ごく普通の毎日を送っていて、
 もしある日突然「お前は世界を滅ぼす鍵だ」と言われ命を狙われたら、あなたはどうしますか?

佐伯:「もちろん決まってる。狙ってきたヤツら皆殺しだ。俺は俺が一番大事だからな」

 ・・・・・・そんなあなただから、そう言われるんだと思いマス。



―――完











勇者 物語















 そんなこんなで今日も元気に世界を滅びへ導く佐伯の元へは、今日もまた世界を守ろうとする『勇者』たちが訪れた。


 





―――手塚
    手塚:「お前か? 世界を滅ぼす鍵というのは」
佐伯:「そうなのか?」
手塚:「む・・・・・・?」
 一応の確認だったのになぜか首を傾げられ、手塚は眉間に皺を寄せ呻いた。
手塚:「・・・・・・知らないのか?」
佐伯:「ああ。今お前に言われて初めて知った」
手塚:「そうか・・・」
佐伯:「教えてくれてありがとな。どこの誰かは知らないけど親切なヤツ。
    へえ〜。そっか〜。俺ってばそんな凄いヤツだったんだ」
手塚:「いや、あまり凄いというものでもないと思うが・・・」
佐伯:「そうなのか? 世の中って難しいなあ。
    ―――まいっか。そんじゃ!」
手塚:「ああ・・・」
 すたすたすたすたすた・・・
 はっ!!
手塚:「―――って何をやっているのだ俺は!?」
 ようやく目的を思い出し振り向く手塚。しかしながら、そこにはもう目的人物の影も形もなかった。



―――完


 
×
×
 





―――橘
 
    橘:「お前か? 世界を滅ぼす鍵ってのは」
佐伯:「そうだ」
橘:「やけにあっさり頷くな・・・。
   まあとりあえずだ。
   お前には何の恨みもない。だが存在自体が滅びの鍵だと言われれば見過ごすワケにもいくまい。残念だがお前にはここで死―――」
佐伯:「口上が長い!!」
 ずんどむ!
 突っ込みと共に佐伯の放った術は、地に深い穴を穿ちその上に立っていた橘を遥か彼方へ吹っ飛ばした。
 ひるひる飛んでいく橘を見送り、佐伯はぷりぷりと怒って告げた。
佐伯:「次から口上は
10以内に収めるように」



