るのは側近達のみ。そしてみんな話をはぐらかしてしまいます」
「じゃあ直接会いに行けば?」
「行けるなら行きたいですよ。ところがあの城には強力なシールドが張られており、王の許可なくして中へ入れないんですよ」
「つまり俺たちは・・・・・・」
「そのシールドを壊して欲しいんです。ほんの一時、ほんの一部でいいんです。そしたら代表が中へ入り話をつけます」
「ちなみに街の術者などは?」
「頼みました。彼らもまた、私たちに協力してくれています。ですが・・・彼らではとても解けるものではないそうです。それに一面張られているため空から接近なども出来ないそうで・・・」
沈み込む彼ら。省略した話からすると、王に過度の税金を求められ、このままでは国は滅んでしまいそうなそうだ。
同情し、(依頼料は安いながら)佐伯は引き受けようかと不二に視線で問い掛け―――
―――そこで凍りついた。
いつのまにかジュースを飲み終わっていた不二。大きな瞳で2人をじっと見ている。
「あの城、壊せばいいの?」
「いやあの、城じゃなくってシールドを・・・・・・」
「わかった」
慌てた時にはもう遅かった。
不二が城へ手を翳した。その先には既に魔力が集結していて―――
「ちょっと待って周ちゃん!!」
ぐいっ!!
後ろから佐伯が襟首を掴む。おかげで狙いが上へと逸れた。
どごぉぉぉぉぉぉぉ――――――――――――ん・・・・・・・・・・・・
空中で大爆発したそれ。城からここまで相当離れているというのに、正面から爆風が押し寄せてくる。多分街の中心部では、石造りの家も倒壊しただろう。
そして―――
『強力なシールド』で覆われた城とやらは、ちょっぴり爆発の端っこに巻き込まれたらしく・・・・・・まあ少なく見積もれば全体の1/3程が消滅していた。
「あ・・・・・・」
「城、が・・・・・・」
夫妻が呆然としている間に、
「失礼しました!!」
佐伯は不二を担ぎ上げその場をすたこら逃げ出したのだった。
* * * * *
街からさらに外れた森で、佐伯は不二を適当な石の上に座らせるとその真正面にしゃがみ込んだ。
肩を抱き、じっと目を見つめ教え諭す。
「いいかい周ちゃん。さっきみたいにむやみに力使っちゃダメだよ?」
「でも、お城壊すのが仕事なんでしょ?」
「お城―――というかその周りのシールドをね」
「シールド、壊れたよ?」
「・・・ま、まあ確かに壊れただろうね城ごと」
「よかったんじゃないの?」
不二の特技、『話題転換価値観変換』が発動している。このまま彼の思考に呑まれれば説得失敗!
じ〜っと見つめる不二にどきどきしつつ、
(いやいや今日こそちゃんと周ちゃんに正しい世の中ってモンを教えるんだ!!)
佐伯はぶんぶん頭を振った。不思議そうに見つめられる。
「でもね周ちゃん、マスターもおかみさんも言ってただろ? 『ほんの一時、ほんの一部でいい』って」
もちろん彼らは難しいと思ってなるべく目標を低く設定した結果だが・・・・・・
「『ずっと』って、『ほんの一時』の集合体でしょ? それにだから全部は壊さなかったよ?」
・・・・・・不二を相手にすると、あのような言い回しはむしろ彼の制御に繋がる。ただしそれを言い聞かせる前に行動を起こされると今回のような事になるのだが。
「だってこの間会った商人のおじさんが言ってたよ? 『大は小を―――』」
「兼ねなくていい!!」
堪りかねて怒鳴りつける佐伯。びくっと震える不二を押さえつけ、
「いいか!? あの城には王以外の人だって大勢いたんだぞ!? もしかしたら中には王に反対してる人だっていたかもしれない!! なのに周ちゃんはそういう人まで全部殺したんだぞ!?」
「だ、だって・・・」
不二が上目遣いで見上げてくる。その目は早くも潤んでいた。
「王、悪い人なんでしょ・・・? 倒さなきゃいけないんでしょ・・・? だから僕・・・」
「王以外はどうだったかわかんないんだぞ!? それに王だって話せばわかったかもしれない!! なのにそういうの全部殺していいと思ってんのか!?」
「ぼ・・・僕・・・・・・」
俯く不二。うるうる目から、早くも涙が零れ始めていた。それでも懸命に堪えるように、眉をぎゅっと寄せ唇を窄めている。
