5.人質救出―――××


 中へ入った。多分
 確信が持てないのは、入るなり後ろから術をかけられたからだ。補助ではなく、転移の。
 跡部がいたのは――――――教会だった。この大陸に広く支持されている宗教で、各種儀式を行う会場。様相を考えると、今回行う儀式は、



 ――――――結婚



 「さて帰るか」
 「待てよ」
 踵を返したところ後ろから、つまるところ前から声をかけられる。聖装に身を包んだ彼は、今更解説を入れる必要のない男だった。
 「今度は誰だ?」
 「俺は俺だよ?」
 「つまり?」





 「本名佐伯虎次郎。通称サエ、愛称コウ。
  お前の仕事の依頼人かつ救助される人質だ。仕事ご苦労さん」





 爽やかに、華やかに、挑発的に、馬鹿にするように。
 笑う彼曰く『全部全く無駄だった』。
 半眼どころか3/4閉じた目で男―――最初に紹介された『佐伯』で表記する―――を見やり、
 跡部は結局踵を返した。
 「帰る」
 「だからまあちょっと待てって」
 後ろからぎゅっと抱きつかれ、確かにサエや虎次郎と同じ温もりを感じながら彼をずりずり引きずる。
 踏ん張る佐伯。頑張る跡部。無言のまま力比べなのか根比べなのかわからない勝負を繰り広げ。
 
10分ほどかけ入り口まであと半分ほどの所に来た辺りで、2人揃って勝負の不毛さを悟った。
 「・・・・・・・・・・・・で?」
 「・・・・・・・・・・・・ん?」
 2文字以上の言葉を紡げるよう息を整え、
 「結局何がやりたかったんだよてめぇは」
 「いやつまりは婚前交渉を」
 「人聞き悪りい言い方すんな!!」
 大体やりたい事がわかり、跡部はここ最近で一番重苦しいため息をついた。
 つまりは自分と結婚したいと。だがいきなりそう持ちかけたところで自分が了承するかわからないと。
 だからこんな回り込んだ手を使いあれやこれやと様々な手法で自己アピールをしていたらしい。1人1人の出番が短かったのは前の印象を消さないためかそれだけ多く出すためか。
 でもって手ごたえを感じられたようだからここへ連れてきたのだろう。
 「どんな俺でも大丈夫だ。さあ、どの俺がいい?」
 問われ、
 悩む事はなかった。
 にやりと笑い、跡部は言った。