―――完


 
×
×
 





―――リョーマ
 
    リョーマ:「アンタが世界を滅ぼす鍵って人?」
佐伯:「そうらしいぞ?」
リョーマ:「何その曖昧な言い方」
佐伯:「前回はっきり頷いたらなぜか文句を言われたからな。
    いくら世界を滅ぼす以下略だからってイメージは大事だ。文句を言われたならちゃんと改良しないとな。
    ホラこんな感じで世間のニーズに応えてるんだぞ? 俺って良いヤツだと思わないか?」
リョーマ:「アンタの口上の方がよっぽど長いよ・・・」
佐伯:「ところでお前は俺がかくかくしかじかという事で殺しにきたのか?」
リョーマ:「あえてそこを略す理由がいっそ知りたいけど。しかもその前の『前略以下略』って、そっちの方が長いし。
      ・・・そうだよ」
佐伯:「『前略以下略』!! 良い言い方だ!!」
リョーマ:「もう何略されてんだかワケわかんないし・・・。そもそもいきなりそれで通じる人見てみたいよ。
      それはともかくだから・・・」
佐伯:「ならそんなお前に質問だ。お前は自分が何者だか知っているか?」
リョーマ:「はあ? だから前と会話繋げてよ」
佐伯:「なるほどお前はちゃんと繋がってるな。
    しかしながら時代は常に新しいものを求めている。だから前略以下略も生まれた。
    惜しいが古いものには見切りをつけて新しく旅立たないとな」
リョーマ:「・・・続けるんだね? あくまでその言い方で続けるんだね? しかも4言前の台詞を『古い』とか言い切るクセにそっちは一切反対しないんだね?」
佐伯:「古さも度を越すと『伝統』と言われる。あるいは『ビンテージ』と。
    おめでとうどこの誰だか知らないが。お前の言い方は『古き良きもの』として残る事になった」
リョーマ:「ここまで祝われて嬉しくない事ってそうそうないだろうね。
      ―――もう話戻していい?」
佐伯:「ん? 流行の話じゃなかったのか? だから俺は世間のニーズに応え常に最先端を行くと」
リョーマ:「アンタは尖端行き過ぎだ!!
      自分で振っといて話題忘れんなよ! 俺が自分が何者かって話だろ!?」
 ぜ〜は〜・・・。
リョーマ:「知ってるに決まってんでしょ? 俺は越前リョーマ。旅の魔法戦士やってる」
佐伯:「そうかそうか。小さいのに大変だなあ。そんな頑張るお前の姿に乾杯だ☆」
リョーマ:「いろいろとうるさいよ!! だから何!?」
佐伯:「で、お前のそんな肩書きは本当に正しいのか?」
リョーマ:「はあ?」
佐伯:「俺も今まで普通に『何の害もない一般市民A』でやってきた」
リョーマ:「ウソつけ・・・」
佐伯:「が、ある日いきなり、控えめな言い方で妙に大人びているが肌の色艶からすると同年齢程度だろう男に告げられた」
リョーマ:「それ、『若年寄』って言っていいと思うよ本人いないんだし」
佐伯:「そうか? けどやっぱ本人気にしてんじゃないかな〜と思って親切心で変えてみたんだが」
リョーマ:「むしろ傷口に塩抉りこんでんじゃん?」
佐伯:「むう。
    じゃあそのとっつぁん坊やに言われた」
リョーマ:「・・・やっぱ戻してあげて」
佐伯:「控えめな言い方で妙に大人びているが肌の色艶からすると同年齢程度だろう男に告げられた。
    『お前か? 世界を滅ぼす鍵というのは』―――と」
リョーマ:「告げてないそれは!!」
佐伯:「それは俺にとっても驚きだった。どの位驚いたかというと、多分俺の人生において
111番目くらいにランクインするほどだ。キリの良い数字だったのでちょっと祝ってみた」
リョーマ:「凄くないし何をどう祝いたいのか意味不明だしそもそも『多分』とか『くらい』とかキリの良さも怪しいし・・・。
      てゆーかアンタの人生驚きっ放しなワケ?」
佐伯:「もちろんだ。人生というのは驚きと興奮で満ち溢れているらしいからな。
    ちなみに一番驚いたのは、幼馴染の周ちゃんの弟裕太君が、いつもお兄ちゃんにべったりだったのにある日突然『兄貴なんか大っ嫌いだ!!』と言った時だった。その時は俺も周ちゃんと一緒に酷く驚いた」
リョーマ:「弟の反抗期以下かよ世界を滅ぼす鍵っていうのは!? しかも自分のじゃないし!!」
佐伯:「だってアレはショックだったんだぞ!? 何より周ちゃんが悲しそうなのが!!」
リョーマ:「俺が知るか!? あーもーだから何!?」
佐伯:「だから。
    そんな風に告げられたのでとりあえずなってみて今日まで来たが―――」
リョーマ:「何そのぐでぐでさ加減・・・?
      成り立ちもダメなら進め方もダメじゃん」
佐伯:「だってさあ〜! 『世界を〜』とか言われても具体的に何をすれば滅ぶのかわかんないし、なのに周りみんなからは責められるし攻められるし。
    気晴らしに襲ってきたヤツら吹っ飛ばしでもしなきゃやってらんないと思わないか〜?」
リョーマ:「・・・ホントにぐでぐでだね。いっそ止めたら?」
佐伯:「お!? それもそーだな。
    んじゃ止めるか。ありがとな」
リョーマ:「いやもーいいけどさあ・・・」
 手を振り爽やかに去っていく佐伯を見送り、
リョーマ:「・・・・・・。
      結局あの人は何が言いたかったワケ?」



