HAPPY BIRTHDAY は誰のもの?





 2学期最後の日―――終業式。式も終わり、1年2組では通信簿が渡された。渡されたそれを見て喜ぶ者、嘆く者と色々いた。そしてまた、関心のない者も。
 (ま、別にいいけどね)
 通信簿を一通り見終わるとリョーマはそんな淡泊な呟きと共にあっさりとそれを閉じた。授業中あれだけ寝ていたのだから当然の成績だ。まあ英語と体育だけは最高点だったが。
 どちらにせよ興味はない。日本の義務教育制度ならばいかなる成績であろうが卒業できる。それに今の自分は勉強などよりももっと大切なものがある。
 「ではこれで
HRを終わりにする。みんな冬休みだからって気を抜くんじゃないぞ」
 いつの間にか先生の話は終わっていた。日直の「きりーつ」というのんびりした声にあわせリョーマも席を立つ。
 「れー」
 『さよーならー』
 やはり気のない挨拶と共に、越前リョーマの今年度の学校生活(部活除く)は終わる―――はずだった。
 がらり
 「越前君いますか?」
 きゃ〜vvv!!!
 挨拶が終わるのをまるで見計らっていたかのように――いや間違いなく見計らっていたのだろう、彼ならば―――1年2組の教室に現れたのは、本来ならば1年の教室しかないこの階にいるはずのない人間、3年の不二周助だった。
 女子だけではなく、一部男子まで騒ぎ立てる中、それらを全く持って無視して不二は一番奥の窓際にあったリョーマの席へと歩み寄った。
 「なんスか?」
 「今日一緒に帰らない?」
 いやーーー!!
 嘘! 何でーー!?
 (うるさいなあ・・・)
 ギャラリーの声に顔をしかめつつも、リョーマは目を閉じ自分のすぐ横でにこにこ笑う不二共々全てに関心がなさそうに呟いた。
 「ダメっスよ、今日部活なんだから」
 関東の―――というか全国でも強豪の青学男子テニス部、しかも3年が引退しエースとなった現在、例え学校は休みだろうが練習が行われるのは当然の事だ。まさか数ヶ月前までそのテニス部で
No.2を努めていた目の前の先輩がそれを知らない訳はないだろうが。
 「けど午後からでしょ? なら一回家に帰って制服とか置いてきたら?」
 「いいっスよ。めんどくさいし」
 「じゃあお昼は? お弁当持ってきたの?」
 「近くででも買うし」
 「―――お昼オゴるよ?」
 「行くっス」
 (早ッ!?)
 周りで(密かに)聞いていた一同が思わず突っ伏す。しかし恐るべきは不二。完全にリョーマの性格を把握した上で操る方法もマスターしている。さすがは天才(笑)。
 「じゃあ外で待ってるから。支度出来たらおいで」
 「ういっス」
 くすりととびきりの(怪しげな)笑顔でリョーマの頭をぽんと叩く不二の、その笑顔から何を考えているのかわかる者は残念ながらこの場にはいなかった。
 あっさり騙され支度を急ぐリョーマ。そんな彼を何も知らずに羨み妬むギャラリー。そしてそんな彼らを背に、教室の壁にもたれ一人心の中でほくそえむ不二。
 と―――
 ズダダダダダダ!!
 ぐわらっ!!
 「おチビーーー!!!」
 先程の不二と同じ登場の仕方、しかし不二よりも遥かにうるさく現れた英二の剣幕にさすがにギャラリーも引いた。
 「英二先輩?」
 荷物をテニスバッグに詰めていたリョーマもまた騒ぎに気付き手を止めていた。
 「おチビ今日帰る人いる!? いないんだった俺と帰ろ!? ね!? ね!? ね!?」
 「先輩・・・・・・」
 「いい!? なら今すぐ帰ろ!! 早く早く!!」
 「俺今日不二先輩と帰るんで」
 ぴたりと。
 英二の動きが止まった。
 リョーマのセリフを―――セリフの中の『不二』という言葉を聞いて。
 「―――先輩?」
 上目遣いに見上げてくるリョーマにすら気付かず、英二は教室から出ていった。
 「・・・・・・なんだったんだろ?」
 「なんだ? って、お前なあ・・・」
 本気でわからなかったらしく首を傾げるリョーマに堀尾がため息をついた。
 その一方・・・・・・。