 「お前はお前だろ?」





 「そっか」
 全てを包み込む笑い。
 今度は正面からぎゅっと抱き締め、
 紡ぐ。





 「我が名は佐伯虎次郎
  汝跡部景吾
  我、汝と取引を交わす
  我を愛せ
  代価は我が愛とする」





 「ちゃんと言えよ。お前の言葉で」
 囁く跡部を真正面から見つめ、
 言う。己の言葉で。己の気持ちを。
 他の誰でもない。これが俺だと、胸を張り佐伯は言った。





 「愛してるよ景吾。結婚しよう」





 そして跡部は・・・・・・・・・・・・




















 「断る」
 「何でだよ!?」
 「ったりめーだろーが!! 最初っからそのつもりだったてめぇはともかく俺は散々担がれて挙句前置き0でソレだぞ!? どこどーやったら受けれるんだよ!?」
 「そこを何とか!! だからそのためのお試し期間用意しただろ!?」
 「だったら最初にそー言えよ!! 不意打ちテストなんぞ余計にタチ悪りいだろ!?」
 「言ってたら断ってただろ!?」
 「ったりめーだろ!? いきなり押しかけられて『結婚しろ。そのために交際期間作るから』なんて言われて誰が受ける!?」
 「結婚なんて大体そんなモンだろ!?」
 「違げーよ!! 愛し合って一緒にいたいからすんだろーが!!」
 「だってだから『結婚を前提としてお付き合いください』って台詞が出るんだろ!?」
 「名目としてはそうなるがその場合は『結婚する気がなくなったら断っていいですよ』って意味も含まれるんだよ!! それにそもそもそういう話が出るのは互いにある程度知ってる仲だからだ!! 初めて会ったヤツにいきなり言われたら張り倒すに決まってんだろーが!!」
 「だったらお見合いはどーなるんだよ!! 初めて会うのにいきなりそれっぽい展開になるんだぞ!?」
 「見合いは『結婚する意志はあるが相手がいない』ヤツらのする事だろ!? 俺はそもそも結婚する気はねえ!!」
 「本人はそう思わなくてもきっと周りはそう思ってんだぞ!? だから知らない間に話が進んでるんだろ!?」
 「俺の周りで誰が思った!?」
 「俺が!!」
 「『周り』じゃねーよ!! 何勝手にほざいてやがる!!
  てめぇのやってる事は迷惑ストーカーが妄想暴走させて被害撒き散らしてんのと一緒なんだよ!!」
 「俺がそれだと!? お前はそう言いたいのか!?」
 「さっきっからはっきりきっぱりそう言ってんだろーが!!」
 「うっうっうっ・・・。何だよ・・・。そんなに冷たくしなくたっていいじゃないか・・・・・・」
 「ざーとらしく泣いてんじゃねえ!!」
 「あんな事やこんな事までした仲だっていうのに・・・・・・」
 「てめぇだろーが誘ってきたのは!!」
 「お前だって断らなかっただろ!?」
 「断ったわあ!!」
 「さってそれはどうだったか・・・。確か『俺も、してやられるばっかじゃプライドが傷つくもんでな』とか言って自分からやってきた時もあったように記憶してるが・・・・・・」
 「あ・・・//! あん時ぁこーいうカラクリだったなんて知らなかったからだろ!? 普通にサエが女だと思ってたし―――!!」
 「ほう。つまり女ならオッケー」
 「だからって今ここで女に変身したからって俺の返事は変わんねーからな」
 「ちっ。
  いいだろ別に男だ女だ気にしなくったって。お前どっちでも気持ち良さそうだったじゃん」
 「だからそーいう問題じゃねーだろ!? 何さりげに話題ずらしてんだよ!?」
 「ね〜。だからぁ〜」
 「ヘンに甘えんじゃねえよ気味悪りいなあ」
 「『景吾は必ずしも自分が優位に立ちたい派ではないらしい』と・・・」
 「何メモってる!?」
 「やっぱ円満な結婚生活のために互いの事を良く知り良く理解する事が大事だろ。そのための第一歩だ」
 「そもそも結婚しねーよ!!」
 「景吾様ぁ〜vv」
 「うっとーしいわ!! 全然理解してねーじゃねえか!!」
 「ふむ。つまり円満な結婚生活を送るためにぜひ俺にお前を理解してほしい、と」
 「思ってねえよ話題戻すな!!」
 「まーそう言わずに。な?」
 「抱きつくな!!」
 「・・・注文多いなあ」
 「ホラやっぱ嫌だろ俺との結婚なんてよ!!」
 「そんな後ろ向きに捉えるなよv 思いっきり甘えていいんだぞvv」
 「会話にしろよ!! だから断るって婉曲に言ってんだろーが!!」
 「言いたい事があるならはっきり言っていいんだぞ?」
 「はっきり言って通じてねえから遠回しに言ったんだろ!?」
 「ちゃんと通じてるって。応えてないだけで」
 「応えろよ!!」
 「断る」
 「てめぇが断るんじゃねええええええええ!!!!!!!!」







‡     ‡     ‡     ‡     ‡








 延々繰り広げられた争い。しかしながら、今までの佐伯と跡部の勝敗を考えれば跡部の負けは確定だった。
 こうしてここに、





 天然ボケで芝居上手、金に意地汚く人をからかうのが大好きな佐伯
 と、
 お人よしで普通に騙され、押しが弱く人生諦めの悟りを開いた跡部





 ―――という、史上最強と取れなくもないかもしれないカップルが誕生した。



―――Happy End








 天然ボケで芝居上手。金に意地汚く人をからかうのが大好き。以上、私的佐伯の4段活用でした。2番目のサエが、まるで双子の姉真斗に見えますが、それも芝居の成果という事で。そして3番目の虎次郎。佐伯の従兄(誕生日は7月くらいか?)とかいう設定でめちゃくちゃ出したい!! 出来れば大阪四天宝寺所属! 全国に来ないのは東京への交通費がないからですか!? きっと去年のJr.では2人揃ってさぞかし跡部をからかったんだろうなあ・・・。そして今なら何も知らないリョーガをからかうんだろうなあ・・・・・・。なお髪は黒が希望。右利き大阪弁でそれ以外は佐伯そっくりで(結構違ったような・・・)。ただし名前どうしよう・・・。虎太郎か・・・・・・。通称『コータ』ですか・・・・・・?
 そしてどうでもいい注釈。菌が作れるアルコールはせいぜい
20度前後でそれ以上だと死ぬだろうにと言われそうですが、まあ世界が違いますのできっと軽く50度以上は作れるのでしょう!!

2005.6.16〜19