―――完


 
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―――英二
 
    英二:「にゃ〜! お前だな!? 世界を滅ぼす鍵っていうのは!?」
佐伯:「俺?
    まさか。もうそれは廃業したぞ?」
 ずどごん!!
 笑って手を振る佐伯の一撃。
 そのまま去っていった彼の後ろでは、適度に焼け焦げた英二がぼてりと地に転がっていた。
英二:「全然・・・、辞めてねーじゃん・・・・・・」



―――完


 
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―――宍戸
 
    宍戸:「テメーか!? 世界を滅ぼす鍵ってのは!? 俺と勝負しろ!!」
佐伯:「『勝負』? 倒されろとかじゃなくって?」
宍戸:「俺はンな根性ひねくれ曲がった事はしねえからな。やるんだったら正々堂々正面からのぶつかり合いだ!!」
佐伯:「なるほどなあ。感心する心意気だ。
    いいぜ?」
 拳を掲げる宍戸に対し、
 佐伯が翳したのは抜き手だった。
 告げる。
佐伯:「さっそく勝負開始。そしてじゃあな」
宍戸:「へ・・・・・・?」
 それが、宍戸の最後の言葉だった。
 どごおおおおおぉぉぉ・・・ん・・・・・・
 正々堂々正面からぶつけられた破壊弾により、宍戸はあっさり戦闘不能になった。
 ぴくぴく震える彼を見下ろし、
佐伯:「うんうん。こういった決闘は何か潔いとか男らしいとか褒められやすいからな。
    これで下がりきった俺のイメージもちょっとは上がるだろう」



―――完


 
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―――リョーガ
 
    リョーガ:「あ! お前があの―――」
 ずごおおおおおぉぉぉ・・・ん・・・・・・
リョーガ:「・・・・・・・・・・・・で、ここに至るにあたって出来ればその理由とか聞かせてくんねえかな?」
佐伯:「ん? この間お前は俺の口上が長いと言ったじゃないか。だから今日は口上0でいってみたぞ?」
 しっかり当てたつもりだったが回避したらしく、寝ながらもまだ口が聞けるリョーガに、佐伯はえへんと胸を張った。
 暫し沈黙し・・・
リョーガ:「いや、それ弟じゃなかったか?」
佐伯:「そうなのか?」
リョーガ:「そう。つーかそれが俺だったらわざわざまた確認する必要ねえし」
佐伯:「てっきり物忘れの激しいヤツだとばっかり・・・」
リョーガ:「ンな命に関わる事忘れねえよ!!」
佐伯:「むう」
 至極真っ当な言い分。腕組みし一声唸り、
佐伯:「そうか。それで以前会った時と顔つきも服装も声も身長も装備も違ってると思ったら」
リョーガ:「似てるトコほぼ0じゃねえか!! どーやって間違えたんだよ!?」
佐伯:「気分の問題?」
リョーガ:「邪気0の眼差しで訊くんじゃねえ!!」
佐伯:「いやそれは冗談として。きっとこれは成長期だからそれに合わせて回りも変えたんだろうな〜と」
リョーガ:「どんな成長期だよ!? 何日で何センチ伸びてんだ!?」
佐伯:「いやいや。明日葉なんて今日摘んでも明日また伸びるし。ハツカダイコンなんて
20日と言わず暗闇に6日程度放置でもう食えるんだぞ?」
リョーガ:「俺らは人間だ!!」
佐伯:「・・・・・・新種?」
リョーガ:「そりゃお前だろーがどう考えても!!」
佐伯:「いや俺がそんなまさか。照れんじゃん//」
リョーガ:「その会話の通じなさが人間じゃねえって皮肉ってんだよ(泣)!!」
佐伯:「そうかそうか。涙を流してまで訴えられたら俺も理解するしかないじゃないか」
リョーガ:「つまり何か!? 今まで本気で全く何も理解してなかったのか!?」
佐伯:「だが大丈夫だ。そんな時の解決策もちゃんと知っている」
リョーガ:「流すなよでもって吹っ飛ばすなよ!!?」
 リョーガの魂の叫びはもちろん無視され、
 ずごおおおおおぉぉぉ・・・ん・・・・・・
 ひるひるひるひるひる・・・・・・ぽてり。
佐伯:「古今東西話題に困ったらとりあえず吹っ飛ばせ。お前もよくわかってるじゃないか。
    あ、そうそう。丁度いいから弟とやらに伝えておいてくれ。この間は話題が途中でワケのわからない方向に飛んだからな」
リョーガ:「今日のはワケわかったのか・・・・・・?」
佐伯:「『そんなこんなでぐでぐでに前略以下略をやっている俺だが、だからこそそんなぐでぐで状況はお前にも襲い掛かるかもしれない。
    もし「鍵穴」とか「扉」とかその辺りになれたら仲良くしよう』といった感じで。
    そんじゃ!」
 言うだけ言い、佐伯は本当に去ってしまった。
 取り残され、地にへばりついたままリョーガがボヤく。
リョーガ:「いや・・・無理だろーないろんな意味で・・・」