ψ ψ ψ ψ ψ






 力なく教室を後にする英二がそれに気付いたのは敷居をまたいでからだった。
 「残念だったね、英二。もう少し早く来ればよかったのに」
 「不ぅぅぅぅ二ぃぃぃぃぃ!!!」
 珍しくにっこりと満面の笑みを浮かべる不二をこれまた珍しく睨みつけ、英二は地の底から響くような唸り声を上げた。
 「ん? どうしたの?」
 「不二が騙したから遅くなったんだろ!?」
 「騙した? やだなあ、人聞きの悪い」
 「騙しただろ!? 先生が俺の事呼んでたとか言って、呼んでなかったじゃん!! しかもなんか丁度良かったとか言って手伝いまでさせられたし!!」
 「それこそ誤解だよ。僕は『先生が英二の事呼んでたみたいだよ』としか言わなかったし。それに先生が『誰か後で手伝いに来れる人は職員室まで来て下さい』って言ってたのは確かだよ」
 「『誰か』って、それでなんで俺を呼ぶんだよ!! 大体今のメチャクチャ詐欺の手口じゃん!!」
 「でも嘘は言ってないでしょ? そもそも
HR中寝てた英二の方に原因があると思うけど?」
 「〜〜〜〜〜!!!」
 さすが不二様、あっさりと英二を負かし、石となった彼を見る事もなくリョーマが出てくるのを待った。と―――
 「―――こーなったら実力行使! おチビーーー!!」
 いきなり立ち直る英二。だがそれに対して不二はあまりにも冷静だった。ダッシュしようとした英二の足を引っ掛け、あっさりと体勢を崩させる。
 が、英二もただやられるほど弱くはなかった。崩れた体勢のまま前転。そして不二の呪縛から抜け、めでたく教室内への侵入を果たす―――ハズだった!!
 ぴしゃり
 不二が軽く下ろしていた手で今までもたれていた教室の扉を閉めた。
 がん!!!
 当然の事ながら英二はその扉にぶつかった。それも体勢の都合上顔面から。
 ずりずりと扉にそって崩れ落ちる英二に、不二は静かに笑って「ご愁傷様・・・」と呟いた。
 ―――ところで、
 がらり
 再び扉が開き、2人の待ち人ことリョーマがしらけた眼差しで佇んでいた。
 「なにやってんスか先輩達? さっきからうっさいんですけど」
 この場をテニス部員(特に元レギュラー+α)が見ていたとしたら「おおおっ!!」と感嘆の声を上げていただろう。英二はともかく不二をここまでないがしろにできる人は青学テニス部(どころか中学テニス界)広しといえどこの生意気な1年ルーキー位しかいない。
 「ああリョーマ君。ごめんね、騒いじゃって」
 ―――どころかあの不二が素直に謝る相手もまた。
 「・・・別にいいっスけど」
 笑う不二を見、次に倒れたままの英二を見、リョーマはそう判断した。騒ぎは教室からも十分に聞こえていたし、なによりなぜかはわからないがこの2人が自分の周りで争う事は日常茶飯事だ。
 「準備できたみたいだね。じゃあ帰ろうか」
 「ういーっス」
 が、世の中そうは甘くなかったらしい。
 「あれ・・・?」
 「ぶちょ―――じゃなくて手塚先輩?」
 2人の見た先、階段のある方からなぜか手塚・大石・乾がこちらに向かってきた。
 「久し振りだな、越前」
 「元気にしてたかい?」
 「どうやら部活の方では相も変わらずやっているようだね」
 「ちーっス」
 次々に声を掛けてくる元レギュラー達(いない人もいるが)に軽く頭を下げ挨拶するリョーマ。そして
 「3人とも珍しいね。一体どうしたの?」
 そう優しく尋ねる不二。だがその背後に纏うオーラが『僕と越前の邪魔するつもりだったら――どうなるか、わかってるよねえ・・・?』と如実に語っている事を3人は正確に理解した。
 影でひっそりと胃の辺りを押さえる大石をよそに、手塚はいつも通りの無表情(仏頂面)で告げた。
 「不二の計画を潰すようで悪いが―――越前、竜崎先生からの連絡だ。今すぐ部室へ行け」
 「部室に? けど部活って午後からでしょ?」
 「今日突然決定したが他校との練習試合が行われる。そのためのメンバーを決めるらしい」
 「・・・珍しいっスね。竜崎先生[オバサン]が練習試合やるのって」
 「何でも3年が抜けた分の強化を図ることが目的らしい」
 「3年が抜けた分って、そんなの9月からやってるじゃないですか」
 「だがこれからは学校が休みになる分本格的に行えるからな」
 「そういうモンなんっスか?」
 「ああ。それに―――既に部活を引退した身で言うのもなんだが、今の青学テニス部は桃城・海堂・それにお前に頼りすぎる傾向がある。さすがにこれでは精神的負担が大きすぎる上1人も欠けることが出来ない状態だからな」
 「・・・・・・別にいいっスけど、俺は」
 「まあお前たち3人ならプレッシャーなど感じんだろうが、少なくともいざと言う時のため最低1人は予備の選手を立てておいたほうがいい」