「サエが、そうしたそうだったから・・・・・・。だからちょっとでも力になれるようにって・・・・・・。
僕、いつもサエに迷惑かけてばっかだから・・・・・・・・・・・・」
「周ちゃん・・・・・・・・・・・・」
呆然と、佐伯が呟いた。てっきりいつもの突発的行動かと思っていれば・・・
(そんな事考えてたのか・・・・・・)
どうしようもない愛しさが込み上げ、佐伯はぎゅっと不二を抱き締めた。
「サエ・・・?」
腕の中で、おずおずと不二が見上げてくる。優しく笑い、目の端に浮かぶ涙を指で掬い取ってやった。
「ごめんね周ちゃん、怒ったりして」
「もう、怒ってないの・・・・・・?」
「ああ。周ちゃんの優しさはよくわかったからね」
頭を撫でる。不二はふっ・・・と目を細めた。
撫でながら、佐伯は言った。今度こそ諭すように。
「でもね周ちゃん、これだけは覚えておいてね。
人の命ってとっても重いんだ。ある日いきなり俺が死んだら、周ちゃんは悲しいだろ? 俺だっていきなり周ちゃんが死んだら、悲しくてたまらないよ。
周ちゃんの力っていうのは、人を助けるためにあるんだ。殺すためじゃない。
これからはむやみに使っちゃダメだよ? いいかい?」
ゆっくりと、謳うように囁かれた言葉たちが体に頭に染み込んでいく。
全てが終わった時、不二の目からは綺麗な涙が流れていた。虚空を見つめる瞳が、何か大事なものへと焦点を合わせている。
顔が、くしゃりと萎まり、
「ごめんなさいいいいいいいいい!!!!!!!!!!!!!」
叫び、佐伯に抱きつき泣き出す不二。大泣きする彼を、佐伯は黙って抱き締めてやった。
森には不二の泣き声と、彼の背中を叩くぽんぽんという音だけが広がる・・・・・・。
* * * * *
その街からそそくさと逃げ出した2人。後日、端っこの村で朗報を聞く事になった。
「王が代わった?」
「ああ。何でも街の人が超凄腕の術者雇ったらしくてな、なんとシールドで護られてた城の半分弱を一撃で吹き飛ばしたんだそうだ。もー王も真っ青。『何でも言う事聞きますからどーか命だけは!!』ってんで、辞めさせて他のヤツつけたんだそうだ。すげー革命だな」
「確かに凄いけど・・・・・・それだとかなり死者出なかったか? 城にいた人」
「ああそれがこの革命の凄さだ。丁度その日王の誕生日かなんかでパーティーらしくってな、使用人もみんなホール行ってて、んで攻撃受けたのがそっから一番遠いトコ。おかげで死者はなしだってよ。ただし爆発の煽りで怪我したヤツは多いみたいだけど。
そんなこんなでこの革命は『聖なる革命』とか呼ばれて今騒ぎになってんだとよ!」
「へ、へえ・・・。
ちなみに・・・・・・」
頬の引きつりを何とか堪えつつ、佐伯は肝心の事を尋ねた。
「・・・・・・その『超凄腕の術者』って誰なんだ?」
「いや〜それが全然わかんねーらしい。前触れも何もなしにいきなり攻撃されて、事態が片付いて礼を言おうと思ったらもういない。どころか誰も一体誰がやったのかわからない。唯一その術者に会ったらしい人が言うには、2人組の旅の人で、困って相談したところ攻撃をするだけしたら何も言わず立ち去ったらしい。礼も受け取らなかったそうだぜ。カッコいーなあ。俺憧れるよ!!」
「は・・・はあ〜・・・」
「なあ! アンタらも旅してんだろ? もしその人達に会ったら言っといてくれよ! 『アンタらは俺たちの英雄だ!』ってな」
「ああ・・・。伝えとくよ。
・・・・・・・・・・・・会ったらな」
かろうじて笑顔で別れる佐伯。彼はこの話を不二に・・・・・・
・・・・・・・・・・・・もちろん伝えなかった。
―――Fin
パラレルにて超白の話にしてみました。清々しいまでに白かったぞ!! そしてなぜ『白』=『馬鹿』になるのでしょう? まとめて『白痴』ですか?
さてこの話、不二がオフィシャルからかけ離れすぎです! にっこり笑顔はどこへやら、この話の彼は徹頭徹尾ぽや〜と大きな目を開いて首を傾げているのでしょう。付き合うサエも大変そうだなあ。必死こいて世の常識を教え、全てをあっさり無にされて。こういうファンタジーは『おちゃらけ〜』でも書きましたが、あの時と比べると白さひとしお。なので城壊して罪悪感感じてます。あっちは村滅ぼして即行切り捨ててましたが。
2005.5.29