―――完


 
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―――南
 
    南:「お前か? 世界を滅ぼす鍵ってのは?」
佐伯:「つまりお前も俺に吹っ飛ばされたいヤツ候補、と」
南:「いや違うから。しかも『候補』って、そんなに多いのか?」
佐伯:「多いぞ? 俺は大人気だ」
南:「・・・いいけどさあもう。話題通じないヤツは千石で慣れきってるから」
佐伯:「で?」
 話題を振られ(ついでに今回はパターンを変更したらしく、右腰に下げた剣に手をかけられ)、南は慌ててぶんぶん手と首を振った。
 頭を下げ、
南:「お願いです世界滅ぼすの止めて下さい」
佐伯:「・・・・・・・・・・・・」
 お願いされてしまった。
 暫し悩み、
佐伯:「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
    ――――――――――それもそうだな」
南:「・・・・・・!!」
 ぱああああああっ・・・!!
南:「そうか! やらないでくれるか!!」
佐伯:「ああ!
    そう! 俺はこうやって生まれ変わるんだ!! これからは世界を滅ぼしたり人を吹っ飛ばしたりその他諸々を抹消したりはしない!!」
南:「・・・・・・生まれ変わる以前から普通やらない事じゃないか?」
佐伯:「つまり生まれ変わったらやれ、と?」
南:「じゃあ佐伯、約束だからな。
   じゃあな〜」
 すたこらさっさ〜
佐伯:「むう・・・。やるなあ今のヤツ」



―――完


 
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―――千石・・・?
 
    千石:「ねえねえ君が―――♪」
 ずがあああああぁぁぁぁ・・・ん・・・・・・
千石:「・・・・・・で?」
佐伯:「ん?」
千石:「今のは一体、俺のどこに落ち度があったのかな?」
佐伯:「特にないぞ?」
千石:「んじゃ何で?」
佐伯:「前回のヤツを取り逃がした腹いせだな」
千石:「ステキ過ぎるよ君マジで」
佐伯:「ありがとう」
千石:「俺がいつどこで君を褒めたんだか謎だけどどういたしまして」
佐伯:「そんじゃ!」
千石:「じゃないから!!」
 吹っ飛ばし褒められ満足したか去ろうとする佐伯。千石はその足を掴んで引き止めた。
佐伯:「何だ?」
千石:「呼び止めた以上何か用事あるって思わない?」
 問われ、佐伯は考え込んだ。千石を指差し、
佐伯:「吹っ飛ばしただろ?」
千石:「君がね」
 再び指差し、
佐伯:「褒めただろ?」
千石:「そうだねえ」
佐伯:「他に何があるっていうんだ?」
千石:「いやあるっしょいろいろと?」
佐伯:「?」
 ぽん。
佐伯:「ああ。前略以下略か」
千石:「そうそう。その世界を滅ぼす鍵ってヤツ」
佐伯:「・・・・・・よくわかったな」
千石:「感心した? 褒めてくれる? 今までの君の言動見てたら大体わかるようになっちったv」
佐伯:「そうか。ならば次何が来るかもわかるだろう?」
千石:「というワケで俺仲間にしてvv」
 (続・吹っ飛ばすと)わかった上で先手を打った千石に、佐伯は言葉(と手)を引っ込め考え込んだ。
佐伯:「何でだ?」
千石:「面白そうだから」
 さらに考え・・・
佐伯:「断る」
千石:「ええ〜? 何で?」
佐伯:「つまらないから」
千石:「どこが?」
佐伯:「嫌がる相手を無理矢理仲間につけるから面白いんだろ? 望まれてその通り仲間にしてもなあ・・・」
千石:「・・・・・・君性根底の方から腐りきってるね〜」
佐伯:「だからお前は駄目だ」
千石:「んじゃなりたくないから」
佐伯:「嘘っぽいから駄目」
千石:「む〜・・・・・・。
    あーあ。残念」
佐伯:「じゃあな」
千石:「じゃあね〜サエくん。またしたくなったらよろしく」