 なかなかにきつい言い方だが、一時期肘を痛めて一切試合に出ることが出来なかった手塚が言う分言葉にも重みがある。
 「―――という訳だ。越前は今すぐ部室に行け。それと今日は俺たち3年も部活に出るからな」
 「ホントっスか!?」
 目を輝かせ尋ねるリョーマ。今の部活がつまらないとは言わないが、やはり強い選手の多い3年とまた試合ができるのかと思うと自然と嬉しくなる。
 「・・・・・・ああ、がんばれよ」
 「ういっス!!」
 力強く頷くとリョーマはテニスバッグを肩に掛け直し、勢い良く廊下を走っていった。不二にも英二にも目をくれず・・・・・・。
 「・・・・・・・・・・・・」
 「・・・・・・手塚」
 「待て不二、今のは不可抗力だ」
 「それはいいけどね、キミなんでさっき越前に返事するのが遅れたの?」
 「――ちなみに越前の言葉からは3秒
58開いた。平均0秒84で返す手塚にしては明らかに何かあったと推測せざるを得ない」
 「乾・・・何故そんな事までデータに入っている?」
 最早お前はストーカーか? と突っ込みを入れざるを得ないほどの乾のデータの細かさ(マニアックさ)に無表情のままの手塚の頬から汗が一筋流れた。
 「テニスは実力もさることながら精神[メンタル]面が大きく左右するスポーツだからね。なら実際にテニスを行っている時だけじゃなくそれ以外についても把握しておく必要があるだろ?」
 すっかりマネージャーが板に付いたセリフだ。ちなみにこの『把握しておく』の対象が実はテニス部員ではなくレギュラー+αのみ(つまるところ乾の興味関心を引いた存在のみ)であった事を知る者は少ない。
 「ところで練習試合なんて珍しいね。相手どこ?」
 先程のリョーマの言葉そのままに不二が尋ねる。竜崎先生が練習試合を承諾したとなるとよほどの相手か、それとも―――。
 この時点での不二の頭に先程の手塚の言葉は残っていなかった。あれだけ胡散臭い理由―――というか言い訳ならば当然だろうが。
 「山吹中、だそうだ」
 「・・・・・・・・・・・・」
 不二の笑顔が固まった。
 その横ではいつの間に復活したのか、英二が制服に付いた埃を払っている。
 「英二」
 「不二」
 がっ!
 二人の手が堅く堅く結び合う。瞳に闘志を燃やしながら2人は見詰め合った。
 「1時休戦、だね」
 「そうだにゃ。じゃ、まずおチビの保護は不二がよろしく。約束してたんなら簡単っしょ?」
 「なら英二は千石の滅殺ね。彼ゴキブリ並みの生命力を『運の強さ』で片づける人だからしっかりとやってね」
 それだけ言うと後は一言も発さす走り去る2人。それをいつもの事と見送ってから、手塚がポツリと呟いた。
 「何故あの2人はあそこまで真剣になる?」
 「まあ今日が今日だし。そんな所にわざとらしく練習試合の申し込み、それも山吹中となれば2人がムキになっても仕方ないんじゃないかな」
 2人が去った事でようやく立ち直ったらしい大石が苦笑しながら呟いた。
 「今日? 何かあるのか?」
 「え? 手塚、知らないのかい?」
 「今日
1224日は越前の誕生日だ。その上クリスマスイブまで重なっているのだから、あの2人としてはぜひ越前と一緒に過ごしたいだろう―――2人っきりで」
 思い切り何かを含ませ、そして乾は手塚がついてこられないうちにふふふと含み笑いを洩らした。
 「だが生憎俺のデータによると越前は『大事な日』は家族と過ごすらしい」
 「え!? じゃあ今2人がやってることって―――」
 とりあえず2人のリョーマに対する想いを知っている大石が乾の発言に息を飲んだ。
 「普通に考えるならば無駄な行為だ。幾ら邪魔者を潰したところで肝心の本人が了承しなければ意味がない」
 「じゃあ早く2人にそれを伝えないと!」
 「しかしこれを行うのは不二と菊丸だ。あいつらならどう考えても『普通』ではない」
 「いやそれはちょっと賛成し難い・・・・・・」
 乾の恐れを知らぬ言い方に再び胃の辺りを押さえる大石。
 「恐らく五分といったところだろう。越前が己の意見を通して帰るか、それとも2人のどちらかが越前を無理矢理持ち帰るか」
 「無理矢理って・・・・・・それは誘拐―――」
 「それとも千石が『運良く』この争いに加わるか・・・。不二ならば確実に潰せるだろうが英二では潰せる可能性が下がる。あるいは不二は共倒れを狙ったか・・・・・・」
 愛用のノートにペンを走らせぶつぶつと一人の世界に入る乾にため息をつき、大石は今まで誰にも見向きされなかった現テニス部部長・桃城の方を振り向いた。
 「良かったな、桃。あの2人にとってお前は千石以下の存在らしい」
 「そりゃないっすよ、大石先輩! 俺だって越前の事狙ってるのに〜〜!!!」
 はた迷惑な(元)テニス部員たちによって乱された放課後も、この頭を抱えた桃城の叫びによって終わりを迎えた。