千石:「―――といった感じで攻撃回避は可能だと思う」
 千石のプランを聞き、他の者が首を傾げた。
他の者A:「・・・・・・で?」
千石:「何が?」
他の者B:「倒すのが目的じゃなかったか? 回避じゃなくって」
千石:「・・・あれ?」
他の者C:「まさかと思うが、考えている内に目的を忘れたのか?」
千石:「・・・・・・」
一同:『・・・・・・・・・・・・』
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
千石:「あ、アハ☆ あはははははははは・・・・・・」
他の者:『はははははははははvv』
 ずがあああああぁぁぁぁ・・・ん・・・・・・
 こうして、千石が佐伯の元へ行く事はなくなった。



佐伯(本人):「そういえば最近、立候補者が少ないなあ・・・」



―――完


 
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×
 





―――跡部
 
    跡部:「佐伯! てめぇが『世界を滅ぼす鍵』だってか!?」
佐伯:「―――っ!!
    そんな!! 他のヤツならまだしもお前までそんな事を言うなんて!!
    酷いじゃないか景吾の馬鹿あああああああああ!!!!!!!!!!!!!!」
 ずどごああああああぁぁぁぁぁぁ・・・・・・ん・・・・・・
 泣きながら手を振る佐伯の一撃。
 そのまま去っていった彼の後ろでは、どうせこんな展開だろうと前持って悟り防御していた跡部が、レアくらいの焦げっぷりでぼてりと地に転がっていた。
跡部:「・・・・・・。
    むしろ他の何だと思えってんだ・・・? ああ・・・?」



―――完


 
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10



―――不二
 
    不二:「サエ!! 君が『世界を滅ぼす鍵』だっていうの!? そんな!!」
佐伯:「―――っ!!
    何を言うんだ周ちゃん!! 俺がそんなののワケないだろ!? 俺は周ちゃんのためなら世界だって敵に回して勝てるってだけで!!」
不二:「そうだよね!? やっぱサエはそうだよね!?」
佐伯:「そうだよ周ちゃん!!」
不二:「サエ!!」
 抱きっ☆
跡部:「ちょっと待てえ!! 俺ン時と扱い違い過ぎんだろ!?
    大体佐伯!! どんな名目つけようが世界敵に回して勝つ時点でイコール世界を滅ぼすじゃねえか!!」
佐伯:「何を言うんだ景吾そうかお前だな周ちゃんにそんなありもしない事吹き込んだのは!!」
跡部:「違げえよ!! ってか明らかにおかしいだろその理屈は!!」
佐伯:「問答無用!!」
 ずどごああああああぁぁぁぁぁぁ・・・・・・ん・・・・・・



 こうして、諸悪の根源は滅ぼされた。
佐伯:「めでたしめでたし」
跡部:「違うっつってんだろーが誰か俺の話聞いてくれるヤツぁいねえのかあ゙あ゙・・・・・・!?」



―――完


 
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11



―――裕太
     
     めでたかったが終わらなかったので話は続く事になった。
跡部:「徹底したぐでぐでさ加減だな」
佐伯:「もちろん何なら今すぐ終わりにしていいぞ? お前が全て悪かったという事で」
跡部:「んでだ。もうちっと建設的に考えるとして、
    ―――そもそもてめぇが『世界を滅ぼす鍵』だってのはどういう事であってどっから広まったのか」
不二:「サエだから別にいいんじゃないの?」
跡部:「それもそーだな。コイツなら普通に気分次第で世界滅ぼすだろうし、発生はともかく広めたのは間違いなくコイツ自身の功績だ」
不二:「円満解決だったね」
跡部:「だな」
佐伯:「酷いじゃないか周ちゃんまでそんな事言うなんて〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!」
 泣き叫びながら佐伯の手が伸びたので、跡部は不二の隣に避難した。
佐伯:「・・・・・・」
跡部:「・・・・・・」
佐伯:「・・・・・・・・・・・・お前その行為は人としてどうなんだ?」
跡部:「その言葉はノシつけててめぇに返す」
佐伯:「ぶう」
跡部:「『ぶう』って・・・。一応拗ねが表してえのか?」
不二:「表情も態度も状況も言葉もそうなのに訊き返さないとわからないって、結構凄いよね・・・」
跡部:「ホント、意味不明に凄げえよな・・・。どこでその才能使やいいのかわかんねえが」
 いろいろと決着がついた。
 改めて進める。
佐伯:「身近なところから調査は始めよう。お前らどこでそんな話聞いたんだ?」
跡部:「俺はコイツから」
 指したのは不二。
不二:「僕は裕太から」
 指したのは裕太。
裕太:「え・・・・・・?」
 たまたま通りかかってしまった哀れな裕太。何でたまたま通りかかってしまったのかについては、作者の都合というよりこの話のぐでぐでさ加減からして誰でも想像つくであろう必然さ―――いなくともいちいち佐伯が探しに行くワケがない―――によりである。
 不二に捕まえられ連れて来られ、混乱する彼に佐伯がつかつかと近寄った。
 お得意の笑顔で、言う。
佐伯:「俺が世界滅ぼす鍵だって? そんなワケないだろ。そんなワケないよなあ? そんなワケないって。そんなワケないだろ? そんなワケないよ。
    ホラ、そんなワケない」
裕太:「すみません。まだ何も言ってません・・・」
不二:「悪質な洗脳みたいだったね」
佐伯:「ん? そんなワケあると?」
裕太:「いいえすみませんありませんよねハハ!!」
跡部:「さらに脅迫が加わったぞ・・・」
佐伯:「ホラ、裕太君もそんなワケないと言ってるぞ? そんなワケあるワケないワケ―――」
不二:「ごめんサエそれはもういいから」
跡部:「つーか今のじゃ認めただろ」
 こうして、非常に無駄なやり取りの結果、佐伯の無実が証明された。普段彼が即実力行使に出るワケである。



―――完


     
×
×
 


12



―――観月
     
    跡部:「んで裕太、お前一体誰にンな話聞いたんだ?」
裕太:「えっと・・・観月さんです」
不二:「ふふふふふふふ・・・。観月かあ・・・。
    裕太を取っただけに飽き足らずサエまで奪おうなんて、いい度胸してるじゃないか・・・・・・」
佐伯:「ほおおおおおおう・・・・・・。観月かあ・・・・・・。
    周ちゃんを2度も悲しませるとは恐れ入ったなあ・・・。2回目という事は、仕返しももちろん2乗にしろって事かあ・・・・・・・・・・・・」
裕太:「ええっと・・・・・・」
跡部:「・・・・・・・・・・・・」
 どす黒い炎を撒き散らし微笑む2人―――の後ろで溜息をつく裕太へ、跡部はさらに問いかけた。
跡部:「ちなみに裕太、お前最初不二にどう伝えたんだ?」
裕太:「えっと・・・、
    『―――なんていう噂があるらしいけど、まさかサエ兄がそんなワケないよなあ?』って」
跡部:「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
    ―――他のヤツはともかく、お前に関しちゃ明らかに自分のせいじゃねえか不二・・・」