ψ ψ ψ ψ ψ






 そして部活兼練習試合もつつがなく終わった。対戦成績は五分と五分。お互いやはり3年の穴を埋めるというのが課題となった。
 「終わったね〜」
 「うん。終わったにゃ〜」
 着替え終わって制服姿でにっこりと微笑み合う不二と英二。ちなみに山吹中も3年の
OBが来ていたが、なぜかそこに千石の姿はなかった。
 「じゃあそんな訳で―――」
 呟き―――お互いから視線を外す。その先に本日最も活躍したであろう少年を映し、
 「おチビ〜〜〜vvv」
 「越前く〜〜〜んvvv」
 駆け寄ろうとした、2人の前で・・・・・・。
 「遅いよ、十次!」
 「悪い、ミーティングが長引いた」
 「今日俺の誕生日なんだから早く帰ろうって言ったじゃん!! 何で抜け出してこないのさ!?」
 「仕方ないだろ部長なんだから。まさか部長から早退するわけにはいかないだろ」
 「だったらミーティング早く終わらせるとか! 部長だったらその位簡単に出来んでしょ!?」
 「(もしかして青学はいつもそうしてたのか・・・?)いや、だけどな・・・」
 「言い訳しない!!」
 「(・・・・・・)はいはい(嘆息)」
 「なにそのため息なにそのやる気のなさ!? もういいよ! いつも通りウチ帰る!! あのクソ親父とか説得してくんの大変だったんだからね!!」
 「俺が悪かった・・・」
 「誠意足んない」
 「じゃあこれなら?(とリョーマの帽子を取りキスをする)」
 「ん・・・十次・・・・・・(潤んだ瞳を薄く開け、うっとりとその名を呼ぶ)」
 「・・・・・・っ。これで許してくれるか?」
 「ん。もっとやってくれたら」
 「―――了解」
 と、公衆の面前をはばかることなく(というか気にすることなく)キスし続けるリョーマと室町。しかも時間経過と共にお互いの体が密着し、今では堅く抱き締め合っていたりする。
 そんなバカップル2人と、その様をを目の前にして灰と化した友人2人を順に見やった後、大石は最後に今だノート片手に『データ』を取っている乾を見て、ふと思った事を聞いてみた。
 「今回は予測が外れたな、乾」
 先程の話にこの展開はなかった。が、
 「だから言っただろう、『恐らく』って。越前の行動パターンは時としてデータを裏切るからね。アイツに関して
100%と断言できる事は少ないよ」
 「乾にしては珍しい言葉だね。『データは嘘をつかない』んじゃなかったのかい?」
 大石の皮肉とも取れる言葉に、しかし乾は小さく自嘲しただけだった。
 「データは、ね。それでも外れるのはまだ俺がその本人を
100%は解明していないという証拠だろう」
 「じゃあ乾が予測不可能っていった不二の場合は? 君は彼の事を1%も解明していないということかい?」
 「不二の場合はどこが
100%なのか見分け難い上に1%の価値が恐ろしく高いだけだ。けどまあ―――」
 そこで乾は会話を切って、今だ立ち直れない不二(と英二)に視線を送った。
 「とりあえず越前がらみの不二の行動パターンなら
100%予測可能だろう」
 「まあ・・・確かに・・・・・・」
 ははは、と渇いた笑いを浮かべる大石。彼の手が本日何度目になるのかはわからないがまたも胃の辺りに伸びた事を知っているのは、そんな彼も『観察』している乾だけであった。



 

Q.この話で最も不幸だったのは誰でしょう?

 











A.誰ともいえないと思います。けどあえて言うなら滅殺目標となり出番すらなく終えた(何を?)千石さんですかね? けど彼もリョーマスキーの1人だし。
 しかしこのはなし、オチ(つまりリョーマの恋人)は誰にしようと悩み、少し太一にも揺れたんですが結局室町クンとなりました。理由は乙女リョーマを書きたかったから。ニセモノ臭い? それは当然でしょう。書いてて私も「うわアンタ誰?」と思わず突っ込みを入れたくなりましたし。
 ところで私、1シーンに出せる登場人物限定あるのでしょうか? 今回登場人物全般通して割と多かったはずなのに、それを全く感じさせない話すキャラ限定での進行っぷり。ああ、マンツーマンだけじゃなくて3人以上でも会話を成立させたい・・・!
 では室町×リョーマ←不二・英二・千石・仄かに手塚、のこの話を終わりにさせていただきます。それでわv

2002.8.1