観月:「んふふふふふふふふ・・・・・・。
    やはり敵は外堀から攻めるに限る。君の一番の理解者佐伯君は貰いましたよ不二周助。見かけ上はどんなに弟を可愛がろうが所詮他人! その弟のせいでこんな事態になったと知れば、いくらどんなお人よしであろうが遠のいていくでしょう!!
    孤立無援となれば脆いもの!! この勝負は僕の勝ちですくひひゃははは!!!」
跡部:「―――そういう企みは心の中だけでする事を勧めんぞ観月?」
観月:「はっ・・・!!」
 振り向く観月。一人きりのはずだった。間違いなくこの洞窟にいるのは自分1人のはずだった。
 驚きを隠せない彼の前にいたのは、腕を組む跡部、さらに・・・
佐伯:「ほ〜ら周ちゃん。正真正銘、俺の無実が証明されたよ?」
不二:「ホントだ〜v 疑ってごめんねサエvv」
佐伯:「いやいやいいんだよ周ちゃんv 俺がそんな事気にするワケないだろ?」
不二:「うんv そうだねvv」
佐伯:「というワケで―――」
 にこにこ笑い、佐伯が観月を見る。
佐伯:「前略以下略クビ記念に、最後くらいはちゃんと仕事しないとな」
観月:「待って下さいよそれは僕が勝手に流した噂で事実無根ですよ!?」
佐伯:「『嘘から出た真』という諺があるからな」
観月:「無理矢理捻り出せという意味ではありません!!」
佐伯:「または『本末転倒』とも言う」
観月:「わかってるんじゃないですか!!」
佐伯:「そして俺は有言実行がモットーだ。たとえ人が流した噂であろうと肯定した時点で役目は果たさないとな」
観月:「何で自分であえて悪い方に持っていくんですか貴方は!? 通りで異常に噂の広まりが早いと思ったら!!」
佐伯:「まあそんな過去の事は綺麗に忘れろ。人間常に前を向いて歩かないとな」
観月:「明らかに後ろ向きじゃないですか貴方は!!」
佐伯:「だからお前の世界を滅ぼそうと思うんだ観月。もちろんいいんだよな?」
観月:「良くないですよ大体―――!!」
佐伯:「いいんだよな?」
観月:「あのですねえ―――!?」
佐伯:「いいんだよな?」
観月:「だから―――!!」
佐伯:「いいんだよな?」
観月:「・・・・・・他にもう少し穏便な選択肢ありませんか?」
佐伯:「いいんだな?」



 ずどごぐわああああああぁぁぁぁぁぁ・・・・・・・・・・・・ん・・・・・・・・・・・・



 その日の爆発は、今までで一番大きなものだった。



裕太:「ちなみに俺も質問ですけど跡部さん。
    何で跡部さんまで全く疑わずに信じたんですか? 跡部さんならいつも止めるんじゃないんですか?」
跡部:「アレを見て何をどう疑えと?」
 指差す先では、瓦礫の上に仁王立ちした佐伯が爽やかな顔で汗を拭っていた。
裕太:「・・・・・・。
    それもそうですね」



―――完


     
×
×
 


13



―――・・・・・・
     
    佐伯:「さてこれで全て片付いた」
不二:「あれ? 根源は片付いたけど噂の方は?」
 たとえ発信源を滅ぼしても噂そのものがなくなる事にはならない。怪訝そうに首を傾げる不二の肩を、跡部が叩いた。
跡部:「問題ねえ。今の含めて完全に広まりきったからな」
不二:「・・・・・・つまり?」
跡部:「『世界を滅ぼす鍵に手を出すと真っ先に滅ぼされる』。
    ――――――まだ頑張るチャレンジャーがいると思うか?」
不二:「なるほど。それもそうだね」
佐伯:「今度こそ円満解決だな」
跡部:「まあ・・・、てめぇがそれでいいんならいいけどな。



    ・・・・・・・・・・・・全っ然、『円満』じゃねえと思うぞ」



     




―――完









 ―――以上、毎度恒例手段のために目的を忘れる話でした。観月の法螺ではなく実際そうだったとしても、結局結末は何も変わらないんでしょうね・・・。なにせサエですし・・・・・・。
 ・・・・・・・・・・・・はぁ。

2006.5.67.12